第一章5 『神様と特殊能力』
特殊能力に関して、いよいよその訓練を行うことになった。まずやるべきことは、契約神と感覚を同調させ、特殊能力を使用する感覚を身に付ける必要があるとのこと。言ってみればオドの感知と同じだ。
オドの感知は、一度身に付けて以降は簡単にオン、オフが出来るようになっている。それと変わらず、特殊能力も一度使用する感覚を身に付ければ、使い方も自ずと分かるようになるとのこと。
よって今からその感覚を身に付ける為、草原に胡坐をかいて座り込んでいる俺の前にシオンは膝立ちの態勢となり、俺の両手を手に取ってレクチャーを開始しようとしていた。
「じゃあ、トウマ。これからボクが『能力強化』を使用するから、ボクの感覚と同調して能力使用時にどういう感覚を得るかを感じ取ってね」
「シオンも『能力強化』が使えるのか?」
「うん、フェルビナがさっき言っていたように、ほとんどの使徒が身に付ける能力だから、神であるボクも普通に使える能力だよ」
まあ、たしかに使徒にとってのデフォルト能力を契約神が使えないほうが違和感があるな、と納得する。
「あくまで感覚を感じ取るだけでいいから、使う能力はなんでも良いだけどね。じゃあ、始めるよ」
そう言ってシオンが目を閉じる。すると、オドの感知を教えて貰った時のように、シオンから感覚共有のパスを通して欲しいと頭の中に声が届く。俺は目を閉じ、それを承認してパスを通した。
すると、自分の全感覚が一気に拡張したような不思議な感覚が全身に広がり、思わず声を上げる。
「オワッ!?」
驚いて目を開くが、シオンは変わらず目を閉じたままだ。
「大丈夫、トウマ?」
シオンが目を閉じたまま、首を傾げて聞いてくる。
「あ、ああ……突然変な感覚が襲って来たんでびっくりしただけだ」
「ハハッ、確かに不思議な感覚だよね、これ」
シオンも同じように感じている為か、感想を口にする。なんとも形容しがたい感覚だ……全ての感覚が二重になったような、自分がもう一人いるような……言語化が難しい。
「じゃあ、トウマ。これから『能力強化』を使うから、ボクのマナの流れや感覚を感じ取ることに意識を集中して」
「分かった」
俺はシオンと同じように、再び目を閉じて自身の感覚へと意識を集中する。すると、頭の中で『(行くよ)』という声がした瞬間、シオンのマナの流れが急激に加速し、核へと収束して行くのを感じた。
そして、収束したマナが速く細くなって行き、最終的には一本の糸のような状態になって、核を中心に複雑な幾何学模様が描かれ始める。文様は違うが転送時に使用する魔法陣と似た感じだ。
そして、一つの魔法陣を描き終わるとそれが一気に拡大し、シオンの外側にまで拡張される。思わず目を開けるとシオンを中心に先ほど描かれていた魔法陣が展開されていた。
……なるほど、こういう理屈だったのかと、思わず納得する。シオンやアースディア様がいつも移動に利用していた魔法陣もこうやって展開していた訳だ。
すると、急にシオンと共有していた感覚が途切れる。そして、シオンが俺の両手から手を放し、目を開けて立ち上がった。
「どう、トウマ? 感覚は掴めた?」
「ああ、一応な。それでその後はどうするんだ?」
「後は簡単だよ、術式に起動するイメージで送って発動して、強化したい能力を意識すればオーケー」
そう言って実践してみせてくれる。なるほど、術式っていうのか……ずっと魔法陣って呼んでた。次からは改めよう。そう思っていると術式が光を放って消え、やがて右手にマナが収束し、右手の拳が光りに包まれる。
「これで完了。後は普通に強化した能力を行使するだけだよ。因みに使用をキャンセルする場合は、力を霧散させるイメージを送ればいいよ」
そう言って自身の右手を見ると、収束していた光が霧散して消える。
「なるほど……俺のイメージとしては核の中心にマナを糸状に収束して術式を描いて、それを展開させて特殊能力を発動させるって感じだったが、合ってるか?」
「うん、そのイメージで合ってるよ。ボクたちはこの行為を『術式を編む』って言ってる」
なるほど……確かにそんな感じだった。
「特殊能力を使う際は、それを必ずやらないとならない訳だ」
「そうだね。でも、必ずって言うのはちょっと語弊があるかも」
「ん? どういうことだ」
「ボクが創造の力を使ったり、物を空間操作で出している時に術式を展開してた?」
「あっ! そう言えばそうだったな」
言われて気付いた。確かにシオンがその手の能力を使う時、術式は展開していなかった。
「なんでだ?」
「覚えたてのトウマにはまだ難しいけど、術式は省略することも可能なんだよ。術式は言ってみれば特殊能力の設計図なんだ。そして、ベテランになれば設計図は頭の中にあるから、見ないでも作ることは可能でしょ? つまり、いちいち設計図を用意しなくても使用は可能になるんだ。ただし、かなりの回数を使用して、核に術式を刻み込む必要があるけどね」
「なるほど……俺が何度も作ったことがある料理を、レシピを見ずに作れるのと言ってみれば一緒か」
「その通り!」
「でも、そうなると転移をする時に術式を展開するのはなんでだ?」
「あれは、マナーみたいなものだよ」
「マナー?」
「術式を省略すると、僅かばかりでも発動に失敗する可能性があるんだ。転送は万が一の失敗も許されないから、省略しないでちゃんと術式を展開させることがマナーなんだよ」
失敗の可能性があるのか……。
「念のために聞くが、転送で失敗したらどうなるんだ?」
「どこか分からない次元に飛ばされちゃう可能性が高いね」
コワッ!? そりゃ術式を展開しないのは失礼な話だな、納得。
「さて、じゃあ早速実践してみようか」
「そう言うが、どうすればいいんだ? あんな幾何学模様を記憶して同じように描くなんて流石に無理なんだが……」
「最初はボクも手伝うよ。だから、トウマはさっき感じた感覚を思い出して、自身の核に同じようにオドを収束させてみて」
「……分かった」
シオンは再び、俺の前に膝立ちして俺の両手を取った。再び感覚を共有してお互いに目を瞑る。
『(トウマ、始めて)』
『(了解)』
シオンに言われるがまま、俺はオドを核へと収束させていく。
『(そう……そのまま収束させて、ドンドン流れを加速させて)』
シオンの言葉に導かれるように、オドの流れを加速させて行く。すると、速さに合わせてどんどんオドの流れが細くなっていき、最終的にはシオンがやったように糸のような流れになる。
『(やった! 出来たぞ、シオン)』
『(アッ!? トウマ、ダメ!)』
『(え……ッ!?)』
つい嬉しくて集中を逸らしてしまうと、糸のような流れが一気に乱れ、グジャッと糸が絡まったようになって流れが霧散してしまう。
『(トウマ、意識を逸らしちゃダメだよ!)』
『(す、すまん……つい……)』
『(もう一度、仕切り直し!)』
『(り、了解!)』
シオンに怒られ、気を取り直して再び集中してオドを収束させて行き、やがて糸のような流れの部分まで再度達する。その状態を維持していると、シオンの声が再び俺を導いてくれる。
『(トウマ、その状態を維持したまま、使いたい能力を思い浮かべて)』
シオンに言われた通りに、流れを一定に保ちつつ、使いたい能力『能力強化』を頭に思い浮かべる。すると、核が呼応してシオンが見せてくれたあの幾何学模様の術式が、どんな文様だったかも正確に覚えていないのに編まれていく。まるで既に知っているかのようだった。
『(その調子だよ、トウマ。核の意志に逆らわないで、今の状態を維持して)』
言われた通り、余計なことを考えずに導かれるままに状態を維持し続けると、術式は見事に紡がれた。
『(良いよ、展開して!)』
『(展開!)』
そう心の中で命令すると、描かれた術式が一気に広がった。ハッと目を開けると、自身を中心に先ほど頭の中で描いた術式が命令通り展開されていた。
「……出来たのか?」
「うん、上出来だよ! 後はどの能力を強化するか考えながら発動すればオーケーだよ」
「じゃあ……」
シオンに言われた通り、俺は頭の中で『右腕の腕力強化』と発動を念じてみると、術式が光を放ち、光が右腕を覆った。
「おお~♪」
ちょっと、というか凄い楽しい。まさに必殺技を身に付けて発動するヒーローの心境だ。思わず、あるアニメの必殺技の前口上が頭に浮かび、俺の心はかなりワクワクしていた。
「なあ、シオン! 試しても大丈夫か?」
「え? 別に良いけど……」
「では、遠慮なく」
そう言って俺は、興奮で恥も外聞も忘れてバッと光り輝く右腕を上に掲げる。そして、あの熱い魂の咆哮を叫んだ!
「俺のこの手が○って唸る、お前を倒せと○き叫ぶ!」
「ト、トウマ!?」
「ト、トウマ様!?」
突然、俺が妙に芝居がかった感じで、妙なことを口走り出したので、驚くシオンとフェルビナさん。だが、二人の声は既に俺には届いていなかった。
「必殺! ○ャァァァイニングゥーーー……」
そう叫びながら、右腕にありったけの力を込める。その時の俺はほぼ無意識だったのだが、後で聞くとかなりの量のオドが込められていたらしい。
「な!? い、いけません! トウマ様!!」
「ダメだよ、トウマ! そんなにオドを込めたりしたら!!」
そう止める二人の叫びは、興奮でイってしまっている俺の耳には届いておらず、オドをギンギンに込められた、まさに光り輝く右手を最後の台詞に合わせて足元の地面へと叩きつけた。
「○ィンガァァァーーーーー!!」
その瞬間、凄まじい破壊音と衝撃波が発生し、俺の意識はそこでプツリと途切れた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「全く! なにを考えてるのさ、トウマは!!」
腕を組んで俺の前に仁王立ちし、プリプリと怒るシオン。そして俺は、そんなシオンの前にボロボロに汚れた姿で正座させられていた。
「申し訳ありませんでした」
そう言って土下座して謝る俺……正直言って、情けない……。
あの後、俺は自らの繰り出した必殺技? で見事に自爆し、地面ごと吹き飛んだらしい。記憶が飛んでいて正直あまり覚えていないのだが、俺の前の少し離れた地面には大穴が開いており、自分がなにをやらかしたのかを見せつけられながら、シオンに説教されていた。
「さっき真面目に取り組もうって誓った矢先なのに……とにかく! 暫くは特殊能力の使用は禁止! いいね、トウマ!!」
「いや、それはちょっと……せっかく覚えたのにあれだけじゃ勿体……」
「勿体……なに?」
こちらの言葉を遮るようにギロリと睨みつけられる。
「なんでもありません」
そう言って再び頭を下げる俺……本当に情けない……。
「シオン、それぐらいにしておきなさい」
フェルビナさんが流石に見かねてか、助け舟を出してくれる。
「フェルビナは黙っててよ! これはボクとトウマの問題なんだから!」
「そうはいきません。私もトウマ様を教える者の一人です。今後の訓練課程を考えると、これ以上、特殊能力の訓練が遅れては今後に差し障ります。それはあなたも本意ではないでしょう?」
「それはそうだけど……」
渋るシオンに、フェルビナさんは妥協案を提案する。
「では、こうしましょう。特殊能力の術式訓練は引き続き行って、使用に関しては一ヶ月禁止としましょう。使わなければ、先ほどのような事故は起こらないでしょう?」
「ムゥ~……分かったよ」
そう言って、少し釈然としないような顔をしていたが、渋々納得するシオン。
「トウマ様も、先ほどのような安易な使用は厳禁ですからね。分かりましたか?」
「はい」
俺もフェルビナさんに釘を刺され、今後は不用意な使用はしないよう誓わされた。
「しかし……」
そう言って、俺が空けたであろう大穴を見るフェルビナさん。
「あの、どうかしましたか?」
「いえ……どうやらトウマ様は、特殊能力の使用に長けているかも知れませんね」
「え……そうなんですか? 確かに自分でも驚くほどの威力でしたけど……」
そう言って、俺も穴の方向を見る。確かに自分が空けた穴とは思えない大穴が開いている。自分でも、あそこまでの威力になるとは思ってもいなかった。しかし、フェルビナさんが指摘したのは威力だけを指してのことではなかった。
「威力もそうですが……トウマ様、右手は問題ないですか?」
「ええ、ちょっと擦り傷はありますけど、骨とかに異常はなさそうです」
そう言って、無事を示すように右腕を曲げたり延ばしたりして見せる。
「ということは、やはりインパクトブローが出来ていたということですね」
「インパクトブロー? なんです、それ」
「攻撃が対象に接触する時のみに威力を爆発させる技法です。そうすることによって返ってくる反動を打ち消し、威力自体も上げることが出来るんです。もしそれが出来ていなければ、腕が潰れてもおかしくない状況でした」
「イッ!? そうなんですか?」
「そうだよ! あんなにオドを込めた状態で『能力強化』を上乗せするなんて、危険極まりない行為だよ!」
そうシオンに強く指摘される。そんなにヤバい使い方をしていたのか……。
「トウマ様はオドを用いて、現身の強度限界ギリギリまで腕力を引き出して、『腕力強化』を使ったんです。言わば全力に対して更なる強化を施していた訳です。なのに、腕へのダメージはほぼ地面からの衝撃による擦り傷程度……ほぼ無意識だったんでしょうけど、インパクトの瞬間のみに力を発動させたということです。このインパクトブローはかなりの高等技術なんですよ。それも初めての使用で出来ていた」
おお……ということは、力の制御においては才能有り、ということなのか? フェルビナさんに褒められてちょっと嬉しくて、顔がにやけてしまう。すると、それを見ていたシオンがすかさず釘を刺す。
「だからといって、調子に乗ってまた無茶をしたらダメだからね!」
「……はい」
そんな二人の様子を見てフェルビナさんは苦笑して声を掛けてくる。
「ほら、その辺にしましょう。そんなことをいつまでもしていると、日が暮れてしまいますよ。まだトウマ様にはお教えしないとならないことはたくさんあるでしょう?」
「は~い……」
「分かりました」
フェルビナさんにそう指摘され、俺たちは気を取り直して特殊能力の訓練を再開し、残りの能力『性質付与』と『物質置換』に関する詳細な内容の把握や、二つの術式の訓練(もちろん使用はNG)も行った。
そして、今後の訓練へと組み込む相談をしてから、その日の訓練を終えたのだった。




