冬休み
■冬休み
二学期も終わり、蒼紫たちは冬休みの静かな日々を過ごしていた。
朝の空気は澄んでいて、吐く息は白く、
街にはクリスマスの飾りつけが増え始めている。
そんなある日、蒼紫は玲奈たちと街へ出かける約束をしていた。
玲奈「そろそろ行くわよ。プレゼント、買いに行くんでしょ?」
紅莉「うんうん! みんなで行ったほうが絶対楽しいよ〜!」
澪「街、すごく混んでそうだけど……大丈夫かな」
夜宵「人が多いのは仕方ないわ。冬休みだもの」
土屋「よっしゃ~喜んでもらえるよう頑張るぞ~!」
蒼紫「……行くか」
こうして蒼紫たちは、クリスマスパーティに向け
ショッピングへと向かっていった。
人混みの中を進みながら、土屋が蒼紫の横に並ぶ。
土屋「なぁ蒼紫。ぶっちゃけ、何買えば女子って喜ぶんだ?」
蒼紫「……俺に聞くのか」
土屋「お前、なんかこう……落ち着いてるし、女子の扱い慣れてそうじゃん?」
蒼紫「慣れてない」
土屋「即答かよ! じゃあ逆に何なら困らないと思う?」
蒼紫は少し考え、街のイルミネーションを見上げた。
蒼紫「……実用的なものなら、誰でも困らないだろう」
土屋「実用的……マフラーとか?」
蒼紫「悪くない。ただ、マフラーは付き合ってからだな」
土屋「えっ、そうなの!? そんな重いアイテムだったのかよ!」
蒼紫「知らなかったのか」
土屋「知らねぇよ! じゃあ俺、危うく告白みたいなプレゼント渡すとこだったじゃん!」
蒼紫「……お前が選ぶ色次第では、もっと誤解される」
土屋「おい待て、それどういう意味だよ!」
蒼紫は肩をすくめ、前を歩く女子組に視線を向けた。
蒼紫「無難にいくなら、手袋か小物だ。重くないし、使いやすい」
土屋「なるほど……よし、手袋にする! 俺でも選べそうだし!」
蒼紫「無難だな」
土屋「蒼紫はどうするんだ?」
蒼紫「タオルにしようと思ってる」
土屋「確かに実用的だけど、面白みがないな」
蒼紫「俺はウケを狙いに行ってない」
土屋「そういうとこ真面目だよなぁ……まあいいや! とりあえず手袋探そうぜ!」
土屋が先に駆け出し、蒼紫もその後を歩き出す。
前を行く女子組は、すでに店のショーウィンドウに夢中になっていた。
紅莉「見て見て! このマフラーかわいい〜!」
玲奈「こっちはアクセサリーね。プレゼントにちょうどいいかも」
澪「人、多いね……はぐれないようにしなきゃ」
夜宵が肩越しに振り返り、淡々と答える。
夜宵「冬休みの街なんて、こんなものよ」
その横で、土屋が両手をポケットに突っ込みながら笑った。
土屋「最近は物騒らしいから気をつけろよ、澪~」
紅莉がショーウィンドウから顔を上げ、声を潜めた。
紅莉「そういえばさ、誘拐事件があったって聞いたよ。知ってる?」
玲奈は眉をひそめ、ため息をつく。
玲奈「誘拐? また変な噂でしょ。冬休みはそういう話が増えるのよ」
紅莉は首を横に振り、真剣な表情になる。
紅莉「違うってば! うちの学校じゃないけど……さらわれたの、高cHの生徒なんだって」
玲奈はちらりと夜宵を見る。
玲奈「じゃあ狙われるとしたら夜宵ね。一番cHが高いもの」
夜宵は髪を耳にかけ、淡々とした声で言い放つ。
夜宵「来るなら来ればいいわ。返り討ちにするだけ」
その言葉に、蒼紫は歩みを少しだけ緩めた。
蒼紫「……ただ、高cHの生徒が簡単に捕まるなら、相手は相当な手練れだろうな」
土屋は思わず背筋を伸ばし、周囲を見回す。
土屋「お、おいおい……マジで怖くなってきたんだけど」
蒼紫「何にせよ、一人で勝手に動かないことだ。特に土屋」
土屋「お、おう……分かってるって」
玲奈はちらりと土屋を見て、口元だけで笑った。
玲奈「けど、アンタは狙われる心配はないわね」
土屋「それどういう意味だよ!」
玲奈と土屋のやり取りで、張りつめていた空気がふっと緩んだ。
澪も思わず笑い声を漏らし、紅莉は胸をなでおろす。
紅莉「よかった〜、なんか怖い話になってたから……」
夜宵は小さく息をつき、肩の力を抜いた。
夜宵「まったく。土屋が騒ぐと、緊張感がどこかへ飛んでいくわね」
土屋「褒めてんのかそれ!」
玲奈はくすっと笑い、手袋をはめ直す。
玲奈「はいはい。ほら、次の店行くわよ。プレゼント選ばなきゃでしょ」
蒼紫も歩き出しながら、街のイルミネーションを見上げた。
冬の冷たい空気の中、六人の足取りはさっきよりも軽くなっていた。
■プレゼント交換
買い物を終えると、蒼紫たちはいつものように
蒼紫と土屋の部屋へ集まった。
机の上には豪勢な食事と飲み物が並び、
部屋の中央には小さなツリーまで置かれている。
そして――
土屋「どうだ! 似合ってるだろ!」
土屋は全身トナカイの着ぐるみ姿で、胸を張っていた。
赤い鼻までついていて、妙に完成度が高い。
紅莉「えへへ、私も着てみたよ!」
紅莉は真っ赤なサンタ服に身を包み、
ふわふわの帽子を揺らしながらくるりと回る。
澪「かわいい……紅莉ちゃん、すごく似合ってる」
玲奈「土屋は……まあ、そういうの似合うわね」
夜宵「紅莉はともかく、土屋は完全に悪ノリよね」
土屋「悪ノリじゃねぇ! クリスマスはこういうのが大事なんだよ!」
蒼紫はため息をつきながらも、どこか楽しそうに椅子へ腰を下ろした。
蒼紫「……で、プレゼント交換はどうする」
紅莉「はいっ! じゃあくじ引きで決めよ!」
紙のくじを引き合い、誰が誰のプレゼントを受け取るかが決まっていく。
そして――
蒼紫「……あ」
土屋「……まじかよ」
二人は同時に自分のくじを見て、顔を見合わせ、ため息をついた。
紅莉「えっ、どうしたの?」
土屋「いや……その……俺、蒼紫の引いちゃった」
蒼紫「俺もだ。よりによって」
玲奈「何それ、面白すぎるんだけど」
夜宵「仲がいいのか悪いのか分からないわね」
澪「でも、なんか……二人らしいかも」
土屋は渋々プレゼントを差し出し、
蒼紫も無言で土屋へ渡す。
土屋「……タオルか。実用的だな」
蒼紫「……手袋か。無難だな」
二人の微妙な表情に、部屋中が笑いに包まれた。
プレゼント交換を終えた蒼紫たちは、
あれこれ感想を言い合いながら食事を楽しんだ。
蒼紫はふと、賑やかに笑う仲間たちの姿を見渡す。
――冬休みの夜に、こんなふうに笑っていられるのも悪くない。
窓の外では、吐く息の白さが街灯に照らされ、
ゆっくりと夜の空気に溶けていった。
こうして蒼紫たちの冬休みは、
温かく、穏やかな時間とともに静かに幕を閉じた。




