第一章4 『神様とオドの恩恵』
ブオンッ! という音と共に暴風のような勢いで、鉄塊が顔のすぐ前を左に横切る。凄まじい風圧が顔を撫で、汗がタラリと頬を伝った。この汗は、オドの消費が存在維持量を上回った影響による汗じゃない。明らかな恐怖がもたらす冷や汗だ。
鉄塊は、その凶悪な大きさと重量を物ともせずにグンッと上方に軌道を変えると、今度は真上から唐竹割りの如くこちらを両断しようと襲いかかって来る。
恐怖で逃げようと足に力が入るが、必死にその反射を意志で抑えつけ、鉄塊――巨大戦斧が目の前に来るまで引き付けてから、後方に飛んで躱す。こちらの眼前を通り過ぎた瞬間、ハラリと何本か前髪が切れて舞い飛んだ。
そして、戦斧はこちらを両断することなく地面に叩きつけられ、両断出来なかった俺の代わりに地面を割った。ズドンッ! という地響きと共に、衝撃で凄まじい石礫や土埃が舞い上がる。
後方に飛んだ俺を追いかけるように襲いかかってきた石礫を防ぐ為、左手と右手を顔の前でクロスして目を防御し、身体を覆うオドの出力を上げる。すると、石礫はガガガガッとなにかに防がれるように、身体に当たる直前に弾かれた。
身体を覆うオドは、出力を上げると『防御結界』の役割も担うことが出来るので、この程度は容易に防ぐことが可能だった。
後方の地面に着地し、ズザァーッと足で地面を擦りながら回避の勢いを殺して止まる。
今の避け方は今までで一番良かったなと自画自賛し、ようやく戦闘らしい戦闘が出来るようになって来たと、ちょっと期待を抱いた目で防御を組んでいた腕を解いて前を見るが、そこに戦斧を振るっていた者はおらず、その姿を見失ってしまう。
えっ? と一瞬呆けてしまい、それが致命的な隙となった。
「駄目ですよ、相手を視線から外してしまっては……」
声は自分のすぐ後ろからした。背筋にゾワッと鳥肌が立つ。慌てて振り返りながら回避の態勢を取ろうとしたが、時すでに遅し……俺の後方で、こちらに背を向けて立っていたフェルビナさんは、身体を回転させ、振りかぶりながら両手に持った巨大戦斧をこちらの首元に目がけて振り下ろして来る。
あ、死んだ……という考えが頭に浮かぶ。脳裏に首元から両断されて、血飛沫をまき散らしながら上半身が無惨に吹き飛ぶイメージが、スローモーションで再生される。
そして、現実でも同じように巨大戦斧が凄まじい勢いで振り下ろされ、俺の首元から斜めに身体を両断……――しなかった。
「そこまで!」
シオンの声が、その場に響く。その声を聞き、一瞬飛んでしまっていた意識がハッと目覚める。そして、チラリと目線だけを動かして左の首元を見ると、巨大戦斧はこちらの首に触れるか触れないかの所でピタリと止まっていた。
「惜しかったですね、トウマ様」
そう言ってフェルビナさんは微笑み、巨大戦斧を持ち上げて俺の首元から離す。ハァ~……と安堵の息を吐き、情けなくも身体から力が抜けてしまい、その場に尻もちを着くように座り込んでしまう。
「トウマ、大丈夫?」
シオンが心配そうな表情でこちらに駆け寄って来て、言葉を掛けてくる。
「ハハ……なんとかな……」
少し顔が引きつり身体が震えながらも、なんとかシオンに無事を伝える。本当に死んだと思った。寸止めしてくれると分かっていても、恐怖しないなんて無理だ。
あんな凶悪な、鉄塊とも言える巨大戦斧が凄まじい勢いで目の前に迫ってくるのだ……リアルに死をイメージをするには十分過ぎる。
事実、頭の中に俺の身体が無惨に両断されるイメージが浮かび上がった……思い出したら、サーーーッと血の気が引いてダラダラと冷や汗が溢れ出してくる。
そんな俺の様子を見て、シオンが怒った表情でフェルビナさんに抗議の声を上げる。
「もう~! やり過ぎだよフェルビナ!!」
「なにを言っているのですか、シオン。この程度はまだ序の口ですよ?」
フェルビナさんは事も無げに言う。じょ、序の口? ハハハ……そうか~、まだまだ厳しくなるのか~……と、俺の心はこれから先に待ち受けるであろう更なる恐怖を想像し、現実逃避を始める。
「アハハハハハ~……これで序の口なのか~……」
焦点の定まっていない目で遠くを見つめる俺を見て、ギョッとしたシオンが泣きそうな顔で俺の両肩を掴み、ガクガクと前後に揺らす。
「ト、トウマ!? しっかりして~!」
そんな二人のコントのようなやりとりを見て、フゥ~……とため息をついたフェルビナさんは、仕方ないとばかりに言う。
「しょうがないですね……今日の回避訓練はここまでにしましょう」
その言葉を聞き、ハッとして現実逃避しかけていた心が戻ってくる。シオンもその言葉を聞いて俺を揺さぶるのを止めた。
「ホントに?」
「ええ、トウマ様もだいぶ身のこなしが形になって来ていますからね。先ほどの避け方は良かったです。ただ、回避後の防御がいただけません。あの時の顔を庇う防御動作は余計です。それで相手を見失ってしまっては敵の思うつぼとなります。オドでガードしているのですから、腕で庇う必要はありませんでした」
そう考えるとそうだ。咄嗟に顔を庇って、その結果フェルビナさんを見失ってしまった。そして、ふと思い付く。
「そうか……あの攻撃はそういう意図も合ったんですね」
「ええ、反射的に目を庇う心理を利用したんです。その隙を突いて死角に入り、後ろに回り込みました。攻撃が躱されても、その結果自体が次の攻撃への伏線になっていることは接近戦においては良くあることです。だから、決して相手から視線を切ってはいけません。次は心掛けて下さいね」
「はい、分かりました」
フェルビナさんの指摘を受けて、なるほどと納得して返事をする。凄まじく乱暴な訓練なのだが、教え方は的確で着実に身になっているから、恐ろしい。
実際、こんな感じでフェルビナさんの指導を受けて一ヶ月が経った時点で、あの戦斧を躱せるようになって来ている。始めた当初は、逃げ回るばかりだったのにだ。シオンが言うには、使徒の身体のポテンシャルを引き出せるようになって来たからだと言う。
感知を身に付けてオドのコントロールを物にし、障害物訓練では身体の動かし方を学び、そして、今回の回避訓練で反射神経や思考速度が研ぎ澄まされて来ているんだそうだ。
特に思考速度においては、『型』すなわちフレームワークが出来てくると、思考する枠組みが決まるため、その枠以外のことを考えなくていいのでムダが減るそうだ。それによって、劇的に動きの効率もよくなってくる。
だから、こういうシンプルな反復訓練は、枠を作る上には適しているらしい。おまけに死の恐怖は、極度に集中力を高めることが出来るので、一石二鳥だという。
とは言え、リスクはあるそうで、恐怖で心が負けてしまえば逆効果となってしまう、けっこう博打的な訓練でもあるらしい。
ビビりの俺にはあまり適していない気もするが、オドを纏うようになれば精神強度も増すし、フェルビナさんはそこら辺の匙加減も達者だそうで、お願いしたんだとか……。
当初は、無茶な話だとは思ったが、でも、その甲斐あって強くなれているんだから、感謝するべきなんだろう。これでより目標に早く近づけているのだから。
俺とて、早くシオンと冒険に出たい気持ちはあるので、シオンの判断を責めることは出来なかった。よって、俺はシオンの期待に応える為にも、頑張るのみだと覚悟を決めて訓練に臨んでいた。
「トウマ、大丈夫? 休憩にしようか?」
少し思考に耽ってボーッとしていたので、シオンに心配されてしまう。
「いや、大丈夫だよ。次の訓練をやろう」
そう言って立ち上がる。回避訓練は今日は終わりだが、訓練は他にもある。回避訓練後は、最初は精も根も尽きかけていたので、次の訓練など出来やしなかったのだが、最近は次の訓練が出来る程にタフになって来ている。……その頃を思い出すと少し懐かしい。
一度、背をグッと上に伸ばして気を取り直す。それを見て、安心したのかシオンが笑顔で聞いてくる。
「うん! じゃあ、次はオドの物質化訓練だね。今日はなにで訓練する?」
少しワクワクした面持ちで聞いてくるシオン。
「そうだな~……」
そう言って考える。オドの物質化訓練は、半分は二人で遊び感覚で鍛えている。二人で出来る遊びに限られるので、シンプルな球技等に成りがちだが、どうするか……そう考えこんでいると、フェルビナさんがシオンに話し掛けてくる。
「シオン、トウマ様はオドの物質化は大分手慣れているのですから、そろそろ特殊能力の訓練にステップアップしたほうが良いと思いますよ」
フェルビナさんにそう指摘されるシオンだったが――
「ええ~……でも~……」
と渋る。そんなシオンの態度に少し訝しんで尋ねるフェルビナさん。
「どうして渋るんですか? 特殊能力を鍛えることは、あなたの早く冒険に行きたいという想いにも繋がるでしょう?」
「そうだけど……」
煮え切らないシオン。その理由に思い当たることがあるので、俺はフェルビナさんに伝える。
「実は俺、まだどんな特殊能力を使えるか教えて貰ってないんですよ」
「え!? そうなのですか?」
俺の発言に驚くフェルビナさん。使徒になったばかりの日に、オドの恩恵でもたらされた特殊能力に付いて、けっこう期待感を抱いてシオンに聞いたが、教えて貰えなかった。理由は危ないからだそうだ。
「能力を知ったら好奇心で使ってしまうと思ったみたいで、しっかりとオドのストックが溜まるまでは、秘密の一点張りで……」
確かにアースディア様にも、使徒に成りたての頃に能力を使うのは危険だと注意を受けていたので、渋々受け入れていた。
因みに、最初は自分自身でどんな能力が身に付いたかは分からず、契約神から教えて貰わなければならない。理由は、特殊能力は使用する感覚をまず身に付けなければ、自分がどういう能力を持っているのかさえ認識出来ないそうだ。
感覚が身に付けば、自分の能力を把握することも可能となり、新たな能力が開花した場合でも、その時点で分かるようになるらしい。
「でも、訓練を始めてからもう二ヶ月以上経っていますから、そろそろお教えして始めるべきですよ?」
そうフェルビナさんに説得されるシオン。たしかにオドのストックはもう限界まで溜まっている状態だ。
いままでの訓練では、感知を身に付ける前は存在維持量を削ってしまったりはしていたが、身に付けて以降は削らないラインでの訓練ばかりだったので、少しずつオドはストック出来ていた。
本来なら、障害物訓練をクリアした時点でも十分ストックは合ったので、教えてくれても良かったはずだが、その後すぐにフェルビナさんの回避訓練へとなだれ込んでしまったので、すっかり忘れてしまっていた。
「ウゥ~……分かったよ。ただ、約束してねトウマ! 絶対に不用意に使用しないって!」
随分と強くお願いされた。なんだろう……そんなにヤバい能力でも身に付けてしまったのだろうか? とにかく約束しないと話が進みそうにないので、約束する。
「分かった、約束する」
「ホントだよ? 絶対だからね!!」
真剣な顔で念を押すように言うので、しっかりとシオンの目を見て頷く。そして、ようやく覚悟を決めたのか、俺が身に付けた能力に関して説明を始めるシオン。
「じゃあ、説明するけど、トウマが身に付けた能力は三つ」
「三つ? 随分と少ないですね」
「エッ!? そうなんですか?」
「ええ……本来なら、五つか六つは憶えてもおかしくはないのですが……」
そう言って訝しげに少し首を傾げるフェルビナさん。そうなのか……もしかして才能ないのか、俺? と少し気分が落ち込む。それを見てシオンが言う。
「それには理由があるから、後で説明するよ」
シオンは、少し真面目な表情でそう告げる。なにやら理由があるようだ。シオンは宣言通り能力の話に戻る。
「じゃあ、能力の説明をするね。まず一つ目は『能力強化』」
「『能力強化』?」
「使徒がまず必ず身に付ける基本的な特殊能力ですね。言わば、基礎能力をより強化する力です。基礎能力は分かりますよね」
「ええ、確か六感に相当する感覚能力と、身体能力……あとは『防御結界』も含まれるんでしたっけ」
そこら辺の基礎知識は、使徒に成ったばかりの日にシオンがレクチャーしてくれたのを憶えている。
「その通りです。六感とは、視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、そして感知の六つです。身体能力は、腕力や脚力などの身体機能に関する能力。そして『防御結界』とは、オドを身体全体に纏って守護する能力ですね。それら基礎能力を底上げする力が『能力強化』です。因みに『防御結界』を『能力強化』した場合、守護の力が上がるだけではなく、状態異常を遮断するなど、様々な身体的異常を防ぐことも可能になります」
フェルビナさんが補足を交えて説明してくれる。なるほど……いわゆるバフ能力か。となると、基礎能力はパッシブ能力ってところだろう。
自身のゲーム脳の知識に紐づけて理解していく。……まてよ。じゃあ、オドによる強化とはどう違うんだ? 疑問が湧いてきたので質問する。
「オドの強化とは、また別物なんですか?」
「はい。オドによる強化は言わば、現身の強度を高める為の物です」
「現身の強度?」
「ええ、現身は人間の身体のようにリミッターが備わっていません。言わば現身の強度限界を超えた力をいつでも発揮出来るということです。しかし、そのままでは自滅してしまう為、オドで覆い、その部分の強度を高めて自滅を防いでいるんです。それがオドによる強化です」
「なるほど……そうだったんですか」
オドを使って現身の力そのものを強化していた訳じゃないのか。強化と説明されていたから勘違いしていた。要するに現身の強度を上げて、本来持つポテンシャルを引き出せる状態にしていただけだったという訳だ。
「いい? それがまず一つ目ね。二つ目はオドの『性質付与』」
「オドの『性質付与』?」
「それは良い能力を身に付けましたね」
「そうなんですか? どんな能力なんです?」
言葉の意味は分かるのだが、いまいちどんな能力なのか掴めない。
「オドに特定の性質を付与する能力です。オドを物質化させた物はそのままでは一定の硬度がある物質でしかありませんが、それに別の性質を付与させることが出来ます。例えば熱を発生する性質を持たせるとか、衝撃で爆発する性質を持たせるなど用途は様々で、他にも剛性を高めたり、弾性を持たせるなど応用力が高く、汎用性に優れた能力です」
なるほど……それはかなり便利な能力だな、オドの物質化はあくまで特定の形にオドを凝縮しているだけの物だ。特別な力はない。しかし、その能力を使えば特定の性質を持たせることが可能ということだ。しかも応用範囲も広い。中々面白そうだ。
「最後の三つめは……『物質置換』」
「え!?」
シオンが少し間を溜め、まるで意を決したように言った能力名に、いち早くフェルビナさんが驚いて反応する。
「ほ、本当ですか? シオン」
シオンは、コクンと頷く。置換? 普通に考えると文字の置換とかを思い浮かべるが、ここで言う置換は違うだろう……。もしかして――
「特定した物の位置を別の物と入れ替える、とかか?」
と、パッと思い付いたことを言ってみる。
「!? トウマ、分かるの?」
ちょっと驚いた様子のシオン。あるアニメの主人公のライバルが使う能力が浮かんだんで言ってみたんだが、どうやら当たりらしい。
「まあ、ちょっとな。確かに凄い能力だとは思うんだが、そんなに驚くほどなのか?」
そんな俺の質問に、フェルビナさんが真剣な表情で答えてくれる。
「使徒になったばかりの者が持つには、かなり過ぎた能力です」
そうなのか……シオンの創造とか、空間操作なんかを見ていると見劣りしそうなのだが……まあ、あくまで使徒が使うには、ということだろうか。
「なにか危険なんですか?」
「危険というか、オドの消費量がかなり高いんです。強力で稀な能力なのですが、燃費が悪い欠点があるんです」
「どれぐらいオドを使うんですか?」
「そうですね……使徒のオドのストック量で換算すると、およそ一ヶ月半分です」
「一ヶ月半!?」
それって完全に、今の俺が使って良いレベルの能力じゃないだろ!? 今の俺のストック量は一ヶ月分が限界だ。つまり、一回使っただけでストックを使い果たし、尚且つ存在維持量を半分も削ってしまう。
「正直、今の実力で実戦で使うにはリスクが高過ぎる能力です。せめて、今の三倍はストック出来るようになって初めて実戦で一回使えるレベルです。……なるほど、それで開花した能力が少なかったのですね」
「うん……多分、この『物質置換』の能力に開花したせいで、他が食いつぶされてしまったんだと思う」
「食いつぶされた……要するにリソースが足りなくなったってとこか?」
自身の知識に置き換えて発言すると、フェルビナさんが頷く。
「その認識で問題ありません。……しかし、シオンが教えたくなかった気持ちが分かりました。トウマ様にそれを使う機会を与えない為ですね」
フェルビナさんが少し困った表情で指摘すると、シオンは不安な表情でコクンと頷いた。
「トウマは優しいから、絶対にいざとなったら使うでしょ? この能力って、身代わりをするには最適な能力だから……」
なるほど、そう言われると絶対に使わないとは言えない……そんな力が使えると分かっていたら、いざという時に使う可能性は否定できないだろう。シオンは俺を見つめ、真剣な顔で再びお願いをする。
「トウマ、絶対に使っちゃダメだからね。約束だよ? 例えボクがいざという時になっても……」
「……それを言われると難しい……俺はお前の使徒だぞ?」
前言撤回となるが、その理由を聞いては簡単には頷けなくなってしまった。契約神であるシオンを守るのは使徒の役目だ。……いや、役目というだけではなくシオンを見殺しにするなんてことは、心情的に絶対に出来ない。
「それでもダメ!」
泣きそうな表情だが目に込められた力は強く、拒絶するシオン。困った……どう説得したものか。そう考えていると、フェルビナさんが助け船を出してくれる。
「シオン、無理を言っては駄目ですよ」
「無理なんかじゃないよ!」
「いいえ、無理です。そのいざという時に動けるからこそ、使徒の資格があると言えるんです。それが出来ない使徒など、私があなたの使徒として認めません」
フェルビナさんは厳しい表情で言い切った。流石、アースディア様の守護者筆頭だ……使徒としての使命を誰よりも全うしているからこそ出る言葉……重みが違う。
「そんなの関係ッ!?」
シオンが食い下がって反論しようとするが、それを遮るようにシオンの正面にしゃがみ、シオンの両肩に手を置いて視線を合わせ、フェルビナさんが言う。
「だから、シオン。そんないざということにならないよう、強い神になりなさい。いざという時に神を守れない使徒が失格ならば、そんないざという状態に陥り、使徒を犠牲にしてしまう神もまた失格です」
そう言われ、シオンの表情がグッと引き締まる。アースディア様のそばで神はどうあるべきかを見続け、そして使徒はどうあるべきかを自らの身で実践してきたフェルビナさんの言葉には、誰よりも説得力があると思う。それだけフェルビナさんの言葉には力があった。
「……分かった」
シオンは、真剣な表情で答えた。その言葉を聞いてフェルビナさんはいつものように微笑み、こちらに顔を向ける。
「トウマ様も、そんなシオンを守れる使徒になって下さいね。もちろん、自らを犠牲にすること無くです」
「はい」
俺もシオンと同じように気持ちを引き締めて返事をした。これからの訓練に、より一層真剣に取り組む気持ちを新たにし、シオンと二人顔を合わせて頷く。その時――
「(……かつての私のようには、ならないように……)」
ふと、フェルビナさんがなにかを呟いた気がしたので、フェルビナさんのほうを見ると、そこにはいつものフェルビナさんの優しい微笑みがあった。
……しかし、瞳の奥にどこかとても寂しい光を湛えていたような気がした。だが、その時の俺には、そこにどんな感情が秘められていたのかを、察することは出来なかった。




