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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
少女の祈り ーPrayー

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手記73

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

「そうです!!」


「マサトくん……?本当に、マサトくんなのですか……?」


 いや、目の前に居るからオレで間違いない……って言いたい所だけど……カルマ越しに伝わってくる感情から察するに、これ多分ツルギさんは動揺している……?


「おい、ツルギ!!ソイツは獣堕ちだぞ!?戯言なんぞで躊躇うな!!」


 もう一人、さっきからツルギさんと話しているコイツが、この異常な気配の持ち主らしいけれど、こっちはこっちでその異様な殺気を引っ込めるつもりもないようだし……


 知り合いとはいえ、これ実は結構不味い状況なのでは?


「マサトくん……教えてください……キミは、キミのままですか……?」


 何をどう伝えれば、ツルギさんは分かってくれるのだろうかと考えた直後、ツルギさんが恐る恐るといった様子でそう尋ねてきた。


 ……いきなり何言ってんだ?とは、流石に見てきたモノの所為で言えねぇけどさ……聞かれるまでもない。


「はい。」


 とは言っても、いつまで正気で居られるかは分からないけど……


「……そうですか。分かりました。」


 ツルギさんは短く告げてから、捻り上げていたオレの腕を離し、未だ警戒は解いていない様子ではあるものの、もう一人の意に反してオレを解放する。


 痛みは……一瞬すぎてあんまり感じなかったな。


 コレもオニ化の為せる技?それともツルギさんの手心なのかね?


「おい!ツルギ!?」


「今は私に任せてください……」


 もう一人の人物がツルギさんの独断に抗議の声をあげるものの、ツルギさんがそう言って制止すると、その人物は短く嘆息した後で、敵意を大分弱めつつも小さく勝手にしろとだけ呟き、壁に寄りかかる。


 ……のだが、今気づいたけど……なんかこの人、やけにデカくないか……?


 え?余裕で身長二メートル超えてるよね……?

 

 影の比較で大小しか見てなかったけど、ツルギさんはオレと同じぐらいだから、冷静に見てオレの倍とまではいかなくとも、五割増し以上にはデカいよ……?


 暗くてハッキリとは見えないけど、何か顔の形だって犬っぽいシルエットだし……


「立てますか?」


「あ、はい……」


 思わずもう一人へ呆然としつつ視線を向けていた為に、ツルギさんは何処か怪我でもしたのかと考えたらしく、オレは差し出された手を取って立ち上がるのだが……


「……ん?んんん???待て、小僧!?お前、何だその目は!?」


 ……オレが立ち上がった直後、こちらへの警戒を続けていた大男が突然、驚きを隠せない様子で問いかけてきた。


 目……?目つきが気に入らないって言いたいの……?


 オレ、別に目つき悪くもないし、睨んでもないぞ?


「マサトくん、その右目は……貴方一体……?」


「え、な、何か……?」


 ツルギさんまで?右目は確かに赤くなってはいるけれど……?


「ラグナ、貴方……こんな症状を見た事がありますか?」


「いや……何度も獣堕ちを見てきたが、片目だけってのは一度たりとも無いな。」


「ですよね、私もです……これは、どう判断したものか……受け応えも正常に見えますし……」


 え?え?コレ、何かおかしい状態なの……?


 そういや、樋口さんも餓鬼も両目が赤かったけれど……


「おい小僧!一つ聞かせろ!!」


「は、はい……?」


 何だよ、藪から棒に……しかも、すっげぇ偉そうだしさ?


「……その身体中にこびりついている血は、誰のものだ?」


 血……?血って……


 あ……


「こ、これは……オレが……守らなきゃ……いけなかった……友達の……」


「ラグナ!私に任せろと言いましたよね!?……マサトくん、辛いのなら言わなくて結構ですよ。」


 恐らくラグナと呼ばれた人からすれば、オレが正気かどうかを確かめる程度の質問だったのだろうが、自分の手や服に染み付いている血が誰のモノだったのかを思い出してしまい、また涙がオレの頬を伝った。


「小僧、疑ってすまな……」

「違う!!オレが!オレが殺したんだ!死にたくないって!!自分が生きたいからって!!オレが樋口さんを殺したんだよ!!」


 異常な状況の終わりに、安心出来る人がまた現れて……ホッとした瞬間に現実へと戻されたからか、オレは多分再び犯した罪の重さに押し潰されそうになったのだと思う。


 ただひたすらに、自らを責める言葉を吐き出し続けながら、暫くの間ツルギさんに支えられ、泣き続けたんだ。





「マサトくん……落ち着きましたか?」


 落ち着ける訳が無いだろ!!!!


 そんな思いから、オレは泣き続けながら首を横に振ると、ツルギさんは少し困ったような表情で言葉を続ける。


「恐らく、今の貴方に優しい言葉は逆効果だと思いますので、敢えて厳しい言葉を使いますね……今は泣いている時ではありません。泣くのは後にして、とりあえずそのまま聞いてください。これから、我々の置かれている状況をお話します。」


 状況……?


 にしても、この人も樋口さんみたいな事を言うんだな……おかげで、少し冷静になれたよ。


「我々の勢力は、この館を囲んでいる兵士達を無力化、人質にされていた同胞達も解放致しました……ですが、我々には時間が余りありません。」


 せ、制圧……?人質の解放……?


 なんか穏やかじゃない言葉が続くな?


「私は貴方達を、助けに来ました。ですが、私達と敵対する勢力が、もうじき此処に来ます。なんせ、周囲の無力化に時間を掛けすぎましたからね……」


「え……?」


「今は分からないと思いますが、そこにいるラグナが動いてしまった以上、我々と敵対する勢力は動かざるを得ないのです。そうなれば、此処は戦場となってしまいます。だから、そうなる前に私達は撤退しなければなりません。」


 それって戦争になるって事……?


 たった一人が動いただけで……?


「ああ、すまない。自己紹介がまだだったな……俺の名は、ラグナ……まぁ、便宜上の名だが……今は扶桑にある里で、里長をしている。」


「はぁ……」


 どうやら、ツルギさんの説明にオレが困惑している事を悟ってか、ラグナさんが名乗りをあげるのだが……


 里長……まぁ、偉い人ではあるけれど……それより便宜上の名前って、どういうこっちゃ?通り名みたいなものか?


「……この人は、アルマの……姫様のご令兄に当たります。」


 ごれいけい……ん?だとしたら、この人が……アルマの、兄?


 んでもって、里長って事は……つまり、白狼の……長?


「なら……まさか、こいつがクレイの上司!?」


「落ち着きなさい。そんなに声を荒らげなくとも、クレイは私達の敵です。」


 えぇ……?どういう事よ……?


「その辺りは、おいおい話します。今は、この人が人間の住む領域へ動いてしまうと、都市国家連合だけでなく、クレイが所属する勢力も動かなくてはならなくなるとだけ、覚えておいてください。」


「は、はい……」


 つまりは、大物だって事か……


「だから、その前に我々は目的を達成して此処を離れなければなりません。此処まではいいですか?」


「はい……でも、その目的って……?」


 わざわざオレ達みたいな子供を助ける為だけに、そんな大物が動く……はずは無いよな?


 なら、何かしら別の目的があるはず?




 そんな疑問から、袖口で目元を拭いながらツルギさんへ問い掛けると、彼は頷きつつ言葉を続けた。


「この館の地下に存在する、魔術刻印の破壊ですよ。破壊出来ない場合でも、いずれ破壊可能かどうかを確かめる目的もあります。だから、どうしても一時的に此処を押さえたかったのです。アズサの力が必要だった理由でもありますね。まぁ、キミ達の救出は……私のワガママですが。」


 なるほど、だからアズサさんを連れてきてたのか。


 彼女、妙に刻印やらに詳しかったし、専門家っぽいもんね。


「ああ、アレの……確か、クレイがアルマを……あ、えっと、姫様を生贄に……」


「小僧、妹は人と共に暮らす為に名付けられているから、別に風習なぞ気にせんでいいぞ。」


 よかった……クレイみたいに不敬だと言われたらどうしようかと……


 うん?でも、アルマ自身も家族以外教えちゃダメって言っていたような?


 ……まぁいいや。


「それより、生贄とは?」


「あ、えと……クレイの奴が地下の魔術刻印を使って、アルマを生贄に神を顕現させる……とかなんとか……」


「神……?まさか彼奴等、人の地で扶桑顕現の再現をやるつもりなのか!?叔父上よ、類縁とはいえ正気の沙汰とは思えんぞ……それでは人が住めなくなるではないか……」


「叔父上……?」


 あの時、確かクレイがお館様と言っていたはずだから、ラグナさんが違うとなれば……叔父上って人がクレイの上司かな……?


 しかし、扶桑顕現とは……?


 さっき里の名前も扶桑だとか言っていなかったか?


 んー……?どういう事だ……?


「そこもおいおい話しますよ。ただ、そうなるとクレイが見当たらないのは不味いですね……神の顕現が目的となれば、野放しにしておくわけには……アルマの安否も気に掛かりますし……急ぎましょう。マサトくん、奴が何処に居るかは分かりますか?」


 ……あれ?もしかして……この人達、クレイも探していたのかな……?


「あ、あの……?」


「どうしました?」


「多分、クレイは……地下で、のびてます……まだ……多分……はい……後、アルマも無事です……すぐそこの部屋で、アズサさんと一緒に気を失ってますけど……」


 クレイについては、アレからどれだけ時間経ったか分からないから、ひょっとしたら起きてる可能性はあるが……


 まぁ、樋口さんにもぶん投げられてたしな……恐らくは大丈夫だと思う。


「本当ですか!?」


「でかしたぞ、小僧!では、神子殿と妹を回収ののちに、俺はクレイとやらの身柄を拘束しに行くとしよう。」


 拘束?アイツの能力って……気を失ってたら安全なのかな……?


 触れた瞬間に皆昏倒していたから、意識無くても安心なんか出来ないんだけど……


「でも、アイツに触れるのは危ない……」


「それならば、俺には問題無い。小僧、場所は何処だ?」


「此処に来る途中にある階段から、地下に降りれば……」


 何だ、このオッサン……いや、廊下が暗いせいで姿は朧げにしか見えないし、声も渋いからオッサンだとは思うんだけどさ?


 何でそんな自信満々なのだろう……?


 結構ヤバい能力だよ、クレイって……でも、なぜかアイツの能力を知ってそうだから、大丈夫なのかな……?


「では、私はその間にマサトくんのお友達を、救出に回りましょう。」


 ……オレ達の救出、か。


 ツルギさん、本気でオレ達を助けたいって思ってくれてたんだな……この人が放つ因果の力経由で、その感情も温かさも確かに伝わってくる。


 だけど、何もかもが遅すぎたんだよ……


「そうだな。ツルギはそうしてやれ。」


 それに、ラグナさん……この人からも、真剣にオレ達を心配しているって気持ちが伝わってくる……優しい人達なんだな。


 それだけで、信用してもいいと思えるよ……


「いや……それは……」


 でも、でもさ……だったら、もう半日……せめて、あともう数時間だけでも早く来てくれていたなら……間に合っていたのに……


「マサトくん……?」


「もう……此処には、オレしか…………」


「そう、でしたか……申し訳ありません……」


 オレの告げた事実に、ツルギさんが思わず言葉を詰まらせたのは、恐らく何故こうなってしまう前に来てくれなかったのかという、八つ当たりに近い感情が言の葉にのってしまったからなのだろう。


 ……別に、謝って欲しい訳でも、責めている訳でも無かったのに……


 この人達を責める理由だって、無いのにさ……オレ、本当にどうしようもないな……


「そうか……おい、小僧!ならば、まずは神子殿達の元へと案内しろ!」


「え……あ、はい……」


 どうやら気まずい空気を察してか、ラグナさんがオレの背中を軽く叩いて、行動を促すようにそう告げた。


 ……確かに、時間が無いのならこんな事している場合じゃない。


 今は、生きている二人を助けないと……


「そうですね……グズグズしている暇はありません。まずは、成すべき事を成しましょう。」

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は、通常通り 10月4日(日)18時となります。

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