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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記58

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

「お……?桜井、寝てなくて大丈夫なん?」


 見送ってから恐らくは四十分程が経過した頃、両手で毛布を抱えた武田くんと、陶器製の水差しと布袋を持った青木くんが帰ってきたので、山岸さんと二人で受け取りに立ち上がるも、武田くんが少し驚いたような調子で問い掛けてきた。


「いや、コイツかなり頑固でさ……アンタらが帰るまで、今度こそ寝ないって言い張るのよ。」


 すると、武田くんの言を受け、山岸さんが青木くんから水差しを受け取りながらも呆れたと言いたげな表情で口を開く。


「……で、起きていたと……そこまで気にしなくても良かったのに。」


「だって、二人にだけ押し付けるのは……」


 先程寝てしまっていた申し訳なさから、毛布を半分受け取りつつ返すのだが、青木くん達は困ったような表情をオレへ向けてきた。


 皆がオレを心配するのと同様に、オレだって皆が心配なだけなのだけどね……


「気持ちは嬉しいけれど、今館の中は兵士も居なくてかなり静かなんだ。だから、大丈夫だよ。」


「そうそう……でもさぁ?不思議なのは、いつの間にかメイドさん達の数も減ってるみたいなんだよな。どっか行ったんかね?」


 ……兵士だけでなく、世話係も減ってる?何で?


 まさか犯人はオレ達に限らず、彼らまで殺して回ってるのか……?


「確かに……君嶋さん達や森田くんみたく、殺されたのなら多分痕跡は残るはずだけど、そういったモノも一切見当たらないし、どちらかと言うと忽然と居なくなったって感じなんだよね。」


「そいや、洗濯物を入れたカゴもそのまんま廊下に落ちてたもんな。」


「うん。他にも、飲みかけが置かれたままの部屋もあったし、もしかしたら兵士が連れて行ったのかも?」


 荷物や、居た跡だけをその場に残して、忽然と……って事か?


 慌ただしくしていた兵士といい、一体この館に何が起きているんだ……?


 だって、アイツら獣人やオレ達を見下しているだろう?


 なのに、それでも連れて行く理由って……?


 あくまで青木くんの推測ではあるけれど、人が存在した痕跡を残したまま消えるだなんて、とにかく普通ではないぞ。




 ……待てよ?そうなると、アズサさんが見当たらない理由も、その辺りに原因がある可能性があるな?


 やっぱり、探しに行った方がいいのかも。


「ほら、桜井!武田達はちゃんと帰ってきたんだから、難しい顔してないでアンタはさっさと寝なさい!」


 二人の証言から状況を必死に分析しようとしていた所為か、オレは気付かない間に相当険しい表情だったようで、山岸さんはオレが受け取っていた毛布を奪い、何故か武田くんに戻しつつそう捲し立ててくる。


 いや、だから……本当に寝ている場合では……


「見なよ!アンタのメイドの子も、こっち睨んでるじゃん!?」


「そうだぞ、桜井。こんなのは俺たちに任せて、寝とけって。」


 ……ん?どうして山岸さんが、アルマについて知ってるんだ?


 樋口さん、そんな事まで話したの?


 まぁいいけど……それよりも、現状だと状況の把握すら出来てないのだから、寝てる暇はないのだって……


「でも……」


「ふぅーん……?桜井がそんな調子なら、樋口に言うよ?言う事聞かないって……いいの?」


 ……なーんで、今樋口さんの名前を持ち出す必要があるの?


 オレが話を聞かないからって、樋口さんには何の関係もないでしょうよ?


 とはいえ、体調の悪い彼女にこれ以上心配をかけるのもな……今は素直に従っておいた方がいいか……寝れるかは分からないけど。


「分かったよ……」


「ホント、樋口には弱いのね……」


 ……何か、妙な勘違いされてない?いいんだけどさ……


 山岸さんの言葉に大人しく従って再びソファに座り直すと、何故か山岸さんがニマニマと笑みを浮かべるのだが、いちいち反応する気にもならなかったオレは、そのまま瞳を閉じる事にした。


 



「……そう?私は………だと思うけど?」


「それは……さんの勘違いよ………くんが………なのは、この子であって……私では……」


「そうかなぁ……私は……だと思うけどなぁ…………は、どう思う?」


「俺らに聞くなって……」


 んー……何か、えらく会話が盛り上がってんな?


「あ、やべ…………が起きそうだぞ。」


「もー……アンタらが騒ぐからー……」


「騒いでるのは……さんでしょ……」


 どーせオレには関係ない話だろうから、いいや……






「じゃあ、樋口?ちょっと行ってくるから、後は頼んだよー?」


「ええ。気をつけてね……」


「分かってるって……んじゃ、行こ?」


「あいよ。」


 ……山岸さんと、樋口さんが何か話してる?


 気付けばまたしても会話が聞こえたと思った直後、扉の開閉する音が響いたので、オレはゆっくりと目を開け身体を起こす。


「おはよう、マサトくん。」


「おはよ……って、山岸さんと武田くん達は?」


 すると、ベッドの上で腰掛けつつも、隣で眠るアルマの頭を撫でていた樋口さんに声を掛けられた為、返事をしながら見当たらない三人について問い返した。


「丁度、三人は白石さん達の確認と、佐藤くんの迎えに行った所ね。」


「そっか……」


 さっきの声はそういう……なるほどな。


 それと、今の時間は十八時半を回ったところか……また三時間程度寝ていたみたいだ。


「体調はどうかしら?」


「んー……大丈夫だと思う……元々あんまり疲れてるって感じはしなかったんだけどね……」


 なのに、すぐ眠ってしまったって事は、疲れてたって事なのだろうな。


 って、そんな事よりも……


「オレより、樋口さんはどうなの?」


「私も大分良くなったわ。」


「でも、まだ無理はしない方がいいよ。」


 たかだか半日寝た程度じゃ、完全には回復しないだろうしさ?


 とはいえ、離れていても血色は良くなっているように見えるから、一安心かな。


「勿論よ……でもね、マサトくん?私、ひとつ貴方に言いたい事があるの。」


「うん?」


 言いたい事?


「どうして、腕枕をしてくれなかったのかしら?」


「……は?」


 腕枕……?


「私を、わざわざお姫様抱っこでベッドにまで運んだのに?」


「何言って……」


 急にどうしたんだよ?気でも触れたのか?


「前にも腕枕してって言ったじゃない!」


 そういえば、初めて押しかけてきた時にも言っていたけど……あぁ、これはオレを揶揄って楽しんでいる時の表情だな。


 なるほどね……


「それだけ冗談が言えるなら、大丈夫そうだね。そこオレのベッドだから、樋口さんは奥の部屋へどうぞ。」


「酷いわ!マサトくんが連れ込んだのでしょう!?」


「はいはい……」


 以前と同じ発言で、わざわざ元気だってアピールしてくるとか……器用なんだか、不器用なんだか……


 彼女の言葉を真に受けず流すように返すと、樋口さんもそれ以上冗談を言うのは諦めたらしく、深く息を吐き出してから何処か思うところがある様子で、口を開く。


「……こんなやり取りを、何日か前にも此処でしていたわね……そんなに時間は経っていない筈なのに、もう随分と昔の出来事みたい……」


「そうだね……」


 樋口さんと出会った後から、色々と起こりすぎていたからな……そう感じてしまうのも、分かるよ。


「ごめんね、マサトくん……」


「急にどうしたの?」


「私の事情に、巻き込んでしまったから……」


 あー……なるほど?


 でも今の状況って、別にキミの所為ではないと思うけれどね?


「樋口さんが謝ることじゃないでしょ。クラスメイトを殺して回ってる奴が悪いんだし?放っておいても、巻き込まれていたと思うよ。」


「……そちらではないわね。山岸さん達との確執やらに巻き込んだ方よ。」


 そっちかぁ……まぁ、そちらも今更かなぁ……


「それは、別に気にしてないかな。」


 それに、どっちかと言うと嘘ついてた方が気になるがね?


 どうして、自分がいじめの主犯だって言ったのさ?


 ……なんて、そんなの樋口さん自身、原因が自分にもあったと理解しているからなのは、今なら分かるのだけども。


「貴方なら、そう言うと思っていたわ……貴方は、優しいから……」


「だから、優しくなんてないってば。」


 前にも言っていたけどさぁ……オレはただ、卑怯者にはなりたくないだけであって、別に優しいわけでは……


「そう思っているのは、貴方だけよ?私だけでなく、山岸さんも、青木くんや武田くんも……アルマちゃんだって、貴方が優しい人だと知っている。だから、皆私達と一緒に居てくれるの。私だけだと、多分こうはならなかった筈よ。」


「大袈裟な……だとしたら、皆買い被りすぎだ。」


 面と向かって言われるとかなり恥ずかしかったので、思わず顔を逸らしてしまうオレを他所に、彼女は少し間を置いてから続ける。

 

「私ね……貴方を頼って、本当に良かったって……そう思っているわ。私自身も、変われているような気もするの……」


「樋口さん?」


 彼女は真っ直ぐにオレを見据えてそう呟いた後、迷うような様子で丸まって眠るアルマへ一瞬だけ視線を向けてから、一際真剣な表情でこちらを見つめるのだが……


「わ、私ね……貴方の、事が……」


 ……殆ど聞き取れないような声量で何かを言い掛けたかと思えば、突然首を左右に振ってみせてから、何故か俯いてしまった。


「どうかしたの……?大丈夫?」


 また具合でも悪くなったのかな?


「何でも、ない……ねぇ、それよりマサトくん?私、少し気にかかる事を思い出したわ。」


「気にかかる事?」


 顔色は大丈夫そうだが……まぁ、流石に今は無理をしないと思うし、様子見かな。


 それより、何を思い出したというのだろう?


「ええ。クレイについてなのだけど、あの人……カルマが、無いのよ。」


「うん?アイツ普通の人間らしいから、無くてもおかしくないんじゃないの?」


 単に無いと言っても、完全に無いなんて話ではないでしょ?


「いえ、普通の人間でも微かにあるわ。事実、昼間報告に来ていた兵士ですら、僅かでも確かにモヤが見えていた……けれど、隣にいたあの人からは一切出ていなかったの。」


 マジで……?


 アズサさん曰く、因果の力は漏れ出した魂からの波動……だよな?


 生命力そのものだから、無くなると死ぬ……だっけ?


 なら、アイツは死人って事?


 んなアホな……


「人だろうが、動物だろうが、獣人だろうが生き物はみんな持ってるモノなんでしょ?だったら、アイツって何?ゾンビ?」


「私に分かる訳がないじゃない……あの人に会ったのは四度目だったけれど、ああやって他の人が真横に来ないと、違和感って案外気付かないものなのね……」


 街に行く前、アイツが部屋に来た時樋口さんは寝ていた筈だから、一度目は街に行く直前、二度目は街から帰ってきた際、三度目は清水さんの遺体確認で、四度目が君嶋さん達の部屋の前……かな?


 どれも短時間の接触故に殆ど言葉を交わさないか、まともな状況では無いかのどちらかだし、そもそもカルマ関連を知ってから初めて遭遇したのが四度目だから、気付けなかったのだろう。


 ……いや、だからどうなんだ?


 アイツが普通ではないなんて、今更じゃない?


 ツルギさんにも気をつけるよう言われてはいるけれど、どう気をつければいいんだって話よ。


 警戒するに越した事はないけどさぁ……


「後は、犯人についても……気にかかるわね?マサトくんは、本当に小川くんが犯人だと思う?」


「……正直、よく分からない。」


 そうなんだよねぇ……そちらもそちらで噛み合わない情報ばかりが散らばっている所為か、幾ら照らし合わせてもしっくりこないからなぁ……聞かれても返答に困るわ……


「そうね……私もよ。ただ、一つ言えるのは、相手が相当な怪力だって事ぐらいかしら?」


「怪力、か……」


 確かに、抵抗する人間を勢いのままに繰り返し壁へ叩きつけたり、人を引き摺ったり、短時間で易々と首をへし折ったりと、化け物じみた力の持ち主ではあるが……


「名付けるのであれば〝パワー〟か〝フォース〟……辺りね。前者だと芸人っぽいから、私としては後者がオススメよ。」


 なんか、久々に樋口さんの口からコレを聞いたな……しかし後者も後者で、ある作品が頭をチラつくのは気のせい……?


 それに、怪力ならストレングスでもいいような……多分、わざとだろうけどさ……実際、こちらも人智を超えた力には見えるし。


「仮に、怪力だとして……何で、単独でいた森田くんだけでなく、一番大きなグループだった君嶋さん達を、オレ達より先に狙ったんだろう?」


 柴田が殺したと判明している斎藤や、柴田自身と近藤くんを除けば、清水さんの件も含め、恐らく残るクラスメイトの被害全てが同一犯で間違いないと思うのだけど……


 小川くんは本気で樋口さんを恐れていたように見えたから、やっぱり納得がいかないかなぁ?


 とはいえ、樋口さん自身には手を出して来ないし、何よりストーカーが犯人なら彼女の側に居るオレが何で無事なの?


 うーん……だとしたら、ストーカーが犯人だって説そのものが、そもそも間違っているのか……?


「さぁ……?動機なんて、私に分かる訳がないじゃない……」


「いや、尋ねてるつもりは無いよ?どうしても、そういう諸々が引っかかっててさ……」


「そうね……ひょっとしたら、私達が考えているような理由では無いのかもしれないわ。」


「と……いうと?」


 ……どういう事だ?


「久我くん達や宮坂くんのように、因果の力の影響でおかしくなったり、願望が強くなった果てに……だったとしたなら、推測する意味が無いのよ。」


「なるほど……」


「ただ、森田くんの部屋の惨状や、わざわざ窓を開けて外へ脱出している事を鑑みれば、最低限の理性はあるはずね。」


 言われてみれば、因果の力由来のセンは考えてなかったな……もし、殺人願望を持つ人間が紛れ込んでいたとしたなら……か。


 もしくは、恐怖心でおかしくなってしまった……とか?


 そう仮定した場合、彼のあの様子なら小川くんが犯人だとしても不思議ではなくなるな……


 いや……?でも……うーん……それだと、一番最初に起きた清水さん殺害が、浮くのでは……高橋くんや南くんの殺害だって……


 小川くんとオレ達が会ったのは今朝が初めてだから、それよりも前の様子は分からないとはいえ、友達まで手に掛けるものかね……?

 



 その後も暫く頭を悩ませ続けたが、結局答えは出る事もなく、無言のまま時間だけが過ぎていき、気付けば三人が部屋を後にして三十分程が経過しようとした頃、不意に樋口さんが口を開いた。


「そろそろかしら?」


「ん……?何が?」


「いえ、山岸さん達が帰ってくるとしたらよ。」


「多分……そうだね。」


 武田くん達が二人だけで行った時は、大体四十分から一時間ぐらいだったし、また食堂に行ってから戻るにしても、そろそろ帰ってくる……はず。


 心配だからあんまり出歩いて欲しくはないけれど、白石さん達や佐藤くんを放っておけないのも分かるからな……難しい所だ。


 まぁ、三人が戻る前に一応これだけは聞いておくか……ちょっと気になるし。


「……あっ、そういや、オレが寝てる間に随分会話が盛り上がっていたみたいだね?」


「も、もしかして……聞いていたのかしら……?」


「ううん?何か騒がしいなーって思っただけで、内容までは分からないけれど……」


 ……あれ?何か、焦ってない?


「そ、そう……良かった……」


「え?」


「何でもないわ!気にしないで頂戴!」


 何で更に焦り出しているのだろう?オレに聞かれたら拙い話なの?


 ……何か、ちょっと釈然としないな?


「ねぇ……それってさ?もしかして、オレの悪ぐ…」


 そうオレが苛々を隠しきれずに、彼女へ問いかけようとした刹那だった……


───タスケテ!ヒグチ!


 ……恐らくは、山岸さんのモノと思われる、三度目の幻聴が聞こえてきたのだ。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 6月28日(日)18時となり

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