文化祭準備
■文化祭準備
体育祭が終わってから数日。
A組は文化祭の出し物を決めるため、放課後に集まっていた。
黒板には無難な案が並んでいる。
玲奈「……普通ね」
紅莉「どれも悪くないけど、決め手がないかも」
白馬は黒板を見て優しく微笑んだ。
白馬「ありきたりではあるけど、どれも定番で人気はあると思うよ」
黒板に並べられた案は「お好み焼き屋」や「たこ焼き屋」など
文化祭によくある屋台ばかりだった。
教室のあちこちで、顎に手を当てて考え込む者や、
頬杖をついてぼんやり黒板を眺める者がいる。
しばらく静かな時間が流れたあと——
土屋が勢いよく身を乗り出し、手を挙げた。
土屋「はいはいはいっ! めっちゃいい案思いついた!」
玲奈「……嫌な予感しかしないんだけど」
紅莉「でも、土屋くんの案ってたまに当たるよね!」
白馬は苦笑しつつも、ちゃんと話を聞く姿勢を見せる。
白馬「せっかくだし、まずは聞いてみようか。どんな案?」
土屋はニヤリと笑い、黒板の前に立つと、
チョークを握って勢いよく書き殴った。
土屋「ずばり、執事&メイド喫茶だ!」
土屋は胸を張り、堂々と宣言した。
教室が一瞬でざわつく。
紅莉「執事&メイド喫茶……?」
玲奈「はぁ!? なんでそうなるのよ」
澪「え、えっと……それって……」
土屋「男子は女子のメイド服が拝める!女子は白馬や蒼紫の執事姿が拝める!
つまり――全員幸せってことよ!」
玲奈「……最低」
紅莉「で、でも……蒼紫くんの執事服……ちょっと見たい……」
玲奈「はぁ? ……ま、まあ……悪くはないけど」
蒼紫「……」
蒼紫は無言で視線を逸らした。
白馬は苦笑いを浮かべながら話を進める。
白馬「一応、多数決を取ってみようか」
賛成派の手がちらほら上がり、気づけば過半数を超えていた。
白馬「決まりだね。A組は『執事&メイド喫茶』でいこう」
土屋「よっしゃあああああ!」
こうしてA組の文化祭準備は、
期待とほんの少しの不安を抱えながら動き出した。
――それから一週間が経ち、
A組の教室は、賑やかな空気で満ちていた。
教室の隅に置かれた大きな包みが開かれ、
生徒たちはその中から執事服とメイド服を次々と取り出していく。
紅莉「わぁ……! 本物だ……!」
玲奈「意外としっかりしてるのね。生地も悪くないわ」
澪「き、緊張してきた……」
夜宵「これがメイド服……」
玲奈はメイド服を軽く抱え直し、周囲を見渡した。
玲奈「じゃあ、私たちは更衣室で着替えましょう」
その一言で、女子たちの動きが一気に活気づく。
紅莉「うんっ、行こ行こ!」
澪「わ、私……ちゃんと着られるかな……」
夜宵「問題ない。行くわよ」
玲奈は最後に振り返り、男子たちを睨む。
玲奈「覗いたらぶっとばすわよ」
土屋「し、しないって!」
蒼紫「……誰もしない」
こうして女子たちは、
それぞれの期待と緊張を胸に、更衣室へと向かっていった。
女子たちが移動したのを見て白馬が声をかける。
白馬「それじゃあ、僕たちも着替えようか」
蒼紫は無言で衣装を手に取り、軽く生地を確かめる。
蒼紫「……意外と重い」
土屋はすでにシャツを脱ぎかけながら騒いでいる。
土屋「見ろよこれ! ネクタイとか手袋とか、細けぇパーツ多すぎ!」
土屋がネクタイと格闘している横で、
蒼紫は淡々とシャツのボタンを外し、制服を畳んで椅子に置いた。
執事服のシャツに袖を通すと、ひんやりとした布が肌に触れる。
続いてネクタイを締め、手袋に手を通す。
土屋はまだネクタイと格闘していた。
土屋「蒼紫着替えるの早いな!」
蒼紫「土屋が遅いだけだろ……早くしないと女子が戻ってくるぞ」
土屋「やばいやばい!」
土屋がネクタイを締め終えると同時に、廊下から女子の笑い声が聞こえた。
土屋「セーフ」
白馬「みんな大丈夫そうだね」
白馬は廊下に出て、着替え終えたことを女子に伝える。
紅莉「お待たせ〜!」
玲奈「……入るわよ」
扉が開き、メイド服姿の女子たちが教室へ入ってきた。
その瞬間、空気がふっと変わる。
紅莉はふわりとスカートを揺らしながら、少し照れたように笑った。
紅莉「どう……かな?」
土屋「おおおおおおおおおお!! かわいすぎる!!」
玲奈は腕を組み、そっぽを向きながらも頬がわずかに赤い。
玲奈「べ、別に……普通でしょ。変じゃないわよね?」
水町「いや、普通どころじゃねぇよ。似合いすぎだろ!」
澪は裾をつまんで小さく会釈した。
澪「……あ、あんまり見ないで……」
夜宵は無言で一歩前に出る。
夜宵「……どう?」
土屋「完成度高すぎて逆に怖ぇ……!」
玲奈「……まあ、悪くないわね。あんたたちも」
紅莉「蒼紫くんの執事姿かっこいい!」
蒼紫「……ありがとう」
こうして教室は、執事とメイドが入り混じる賑やかな空間へと変わっていった。
白馬「じゃあ今日は、実際に動いてみよう。
接客の練習も兼ねて、簡単なロールプレイをするよ」
土屋「よっしゃあああ!客やろうぜ蒼紫!」
蒼紫「……ああ」
玲奈「接客もしなさいよ」
土屋「分かってるって!」
土屋が勝手に接客用の机に腰を下ろすのを見て、白馬は苦笑しながら肩をすくめた。
白馬「じゃあ、まずは男子がお客さん役でいいかな?」
玲奈「仕方ないわね」
白馬の合図で、男子たちはそれぞれ席に着く。
蒼紫も土屋の向かいに静かに腰を下ろした。
その傍らには、紅莉と玲奈がメイド服の裾を整えながら立っていた。
二人とも、緊張と期待が入り混じった表情を浮かべている。
白馬「それじゃあ始めようか。終わったら男女交換するように。」
白馬が合図すると、紅莉と玲奈がほぼ同時に一歩前へ進んだ。
紅莉はスカートの裾をつまんで丁寧にお辞儀する。
玲奈は背筋を伸ばし手を前に合わせて静かに頭を下げた。
紅莉・玲奈「いらっしゃいませ、ご主人様♪ご注文はお決まりでしょうか?」
柔らかい声と、凛とした声が調和し教室に響きわたる。
土屋「おお!最高だぜ!じゃあ俺はコーヒー一つ!飲めないけど」
蒼紫「紅茶を頂こうかな」
紅莉・玲奈「かしこまりました。コーヒーと紅茶ですね♪」
紅莉と玲奈が同時に返事をしたあと、二人は一歩下がって軽く会釈した。
ニコニコしながら接客する紅莉に対し、玲奈は終始赤面していた。
紅莉「緊張するけど楽しいね!」
玲奈「やってられないわ。交代よ交代!」
土屋は満足げに腕を組み、蒼紫の肩を軽く叩いた。
土屋「いや~いい接客だったけどなぁ、蒼紫」
蒼紫「悪くなかった」
蒼紫の言葉で玲奈はさらに赤くなった。
今度は紅莉と玲奈が席に座り、蒼紫と土屋が前に立った。
土屋と蒼紫がほぼ同時に一歩前へ進んだ。
土屋は胸を張り、やたら元気よく。
蒼紫は背筋を伸ばし、静かに。
二人の動きは違うのに、不思議と揃って見えた。
土屋・蒼紫「いらっしゃいませ、お嬢様。ご注文をお伺いいたします」
明るく弾む声と、落ち着いた低い声が重なり、教室に柔らかく響く。
紅莉は驚いたように目を丸くし、すぐに頬を赤くして微笑んだ。
紅莉「えっと……紅茶をお願いします……!」
玲奈は目線を逸らして端的に注文した。
玲奈「私も同じのをお願い」
土屋・蒼紫「かしこまりました。紅茶を二つですね」
土屋と蒼紫は軽く会釈し後ろに下がる。
二人の接客が終わると紅莉が感想を述べた。
紅莉「凄い良かった。特に蒼紫くん!」
土屋「俺は?」
玲奈「まぁ悪くなかったわ。蒼紫は」
土屋「だから俺は?」
いつもの土屋いじりで紅莉と玲奈から笑いが起きる。
蒼紫もわずかに口元を緩める。
蒼紫たちは接客練習やメニューの考案など、細かな準備を進めていくうちに——
気づけば、文化祭当日がすぐそこまで迫っていた。




