前途多難な借金生活
リアナから突きつけられた法外な金額を前に、エルマの頭は必死に解決策を模索していた。
だがそこで、フェルスがゴーレムの遺骸から輝く白い石を回収していたことを思い出した。
あれが高く売れるかもしれない。
「フェルス、あの、防壁の外にあった白い石、出せる?」
エルマは敢えてゴーレムから取り出した石とは言わなかった。
言ったら更に問題が起きそうだったからだ。
フェルスは例の収納魔法を発動しようと手を掲げる。
エルマはまずいと咄嗟に反応する。
うっかりしていた。
あのでたらめな魔法を無闇にリアナに見せるべきではないーー
しかしフェルスは魔法を発動させず、不思議そうに自分の服のあちこちをペタペタと触りながら、落胆したような声で言った。
「無くなっちゃった。どうしてだろ」
エルマは助かったような、助からなかったようなどっちつかずの気持ちでフェルスを見つめた。
フェルスは悲しそうな顔をしている。
リアナは二人のやりとりを聞き、口を開いた。
「現金及び現物は無いと言うことでよろしいですね?」
エルマの手持ちに60レグルは無かった。
「はい」
エルマは丁寧に返答しつつも心の中は動揺していた。
なんて理不尽なのだろう。
ただの事故なのに、まるで最初から自分たちを底辺に落とすことが決まっていたかのようだ。
ギリッと奥歯を噛み締めた。
今やフェルスとエルマは完全に運命共同体だ。
それを受け入れ、エルマは決心するかのように深呼吸する。
「では、天引きにさせていただきます。本日より壁の修復の仕事をお願いします。もう一人、壁の修復を任されている方がいるので、その方と協力して仕事を行ってください。仕事が二週間以内に終わらない場合はそれまでに報告をお願いします。また、エルマ様の討伐クエストについても今ここで処理しますので、もし討伐がお済みでしたら討伐個体の一部をご提出ください」
エルマのクエストの処理をし、その他色々と壁修復の仕事の説明を終わらせると、リアナはフェルスとエルマを部屋から退出するように促した。
「はぁ」
エルマは部屋を出ると思わずため息をつく。
ゴーレムの破壊は事故なのに、なんでこんな扱いを受けるのだろう。
「壁、早く直せたらいいな」
フェルスがこう言うのを見ると、その無邪気さにエルマは複雑な気分になっていた。
Gランクの重みをフェルスは知らない。
どうにかして状況を改善できないかと、エルマは考えを巡らせた。
そしてギルドを出るために扉に手をかける。
その時だった。
「すみません、落としましたよ」
清掃員の服を着た老人がフェルスの方に何やら紙切れを差し出す。
それはフェルスのGランクの証であった。
「ああ、ありがとう、ございます」
フェルスは老人の方を向いて微笑み、礼を言った。
フェルスは老人に対して、何か言葉で言い表せない温かさを感じた。
「見えてしまったがね、Gランクとは。前途多難じゃが、わしはここで応援していますぞ」
老人はそう言いながらも、なぜかひどく戸惑っているように見えた。
証を手渡す指先は微かに震えており、フェルスを見つめるその瞳には、まるで長年探し求めていた孫を見つけたかのような、なんだかよく分からない、深く複雑な感情が入り混じっているように見えた。
「そうなん、ですよ。Cランクだと思ったのに。でもありがとうございます、おじいちゃん」
「ありがとうございます。ほらフェルス、行くわよ」
フェルスが老人にお礼を言うと、エルマも警戒感を持ちながらも続けて礼を言った。
老人は二人に別れを告げた。
ギルドを出て、元来た道に戻る。
フェルスは壁の修理に向けて張り切っていた。
それに、嬉しそうな表情を浮かべていた。
「さっきのおじいちゃん、いい人だったな」
「そうね、普通Gランクとバレると嫌な顔をされるけど、そんなこと少しも無かったわ
エルマは先ほどの老人を思い出す。
いい人もいるものだ。
特に先ほどまでの淡白なリアナと比べると人間味があるように感じられ、心が温まるのを感じた。
二人でほっこりとしていると、壊れた壁までたどり着いた。
それはエルマにとって想像以上にひどいありさまであった。
「これは60レグル取られても仕方ないわね」
エルマはため息をつく。
そして二人は作業をするために壁の穴に近づいた。
「これを直せばいいんだな」
「そうよ。ギルドで言われた通りにやればいいの。あれがブロックで、これが接着剤ね。ゴーレムの残骸のブロックも取ってこないといけないわ。それで、もう作業してる人と協力しろって言ってたけど」
エルマがそう言ったのと同じタイミングだった。
壁の穴の中から気配がしたのを二人は察知する。
ガサゴソ、ボコン、やかましい音を立てて穴から落ちてきたのは、一人の中年男性だった。
髪の毛がくるくるしており、身につけた白衣はくたびれている。
「やあ、諸君。君たちが壁に穴を開けた犯人か。お陰でこの私の貴重な計算時間が、修復作業なぞに割かれることになってしまったぞ」
男は咳払いを一つして白衣の埃を払うと、わざとらしく体勢を立て直してフェルスとエルマに向かって話しかけた。
そして、こう続けたのである。
「いかにも、私こそがゼノ。世界の理を極めし天才にして超越者のゼノ・ベクターである」




