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急がば回れじゃ遅すぎるっ  ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある  作者: 井氷鹿
第2章 Laroue De Fortune ~ 運命の輪 ~

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La Roue de fortune (運命の輪)

 さて、時間はお昼を和真の先輩と食べたあの日まで遡る。

 和真の先輩に腹を立てていた都は、一通り憤慨した気持ちをぶちまけ少し満足した様子で孔明の後ろを歩いていた。

 その横を申し訳なさそうに、首を垂れて歩いてるのは和真だ。

 下を見ていたせいで信号で立ち止まった孔明の背中にぶつかってしまう。

「あっ、すみませんっ」

「大丈夫? 気にしなくていいのに」

 はぁ、と言いつつ和真は頭を掻いて視線を泳がせる。   

 その視線の先、対面の信号を待っている人込みに目を止める。

 遠目でも目立つ立ち姿の美しい少女。

 その彼女を黒っぽいスーツを着た男たちが四、五人、取り囲むようにして立っていた。


「すみません、お話聞いていただけませんか」

 まるでその声が聞こえないかのように、しえるは正面を向いたまま微動だにしない。

「あなたの様に、姿勢の良い、立ち姿の美しいお嬢さんを探していたんですよ」

「名刺だけでも、もらってもらえませんか」

「ご連絡お待ちしてますので、是非」

 チラリと差し出された名刺に目をやると、待ってたように次々と名刺が差し出される。

 適当に一枚を抜き取り、そのまま歩き始めた。

 正面に立っていた黒いスーツの男たちが、体に触れない様に左右に割れる。

「どーも」

 しえるは真っ直ぐ横断歩道を渡り、渋谷駅へと歩いて行った。


 さて、ここは首都圏郊外のとある駅前。

 そこの路地を入った先にある雑居ビル。

 そこの二階に小日向和也の妻がオーナーを務める喫茶、「La Roue de fortune」はあった。

 趣味で始めたお店だったが、喫茶より占いが人気というこのお店。

 口コミで噂が広がり、占いの予約は三か月先まで埋まっているとか。

 そう聞くと超人気占い喫茶のように聞こえるが、実は予約を一日五組しか取らないせいだ。

 

 「せんせ、しーちゃんそろそろ戻ってきますよ~」

 と言ったのは、店主の助手を務める来栖誉(くるすほまれ)。所謂男の娘(おとこのこ)だ。

 某有名私立大を二年で中退し、なぜか占い師の助手をしている変わり種である。

 そして趣味の女装とコスプレ。これがかなりの腕前で、お店でも大人気となっている。

 誉は壁の時計を見上げ、頬にかかった長い髪をかき上げた。もう十八時を回っていた。

 肩先まで伸びた癖のない黒髪は、ホワイトブリムで清楚にまとめられている。

 形の良い額に、キリっと整えられた美しい眉。

 アーモンド形の瞳の色は、愁いを含んだオリーブブラウン。

 元々が細面の美人顔だから、メイク映えがすんばらしいことこの上ない。

 そんな彼の本日のメイクは、ちょっとセクシーなお嬢様風。

 それにメイド服を合わせ、どっかのコンセプトカフェもビックリないでたちでキメていた。

 華奢な体つきのおかげか、タッパのわりにレディースを何の問題もなく着こなしている。

 いや、むしろ本家メイドカフェのメイドよりも似合っているよ、そのメイド服。


「ただいま~」

 しえるがドアを開けると、

「お帰りなさいませ。しえるお嬢様」

 誉がぺこりと頭を下げ、女性ボイスで挨拶をした。

「誉ちゃん! 本日もお美しい。何、今日はメイドカフェやってくれんの」

 お前は男子か、というくらい相好を崩したしえるがデレデレしながら頭をかいた。

「何なりと、お嬢様」

「うきゃーーーーっ」

 嬉しそうに両手をあげ、

「やったぁーーっ」

 と万歳をする。

 背負っていた画材の入ったリュックを手早くカウンター席に降ろし、パントリー前で食器を片付けている紅緒に向かって嬉しそうに叫んだ。

「ママ、オムライス作って。で、誉ちゃんにケチャップでハート描いてもらうっ」

 はいはい、とあきれ顔でママがうなずく。

「紅茶でいい?」

 食器を見繕い、可愛らしいイチゴ模様のカップとポットを用意する。

「うん」

 お気に入りのカップを出され、しえるはご機嫌だ。

「誉ちゃん」

 あ、と思い出したようにスマホを誉に向ける。

 向けられた誉は慣れた動きで、ポーズを取った。シャッター音が連続で響く。

 しえるは今撮った写真を確認し、

「更新終了っと」

 スマホをテーブルに置いた。

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