ダンジョン攻略試験(第一層)
■三学期
冬休みも明け、蒼紫たちはいつも通り授業を受けていた。
休み時間に入る直前、教壇の灰原がふと顔を上げ、生徒たちを一瞥する。
灰原「学期末には、ダンジョン攻略試験が控えている」
淡々とした声が教室に落ちた瞬間、ざわりと小さな波が広がった。
蒼紫は姿勢を正し、灰原の言葉に意識を向ける。
灰原「三人一組での実技試験だ。それまでに魔法の持続力を磨いておけ」
灰原の視線が教室をゆっくりと巡る。
その静かな圧だけで、教室の空気が一段引き締まった。
チャイムが鳴り、休み時間に切り替わると同時に、
生徒からざわめきが広がった。
玲奈が迷いなく歩み寄ってくる。
玲奈「一緒に組みましょう。蒼紫」
紅莉も負けじと声を上げた。
紅莉「わたしも蒼紫くんと組みたい!」
二人の勢いに、蒼紫は思わず戸惑う。
そんな様子を見て、夜宵がくすりと笑った。
夜宵「いいんじゃないかしら。私たちは私たちで組みましょう」
澪も頷く。
澪「そうだね。よろしくね、夜宵ちゃん、土屋くん」
土屋は礼儀正しそうに頭を下げた。
土屋「よ、よろしくお願いします先生方……!」
蒼紫は小さく息を吐き、二人を見る。
蒼紫「……分かった。よろしく頼む」
玲奈は満足げに微笑み、
紅莉はぱっと顔を明るくした。
玲奈「さすが夜宵ね」
紅莉「ありがとう、蒼紫くん!」
蒼紫「土屋のことは任せた」
夜宵「問題ないわ」
澪「土屋くんは任せて!」
土屋「まさかのお荷物扱い!?」
土屋が慌てて声を上げ、周囲から小さな笑いが漏れる。
玲奈「そうと決まれば特訓ね」
玲奈の一言で身が引き締まる。
土屋「特訓って言っても何をすればいいんだ?蒼紫せんせー」
蒼紫は間髪入れずに答えた。
蒼紫「まずは、燃費のいい魔法を見つけることが最優先事項だな」
続けて、淡々と付け加える。
蒼紫「余裕があれば3人で使える連携魔法も試しておくといい」
紅莉「さすが蒼紫くんだね!」
紅莉がぱっと顔を明るくした。
その様子を見ながら、蒼紫は静かに息を整える。
蒼紫は、どんな試験でも乗り越えられるよう、心の中で覚悟を固めた。
■ダンジョン攻略試験(第一層)
そして――試験当日はあっという間に訪れた。
一年A組の生徒たちは、実技演習室に集合していた。
普段は真っ白な空間が広がるだけの場所だが、
今日は中央に巨大な“入口”が口を開けている。
苔むした岩で組まれたアーチ状の門。
白い部屋の中でそこだけが異様に浮かび上がり、
まるで別世界が切り取られて置かれたようだった。
魔法で“創造”されたダンジョン――
その第一層への入口だ。
灰原「それでは試験を開始する。試験は事前に決めた順番通りで行う」
灰原の淡々とした声が響き、最初の組が静かにダンジョンへと潜っていった。
続いて二番目、三番目の組が呼ばれていく。
気がつけば、蒼紫たちの番はすぐそこまで迫っていた。
灰原「続いて、神崎、黄瀬、湊」
灰原に名前を呼ばれ、三人は互いに小さく頷き合う。
胸の奥に緊張が走るのを感じながら、
蒼紫たちはゆっくりとダンジョンの入口へと歩み出した。
中は緩やかな下り坂になっており、
岩肌や地面は自然にできた洞窟のように見える。
――ただ、一部を除いては。
紅莉「……霧?」
紅莉が足を止めた。
薄紫色の霧が、洞窟の奥からゆっくりと流れ出している。
視界を遮るほど濃くはないが、どこか不気味な色をしていた。
玲奈「気味が悪いけど、そこまで気にならないわね」
玲奈は周囲を警戒しながらも、平静を保っている。
蒼紫「ああ」
蒼紫は短く返す。
だが胸の奥に、言葉にしづらい違和感が引っかかっていた。
しばらく進むと、最初のモンスターが姿を現した。
小型の蜘蛛が数匹、岩陰から這い出してくる。
紅莉「虫は私が焼いちゃうよ!」
紅莉が右手に魔力を込め、火球を放とうとした――が。
紅莉「あ、あれ……?」
紅莉の手のひらに灯ったのは、かすかな火だけだった。
その瞬間、蜘蛛の体液が紅莉めがけて飛びかかる。
玲奈「危ない!」
玲奈がとっさに紅莉を庇う。
だが、その動きはいつもの神速とは程遠かった。
紅莉「力が……うまく出せない……」
紅莉が息を呑む。
蒼紫「そういうことか」
蒼紫は状況を悟り、右手に魔力を込めて水を生み出そうとする。
しかし――
ぽたり、と一滴の水が落ちただけだった。
蒼紫「おそらくこの霧で魔力が低下しているな」
蒼紫の言葉に、紅莉が不安そうに眉を寄せる。
紅莉「ど、どうしよう……」
蒼紫「紅莉、最大火力で炎を出してくれ」
蒼紫は即座に指示を出した。
紅莉「わかった……!」
紅莉は瞳を閉じ、全身に魔力を巡らせる。
次の瞬間、赤い光が紅莉の身体を包み込み――
目の前が一気に火の海となった。
小型の蜘蛛は、悲鳴を上げる間もなく燃え尽きる。
蒼紫は目の前の炎を沈下しながら魔法の感覚を確かめていた。
蒼紫「最大火力を出すイメージじゃないと使い物にならないな」
一方で玲奈は、洞窟内を軽く走り回りながら身体の反応を探っている。
玲奈「なるほど、こういうことね!」
紅莉が不安そうに振り返った。
紅莉「でも……これだと魔力の消費量が多いよね」
蒼紫「ああ。だから、これからは必要最低限の魔法でいこう」
蒼紫は落ち着いた声でそう告げた。
第一層に出現するモンスターは、小型のものばかりだった。
三人は魔力の感覚を確かめながら、最小限の魔法だけで応戦していく。
霧の影響で思うように力は出せない――それでも、
蒼紫たちは慎重に進み、連携を取りながら第一層を突破した。




