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岩と竜

 その岩は岩と言い切ることはできないし、生命と言い切ることも難しかった。

 生命と岩とが互いに混じり合ったような様相をしている。


 だが、3人が部屋の中に入ってきてから少し経つと、だんだん岩の拍動が早くなってきた。


「どうしてだ。いままでこんな拍動は見たことがない」


 ゼノは研究対象を見た興奮で岩に触れる。


 どうやらこの拍動は異常らしいとエルマは察知する。


「ゼノ、ここ出ましょ。不気味だし拍動が早くなっているのも気持ちが悪いわ。なんでこんなもの地下に隠してるのよ!」


「よくぞ聞いてくれた!もともとこの岩が目当てでこの地をこの深さまで掘削、いや、爆破し、我が物とするために住居を上に建てたのだ。こうすれば誰にも邪魔されまい。おそらくとても貴重な鉱物が中に隠されていると予想する!」


 ゼノが呑気にそう説明する間も拍動は高まる。


「鉱物は置いてとりあえず逃げましょ、なにかおかしいわ」


「いや、それは惜しい。鉱物についてもそうだが、この現象をおいておくのも惜しい。何が起こるかわからない状況で引き上げるわけにはいかないだろう?もしこれが爆発すれば家に深刻なダメージが加わる。今なら師匠もいるし、何とか事態を抑えられるはずだ」


「言い分は分かるけど、命に関わるかもしれないわ。それくらい不気味よ。何より私たちの命の方が大事でしょ?今すぐ逃げるわよ!」


「うーむ、確かにそれはそうだな。いくらこの現象が気になると言っても人の命には変えられないものな」


 ゼノがそう言った瞬間、岩の拍動は頂点に達し、何かがグシャっと潰れる音がした。岩から青い粘ついた液体が染み出ている。


「うわあ、触っちゃったよ」


 フェルスは手についた粘液を服で擦り取ると、改めて岩の方を観察する。その岩にはヒビが入り、今にも裂けてしまいそうだった。


「おお、なにか起きる!」


 ボロボロと岩は崩れ落ち、内側から柔らかい肉の塊が出てくる。


「これは、竜…?」


 エルマは絶句する。


 小さな竜の形をした脈打つ肉が、その翼を広げる。

 その表面は、ゴツゴツした岩のような鱗で覆われていた。

 次の瞬間、竜は耳をつんざく鳴き声を発し、フェルス目掛けて突進した。


「ここは私に任せろ!小型爆弾」


 ゼノは威勢よくフェルスの前に飛び出し、爆弾を投げつける。

 ボカンと音がし、竜は吹き飛ばされた。


 なかなかの威力だ、とエルマは思った。

 威力だけなら中級魔法にも匹敵する。


「むう、爆弾では効果的に粒子濃度を削れん。土魔法で装甲の薄い翼から削るのが一番良い。全体の耐性950!翼の耐性430!」


「ゼノ、解体魔法を翼に当てれば一発なんじゃないか?翼の耐性430は解体魔法の630より低いでしょ?」


 フェルスはゼノに疑問をぶつける。


「翼の耐性430は翼が切り離された場合の、翼単体の数値である。全体としては950!かなり耐性が高いぞ」


「じゃあ翼を切り離せばいいのね」


 エルマはゴーレムを倒した時のことを思い出す。

 同じ戦法でいけば今回も勝てるかもしれない。


「いや、必ずしもそうとは限らん。あの翼の根を見よ。頑強な筋肉で覆われている。あれを切り離すのは容易ではない」


 竜はその小振りな尾をフェルスめがけて振り下ろしている。

 フェルスは慌てて避ける。


「じゃあどうすればいいの?とにかく魔法をぶつけてみる?」


 エルマは火力に頼った戦闘が得意だったので、腕をまくりながら杖に力を込めた。


「いや、もっと効率的に事は進められる。あ、危ない!」


 フェルスに向かって竜は噛みつこうとしていた。

 ゼノはすかさず小さな爆弾で竜を吹き飛ばす。


「効率的?その爆弾、もっと大きいのあるでしょ。それで爆破するのはどうなの?」


「そんなことをしたらこの空間そのものが吹き飛んでしまう。この一辺が木っ端微塵だ。ああ、借金が増える……」


 エルマはそんな危険な兵器を一人で開発したゼノの力に驚きを隠せなかった。

 ゼノは竜がフェルスに辿り着きそうになると爆弾を投げる。

 竜の引き付けはフェルスに任せるとして、エルマとゼノは作戦を練っていた。


「この竜倒しちゃって良いんだよね?貴重な素材が手に入るって言ってたけどあれはどうなってるの?」


 フェルスは息を切らしながらゼノに尋ねる。

 先ほどから竜はフェルスにしか興味がないようだ。


 なぜだろうかと疑問に思いながらゼノはフェルスに向かって叫ぶ。


「いいぞ。というか、頼む。できるだけ竜の力を削いでくれ。で、最後は解体魔法でとどめを刺してくれないか?そうすれば竜の中にある鉱石が手に入るかもしれない。耐性が630を下回ったら師匠に伝える」


「わかった!料理魔法:蒸し焼き!」


 竜は高温の蒸気で包まれ、部屋も蒸し暑くなる。


 汗が湧き出てくるのを感じながら、エルマがゼノの方を向く。


「で、私たちにできる効率的な方法って何なの?」


「対象物の耐性を直接いじる!ことは実験に失敗してまだできないが……」


 ゼノはもったいぶったように話す。

 そして竜に爆弾を投げながら話を続けた。


「粒子の結合の甘い点を突く事ならできる!壁の破片を壊した時と同様にやれば良いのだ!」


「分かったわ!どこを狙えばいい?」


「翼の中心だ!土魔法の矢で貫け」


「私は土の上級魔法は使えないわよ。火の魔法の専門なんだから」


「そうか、そしたら火のレーザーで右目を狙え。あれは全身の装甲の供給点になっている上、火の粒子運動に弱い」


 相変わらずフェルスは竜に追いかけられている。

 蒸気は勢いを弱め、フェルスは次の魔法を準備した。


「料理魔法:三枚おろし」


 竜の表面に三つ傷がつけられ、肉が大きく抉られる。


「耐性810!良い調子だ。師匠、一旦交代だ。引き付けてくれて助かった」


 フェルスはエルマとゼノの後ろに隠れ、少し息を整える。


 そして、エルマは杖を、ゼノは爆弾を構えて竜に向き合った。


 しかし、竜はエルマとゼノを飛び越えてフェルスに飛びかかった。

 フェルスは完全に油断していた。

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