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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
少女の祈り ーPrayー

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手記70

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 扉は……よし、開いてる!


 これなら、もう一度地下に降りてから何処かで撒けば……いや?待てよ……?


 地下で本館と繋がっているのはあくまで推測でしかないから、変に賭けに出るよりは、地下に降りると見せかけて、さっきの大きな窓のある部屋で隠れた方がいいのでは?


 あの部屋なら、もし追われてもすぐに外へ出られるし、これなら樋口さんが本当にこちらの位置を特定しているかを確かめる事も出来る。


 ……うん、そうしよう。


 地下へ続く扉に手を掛けたままオレは考えを改めると、わざと大きく音を立てて扉を開いた後で、目についた花瓶を手に取り床へと叩きつけた。


「ふふふ……マ〜サトく〜ん〜……慌てちゃダメよぉ〜……」


 すると、オレが慌てていた為に物を壊したのだと考えたらしく、少し笑いを堪えるような彼女の声が周囲に響く。


 ……近いは近いけれど、まだ見つかってないな?


 なら、此処からはなるべく音を出さないようにして……


 

 敢えて立て続けに大きな音を立てた事もあり、これならば地下へ降りたように見えるだろうと考えつつ、先程の大部屋へ繋がると思われる扉を開け、窓の外に樋口さんの姿がない事を確認してから、中へと足を踏み入れる。

 

 部屋に兵士は……残っていない、か……


 窓の外にも樋口さん……は、居ないな。


 じゃあ、後は鍵を掛けて……っと……窓がすぐに開けられるかどうかも、予め確かめておこう。


───ゴトッ……


 ……来た!!


 なるべく音を立てないようゆっくりと扉の鍵を掛けた後、窓側の鍵も確認する為そちらへ近づこうとした直後、廊下の方から木製の床に硬い何かが当たる音が微かに聞こえ始めた。


 さて、樋口さんはどう動く……?


 そう考えて、耳を澄ませていると……


「もう……マサトくんったら、危ないじゃない……こんなに散らかしてぇ……」


 ……どうやら花瓶を割った事で、目論見通りに地下室の前で一時的にでも足を止めさせる事が出来たようだ。


 尤も、物体を消滅させられる彼女相手だと、幾ら素足とはいえ足止め以上の意味は無いのだが……


「……あら?ふぅ〜ん……」


 こちらも想定通り、目の前にある開けっぱなしの扉に気付いてくれたらしい。


 緊張の為か、身動ぎもしないまま聞き耳だけを立て続けていると、不意に彼女が何かに気付いたような声を上げ、その後廊下から物音が聞こえてこなくなる。


 斧を引き摺る音が、消えた……?


 もしかして、地下へ降りていった……のか?


 という事は、別に森田くんの力を得ていたワケではないと……驚かせやがって。


 寧ろ、物音とか、足音とか、そっちが問題だったのかもな。


 館の構造的にも行き止まりばかりだから、逃げられる場所そのものは然程多くもないし。


 まぁ、何にせよこれで───


「も〜う〜いいよぉ〜……」


───ガンッガンッ


 細工が上手くいったように思え、やり過ごせた事に安堵して大きく息を吐き出した瞬間、突如彼女の声が響き、扉から斧の刃先が顔を僅かに覗かせる。


 お、おい……おいおいおいおい!?ウソだろ!?


 また騙し討ちかよ!?


「コンコン……お留守ですかぁ〜……?」


───ガンッ……ガンガンッ


 力任せに繰り返し斧を打ち付けているからか、かなり厚さのある筈の扉がいとも容易く破壊され、丁度人の腕が差し込める程度の隙間が出来ると……


───バキッ……


「みぃ〜つけたぁ〜……」


 ……壁抜きをしてきた時と同様に、彼女は裂け目から顔を覗かせ、酷く歪な笑みを浮かべつつ、手を差し込んで鍵を探り始めた。


「居るならぁ……ちゃぁ〜んとお返事しなきゃ、ダメよぉ……」


 驚きのあまりに体が強張り、思考すらも出来ないまま彼女が鍵を弄る様を眺めていると、彼女が声を弾ませながらそう告げた瞬間、目の前で鍵がガチャリと音を立てる。


 ま、マズい……呆けてる場合じゃない!!


 早く逃げないと!!


 ……ク、クソッ!?足がついてこねぇ!?


───ギギィー……


「マ〜サトくぅん……あ〜そび〜ましょぉ……」


 恐らくは、破壊による影響で歪んでしまったが為か、扉がゆっくりと音を立てながら開かれると、彼女は斧を片手に再び幼な子のように微笑んだかと思えば、続け様に口を開く。


「……遊んでくれないとぉ……悪戯しちゃうんだからぁ〜…………あはははははははは!!」




 すくむ足を必死に動かして、どうにか窓際に辿り着いたオレは、彼女の狂ったような笑い声に囃し立てられ、窓を開ける暇すら無かったが故にそのまま蹴破ると、再び夜の森へ飛び出した。





 これからどうする!?居場所が正確に突き止められるとなれば、隠れても無駄じゃないか!?


 館は行き止まりばかりだし……もう逃げる場所なんて、何処にも無いぞ!?


 このままじゃ、いずれ追い付かれて……いや、弱気になるな!!


 もう、こうなったら手段は選んでいられない!


 一か八か……あの何かが燃えている場所へ行ってみよう!


 



 闇雲に走り出したものの、すぐさま目的地を再設定したオレは、兵舎から再び庭園へと向かい、そのまま中を抜け、以前街から戻る際にも通った道へ足を向ける。


 樋口さんは……まだ追いかけてきていないな?


 よし、このまま一気に駆け抜け……


「そっちは、だぁ〜〜め〜〜……」


 走りながら一度背後を確認するも、どうやら彼女はまだ追ってきてはいないらしく、安堵しつつ庭を抜けようとした直後、すぐ真横から声が響いたかと思えば、何かに腕を掴まれたオレはなす術もなく地面を転がった。


 


 い、今の声は……もう追いつかれたってのかよ!?


 ……はっ!?そ、それより、アルマは!?アルマは何処へ!?




 恐らくは、オレ自身の身の異変が進行しているからか、地面を転がったにしては痛みを殆ど感じなかった為、オレはすぐに身体を起こしたのだが……気付けば、オレが担いでいた筈のアルマの姿だけが見当たらない。


 今の衝撃で、何処かに投げ出してしまったのだろうか……?


 そう考えて、オレは辺りを見回す。


 すると……


「つ〜かまえたぁ〜……」


 ……僅かに声を弾ませながら、樋口さんが意識の無いアルマの腕を掴んで、地面に転がっているオレへ向け、勝ち誇ったかのように掲げ上げたのだった。


「もぅ〜……ダメじゃない、マサトく〜ん……ズルはダメよぉ……ダメダメよぉ……」


「ズル……?」


 一体何を言ってるんだ……?


「だって、私達だけで遊んでいるのにぃ……他の人を頼ろうとするのは、ズルでしょう?」


「追われてるんだから、逃げるのは当たり前だろ!?」


「だ〜か〜らぁ〜……そんなマサトくんにはぁ〜……バ〜……ツ〜……ゲ〜……ェ〜……ム!」


 ……はぁ?罰ゲーム……?


 こっちの話は無視かよ!?


 いや、それより今は何とかしてアルマを取り戻さなければ……


───ガランガラン


 彼女はそう言って、不意に持っていた斧を放り投げ、アルマを片手で掴んだまま、空いた手を背中に回して別の何かを取り出す。


 何だ?急に何を……うん?アレは……もしかして、さっきオレが投げ捨てた果物ナイフ……?


 あんな物まで拾っていたのか……


「さぁ〜て……マサトくんへの罰ゲームはぁ…………」


 ……って、ちょっと待て!?


 まさか!?


「アルマちゃんがぁ……お星様になる所を〜……見届ける事で〜す……」


 彼女はそう言いながら、度々悪役が創作物の中で見せるように、オレの前でアルマの頬を刃物の腹で数回ペチペチ叩くと、アルマを地面に寝かせた。


「ふ、ふざけんな!!」


「マサトくんが悪いのよぉ〜……ズルをしなければ、飽きるまで一緒に遊ぶつもりだったのにぃ……」


 詰ませるのではなく、わざわざこちらを追い詰めるように動いてくるから、薄々はそうなんじゃないかとは思っていたけれど……


 あの追跡劇がワザとだとしたら、端っから樋口さんの手のひらの上で踊っていただけなのかよ……チクショウ……


「ど〜こ〜にぃし〜よ〜う〜か〜な〜……」


 とてつもない絶望感から思わず呆然としている間に、彼女はアルマの側で佇みながらナイフを突き立てる場所を吟味するかの如く、頭、胸、腹、局部と次々に何度も指差しつつ、歌い始める。


 クソッ、もうどうにもならないのか!?


 ……いや!だとしても、アルマにだけは手を出させたりはしない!


「そんな事、させるもんか!!」


 オレ自身は、もうどうなっても構わない……そんな気持ちから、オレは樋口さんを組み伏せようと立ち上がり、彼女へ飛び掛かった……が、しかし……


「もぅ〜……マサトくんへの罰なんだからぁ……そこで大人しく見ていてぇ……」


 ……オレの行動は、とっくに織り込み済みだったらしく、樋口さんは煩わしそうにオレを足蹴にすると、再び地面に転がったオレの腹部へ向け、追い討ちとばかりに膝を落とす。


 その威力たるやクレイのソレの比ではなく、体重の乗った膝がまともに鳩尾辺りを直撃してしまった為に、オレは声すらもまともに出せず、痛みに悶絶するしかなかった。


 い、息が……出来ねぇ!!


「マサトくんったら、大袈裟なんだからぁ……」


 人ひとりの重量を腹で受け止めてんだぞ!?


 大袈裟なワケないだろ!?


「まぁ、いいわぁ……そのまま見ててねぇ……」


「や、やめろ……」


 オレが地面でのたうつのを少しの間見下ろした後、樋口さんは再びアルマの側へと戻り、ナイフを握り締める。


 ま、また見てるだけなのかよ、オレは……


 またしても樋口さんを止められないのかよ……


 嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ!!そんなのは嫌なんだ!!


 今度こそ、止めるんだ!!


 二度も過ちを犯してなるものかとの思いから、力の入らない身体で何とか力を振り絞るようにしてオレは立ち上がる。


 だが───


「バイバイ、アルマちゃん……」


 ───そんなオレには目もくれず、樋口さんはアルマに馬乗りになると、そう呟いて躊躇いを一切見せないまま、彼女の胸に深々とナイフを突き立てたのだった。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 9月20日(日)18時、19時の二話投稿となります。

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