↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
少女の祈り ーPrayー

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/84

手記69

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 何だろう、この音……?


 微かに金属のような音が混じっているようにも聞こえるけれど……?


 突然響き渡った出所不明の物音に、オレは警戒しながらも月明かりの所為で出来た、館の影が落ちている方向へと目を凝らす。


───ガリッ……


 すると、影の中で不気味に揺らめく二つの赤い光が左右に揺れるのと同時に、再び謎の音が周囲に響き渡った。


 アレは……樋口さん!?


 クソ!ゆっくりしすぎたから追いつかれたか!?


 だとしたら、呑気に迷っている暇は無いな……やはり、今は森へ逃げ込むべきだ。


───ガリガリッ……


 しかし、さっきから一定のリズムで聞こえているこの音は一体……?


 まぁいいか……そんな事より早く逃げ……ん?何だ、アレ……?



 未だ彼女とは距離があったが故に、大きく庭を迂回して建物の後ろへ回り込もうと歩き出した直後、樋口さんから視線を外さないようにしていたおかげか、先程までは無手だった筈の彼女の手に、何かが握られている事に気付く。


 何か、柄の長い棒……みたいな物かな……?


 あー……なるほど?


 アレを地面に擦り付けていたから、こんな音が聞こえていたのね。


 何で急にそんな物を持ち出してんだ……っと、幾ら樋口さんがゆっくり歩いてるにしたって、考えてる暇はないな。


 もう少しで抜けられるし、今は早く逃げ……よう…………はぁ!?





 なるべく樋口さんから目を逸らさないようにしつつ、向かって館の左側にある兵舎の方向へと庭の外周沿いに進みながら、もう少しで庭を抜けられるなどと考えた瞬間だった。


 丁度、樋口さんも庭の中程にまで差し掛かり、建物の影を抜け出したのだが……その直後、彼女が手にしていた物が鈍く光を反射した事で、その正体が顕わになる……


───ガリッ……


 お、おい!?ちょっと待て!?


───ガリガリッ……


 そんな物、一体何処で拾ってきやがったんだよ!!??


 ……彼女が引き摺っていた物……それは何と、斧だったのだ。




 恐らくは薪割り等に使われる類いのモノだろう。


 どうやら、長い柄と彼女の低身長が重なって、斧頭を地面に擦り付けているらしい。


「ふふふ……マ〜サトくぅ〜ん〜……あ〜そび〜ましょぉ〜……」


 その余りの異様さの為に思わず足を止めたオレを他所に、まるで子供が友達を誘うかのような調子で彼女は楽しげにそう告げるのだが、口調と絵面のギャップの所為か、オレの全身から冷や汗が吹き出し始める。


 ……オレが考えていたより、遥かに彼女の殺意は高いようだ。


 童歌だけでは飽き足らず、そこまでしてオレを怖がらせたいのか!?


 いや、今は考えてる場合じゃねぇ!!走れ!!




 思考から数瞬ののちに、悪寒が全身を駆け巡った直後、オレは弾かれたようにして庭を抜け、兵舎と本館の連絡通路も越え、帳の降りきった森へと足を踏み入れた。


 だがしかし、森の中は想定していたよりも大分暗く、繁茂している枝葉が月の光を遮っており、明かり無しではまともに歩けそうにもなかったので、オレはすぐに足を止めてしまう。


 

 微かに森の奥では、赤々とした光が見えてはいるけれど……流石に、アレだけ怒声が聞こえている方向には行けないな……煙いし。


───ガリッ……


「待ってぇ……置いていかないでよぉ……あはははははははは!!」


 というか、これ森へ入るのはダメだ……寄り道で斧を拾っているのに、まだ真っ直ぐにこっちを追ってきてる……


 それによくよく考えたら、樋口さんが本当に森田の力を得ていたのだとした場合、森に隠れるとこちらだけが暗闇で方向感覚が無くなるから、逃げようがなくなるような?


 それに、今はまだ遊びのつもりなのかもしれないけれど、本気で追われでもしたら、抵抗のしようだってないぞ!?


───ガリガリッ……


「マ〜サトく〜ん……ど〜うし〜たのぉ〜……」


 な、なら……どうする?


 そうだな……此処は一か八か、目の前にある兵舎へ逃げ込んでみるか。


 地下通路やら、仕掛け扉のある詰所やらで時間稼ぎが出来るかもしれないし……よし、そうしよう。



 背後を見れば既に樋口さんが庭を抜けていた為、オレはそのまま兵舎へ入るのではなく一度森の中へ入ったと見せかけてから、兵舎の裏手へと回り込み、入れそうな窓を探す事にした。


「今度はかくれんぼかしらぁ〜……?いいわよぉ〜……」


 入るのに手間取りそうだとしても、彼女が兵舎の外周沿いに追いかけてくるようだったら、そのまま一周して正面から入るか、若しくは別の場所へ向かえばいい。


 そう考えてオレはアルマを担ぎ直しつつ、思っていた以上に兵舎が大きいなどとも思いながら、慎重に裏手へと回り、入れそうな窓があるかを確認するのだが……


 ……どうやら、兵舎は館とも作りが違うようで、そこには館でオレ達が使っていた区画では見る事のなかった、人がそのまま出入り出来る程の高さがある窓が幾つも並んでいたのだった。


 これならば、簡単に出入り出来そうではあるが……中はどうなっているのだろう?


 入るにしても、身を隠せるような造りかどうかが気になったオレは、まずは窓の前を横切りながら、中を確認してみる。



 すると中はどうやら、兵士が寝泊まりする場所だったらしく、無数の二段ベッドが等間隔で並んでいるようだ。



 うーん……見た限り、此処にはあんまり隠れられる場所が無いぞ……?


 しかも、何でか明かりも点いてるし……中に入ったら外から丸見えじゃん……それに、入れそうな窓も全部この部屋に繋がってるみたいだな。


 仕方ない、此処は諦めてひとまず表に回ろう。



 不思議とさっきよりも体力的な辛さが無くなったけれど、それでもこちらはアルマを担いだままなのだから、咄嗟に動けないのは避けたいもんね。


「もぅ〜……酷いじゃない、マサトく〜ん……私、靴を履いていないのよぉ……なのに、こんな場所へ隠れるだなんてぇ……」


 自分で靴を消していた癖に!?


 ……待て、ツッコミを入れてる場合じゃない!!


 コレ、森に入って建物と暗闇で視線を切って裏手へ向かったのに、真っ直ぐ兵舎沿いに追いかけて来てる!!


 最早、居場所がバレているのは疑うべくも無いな。


───ズリ……


「あ〜のこ〜がほ〜しい〜……」


 未だ裏手には回ってきてはいないが、明らかに森の方向ではなく、先程よりも近くでまた歌いだした為、オレは窓からの侵入は諦めて、想定していた通り兵舎の正面方向へと回り込む事にした。


 ……しかし、今度ははないちもんめの一節かよ……普通ならオレが歌を返す番になるけど、乗る訳ないでしょ!?


 それにしても、あの聡明だった樋口さんが此処まで変わってしまうだなんて……これが因果の力を持った代償なのか……?



────オネガイ……ワタシ、マダシニタクナイノ……タスケテ……


 少し体力的にゆとりが出てきた事と、多少距離が空いた事で精神的な余裕が生まれた事が重なった為だろう。


 再び兵舎と本館の連絡通路にまで来た辺りで、ふと変貌してしまった友達の様子に言葉にならない思いが湧いた直後、オレは都合何度めかも分からない誰かの声を聞いてしまう。



 ……え?何だ、今の……また幻聴なの……?


 でも、明らかに樋口さんのモノとも、森に響いているモノとも違う声だったぞ……?


「なぁに〜……?誰かいるの〜……?」


 しかも、彼女にまで聴こえている……?


 何なんだよ、一体……と、とにかく、考えるのを後にして、先に兵舎へ入ってしまおう。


 



 理解の及ばない現象が立て続けに起きるからか、普段ならパニックを起こしても不思議ではない出来事にも比較的落ち着いて立て直しつつ、オレは目の前にある兵舎へと慎重に足を踏み入れた。



「もういいか〜い〜……まぁだだよぉ〜……」


 すると、兵舎の入り口に入ると同時に再び樋口さんの声が響き、内容からも彼女が既に正気を失っているように感じた直後、ふいに視線を向けた先に偶々あった姿見に映る自分の顔を見て、オレは腰を抜かしそうになる。


「う、嘘だろ……何で……オレの右目も……赤く……!?そんな、まさか……」


 見間違えたかと思いつつも、樋口さんがまだ近くに来ていないのを確認してから、オレは改めて鏡を覗き込んだのだが……


「クソッ……マジかよ……」


 ……そこに映るオレの瞳は、何故か片方だけが爛々と輝き、微かに明かりの灯る兵舎の中でも、樋口さんのソレと同様に真紅の怪しい光を放っていた。


 気のせい……じゃ、なさそうだな。


 けれど、考えてみれば庭に出るまではアレだけ息が上がっていたのに、その後容易く走り回れたり等等、思い当たる節はある……


 そうか、だから担いでいるアルマの重さを感じなくなったんだ……って事はどうやら、オレにも余り時間は残されていないらしい。


 だけど、それならば尚更……その時が来るまでは、アルマだけでも守り抜くさ。




 己の身に現れた破滅の兆候に一瞬呆然としかけるも、逆に今の状況であれば体力的に逃げられなくなる事は無くなりそうだと思い直し、オレは近くにあった地下室へと伸びる扉に手を掛けたのだった。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 9月13日(日)18時となり

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。