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魔族を殲滅せよ

 爆弾を投げるにも、竜とフェルスの距離はもう近くて危険だ。

 エルマは咄嗟の判断で、中級魔法を発動した。


「熱の波よ、万物を押し流し焼き付くせ――『ファイア・ウェーブ』」


 ボボボボという音とともに、炎の波が竜の体を押し返す。

 竜は小さな体で耐え、爪を床に立てたが、我慢できずに後ずさった。


 フェルスはすかさず叫ぶ。


「調理魔法:鱗落とし」


 竜の表面から岩のカケラがボロボロと落ち、肉の表面があらわになる。


「師匠、よくやった。今の攻撃で竜の表面がかなり削れた。耐性750!」


 フェルスはゼノの言葉に確かな手応えを感じ、もう一度鱗落としを放った。

 しかし、それ以上竜の表面は削ぎ落とせなかった。


「やはり火属性魔法で竜の目を狙うか土属性魔法で翼を狙うしかないな」


 ゼノは呟く。


「わかったわ。今から上級魔法を発動するけど、危ないから二人ともこっちに来て」


「了解だ」


「おう」


 エルマはフェルスとゼノを自分の近くへ誘導する。

 そして、慣れない土魔法を発動させた。


「積み重なる地層よ、私を深く地の底まで隠せ――『ストゥレイタム・ウォール』」


 三人を囲むようにして土の壁を作り、エルマはゼノとフェルスの体を守る。

 エルマはさらに二つ、魔法を発動させた。


「熱線よ収束しろ。一本の光明となりて影を貫け――『ブレイジング・レーザー』」


「融合して発散せよ。命の芽吹きを――『サンシャイン・オーダー』」


 エルマは一つ目の魔法で壁に穴を開け杖を出し、二つ目の魔法で竜の全身を攻撃した。

 熱の光線が放射状に杖から放たれ、竜の体を焦がす。


 目をピンポイントで攻撃するのは難しいから、全身を熱の放射で射抜いたのだ。

 この小さな逃げ場の無い部屋では強力な魔法だった。


 フェルスとゼノは音と熱以外何も情報が届かないながらも、その魔法の威力の凄まじさに感動していた。


「やったぞ!眼を潰したみたいだ。全身の装甲のエネルギー供給源が断たれた。今だ!耐性580!」


 土の壁の穴を覗き込んだゼノが竜を観測すると、嬉しそうに叫んだ。


 フェルスはすかさず魔法を発動した。


「解体魔法」


 土壁は崩れ、土の塊となった。


「解体魔法」


 フェルスはさらに魔法を連発する。


 そして、今までの戦闘の激しさと比べてあまりにもあっけない終わりが来た。

 音もなく竜は肉と岩の塊に変わり果てていた。


「ふう、やったな」


 ゼノは額に浮かぶ汗を拭き、安堵のため息を漏らした。


 フェルスは収納魔法からスライムを引っ張り出して一緒に喜んでいる。


 エルマは改めて竜の残骸を見渡した。

 なぜこの竜はフェルスにばかり襲いかかってきたのか。


 ゴーレムの時と状況は似ていた。

 ゴーレムの言っていた「混沌の結び目」にも何か関係があるのだろうか。


 ゼノは竜の残骸を調べ、散らばっている岩の欠片を一つ一つ点検していった。

 この岩が、いや、竜が何だったのか、調べなければならないと好奇心に駆られていた。


「わ!また綺麗な石だ。キラキラしてるよ」


 フェルスが残骸の中に残っている宝石のようなものに気が付く。


「師匠、よくぞ見つけてくれた。これこそが私が高値で売れると見積もっている貴重な石だ。極端に魔力が圧縮されている。ダイヤモンドと比べても遜色ない値段で売れるだろうな」


 ゼノは石の美しさ、いや、石を構成する粒子結晶の美しさに惚れ惚れとしている。


 フェルスはこの綺麗な石を手にとってゼノに渡そうとした。

 その時だった――

 白く発光するスライムが勢いよく石に向かって飛び込んだ。


「ちょっと、スライム、だめだよ」


 フェルスの制止も聞かず、スライムは石に夢中だ。

 すると、突然スライムの表面が硬い鱗に覆われた。


「なんで、食べちゃったの?」


 エルマが素っ頓狂な声をあげる。


「ああ、私の200レグルが......借金返済のチャンスが!」


 普段ならスライムの変化に飛びつきそうなゼノも、この時ばかりは悲鳴をあげる。


 スライムはそんな二人の様子など一切気にせず、悠々と振る舞っている。


「流石は俺のペットだな。でももう食べちゃだめだよ」


 フェルスが優しくスライムを叱ると、スライムは一瞬しゅんとなる。

 だが、またすぐにフェルスの手に飛び込み、跳ねた。


「うう......200レグル。まあ、仕方ないと思わなければな。スライムの進化?という新たな研究テーマも見つかったことだし。それより、この竜は一体なんだったのだろう」


 ゼノは悔しそうだったが、無理矢理気を取り直した。


「そうね、この竜何だったのかしら」


 エルマは飛び散った岩の欠片を踏まないように、念入りに調べる。


「あ、岩の内側、卵みたいな素材でできてるかもしれないわ、ちょっとこっち来て」


 エルマはゼノを呼び、岩の内側の質感を確かめるように促した。


 フェルスはというと、スライムと戯れることに夢中で岩の方には注意を払っていない。


「どれどれ、ふむ。柔らかすぎず硬すぎず。確かに卵の殻のような素材だ。まあ、無理もない。竜が産まれて来たのだからな」


 ゼノは青い粘液で光る殻を取り上げると、じっと観察した。


「おや、何か書かれているぞ。最近ちょっと老眼気味でな。メガネは部屋に置いてきてしまったし......エルマ、これを読んでくれはしまいか?」


 エルマはゼノから殻の破片を受け取る。

 目を通すと、そこにはこう書かれていた。


「命令:魔族を殲滅せよ」


 エルマが読みあげると、二人は顔を見合わせた。


 二人の共通認識として、魔族とはかつて強大な力を持ち人類を滅ぼそうとした存在のことであった。

 現在は姿を消し、誰もその姿を見たものはいない。

 だが、魔族は魔物を生み出し、人類を苦しめている存在として忌避されている。


「この文章が書いてある部分は粒子の密度が高いな」


「そうなのね。つまり、どういう意味なのかしら」


「分からぬ。だがこの竜が、滅んだとされる魔族に関係が深いことは分かるな。これは時間をかけて解析するべきかもしれない。この部分を持ち帰ろう。もしかしたらスライムに食べられたあの貴重な石よりも価値のある発見かもしれないぞ!」


 ゼノは明らかに先ほどまでより上機嫌だ。


 エルマはそんな単純なゼノのことを微笑ましいと思った。


 だが、竜がフェルスのみを襲ったこと、魔族を殲滅せよという殻の内側の言葉、それに、ゴーレムが放った『混沌の結び目』という言葉を結びつけて、複雑な気持ちになっていた。

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