第3場 ロットバルトの城
黒い翼を広げた巨大な鳥が、夜空からゆっくりと舞い降りる。
その姿は地に降り立つと同時に、一人の青年へと変わった。
漆黒の髪。 氷のような瞳。
禍々しいほどの美貌を持つ男――ロットバルト。
「ロットバルト様。我らが偉大なる魔術師よ。お帰りなさいませ。」
家臣の男が恭しく頭を垂れる。
「変わりはないか。」
ロットバルトは低い声で問うた。
「……オデットはどうしている?」
「はっ。いつもと変わりなく。窓辺より外を眺めておられます」
「この城にいる間は、昼でも人の姿に戻れるというのに……自由を与えているではないか。」
ロットバルトは苛立たしげに呟くと、長い外套を翻し歩き出した。
重々しい扉が乱暴に開かれる。
「きゃっ――」
侍女達が小さく悲鳴を上げ、怯えたようにロットバルトを見つめた。
その前へ、オデットが静かに歩み出る。
まるで侍女達を庇うように。
「ロットバルト様……」
「オデット。何をそのように憂いている」
ロットバルトはオデットを見つめた。
月光を受けた白き姿は、触れれば壊れてしまいそうなほど儚い。
「この者達の行く末を案じております。どうかロットバルト様、この者達の呪いを解き、本当の
自由をお与え下さいませ。」
ロットバルトの瞳が冷たく細められる。
「お前達の国は、既に俺が滅ぼした!」
低い声が部屋に響いた。
「もはや帰る場所など存在せぬ。」
「それでは、なぜわたくし達を消さないのです?」
オデットは真っ直ぐにロットバルトを見つめた。
「わたくし達を生かしておくのは何故なのですか?」
その強い瞳に、ロットバルトはわずかに目を細める。
「お前の父は偉大な王であった――そして愚かでもあった」
憎々しげに言い放つ。
「この比類なき魔術師ロットバルトに逆らい、抗おうとしたのだからな」
冷たい笑みが浮かぶ。
「だから、お前を囚えたのだ。自由なき籠の鳥として、一生を終えるがいい」
「ならば、わたくし一人で十分ではありませんか!」
オデットは一歩前へ進み出た。
「罪なきこの者達まで巻き込む必要など……!」
侍女達が怯えたようにオデットの袖を掴む。
しかしロットバルトは、低く笑った。
「人間の恐怖、絶望、悲しみ、苦しみ――」
その声が部屋に重く響く。
「それらは全て、私の大いなる力の源となる」
ロットバルトは両手を広げる。
黒い外套が翼のように揺れた。
「私から楽しみを奪うでない」
哄笑を残し、ロットバルトは部屋を後にする。
重い扉が閉ざされた瞬間、 娘達は恐怖に耐えきれず、その場へ崩れ落ちた。
「大いなる力の源……」
静まり返った部屋の中、 オデットは小さく呟く。
その瞳には、 怯えだけではない光が宿っていた。
オデットは、怯える侍女達に向かって安心させるように話かける。
「皆さん、今しばらく耐えてください。今は呪いを受けたこの身ですが、必ずやあなた方をロットバルトの呪いから救ってみせます。」
「姫様…!」
「どうか無理はなさらず」
「いつか、きっと日の光を浴びることが出来る日が参ります。」
励ましあう侍女達に優しく微笑みながら
オデットの目はまっすぐ前を見つめていた。




