第二十三話 宿屋の少女
今日は暇なので一人で帝都を探索している。
みんなは修練の箱庭のマイハウスでお留守番だ。
エリーは貸してあげたマテリアルビジョンの予備機でアニメを見ている。
カナンはバトルフィールドでルミネアス様と武術の特訓。
ダクミルは商売人としての顔もあるので、遠くに買い付けに行っている。
なおみんなは修練の箱庭に登録しておいたので、俺と同様に扉を召還できる。
どうやらこのスキルは登録しておけば誰でもそこに行けるのだ。
これによりみんな好きに移動できるようになった。
なおルミネアス様は女神だけどかなり強いらしい。
木剣を持った疑似戦闘でもカナンを圧倒していた。
これで箱庭から出てこれたらどんたけ心強いか……
さながら歩くこと数分少しだけ寂れた区域に来た。
商業区の中でも端の方のほうだ。
そこで、見ると少女が歩いている。
なんで見てしまったのかわからないが。
なんとも小汚い恰好だったからか、それとも意外と見た目は可愛らしかったからか。
茶髪のショートヘアの給仕服のような格好だが、小汚い。
でも顔はいいが、生気が無い。
そんな少女が倒れたのだ。
まさかの行き倒れだ。
誰も周りにいる人は気にも留めない。
なんともつめたい。
俺はその少女に駆け寄り、介抱する。
少女は気分が悪いのかぐったりしている。
俺は素人なのでどういう容態なのかわからなかったが、ここで脳内ツール『診察』を起動する。
このツールは素人でもその生物の病気とか、怪我の状態とかが判別できる。
まああまりにも特殊な奇病とかじゃない代わりにはいけるはず。
俺はこの少女を診察した。
すると栄養失調と出た。
そういえばかなり肉体は痩せこけていて、栄養状態は芳しくない。
俺はすぐさま、エネルギーゼリーを食べさせる。
チュウブ入りの普通のエネルギーゼリーだ。
カロリーが高く全部飲めば600キロカロリーにはなる。
俺はそれを少女に飲ませた。
「ちゅーちゅーちゅー…………美味しいです」
少女はそう一言発すると、起き上がった。
「あなたは誰ですか。もしかして変態さんですか」
「違う。お前が行き倒れていたから助けてあげたんだろ」
「そうでした。私はこの近くの宿屋『星くず亭』の看板娘のテルです」
「ちなみにいくつだ?」
「14歳です。ちょっとばかり普通の成長期の女の子より小さいと思います」
そう言うと自分の胸を見て、落胆するテル。
落胆するなら見なきゃいいのに。
「14歳には見えないな、11、12歳くらいだな」
「気にしていることをバンバン言う人ですね。やっぱり変態さんですね」
「だから違うと言っているだろ……それでどうして生き倒れていたんだ?」
「それは……」
テルちゃんは話し出した。
最近宿屋の経営が悪化しているということとお母さんが病気で私が代わりに宿屋をきりもみしていることだ。
お父さんは冒険者らしく一カ月に一回は帰ってきたのだが、最近ここ3カ月の間帰ってこないらしい。
帰ってきたときにはいくらかのお金を持ち帰ってきたり、魔物の肉を持って帰ってきたりと、良い父親なのだが……
「でも、一度熱を持っちゃうととことん最後まで頑張って頑張って頑張りまくるお父さんなんです。しかもお父さんは冒険者でありながら、トレジャーハンターでもあり、迷宮に潜って、お宝を探す日々です。伝説のお宝を探すために俺は生涯を賭けると言ってました」
「いい父親じゃないか」
「それよりもお母さんです。お母さんが熱を出して寝込んでいるのに帰ってこないんですよ。一応お父さんがいるはずの街に手紙を送ったのですが、返事はまだないです」
「それよりお母さんが熱を出して寝込んでいるんだって? 見せてくれないか」
「はい、こちらです」
そう言って少し歩くと宿屋『星くず亭』が見えた。
外観は意外としっかりしているが、建物は古い。
歴史や風土を感じると言っても良いが、俺が始めてこの惑星に降り立って、泊った宿屋よりなんというか言い方が悪いがぼろい。
中に入ると、客はいないようだ。
一階は食堂と受付が隣接している。
部屋は二階と三階にある。
家族が住むスペースに入り、お母さんが寝ているベッドに行く。
俺は直ぐに診察ツールを使用して、診察する。
するとどうやらインフルエンザだということがわかった。
インフルエンザ……太古の昔に駆逐された病気だったが、俺の星では。
この世界だとそもそも病院と言うものはなく、医者と言う職業すらないと言う。
その代りに薬師ギルドや治療師ギルドはある。
薬師や治療師とかに高額の薬代や治療代を払い、薬や治療魔法で直してもらうのが、常識らしい。
治療魔法は特殊な魔法で、治療師しか使えない。
治療師になるには、治療師ギルドに入り、まず見習い治療師にならないといけない。
そして何年も修行して、治療魔法を会得するらしいとか。
ただの体力を回復する魔法は光魔法に属しているが、治療魔法は意外と特殊なんだとか。
怪我を直す魔法は人体の仕組みを理解してないと使えないらしいし、病気を治す魔法は特に特殊な魔法で特にこうゆう流行り病をする人は後を絶たないらしい。
でもそんな病気や怪我をする人は後を絶たないので、薬師や治療師はそんな貴族や平民たちから足元見るかのような高額の治療代をふっかけてくる。
テルちゃんも治療師ギルドに行き、お母さんが三日三晩高熱を出しているから、助けて欲しいと懇願したと言う。
だが、治療師ギルドの治療師は不敵な笑みで、舐めるような視線でテルちゃんを見てこう言った。
「じゃあこの額で治療魔法をかけてあげよう」
治療師の提示した金額はあまりにも暴利だった。
もちろんそんな額はテルちゃんの母親や父親の貯金だけでは払えるような額ではなかった。
テルちゃんはそんなに持ってませんと言った。
すると治療師は解決策として、別の案を提示した。
「それじゃあ、君が私の奴隷となるなら治療代は無料でいいよ。良く考えないと流行り病でお母さんは死んじゃうかもしれないけどね……」
その時の治療師の眼はとても気持ち悪いものだったとテルちゃんは言う。
俺はとてつもなく、胸糞悪い気持ちになった。
その治療師ギルドの治療師だって? そんな奴らがみんなの命を握っているだと? そんなどうしようもない不合理な現実を俺はとてもじゃないが我慢ならなかった。
しかし今はテルちゃんのお母さんである。
インフルエンザとわかれば、対処は簡単だ、俺の常備薬を与えればすぐ直る。
だが、俺はここで試したいことがあった。
治療魔法である。
それを俺に使用できないか考えてみた。
魔法はイメージである。
エリーにも聞いた、エルフは魔法適性が高く、イメージ力も高いので、魔法を覚えるのが早い。
ハーフエルフだからと言って別に魔法に関することが半分になるわけでもないとか。
そして魔法はイメージだ。
イメージを持って、それを魔力を用いて、現実に体現化するのが魔法だ。
俺は地球と言う科学の世界で生まれ育ったから病気を治すメカニズムも理解している。
そしてそれに自分の解釈で、魔法を使用してみる。
とりあえずまずはイメージからだ……お母さんの肺の当たりに両手をかざして……体中にある悪いウイルスを殺すイメージを持ってみた、そして体中から悪いウイルスを全て消し去った。
そして俺は呪文を唱える。
「体の中の悪しき物よ、消えてなくなれ……キュア」
テルのお母さんの体が淡く輝く、そしてしんどそうな寝顔だったのが、かなり楽な表情になった。
後は栄養を与えればいいが、もう一つ試したい魔法がある。
回復魔法だ。
もちろんこれも体力を全快するイメージで元気ハツラツな感じだ。
「この者に活力を今再び与えたまえ……ヒール」
またもテルちゃんのお母さんの体が光る。
そしてお母さんが目を覚ます。
「なんだが凄く調子がいいの元気いっぱいだわ。もしかしてあなたが直してくれたんですか?」
「お母さん!」
「あらあらテル、どうしたの? お母さんは元気ですよ」
顔色はすっかり戻った。
「よかったですね」
「お兄さんお礼がしたいです。何でも言ってください」
なんでもだと……!? それならって俺は別にそんな酷いお願はしないからな。
「それじゃあこの食材で何か美味い飯でも作ってくれないか」
「いやそれじゃあお礼にならないですよ」
「わかりました腕によりをかけて作りましょう」
「もう仕方ないな私も手伝うよ」
「よし、俺も手伝うか」
「って本当にそれじゃあ意味ないじゃないですか」
「病み上がりの元病人に無理はさせられないからな。むしろ俺が全部作っても良いぐらいだ」
「どうしてそんなにしてくれるのあなたは」
「さあな? 助けたい人がいたから俺は助けたまでだ理由なんてない」
そして俺達で美味しい料理を作り、みんなで食べた。
テルちゃんもお母さんも女の子とは思えないほどの食べっぷりだった。
今気づいたが、お母さんはかなり若い、見た目は25歳ぐらいに見えるがテルちゃんが14歳なのでそれはないか。
年齢を聞くと、29歳だとか。
15歳で生んだのかよ。
それはまあいいがこの世界の人たちは何歳から結婚するんだったかな。
聞くと、13歳から出来ると言う。
いくらなんでも早いすぎだろうと思った。
まあそれよりもテルちゃんとお母さんが元気になってよかった。




