完全攻略
洗った弁当箱をナプキンで包みなおし、可愛らしい巾着に戻して小日向に返す。
「ごちそうさまでした」
「あ、ああ。洗ってくれたんだ。ありがとう」
心なしか、小日向の笑顔に覇気が無いような気がする。
孔明は少し気になったのか、小日向の顔を覗き込んだ。
「和哉さん、キックオフはもっと先でも良いと思……」
「ん~っ、大丈夫。どっちにしろ向こうさんが決めた日だから」
は? と孔明は一瞬目を見張る。
日程ってもう決まってたのかと驚いたが、初めての日本企業との合同開発のため、正直な話勝手が分からない。
「SCMシステム側のチームが、もう決めちゃったと言うか」
「え?」
孔明に睨まれ、小日向が目を逸らす。
「決まった後に、実は知らされたんだよね」
「はぁ~~っ?」
気の抜けた声を上げ、そのまま音を立てて椅子に座った。というか、尻から椅子に落ちた。
その勢いのままふにゃぁと上体まで力が抜けて、テーブルにうつ伏せる。
「セキュリティ、完全に舐められてるじゃん」
「そだね。お飾り程度にしか思われてないかも」
それで頭に来たのか、両手でテーブルを叩いて起き上がった。
「佐藤忠ってグローバル企業ですよね」
「うん。多分、各国にバイヤーが飛んでるね」
「それでセキュリティはお飾りって、天下のMTTDATAさんは莫迦なんですか」
「うん。莫迦かもしれない。今それでオレの上司が、SCMシステムのPMとさ……」
言いながら、左右の人差し指同士でチャンバラをして見せた。
「は?」
「うちの上司、統括部長なんだけど、仕事早くてね。まぁドキュメントに目を通して、『参考にならん、というか……これ、設計レビューの観点が違うな』って言ってさ」
「ああ、それでペネトレーションテスト(侵入テスト)をかけたんですか」
「そうそう。検証環境立てて、自分でペネトレーションテスト回して。半日後くらいかな。『あれ、これ権限昇格できるね』
って普通に言ってた」
それを聞いた孔明の開いた口が、顎が外れそうなほどだ。
「それって……完全に権限奪取したんだ」
驚くよね~、と小日向も情けない笑顔になる。
「で、お飾り程度の認識を持ってるチームに、その結果を突き付けて……」
「揉めたんですか」
好奇心丸出しな孔明に、また悩ましげに眉根を寄せ首をひねる小日向だが、今度は何処か嬉しそうだ。
「揉めたと言うか、相談しに行ったというか」
どういう事だと、今度は孔明が首をひねる。
「あの人、自分ができることは大したこと無いと思ってる節があってさ。『そんな自分がフルコンプロマイズ(完全攻略)できたんだから、やっぱりセキュリティは大事だと思うんだ』って」
「それで、SCMに相談に行ったと」
話が面白いのか、孔明の姿勢がだんだん前のめりになってくる。
「うん。孔ちゃん、自分でテストやろうと思ってたでしょ」
意表を突かれて孔明はちょっと驚いたが、素直にうなずいた。
「やってみると分かるけど、流石に堅牢だよ。でも部長殿は穴を見つけたみたいでさ。めちゃくちゃ心配して、『怒ってるとかじゃなくてさ。今この状態で外から突かれたら現場が困るでしょ。本番前に最低限塞ごうよ』ってパッチを当てる話までしてた」
それを聞いて、孔明の顔がパッと明るくなる。
「おもしれぇ~、その人」
「そう思う? 面倒くさいよぉ、実際関わると」
言葉とは裏腹に、小日向は何処か嬉しそうに笑った。
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