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急がば回れじゃ遅すぎるっ  ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある  作者: 井氷鹿
第2章 Laroue De Fortune ~ 運命の輪 ~

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パパ活もスカウトの時代

 しえるは今撮った誉の写真を確認し、一人ほくそ笑みながらスマホをテーブルに置いた。

 誉がコスプレをすると、必ずしえるは写真を撮る。

 それには理由があった。

 彼女は所謂「相貌失認」症だからと言うのが主な理由だが、その理由の半分はまぁ趣味だ。

 

 ところで海外での調査では、人口のおよそ2%程度が「相貌失認」と言われている。

 俳優のブラッド・ピットが雑誌のインタビューで告白したことから、ようやく認知され始めた障害の一つだとか。

 この「相貌失認」は、相手と話してる間は顔を認識できているらしいが、視界から顔が消えた途端分からなくなるというからかなり厄介だ。

 これは人に対してのみ起こる現象で、動物や人形は普通に顔として認識できるらしい。

 「相貌失認」には色々種類があるらしいが、しえるの場合なぜか映像にすると顔を認識することができたのだった。

 動画または写真に撮って見れば記憶に残ることが分かって以来、コマメに写真を撮るようになった。


 しえるはポケットからバレッタを出し、肩先まで伸びた髪を後ろで一纏めにする。

 合わせて顔にかかる前髪をピンで止めた。

 むきたて卵肌の額はつるんと丸く、筋の通った鼻先は気持ちつんと上を向いている。

 一重にしてはかなり大きい瞳だが、しえるはこの一重の眼がコンプレックスのようだった。

 そばかすが玉に瑕の透き通るような白い肌は、母方の血だろう。

「あのね、誉ちゃん。もううずうずして隠せないから言っちゃうね」

 我慢できない子供の様に、しえるはカウンターテーブルに身を乗り出し、誉を待っていた。

「なんだよ、楽しそうだな」

 紅茶セットを整え、しえるの前に並べる。

「やだぁ、誉ちゃん声が男子」

「声造るの辛いんだよ。俺、今喉かすっかすなの」

 はいこれはおすそ分けね、とパウンドケーキを一切れ添えて出す。

「ママも聞いてっ」

 と言いながら出てきたケーキをフォークで切り分け、口へ運ぶ。

 お客様のお土産らしいドライフルーツの入ったケーキは、甘さが程よくストレート紅茶によく合った。

「ウマっ、これ」

「だろー」

 誉はマグに注いだ珈琲を一口すすり、鮮やかな紅で縁どられた形の良い唇をつり上げ、ニヤリと笑った。

 

 しえるは子供のころから好奇心の塊で、何でもかんでも興味を持つと端から手を出す癖があった。

 良く言えば見極めが早く、悪く言えば飽きやすの冷めやすだ。

 その好奇心から始めたのが、マッチングアプリだった。 

「で、渋谷の相手はどうだったんだよ」

「巻いてきた!」

 早押しクイズの回答か、ってくらいの勢いだ。

「え”っ?」

「あ”ぁ?」

 誉も母親であるママもそりゃ、驚くよね。

「なんでまた、気に入ってそうだったのに」

「だってカラオケに行くとか言って、ビルに入ったのは良いけど明らかに個室カラオケっぽかったんだもん」

 言いながら、喉が渇いていたのか美味しそうに紅茶をごくごくと飲む。

 誉がティーポットから残りの紅茶をカップに継ぎ足した。

「それで、トイレに行くって言って逃げて来た。でね」

 と今度はポケットから何かを出して、

「スクランブルでスーツ着たお兄さんに囲まれてさ、これもらった」

 とカウンターに置かれた名刺はどこかのエージェンシーのようだ。

「スカウトされたのか」

 皿にオムライスを盛り付けながらママの声が跳ねる。 

「え、芸能事務所?」

「違う、パパ活事務所だって」

 そこで、全員が噴出した。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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