お弁当
本日から、MTTデータが借りた新オフィスへ出勤となった孔明だが、そのせいか昨夜から落ち着かないようだ。
朝のルーティンも含め、結果一時間ほど早めの出勤になってしまった。
閑散としたホールを通り、一人エレベータに乗る。
カードキーをスライドさせ、新しいオフィスのドアを開く。
本格的な始動にはまだ早いが、予定通りオフィス内の配線工事は終了したようだ。
さすが、天下のMTTデータ様、作業工程はきっちりだ。
満足げに頷きながら、首をめぐらす。
室内配線はOAフロア方式と配線ダクト・ポール型のハイブリッドタイプが採用された。
オフィス中央の島には、この配線ダクト・ポール型がきっと機動力を発揮するはずだ。
そう信じて孔明が提案した案が、通った結果だった。
室内を見渡しながら自分のデスクに歩いて行く。
肩に下げたショルダーを一旦デスクに置き、それから中央の島まで移動して天井を見上げた。
つり下がった電源タブを引っ張り、レール上をスライドさせてみた。
OUTECH日本のオフィスは主にこの天井からの吊り下げ型だが、最新のダクトはデザインも動きも違うようで。
それから届いた資料を取りに、孔明は自社のオフィスに出かけて行った。
と言っても、すぐ隣だけどね。
昨日の内に佐藤忠から届けられていた資料の入った段ボール。
それを、積んであった台車ごと運び込みデスク脇の棚へと並べ始めた。
長年の使用で角が丸くなり、年季の入ったキングファイルだ。
厚さが並べる孔明の手の平ほどあるファイルが、何冊もある。
詰め込むだけ挟み込んだからか、表裏の表紙はどれも湾曲していた。
その中から数冊を、孔明は自分のデスクに置いた。
それから、また台車を押してオフィスを出て行った。
書類を取りに行った時セットしたデロンギの準備が、そろそろできた頃だ。
暫くして満足そうな顔の孔明が、淹れたてのコーヒーが入ったマグを持って戻ってきた。
デスクにマグを置き、早速ドキュメントに目を通し始めた。
ファイルを読んでいた孔明の前に、何とも可愛らしい巾着がポンと置かれる。
ページを繰る手が止まり、巾着に視線が動く。
貼り付けた様な笑顔で見上げると、満面の笑みの小日向が立っていた。
「アンちゃんが孔ちゃんのも作ったからって、お昼」
と、自分の巾着も孔明に見せ、嬉しそうに左右に振っている。
「しばらく内勤だからさ、ここに缶詰じゃん。俺ら」
孔明は咄嗟に弁当箱の大きさを見比べる。
「あれ、迷惑だった」
と小日向が巾着に手を伸ばすのを見て、さっと孔明の手が伸びた。
「いえ、ありがたく頂きます!」
両手で抱え、懐に抱く。
「良かった。おかずなんだろうね、楽しみだね」
そう言いながら、小日向は自分のデスクに背中に背負っていたリュックを降ろし、席に着いた。
抽斗にお弁当の巾着をしまい、 続けて水筒を二本、リュックから取り出しデスクに並べる。
それを呆気にとられて見ている孔明を左に見ながら、小日向は自分のデスクを整理し始める。
リュックからラップトップを出し、デスク横にリュックを提げる。
それからデスクトップのスイッチを入れ、孔明と同じく分厚い資料を棚から持って来てデスクに広げた。
おもむろに水筒の一本の蓋を開ける。
孔明の鼻先にコーヒーの香りが漂ってきた。
「相変わらず、飲んでるんですねコーヒー」
「孔ちゃんもじゃん」
と笑顔で、孔明のデスクに載ってるマグに向かって顎をしゃくる。
「ボクのはブラックじゃないです」
それを聞いて、知ってると言いたげに小日向は笑顔で頷いた。
今日中に、こちらのオフィスにもデロンギが届く手配になっている。
孔明はドキュメントに目を落としたまま、ぶっきらぼうに声をかけた。
「午後には、淹れたての美味いエスプレッソが飲めますよ」
第2章始まりました。
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