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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
少女の祈り ーPrayー

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手記74

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

「この部屋です。」


 そうしてツルギさん達と合流したオレは、二人をすぐ近くにあるアルマ達を寝かせていた部屋へと案内する。


「小僧……お前、もしかして俺達から神子殿達を守ろうとしていたのか?」


「は、はい……」


 すると、二人を寝かせていた部屋がすぐ側だった為に、オレが迎え討とうとして待ち受けていたのだと気付いたらしいラグナさんが、扉の前でそう尋ねてきた。


「……手荒な真似をして、本当にすまなかったな。」


「そうですね……私からも、改めて申し訳ありません。幾ら血溜まりを見たり、叫び声を聞いたからとはいえ……もう少し冷静になるべきでした。」


 ホントだよ……めちゃくちゃ怖かったんだからな?


「い、いえ……」


 ……とは、流石に状況を考えたら冗談でも言えないわ。


 せめて、アズサさんでも無事だったら、この行き違いは無かったのだろうけどさ。


「して、小僧?どうして神子殿は気を失っておられるのだ?」


「あ……それは、クレイからオレ達を守ろうとして……ヤツの力で……」


「……アレだけ無茶はするなと念押ししたのですが……まぁ、それならば恐らくは大丈夫でしょう。私の調べた限りでは、ヤツの起こす現象そのものに殺傷力はありません。」


 ……うん?現象?確か、クレイも似たような事を……何でそんな事まで、ツルギさんが知ってるの?


 てか、さっきもラグナさんがクレイの名前しか知らなさそうなのに、自分は大丈夫だと断言していたりしたし……


「おいおい話しますよ……まぁ、おしゃべりというのは、何処にでも居るものだとだけ……」


 何だそりゃ……?


 ……まぁいいや。なんにせよ、今は二人が先だ。



 そうして、意味ありげなツルギさんの言葉を訝しみつつオレは扉を開けると、照明の点いていない部屋のベッドで、窓から差し込む僅かな明かりに晒されながらも横たわったままの二人が目に入る。


 ほんの数分前に出たばかりだから、まだ起きている気配はないな……


「これで一安心ですね……」


 部屋へ入った直後、余程アズサさん達を心配していたのか、ツルギさんは思わずといった様子で溜め息をつくと、それを受けてラグナさんが口を開いた。


「お前は少し心配症がすぎるのだ。お前には、三十年前の幼子のままに見えているのかもしれんが、神子殿もそこまで柔ではない。」


「……そう、ですね。」


 何だ何だ、この意味ありげな会話は?


 時間無いって自分らで言っておいて、何やってんだよ……?


「おっと、こんな事をしている場合ではありません。急ぎましょう。」


 ラグナさんの言葉で、ツルギさんはバツが悪そうに頭をひと掻きすると、ベッドで横たわるアズサさんへと近付き、彼女を抱き抱えようとする。すると───


「……あれぇ〜……コテツちゃんだぁ〜……お姉ちゃんを迎えにきてくれたのぉ〜……?」


 ───ふいにアズサさんが目を覚ましたかと思えば、突然ツルギさんに抱きついたのだった。


 コ、コテツ……?


 アズサさん、寝ぼけて誰か別の人と間違えてるのかな?


「まったく……その名で呼ぶなと、何度も言っているではありませんか……第一、貴方……私より二つ下でしょうに……」


「ふふふ〜……コテツちゃんのにおい〜……」


「聞いちゃいませんね……って、また気を失ってしまいましたか……」


 ツルギさんに抱きついた格好のまま、アズサさんが再び気絶すると、ツルギさんが呆れたようにそうボヤく。


 そいや、アズサさんがツルギさんは幼馴染って言ってたっけ……コテツは、ツルギさんの幼名か何かなのね。


 にしても、アズサさんも匂いですぐツルギさんだって分かるんだ?力が弱いと言っても、獣人って事か……


「神子殿は相も変わらずだな……して、ふむ……これが我が妹か……だが、記憶と随分違うな……?赤子の頃より、人に近くなっているぞ?」


 アズサさんとツルギさんの様子に短く嘆息した後、ラグナさんはベッド脇に立ち、眠るアルマを見て困惑の声をあげる。


「報告はしていた筈ですが?」


「分かってはいる……が、幾ら祝福を身に宿すとはいえ、ここ迄人に寄るものなのか?」


「私も先代から聞いていましたが、最初は驚きましたよ。」


「その、母上から聞いたというのが問題なのだ。お前も、あの人がいい加減なのは知っておるだろう?」


 だーかーらー……何なんだよ、その意味ありげな会話は!?


 自分達にしか分からない言い方はしちゃいけませんって、習わなかったのかよ?


「あ、あの〜……急がなくて、いいんですか……?」


 流石にそのまま文句を言う訳にもいかず、恐る恐るラグナさんに尋ねると、彼も少しバツの悪そうな声色で言葉を返してきた。


「そうだったな……すまん、小僧。とりあえず、お前が妹を運んで貰えるか?部下達を館の外に待たせている故、玄関までで構わん。俺は露払いがあるのでな。」


「あ、はい……分かりました。」


「では、行こう。ついてこい。俺から離れるなよ。」


 ラグナさんに言われ、オレは再び眠ったままのアルマを担ぐと、オレ達は部屋を後にしてひとまず二人を預ける為に、入り口に居るラグナさん達の部下と合流する事にした。



「しかし、何だこの館は?神威……では無さそうだが、ずっと妙な気配がしているぞ?」


 そうして玄関へと向かう途中、先頭を歩くラグナさんは赤いモヤを綺麗に避けながら歩いているうちに、ふとそんな言葉を呟く。


「神威……?」


「神が顕現した際、辺りに広がる特殊な因果の力の事だ。かなりの長期間土地を使えなくしてしまうので、厄介なのだが……こうも気色の悪い気配では、それとは違うとの断言も出来んな。」


 ……えっ?さっきから、やけに器用に避けてるなって思ってたけど……このモヤ、ヤバいやつなのかもしれないの!?


 さっき触っちゃったんだけど!?


「ええ。先程館へ足を踏み入れてからずっと警戒はしていましたが、神威と違い〝妖〟がいるような気配もありませんね……ただ少なくとも、数日前はこのような状態ではありませんでしたよ?」


「ふむ……扶桑のように、何百年にも渡り森林を守り続ける力とも違うようだが……これはもっと、無秩序に広がっているようにも感じるな?」


 ……うん?〝あやかし〟……?気になる単語ではあるが、それよりもこれは……


「あ、あの……二人はこのモヤが見えてないんですか……?」


「モヤ?」


「何の話だ?」


「あ、えっと……」


 やはり二人には見えてないようだが、オレにもよく分からないモノをどう説明したらいいんだ……?


「……なんか、触ると人の悲鳴みたいなのが聞こえるモヤが、沢山あるんですけど……二人には見えてないんですか……?」


「人の……」


「……悲鳴、だと?聞く限り恐らくは、この館内に残留している因果の力か……普通は簡単に霧散する筈だが、何故そんなものが……?」


 霧散?


 確かに、言われてみればさっきより散り散りになっているようにも見えるな……?


 でも、ツルギさん達から感じる因果の力は温度みたいなのがあるから、温度もなくただ漂ってるコレは違うのかと思ってたよ。


 ……いや?よくよく考えれば、残留思念も人の意思の残滓だと言えるから、因果の力の残りカスみたいなものと言えるのか?


「とにかく、まずは二人を預けて、地下へ急ぎましょう。何か、異変が起きているのかもしれません。」


「そうだな……小僧、そのモヤとやらにあまり触れたりはするなよ。他人のカルマなぞ、取り込んでもいい事はまるで無いからな。」


「分かりました。」


 どうやら、オレの話を聞いて二人は何らかの異常が起きていると考えたらしく、歩みを早めると、入り口へ辿り着くなり待機していた部下と思しき獣人達に二人を預ける。


「私とラグナは地下へ向かいます。貴方達は私達が戻り次第実行できるよう、例の用意を整えつつ、待機していてください。」


 すると、ツルギさんは数十人も居る獣人達へ指示を伝えた後、再び館へ戻る事を告げたのだった。




 尤も、オレは初めて見る人返り以外の、正しく人狼のような容姿を持つ獣人達に驚き怯んでしまっていた間の話ではあるが……そればかりは、致し方ないと言えるだろう。




「小僧よ……お前はやはり、部下達と待っていれば良かったのではないか?無理をする必要はないぞ?」


 アルマ達を預けた後、すぐさま地下へ行こうとした二人に、オレが酷く怯えた様子を見せながらも後ろをついてきているからか、ラグナさんが気遣うように声を掛けてくれたのだが……


 ……怖い理由がね、違うんですよ。


 最初は、あの数十人も居るオレより少し大きいぐらいの白銀の毛並みを持つ筋骨隆々とした獣人に囲まれ、目のせいで警戒されながら所在なく待ち続けるのは拷問に等しく思えた為、仕方なく着いていったんですね……ええ。


 だけどね……地下に入った途端、明るい場所で貴方の姿を改めて見て、正直腰が抜けそうになったのですよ。


 だって、外にいた獣人達とも、明らかに生き物としての格が違う……それこそ、神話上の生物が目の前にいるんじゃないかってぐらいの存在感が、立っているだけであるんだぞ?


 一体何なんだよ、この人……


「おしゃべりはここまでです。クレイが居ましたよ。」

 

 そうして、オレがラグナさんの異様さに慄いていると、廊下の先へ目線を向けていたツルギさんが、声を顰めつつオレ達へ忠告したので、オレも二人越しに視線を向けてみる。


 すると、石室を挟んで向こう側へ続く通路の先で、足を引き摺り、壁に寄りかかりながらも何処かへ行こうとするクレイの姿があった。


 どうやら、餓鬼か樋口さんのどちらにやられたモノか定かではないが、相当な深手を負っているらしい。



 


「いやはや……駄犬が、まさか貴方様を連れて戻るとは……たかだか小間使いだろうとタカを括っておりましたが、少々みくびり過ぎていたようですね。」


 逃げようとするヤツに背後から近付くと、こちらの接近に気付き振り向いたクレイが、振り向き様にそう告げる。


「ほう?叔父上の人形風情が、我が友を愚弄するか?」


 だが、そんなクレイの吐いた言葉が余程気に入らないのか、ラグナさんはまたしても剣呑な雰囲気を纏いはじめた。


 自分に向けられた敵意じゃないとはいえ、やっぱりこの人の放つ殺気って、それだけで普通の人間は死んでもおかしくないんじゃないかってぐらいの、圧があるな……


「ええ……そのようななりそこない等、お館様に似てお美しくもある貴方様にとっては、塵芥に等しいでしょうに。」


「黙れ下衆め!!」


「減らず口はそこまでです。見ての通り、貴方に勝ち目はありません。大人しくなさい。」


 しかし、当のツルギさんはクレイの安い挑発を意に介した様子もなくただ淡々と通告すると、クレイは歩くのをやめ、壁に寄りかかりつつもこちらへ向き直り、どういう訳か丁寧に礼をしてみせる。


「貴方のような駄犬に言われるまでもありません。玉体まで持ち出され、計画すら完全に潰えた今、私にはこれ以上手の打ちようもありませんからね。」


 計画が潰えた……?


「何を言って……」


 まぁ、クレイ自体がこんな調子だから、ラグナさんにあの力は通用しないっぽいが……


「それより、貴方様はいつまでそのようなママゴトを続けられるおつもりなのですか?皆、貴方様が一族を率いてくださるものだとばかり……」


「狂信者め……だがな?我々はどこまでいっても一人の人間だ。例え、貴様らがどのような策を弄そうと、俺は俺として生きるぞ!!」


「……いずれ貴方様にも、お館様のその深いお考えが分かる日が来る事を、私は切に願っております。」


 ……もうね?ずっと、オレの知らない内容ばかり話すのは、やめてもろて。


 字面だけなら大好物のファンタジー展開だけど、設定が全く分からん作品を延々見せられてるオレの身にもなれよ。


「さて……残すは魔術刻印のみですね。」


「ああ……なるほど。そちらが目的でしたか。だから、御方自らが出向かれたと……ですが、一足遅かったようですよ?」


 大人しく拘束を受け入れたものの、満身創痍が故にろくに歩けないからか、ラグナさんがクレイを小脇に抱えると、ツルギさんが改めて目的を確認する中、突然クレイが不穏な事を告げる。


「遅かった?どういう事ですか?」


「部屋はすぐそこにありますから、尋ねる前に自ら確認されては如何です?」


 クレイは捕らえられて尚、変わらぬ調子で石室を顎で指し示すのだが……


 ……あれ?今しがた前を通った時に、中は見えてたっけ?


 何か、ちゃんと見てなかったけど暗かったような?


 クレイに気を取られていたからか、石室内部の様子を気にも留めて居なかった為、オレはヤツの言葉が気になり中を覗いてみた。


「え……明かりは?」


 だが、覗いた石室の内部は廊下の明かりが差し込む入り口以外は真っ暗闇になっており、先程まで自分が居た部屋と同じにはとても見えない。


「小僧、此処か?」


「は、はい……」


 オレが真っ先に石室を覗きこんだからか、ラグナさんとツルギさんもオレに倣って覗くのだが、やはり部屋の中の灯りは消えているらしかった。


 アレからまだ一時間も経ってない筈……だから、自然に消えたってのは考えにくいんだけどなぁ?


「これでは中が見えませんね……少々お待ちください。」


 そう言うと、ツルギさんは懐から薄黄色の石と、サイリウムのような形状の透明な筒を取り出して、スクリュー式の蓋を開け石を中へ放り込む。


 数秒後、光を放ち始めた蓄光石の灯りを手に、ツルギさんが改めて石室の中を照らしてみると……


「魔術刻印が……ない……というか、何だこれ……部屋の中がさっきとまるで違う……」


 ……そう、床の石畳は悉くが抉り取られ、壁面すらも、見るも無惨に崩れ落ちていたのだった。


 しかも、暗くて気付かなかったが、部屋の中がとんでもない量の赤いモヤで満たされているしで……ひょっとして、此処がモヤの出所なのか?


「あの小娘ですよ……あの小娘が、その神通力で……あの愚か者共が祝福と呼ぶ力で、破壊したのです。」


「小娘って……まさか、樋口さんが!?」


 え……?でも、彼女にそんな時間なんて……いや、待てよ……もしかして、あの百数えてる間に……?


 あんな短時間で、コレを……?


「ええ。そのまさかです。私も朦朧としていた為に、全てを見ていた訳ではありませんが、あの小娘が瞬く間に破壊し尽くしたのに間違いはありません。抜きん出た力を持っていたのは把握しておりましたが、ここまでとは……」


 もしかして、樋口さんは最初から……?


 だからあの時、力が通じなくて邪魔なクレイを外へ投げていた……のか?


 だとしても、一体何故こんな真似を……?


「まさか……既に壊されていたとはな……」


「ええ……しかも、因果の力を吸収してしまう魔術刻印を、神通力でとは……とんでもない力ですね……」


 しかし、これ本当に事情を話してもらえるのだよね……?


 知らない単語が飛び交いすぎてて、理解が全く追いつかないよ……?


「我々としても、このような形で希少な先時代の遺物を失ってしまうとは、痛恨の極みですよ。」


「ぬかせ!元はと言えば、叔父上達が……!」


「ラグナ、そんな話を今更にしても仕方がありませんよ。それよりも、これで目的を達しましたから早急に離脱しましょう。我々がここに来て、ゆうに半日以上が経ちます。既に夜とはいえ、近隣の街から増援がいつ来ても不思議ではありません。」

 

 来て半日……?そんな前から……?


 ……もしかして、昼間クレイが険しい顔をしていたのって、ツルギさん達が来た所為?


「……そうだな。あまりゆっくりしている暇は無い。退くぞ。」


 ツルギさんの言葉に、ラグナさんもこれ以上クレイの戯言に付き合う気は無いと言わんばかりにため息を吐いてから踵を返し、来た道を引き返し始める。


 これで……終わったって、事なのかな……?


 最後は何かよく分からないまま、事態だけが進行していたけれど、これでようやく一息つけ……いや?


「あ、あの!!」


「どうした、小僧?」


「マサトくん、どうかしましたか?」


 ……こんな事まで、この人達に頼んでもいいのかな……でも、正直このままにはしておけないし……


「……お願いが、あるんです。」


よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は、通常通り 10月11日(日)18時となります。

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