実験
「......ふむふむ、このペンダントが原因で懐いているのか」
「俺はペンダント無しでも魔物は寄ってくるけどね」
フェルスはゼノの首にペンダントをかけながらスライムを差し出していた。
スライムは昨日までのゼノへの敵対した態度を一変させ、ゼノの周りで嬉しそうに跳ねている。
「あら、ゼノにもペンダントをあげたのね。おはよう」
エルマはまだ若干寝ぼけていたが、会話の内容は聞き漏らさなかった。
そして、ペンダントが原因でスライムが懐いてくるんだと納得した。
どういう原理なのだろうか。
なぜあの粒子の存在しないペンダントで魔物が懐くのだろう。
「ゼノももう仲間だね」
フェルスは元気そうだ。
フェルスもゼノも今まで孤独感を感じていたから、仲間ができて嬉しそうだった。
エルマはそんな二人を微笑ましく眺めている。
エルマはゼノのことを超越者として認めたわけでは無かったが、今や親近感を感じるようになっていた。
「さて、朝ごはんを食べたら師匠のデータをとるぞ」
「おう」
朝ごはんがキッチンから運ばれてきた。
なんの変哲もないサンドイッチだった。
ゼノは朝早起きしてこれを作ったのだろうか。
エルマは寝坊したが、片付けはしっかりと手伝おうと思った。
食事中、エルマもゼノもソワソワしていた。
ゼノの目を通してついにフェルスの能力が明らかになるかもしれないと二人は思っていた。
もちろん、そう簡単には事は進まないだろう。
だが、何かしら分かることはあるのではないか。
「さて、実験室に行くか」
食事が済むと、ゼノは待ってましたと言わんばかりにフェルスにこう告げる。
そして、二人を三階の隅の部屋に案内した。
実験室の部屋は壁一面の本棚に本が詰まっている。
その一部は綺麗に管理され、他の一部は焼け焦げていた。
爆発のせいだろうとエルマは思った。
アカデミーで使った教科書や、その他様々な有名な学術書が並べられていた。
「すごい本だ。全部読んだの?」
「大体は読んだな。爆発のせいで傷ついてしまうから、そのうち本棚のスペースと実験のスペースは別の部屋にしようと思っているところだ」
ゼノは本棚に並べられた本を愛おしそうに眺め、撫でる。
その様子はまるでペットを撫でる飼い主のようだった。
「さて、始めようか。師匠の一番得意な魔法は何だ?」
うーんと悩んだ後、フェルスは答えた。
「解体魔法かな。お肉やキラキラした石が取れるから便利なんだよな」
「そうか。ではそれをここに打ち込んでみてくれ」
ゼノはギルドで出されたものよりも大きな水晶を床から机の上に置いた。
「わかった。解体魔法」
次の瞬間、水晶は透明な結晶の塊に分解されてしまった。
「ううむ、精密魔導水晶でも測定できないか。まあ、まだ予想通りだ」
そして、何やらぶつぶつ呟きはじめた。
「フェルスをゼロとして基準点に置く。そして、魔法の対象物の粒子結晶濃度を上げ続けて解体魔法の効果を測れば、解体魔法の強度が測れるか。エルマ、ゴーレムには最初、解体魔法が効かなかったのだな」
唐突に質問されたエルマは驚いたが、しっかりと返答する。
「ええ、そうよ。小さい塊にして初めて効いたわ」
「もしかするとそれはフェルスの魔法に対する抵抗性を削いだからかもしれぬ。今からその抵抗性がどれだけ下がれば解体魔法が効くか、測定するぞ」
そして、ゼノは懐からキラキラ輝く石を取り出す。
「まずは粒子密度、つまり耐性が1000のこのプラチナに解体魔法を当ててみてくれ」
エルマは即座にプラチナに反応する。
「そんな高価なものがあったら120レグルの借金もすぐ返せるじゃない!」
「いや、これはどこぞやで入手した偽物だ。本物のプラチナの百分の一の価値もない石ころに過ぎぬ。硬さは十分だがな」
ゼノはなぜか自慢気だった。
「さあ師匠、解体魔法を頼む!」
「解体魔法」
次の瞬間、キーンという甲高い音と紫色の光を放ち、解体魔法は弾かれる。
「この光は......解析すれば一発で計測できるかもしれん!もう一度この石に解体魔法を頼む」
「分かった!解体魔法」
またしてもキーンという音が響く。ゼノは耳をそばだてる。
「反射した音の大きさが耐性370分の密度を持っていた。つまり、プラチナの耐性1000から370引いて、630が師匠の解体魔法の強さだな。試しにこの石ころに解体魔法を当ててみてくれ。これは耐性600のかなり硬い石ころだ」
ゼノは暗い灰色の石を取り出した。
「解体魔法!」
エルマが目を開くと、灰色の石は黒いキラキラした塊に姿を変えていた。
「どうやら成功したみたいだ。私の計算に間違いはないはずだ!」
ゼノは腕を組んで胸を張る。
エルマは若干困惑した。
耐性、初めて聞く用語だ。
だが、その概念の意味するところは推測できた。
フェルスの解体魔法の効きにくさが耐性で、ゴーレムは最初はおそらく耐性が630以上あったのだろう。
それが手足胴体を分離されて630以下に下がった。
そう考えればいい。
フェルスもフェルスでなんとなく耐性の概念を理解していた。
要するに耐性をフェルスの解体魔法が上回ればいいのだ。
「そう考えると地下にある耐性550の結晶、あれも純化できるかもしれんぞ!こうしてはいられない。みんな、急いで地下まで着いて来てくれ」
ゼノは詳しい説明を全くせずに、フェルスとエルマを地下へ誘った。
「地下?何があるのよ」
エルマは不思議がったが、ゼノはあまりの興奮のあまり、聞く耳を持たなかった。
「これで借金をチャラにできるかもしれない、いや、きっとチャラにできる」
ゼノはそう呟きながら階段を降りていく。
フェルスとエルマは地下室の存在を知らなかった。
それで、秘密の部屋に侵入できる気分になり、ワクワクする。
地下室に入る。
かなり広かった。
生ぬるく、全身を這ってのぼってくるような、気持ちの悪い湿気に包まれる。
その異様な雰囲気に触れると、フェルスもエルマも不安になってきた。
嫌な予感がすると、エルマは思った。
部屋の中心には立方体の薄気味悪い、拍動する巨岩が置いてある。
「これが耐性550の岩だ。貴重な素材で間違いない。爆弾で壊して取ろうかと思っていたが、素材を破壊してしまうかと恐れていたのだ。これを解体魔法で解体してはくれまいか。しかしなぜ拍動しているのだろう。おかしいな」
ドクン、ドクンと、岩は脈打っていた。




