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第8場 オディールの想い
――その頃。
ロットバルトの城では、 黒き魔術師が冷たい瞳でオディールを見下ろしていた。
「お前は明日オデットに化け、城へ潜り込むのだ」
低く響く声。
「そしてジークフリート王子を誘惑し、永遠の愛を誓わせよ」
その言葉に、 オディールは息を呑んだ。
「私が……王子を?」
黒い瞳が揺れる。
「しかも、オデットとして――」
もし王子が気づかぬまま、 自分へ永遠の愛を誓ったなら。
ロットバルト様は、 喜んでくださるのだろうか。
オディールはゆっくりと目を伏せた。
もはや、 本当の私はどこにもいない。
オディールと呼ばれるたび、本当の私は遠ざかって行く。
“オディール”という名を与えられてから、 私はあの方のためだけに生きてきた。
では――
真実の私は、 誰が愛してくれるの?
ふと心の中に疑問が湧き起こる。
ふいに、 オディールの口元に笑みが浮かぶ。
「……真実の愛など、ありはしない」
黒い羽根が舞う。
「あの方が望まれるのなら、この力で王子に永遠を誓わせてみせる」
その瞳に、 切ない光が宿る。
「それが――私の愛」
静かに歌声が響き始めた。
いつか消えゆくのか
この胸を焦がすほどの
許されぬ愛は
今、瞼に浮かぶのは
黒き翼を纏うひと
冷たいその瞳
それでも愛しい
この胸の痛みを
人は愛と呼ぶのか
忘れたいのに
忘れられない
この想いを




