ダンジョン攻略試験(第三層・前編)
■三つ首の魔犬
蒼紫たちは第三層へ足を踏み入れた。
第三層も依然として霧に包まれていたが、
その景色はこれまでの荒れた洞窟とはまるで違っていた。
壁は規則正しく積まれたレンガで形作られ、
まっすぐに伸びる一本道が奥へと続いている。
空気はひんやりと静まり返り、足音だけが響いた。
蒼紫たちは扉の向こうに、強敵が待ち受けていることを予感していた。
紅莉「いかにも最終層って感じだね……」
蒼紫「みんな覚悟はいいか?」
玲奈「もちろんよ!」
三人は視線を交わし、重々しい第三層の扉へ手をかける。
そして、力を合わせて、その扉を押し開いた。
軋む音とともに開いた先へ足を踏み入れると──
胴体は漆黒の黒曜石に覆われ、
三つの首にはそれぞれ異なる結晶が輝いている。
左の首には赤く脈動するルビーの結晶。
真ん中の首には澄んだ白い光を放つクリスタル。
右の首には深い青を宿すサファイアの結晶。
──クリスタル・ケルベロス──
黒曜石のように黒く光る胴体と、
三色の結晶を宿した三つの首が織りなす姿は、
不気味さと神々しさを同時に放っていた。
玲奈「なによ、これ」
紅莉「綺麗だけど、ちょっと不気味かも……」
蒼紫「まさか、こんな怪物が待っていたとはな」
クリスタル・ケルベロスの四肢には太い鎖が巻かれており、
その奥には、第三層のゴールを示す重厚な扉が静かに佇んでいた。
玲奈「これを倒さないと進めなさそうね」
蒼紫「そのようだな」
紅莉「みんな、頑張ろう!」
三人が構えを取った瞬間──
クリスタル・ケルベロスの三つの首が、ゆっくりとこちらを向いた。
左の首の赤い結晶が脈動し、霧の中に赤い光の波紋が広がる。
蒼紫「……来るぞ!」
次の刹那、左の首が赤く閃いた。
灼熱を帯びた光の奔流が、一直線に蒼紫へと襲いかかる。
玲奈「蒼紫!」
紅莉「蒼紫くん!」
蒼紫は即座に水の膜を展開し、防御の構えを取った。
──しかし。
蒼紫「くっ……押し切られる……!」
光線の圧に耐えきれず、蒼紫は防御を捨てて身をひねり、辛うじて回避する。
その瞬間、右の首が青い結晶を震わせた。
空気が一気に冷え込み、鋭い冷気の奔流が三人を包み込む。
紅莉「きゃっ……!」
蒼紫は咄嗟に防御魔法を展開したが、
冷気の広がりは想像以上に大きく、足元までは守り切れなかった。
玲奈「足が……凍って……!」
蒼紫「範囲攻撃か……!」
紅莉「任せて!」
紅莉は素早く炎の魔法を放ち、凍りついた足元を溶かしていく。
その間も、中央の白い結晶を持つ首は微動だにせず、
ただ静かに三人を見据えていた。
まるで、次の動きを見極めているかのように。
ケルベロスは鎖に繋がれたまま、一歩も動かない。
だが三つの首だけが、獲物を逃さぬように三人を捉え続けていた。
蒼紫は攻撃の気配が途切れた一瞬を逃さず、前へ踏み出した。
蒼紫「……連携魔法でいくぞ」
玲奈「分かったわ」
紅莉「うん、練習の成果、見せよう!」
三人はケルベロスに向けて体勢を整える。
蒼紫と紅莉は視線を前に向けたまま、横に伸ばした片手同士をそっと重ねた。
触れ合った掌から、紫炎の魔力がじわりと立ち上がり始める。
そのすぐ後ろに立った玲奈が、二人の背中へ静かに手を添えた。
触れた瞬間、玲奈の魔力が流れ込み、三人の魔力がひとつに結びついていく。
蒼紫「準備はいいか?」
玲奈「いつでもいいわ」
紅莉「本気で行くよ!」
三人の声が重なる。
紅莉・蒼紫・玲奈「──紫炎!」
三人の体から放たれた紫炎は、いつものそれとは明らかに違っていた。
玲奈の魔力が加わったことで、紫の炎は黄金色の輝きを帯びていた。
その黄金の紫炎が、一直線に中央の白いクリスタルへと叩き込まれる。
──しかし。
白い結晶は傷一つつかず、むしろ淡い光沢を増したようにさえ見えた。
玲奈「噓でしょ……」
紅莉「そんな……」
蒼紫「まさか、ここまでとは……」
三人の連携魔法が通らなかった衝撃で、
中央の首の口元が、かすかに白く光り始めていることに
誰もまだ気づいていなかった。




