第9場 オデットの苦悩
三日目の宴の夜――。
窓の外では、白き満月が湖を幻想的に照らし出していた。
オデットは静かに扉へ手をかける。
今宵は必ずジークフリートの待つ城へ向かわねばならない。
扉を開こうとした、その時。
「どこへ行くのだ、オデットよ」
低い声が響いた。
突然現れたロットバルトに、オデットは息を呑む。
「お城へ行かせてください!」
オデットは真っ直ぐロットバルトを見つめた。
「あの方が、私に真実の愛を誓ってくださるのです。どうか……!」
ロットバルトは冷たく笑う。
「お前に自由などありはしない」
黒い外套が揺れる。
「試してみるか?」「この城を出たとたんお前は醜い白鳥となる。どこの誰が、白鳥に愛を誓うと言う?」
それでもオデットは怯まなかった。
「月夜の間は、人の姿に戻れるではありませんか!」
満月を見上げながら叫ぶ。
「今宵は白き満月。月の力が最も強い夜のはずです!」
その言葉に、 ロットバルトは嘲るように笑った。
「愚かな」
鋭い瞳がオデットを見下ろす。
「人へ戻すか、白鳥のままか――」
ロットバルトは両手を広げる。
「すべては、この偉大なる魔術師ロットバルトの意のままなのだ」
希望を打ち砕かれ、 オデットはその場へ崩れ落ちた。
ロットバルトは残酷な笑みを浮かべる。
「そこで見ているがいい。」
闇の奥から、 黒衣のオディールが静かに姿を現した。
「お前の王子が、お前そっくりのオディールへ“永遠の愛”を誓う姿をな」
高らかな笑い声が響く。
次の瞬間、 ロットバルトとオディールの姿は闇へ消えていった。
あとには、 涙に濡れたオデットだけが残される。
「ジークフリート様……」
震える声が、静かな部屋に響いた。
「どうか……真実の目で見てください。」
月光が涙を照らす。
「誓いの言葉など、言わないで……お願い……」
やがて、 静かな歌声が夜に溶けてゆく。
いつか消えゆくのか
この胸を焦がすほどの
真実の愛は
今、瞼に浮かぶのは
愛を誓ったあの方
優しいその瞳
愛しい人
この胸の高鳴りを
人は愛と呼ぶのか
忘れてはならない
忘れる事はない
この想いを
消えてしまうのか
この胸に宿った
白き希望は




