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急がば回れじゃ遅すぎるっ  ——ただし、笑いの裏には、それぞれの過去がある  作者: 井氷鹿
第2章 Laroue De Fortune ~ 運命の輪 ~

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完全攻略

 洗った弁当箱をナプキンで包みなおし、可愛らしい巾着に戻して小日向に返す。

「ごちそうさまでした」

「あ、ああ。洗ってくれたんだ。ありがとう」

 心なしか、小日向の笑顔に覇気が無いような気がする。

 孔明は少し気になったのか、小日向の顔を覗き込んだ。

「和哉さん、キックオフはもっと先でも良いと思……」

「ん~っ、大丈夫。どっちにしろ向こうさんが決めた日だから」

 は? と孔明は一瞬目を見張る。

 日程ってもう決まってたのかと驚いたが、初めての日本企業との合同開発のため、正直な話勝手が分からない。

SCM(基幹)システム側のチームが、もう決めちゃったと言うか」

「え?」

 孔明に睨まれ、小日向が目を逸らす。

「決まった後に、実は知らされたんだよね」

「はぁ~~っ?」

 気の抜けた声を上げ、そのまま音を立てて椅子に座った。というか、尻から椅子に落ちた。

 その勢いのままふにゃぁと上体まで力が抜けて、テーブルにうつ伏せる。

「セキュリティ、完全に舐められてるじゃん」

「そだね。お飾り程度にしか思われてないかも」

 それで頭に来たのか、両手でテーブルを叩いて起き上がった。

「佐藤忠ってグローバル企業ですよね」

「うん。多分、各国にバイヤーが飛んでるね」

「それでセキュリティはお飾りって、天下のMTTDATAさんは莫迦なんですか」

「うん。莫迦かもしれない。今それでオレの上司が、SCMシステムのPMとさ……」

 言いながら、左右の人差し指同士でチャンバラをして見せた。

「は?」

「うちの上司、統括部長なんだけど、仕事早くてね。まぁドキュメントに目を通して、『参考にならん、というか……これ、設計レビューの観点が違うな』って言ってさ」

「ああ、それでペネトレーションテスト(侵入テスト)をかけたんですか」

「そうそう。検証環境立てて、自分でペネトレーションテスト回して。半日後くらいかな。『あれ、これ権限昇格できるね』

って普通に言ってた」

 それを聞いた孔明の開いた口が、顎が外れそうなほどだ。

「それって……完全に権限奪取したんだ」

 驚くよね~、と小日向も情けない笑顔になる。

「で、お飾り程度の認識を持ってるチームに、その結果を突き付けて……」

「揉めたんですか」

 好奇心丸出しな孔明に、また悩ましげに眉根を寄せ首をひねる小日向だが、今度は何処か嬉しそうだ。

「揉めたと言うか、相談しに行ったというか」

 どういう事だと、今度は孔明が首をひねる。

「あの人、自分ができることは大したこと無いと思ってる節があってさ。『そんな自分がフルコンプロマイズ(完全攻略)できたんだから、やっぱりセキュリティは大事だと思うんだ』って」

「それで、SCMに相談に行ったと」

 話が面白いのか、孔明の姿勢がだんだん前のめりになってくる。

「うん。孔ちゃん、自分でテストやろうと思ってたでしょ」

 意表を突かれて孔明はちょっと驚いたが、素直にうなずいた。

「やってみると分かるけど、流石に堅牢だよ。でも部長殿は穴を見つけたみたいでさ。めちゃくちゃ心配して、『怒ってるとかじゃなくてさ。今この状態で外から突かれたら現場が困るでしょ。本番前に最低限塞ごうよ』ってパッチを当てる話までしてた」

 それを聞いて、孔明の顔がパッと明るくなる。

「おもしれぇ~、その人」

「そう思う? 面倒くさいよぉ、実際関わると」

 言葉とは裏腹に、小日向は何処か嬉しそうに笑った。 

いつも読んで頂き、ありがとうございます!。

毎週土曜日更新となりました。

これからもどうぞよろしくお願いします。

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