プロローグ2 圓曼大僧正生害之次第
与三郎は、白木で新造された別当院坊に踏み込むや、有無なく圓曼大僧正の首を刎ねた。凶事出来を察知し、下手人の身柄を拘束せんとそこかしこから湧いて出てきたのは学侶多数。
与三郎は左文字を投げ捨てると、これらに一切手向かいすることなく捕縛された。
院坊に充満していた新木と抹香の香りを血の酸鼻が圧倒するなか、よく肥えた圓曼大僧正の亡骸が運び出されると、学侶曼済はさっそく与三郎に対する糾問を開始した。
「ここ香大寺を由緒正しき勅願寺と知っての暴挙か」
「もとより承知のうえ」
「慮外者め。なにゆえ大僧正を斬った。無間地獄が怖くないのか」
「無間地獄など恐るるに足りぬ。思うところを遂げぬ今生をこそ恐れてかくのごとき挙に及んだのだ」
与三郎の、仏をも恐れぬ態度を憎んだ曼済は、座する与三郎を舐めるように観察しはじめた。粗を探しだして指摘し、無反省の罪人からなんとか動揺を引き出そうとしたのである。
「そはいかなる了簡か!」
曼済はにわかに大喝した。
見れば、しゃれこうべのこめかみを穿って通した念珠を首からぶら下げているではないか。香大寺気風の人々に、このようなならいはない。
しかし与三郎は毫も動じなかった。
しゃれこうべの下顎はすでに失われている。直上にある与三郎の頭の大きさと比較しても明らかに小さくみえる。幼児とまではいえないが、大人のそれでもない。平井入道のものではあるまい。
「誰のものか」
曼済が顎をしゃくって訊ねても与三郎は答えなかった。
しゃれこうべをまじまじと眺めていた曼済だったが、はたと気付いたように言った。
「まさかこれは……!」
与三郎のうつろな瞳が、初めて曼済を捉えた。与三郎は、ことの顛末について訥々と語り始めた。




