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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記63

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 ……とはいえ、立ち上がれはしたものの、一歩たりとも歩けないのだけどな!


「……なるほど、ただの悪あがきのようですね。こんな事は初めてでしたので、少々大袈裟に驚いてしまいましたが、その様子では何も出来ないでしょう。」


 速攻でバレてる……!?


 いやまぁ……膝ガクガクだから、当然なんだけどさ!?


 だが、こんな状態でも後先を考えなければ、何とかもう一度体当たりぐらいは……


「もう油断はしないと言った筈です。大人しく寝ていなさい。」


 ……と、オレがそう考えた直後、クレイは煩わしそうにオレを蹴り倒す。


 クソっ!やっぱり、立っただけじゃどうにもならねぇのかよ!?


「……本当に、あなた方には驚かされますが……しかし……ふむ……?ひょっとすると、あなた方のどちらかがあの厄介な獣だったのかもしれませんね。あの犯罪者にも相当手を焼かされましたので……」


 何とか立ち上がらなければ……!!


「……しかも、貴方に至っては意識を保つだけでなく、立ち上がってくる始末……やはりこれ以上は余計な事をせず、意識を失うまで因果の力を奪っておくべきでしょうね。」


 クレイはそう言うと、床に転がっているオレにゆっくりとした足取りで近づいてくる。


 こ、この流れは不味い!?やられる!!


「……チクショウ……」


「マサトくん……逃げて……」


 だけど、もう立ち上がる事なんて……クソッ、どうにもなんねぇのかよ……!?


 秘められた力の覚醒だとか、都合の良い助っ人だとか……ご都合展開なんて、早々起きちゃくれないのは分かってる。


 分かってるんだよ……けど……けどさぁ?


 オレはどうなってもいい……だから、せめて……二人だけは……アルマと樋口さんだけでいいんだ……誰でもいいからさ……オレの大切な最後の友達だけは……助けてくれよ……


「安心なさい。かの者曰く、貴方は最後に殺される事になっています。だから一度気を失えば、もう目覚める事もありません。」


 ああそうかい!?ご丁寧にどうも!!


 クソ野郎が!!


「では……良い夢を……」

「ダメ……やめて……」


 ごめん、アルマ……ごめん、樋口さん……


 地面に転がるオレを見下ろしながら、益々厭らしい笑みを浮かべたクレイが、再びオレの頭を掴もうとその腕を伸ばそうとした……その時だった。


「アァアアアアァァァ!!!!」


 ───突如として、石室内に正体不明の叫び声が響く。


「な……!?何故!?」


 どうやら、流石のクレイもこの事態には驚いたらしく、手を止め石室の入り口へと視線を向けたのだが……次の瞬間、ヤツのそれまで浮かべていた勝ち誇ったような笑みは消え失せる。


 ……クレイのやつ、何を驚いているのだろう?


 クレイが完全に動きを止めた事で、オレも声の出所を探る余裕が出来た為、どこかで聞き覚えがあると思いつつも、オレも何とか頭を動かし視線を入り口へ向けてみた……


 すると、開け放たれた石室の扉付近から、いつか見たオニらしき影が爛々と輝く真紅の双眸でこちらを見ていたのだ。


 う、嘘だろ!?


 この絶体絶命の状況で、オニまで来るのかよ!?


「……どうやって此処まで?……そもそも、死体漁りしかしない餓鬼に意思なんてあるはずが……まさか……?」


 餓鬼……?ゴブリンじゃなく……?


 いや、今はそんなのどっちでもいい!


 それより、あのクレイがこんなに驚いてるとなると、餓鬼ってオニは普通、意思がある行動なんてしないのか?


 確かに、以前見かけた餓鬼は食欲?に支配されていたようだけど……現れたはいいが、全く動かないし、コイツはコイツで何なんだ?


「……流石に考えすぎですね。たかだか餓鬼が一匹紛れ込んだだけです。先に始末してしまう事に致しましょう。」


 不確定な要素を極端に排除しようとする性質が故か、突然現れた予期せぬ乱入者に、クレイは思考を切り替えた様子で、入り口へと慎重に歩み寄る。


 クレイの言動からも、恐らくあの餓鬼と呼ばれたオニは、通常であるならば然程危険がないのだろう。


 事実、叫び声を上げて以降、餓鬼もこちらを見つめるだけで一切動きを見せていない為、オレもクレイ同様に段々とただ迷い込んだだけだろうと思い始めていた。


 


 ……しかし、その想像はすぐに裏切られる事となる。





「まだ餓鬼相手には試した事がありませんでしたので、折角です……どうなるのか実験してみましょうか。」

 

 ヤツはそう言うと、オレ達にしたのと同様に、餓鬼の頭へ向けて手を伸ばす。


 だが、ヤツが餓鬼の頭に触れる間際、餓鬼は素早く身体を後方へと逸らし、クレイの掴もうとする動作を空振りさせた直後、突然の事に驚いたからか、一瞬動きを止めたクレイの腹部へ向け突進を仕掛けた。


 

「馬鹿な!?」


 この事態は全くの想定外だったのだろう。


 クレイは餓鬼に押し倒されつつも、あり得ないとばかりに叫びながら、腹の上で馬乗りになった餓鬼の頭部へ向け、拳打を放つ。


 しかし、ヤツの拳は餓鬼の顔面を捉える事はなく、餓鬼は頭を左右に振る事で器用に回避した後、両の手を組み合わせてから、その両拳をまるで槌でも振るうかの如く、ヤツの顔面へと繰り返し振り下ろし始めた。


 ……これで意思がないなんて、嘘だろ?


 このオニ、明らかにクレイを狙ってやがるぞ!?


「餓鬼風情が!!」


 数度の殴打を耐えた後、余程腹に据えかねたらしくクレイは益々声を荒らげながらも、今度は動きの少ない胴体に触れて餓鬼の力を奪う方向へ切り替えたようで、再び餓鬼へ向けて手を伸ばすのだが……


 ……餓鬼はその行動を読んでいたかのように、後方へと跳ねるように飛び、クレイの腕を避けてから、ヤツの腹部へと再び飛び乗ってきた。


「ぐぅ……!?」


 何なんだ、この動きは!?曲芸かよ!?


 前に見た餓鬼とはえらい違いだな………ん?でも、コイツ……




 目の前で繰り広げられる攻防に、以前見たオニとは別物だと考え始めた直後、オレはふとヤツの胴体に見覚えのある傷がある事に気付く。




 ……アレって、もしかして……ツルギさんがつけた刺し傷、か……?あの時一瞬しか見てないから、確証は無いが……


 だとしたら、つまりこの餓鬼は……何日か前にオレ達の前に現れたのと、同じ個体……?


 あの時は、こんな動きなんてしてなかったのに……これで意思が無いとか、あり得ないって!


 この餓鬼、明らかにクレイの性質を知っているじゃないか!?


 



 その後、暫くの間抵抗しようとするクレイを嘲笑うかのように、餓鬼は少しずつ攻撃を加えては、捕らえようとするヤツの手から逃れる事を繰り返し、やがてクレイの動きが緩慢になり始めた頃……


「……一体、私は何と戦っているのですか……?」


 ……ヤツが絶望したとも取れる呟きを漏らしたのだが、その瞬間それまで以上の速さで餓鬼はクレイへ近寄り、ヤツの頭を数度殴打する。


 すると、最早体力の限界だったらしいクレイは短い呻き声を上げ、その動きを止めた。


 まさかクレイの野郎、死んだ……のか?


 ……って事は、次にあの餓鬼が取る行動といえば……多分、ヤツを……食おうとするはず……?


 


 だがそんな予想に反して餓鬼は、地面に倒れ伏すクレイを少しの間見下ろすようにした後で、近くでその様子を見ているしか無かったオレの方へと視線を向ける。


 ……え?何で、微動だにせずこちらを見てるんだ?


 目の前に自分で仕留めた獲物がいるってのに?


「マサトくん、立って……逃げないと……」


 どうやら、樋口さんは餓鬼の次の標的はオレ達なのだろうと考えたようで、逃げる事を促してきた。


 ……だが、こちらを見ている餓鬼の真紅の瞳からは、先程クレイへ向けられていたような敵意は一切感じられず、寧ろこちらに何かを訴えかけているようにすら思え、オレは誘われるがまま餓鬼の方へと手を伸ばす。


「マサトくん!」


「……大丈夫……コイツ、敵じゃない……」


「マサトくん……何を言っているの……?」


 コイツは、オレ達を守ろうとしている……


「ダメよ……危険だわ……!」


 何故かは分からないが、そんな根拠のない確信からか、焦りの色を隠せない樋口さんを他所に、オレは痛みを訴えてくる身体を気にもせず、地面を這いずり餓鬼へと近づこうとした。


 


「樋口!危ない!!」


 ……その時、何処かで聞いた声が石室に響くと共に、何者かがクレイの側で立ち尽くしていた餓鬼へ背後から走り寄ると、無抵抗な餓鬼を魔術刻印の方向へと吹き飛ばす。


「ア……アァ……」


 恐らくは、質量差の所為なのかもしれない……


 大型犬程の体躯だった餓鬼は、なす術もなく床を転げ回った末に魔術刻印へと触れ、断末魔のような微かな呻き声をあげて、その場に倒れるのだった。


 



 ……あ、あれ?何でオレ、あの餓鬼を味方だなんて考えて……?


 そういえば、前にもアイツに呼ばれていた事があったっけ……ひょっとして、オレ達がオニになったからあの餓鬼と同調した、とか……?





 餓鬼が刻印に触れ事切れたからか、我に返り己の身に起きた異常事態に戦慄している中、再び聞き覚えのある声が響き、新たな乱入者がオレ達へと歩み寄ってくる。


「あ、危ないところだったね……樋口……」


「どうして、貴方がここに居るの───」


 だが……その声の主は、この場にいる筈の無い……いや、違うな……


 ……既に亡くなっていると、オレ達が考え……思い込んでいた人物だったんだ。


「───森田くん……」




 今にして思えば、彼にも彼で怪しい部分はあった。


 オレに対して敵意を剥き出しにした直後に、あっさり樋口さんの説得に応じたり、かと言って別の日には急に友好的になったかと思えば、オレの背中へ殺意を向けたりとかな。


 他にも樋口さんを庇っていた、なんて噂もあったっけ。


 だから、何度か彼と接触した際に今のオレの力があれば、もしかしたらこの後の出来事は防げていたのかもしれない。


 そう考えずには、居られないのだけれど……


 


 しかしこの時、森田くんはオレ達の前に現れてしまった。


 現れて、しまったんだよ。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 8月2日(日)18時となります。

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