表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
虹魔学院の紅と蒼  作者: なまこ
文化祭

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/24

文化祭一日目(前編)

■文化祭一日目(前編)

文化祭の日は、あっという間にやってきた。

朝の校舎はすでに活気に満ち、一年A組の教室も例外ではなかった。


教室の前には「執事&メイド喫茶」の看板が掲げられ、

中では生徒たちが最終確認に追われている。


白馬はメニュー表を手に、落ち着いた声で指示を出した。

白馬「開店まであと十五分。

接客担当は持ち場について、動線をもう一度確認しよう」


蒼紫は執事服の袖を整えながら、静かに頷いた。

蒼紫「……了解」


土屋はというと、すでにテンションMAXだ。

土屋「よっしゃあ! 俺の執事力、見せてやるぜ!」


玲奈は呆れたようにため息をつく。

玲奈「……騒がないの。お客さん来るんだから」


紅莉はメイド服のエプロンを整えながら、少し緊張した笑顔を見せた。

紅莉「でも……なんかワクワクするね」


澪は胸元を押さえ、そわそわしている。

澪「わ、私……ちゃんとできるかな……」


夜宵はまるでベテランメイドのように落ち着いていた。

夜宵「大丈夫。練習通りにやれば問題ないわ」


白馬は全員を見渡しながら、手元のシフト表を軽く掲げた。

白馬「配置はシフト通りにいこう。各々、適宜休憩を取ってね」


紅莉は深呼吸し、胸元を軽く押さえた。

そのまま、そっと蒼紫の横へ歩み寄る。


紅莉「蒼紫くん、今日は一緒に頑張ろうね!」

その声はいつもより少し弾んでいて、期待がそのまま表情ににじみ出ていた。


蒼紫はネクタイを軽く引き締めながら、紅莉を見つめる。

蒼紫「ああ、よろしく」


その短い返事だけで、紅莉の頬がふわっと赤くなる。

そうしているうちに、文化祭の開始時間が近づいてきた。


廊下のざわめきが、少しずつ大きくなる。


白馬はシフト表を確認しながら前に出る。

白馬「最初のお客さんは男性二人組みたいだ。神崎さん、お願いね」

紅莉「うん! 任せて」

白馬「その次は女性二人組だから、湊くんに頼むよ」

蒼紫「ああ」


そのとき、廊下のざわめきがふっと近づいた。

開放された扉の向こうで足音が止まり、影が揺れる。


客たちがそっと中を覗き込む。

最初に入ってきたのは、男性二人組だった。


紅莉はぱっと表情を明るくし、練習通りの所作で一歩前へ進む。

紅莉「おかえりなさいませ、ご主人様♪ こちらへどうぞ」


声は弾んでいて、誘導もスムーズ。

緊張よりも楽しさが勝っているようだった。


続いて、女性客が二人入ってくる。


蒼紫は静かに姿勢を正し、落ち着いた声で迎えた。

蒼紫「おかえりなさいませ、お嬢様。こちらへどうぞ」


その低く柔らかな声に、女性客たちは思わず顔を見合わせて頬を染める。


こうして一年A組の接客は、いよいよ本格的に始まった。


男性客と女性客が席につくと、教室の中は一気に“お店の空気”へと変わっていった。


奥の席では、別の来場者たちが次々と入ってくる。

制服姿の生徒、学院の教師、友達同士のグループ——

さまざまな客が興味深そうに店内を見回していた。


入口付近では、メイド服の生徒が明るい声で案内を始める。

「いらっしゃいませ♪ こちらのお席へどうぞ」

柔らかい笑顔と丁寧な所作に、客たちは思わず表情をほころばせる。


別のテーブルでは、執事服の男子が静かにメニューを差し出していた。

「本日のおすすめはこちらでございます。

ご不明な点があればお申し付けください」


その落ち着いた声に、客の女性たちは思わず姿勢を正し、

「すごい……本格的……」と小声で囁き合う。


さらに奥の席では、緊張気味のメイドが、おそるおそる水を運んでいた。

「こ、こちら……お冷になります……」


その控えめな声に、客の大人たちは優しく微笑み、

「ありがとうね」と温かく声をかける。


一方、別の執事役の男子は、元気よく客を迎え、酒場の店主のようだった。

「いらっしゃいませー!ご注文はお決まりでしょうか!」

執事姿に似合わない声量に、客たちから小さな笑いが起きる。


店内では、メイドたちがテーブルを回りながら注文を取り、

執事たちが客の案内や対応に忙しく動き回っていた。


その裏では、調理担当が食事やドリンクを次々と仕上げ、

廊下では客引きの声が響いている。


席はみるみる埋まっていき、

一年A組の教室は本物の喫茶店のような賑わいを見せ始めていた。


蒼紫は一人目の接客を無事に終え、その後も淡々と接客をこなしていた。

注文を受け、飲み物を運び、客の質問に落ち着いた声で答える。


店内はすでに満席に近く、次の来客は廊下の椅子で順番を待っている。

蒼紫は次の案内に備えて入口へ視線を向ける。


入口では、同じ輪郭をした姉妹がそっと店内を覗き込んでいた。


氷山凛「やっほー、蒼紫くん!」

氷山冷「遊びに来た」


突然の声に、蒼紫の手がわずかに止まる。

だが、すぐに表情を整え、執事としての姿勢に戻った。


蒼紫「……おかえりなさいませ、お嬢様。こちらへどうぞ」


氷山凛「お嬢様だって!」

氷山冷「お嬢様……」


二人はわざとらしく顔を見合わせ、同時にくすっと笑う。


蒼紫「冷やかしならお帰り下さい」

蒼紫は肩をすくめながら二人を案内した。


双子はその背中を追いながら、まだくすくす笑っている。


席に着いたのを確認すると、蒼紫は淡々とした声でメニューを開いた。


蒼紫「ご注文は……オレンジジュースでいいですか?」


その一言に、双子が同時に声を上げた。


氷山凛「子供扱いするなー!紅茶!紅茶がいい!」

氷山冷「同じく」


蒼紫「紅茶を二つですね。飲んだら帰ってくださいね」

蒼紫はため息をつきながらもメモを取る。


氷山凛「私たちへの対応雑じゃない!?」

氷山冷「生意気な後輩」


凛はむっとした顔をしながらも、すぐに思い出したように身を乗り出した。


氷山凛「そうだ! 私たちのクラス、お化け屋敷やってるから遊びに来てね!」

氷山冷「……来ないと呪う」


蒼紫「……暇だったら行きますよ」


氷山凛「それ絶対来ないやつじゃん!」

氷山冷「社交辞令」


蒼紫は軽く会釈し、逃げるように氷山姉妹を後にした。


蒼紫は氷山姉妹の接客を終え、次の接客へ向かう。


入口前の椅子には、水色の短い髪の少女が緊張した様子で座っていた。


蒼紫は歩みを緩め、声をかけた。

蒼紫「おかえりなさいませ、お嬢様。来てくれたんだな、水瀬。こちらへどうぞ」


水瀬「……あ、蒼紫くん。執事服かっこいい……」

ほっとしたように微笑むその表情は、静かで柔らかい空気をまとっていた。


蒼紫は席を示し、水瀬を案内する。

蒼紫「ここ、空いてる。座ってくれ」


水瀬はぱっと明るい笑顔になり、緊張がほどけたように椅子へ腰を下ろした。

水瀬「ねぇ蒼紫くん! 体育祭のときの蒼紫くん、すごかったよ!

敵クラスなのに、思わず応援しちゃったもん!」


蒼紫「……敵クラスが応援するのはどうなんだ」


水瀬「だってかっこよかったんだもん! リレーも団体戦も!」

水瀬は身を乗り出し、目をきらきらさせながら話した。


蒼紫は少しだけ視線をそらし、仕事の声色を保ちながらも、どこか照れたように返す。

蒼紫「……ありがとう。そう言われると悪い気はしないな」


水瀬はさらに笑顔を深め、今度は自分の話を思い出したように声を弾ませた。

水瀬「そうだ! うちのクラス、たこ焼きやってるんだよ!

本当に美味しいから、あとで絶対来てね!」


蒼紫「たこ焼きか、仕事が落ち着いたら行く」


水瀬「うんっ!」

水瀬の笑顔は、まっすぐで、眩しいほどの明るさだった。


その後も水瀬は楽しそうに店内を見回し、紅茶を飲みながら体育祭の話や、

自分のクラスのたこ焼きの宣伝を弾む声で続けていた。


蒼紫は相槌を打ちながら、時折、水瀬の無邪気な言葉に小さく笑みを返す。


やがて水瀬が席を立ち、「あとで絶対来てね!」と

手を振って店を後にした頃には、時刻は十二時を回ろうとしていた。


蒼紫は軽く息を吐き、休憩に向かった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ