第5場 王子の誓い
次の日の夜――。
湖畔の城では、王子のための宴がなおも華やかに続けられていた。
明日の夜が、期限の3日目となる。宴の最後に
ジークフリートは妃を選ばねばならない。
だが王子の心は、もはや宴にはなかった。
ジークフリートはひとり湖のほとりに立ち、白鳥達が舞い降りるのを待っていた。
やがて月光を受けた白鳥達が、静かに湖へ降り立つ。
白き翼は次々と若い娘の姿へ変わり、娘達は湖畔で軽やかに舞い始めた。
その中央へ、オデットが静かに歩み出る。
月光に照らされたその姿は、まるで夜に咲く白百合のように気高く、美しかった。
オデットは侍女達の顔をゆっくり見渡し、静かに語り始める。
「昨夜のロットバルトの言葉……」
娘達が不安げに顔を上げた。
「人の恐怖、絶望、悲しみ、苦しみ。それらが、あの者の力の源になると申していました。」
湖の上を夜風が渡る。
オデットの声は静かでありながら、凛と響いていた。
「古き文献によれば――」
娘達が息を呑む。
「呪いをかけし者が、“真実の愛”を知った時、その呪いは打ち破られると言われています。」
かすかに聞こえていた宴の音楽が、ふいに途切れた。
静寂が湖を包む。
その時――。
「ならば!」
物陰から、一人の青年が姿を現した。
驚きに息を呑むオデットと侍女達。
月光の中へ歩み出たジークフリートは、真っ直ぐオデットを見つめ、高らかに言い放つ。
「ならば、私があなたに真実の愛を捧げます!」
娘達がざわめく。
「オデット姫――」
王子は静かに彼女へ歩み寄った。
「私の愛で、この忌まわしき呪い、必ずや打ち破ってみせます。」
その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。
「あなたの比類なき美しさ。侍女達を想う優しき心……」
ジークフリートは胸に手を当てた。
「初めてお会いしたあの日から、私は一度たりとも、あなたを忘れた事はありません。私は…私はあなたの悲しみを終わらせたい。」
月光が二人を照らす。
「どうか、この想いを受け取って欲しい。」
オデットは戸惑いながら王子を見つめた。
けれど、その真っ直ぐな眼差しに触れ、 凍りついていた心の警戒が、少しずつほどけてゆくのを感じていた。




