外典 決意Ⅲ
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「お初にお目に掛かります。この度、身の回りのお世話を申しつかりました、ナギ……と申します。以後お見知り置きください。」
「は、はぁ……」
目の前の女性が丁寧な口調で自己紹介をした後でお辞儀をするのだが、兵士達との落差が酷かった為に、俺は思わず気の抜けた返事を返してしまう。
「……もしよろしければ、貴方様のお名前をお聞かせ頂けますか?」
すると、ナギさんは俺が緊張していると考えたからか、柔らかな笑みを浮かべつつそう尋ねてきた。
「あ、えと……近藤、ヒロト……です。」
「では、ヒロト様……と、お呼びしても構いませんでしょうか?」
「あ、はい……」
やっばいな……何でこんなドキドキしてんだよ、俺……
同級生の女子と違って、大人の女性って感じだからなんかな?
「それでは、ヒロト様にはまずこの館についてご案内をさせて頂きたいと存じますが、宜しいでしょうか?」
「お願いします……」
「かしこまりました。」
彼女に問われるがまま、素直に頷くしか無かった俺は、その後館の中で俺達が使ってもいい場所を案内されたのだけど……
……正直、浴場以外はあまり覚えていない。
途中で外がどうこうとか、言われていたような気もするんだけど、何故なんだろうな?
「……以上で、建物内のご案内は終了となりますが、何かございますか?」
「だ、大丈夫です!ありがとうございます!」
そうして一通りの案内をしてもらった後で自分の部屋へ戻ってくると、ナギさんは再び柔らかな笑顔を浮かべつつ、俺に尋ねてくるのだが……
まぁ、浴場を使いたい時は何時でもナギさんに言えば、中で着る為の服を用意してくれるだとか、食事は部屋でも食堂でもどちらでもいいだとか、大した話では無かったしどうでもいいか。
……って、あれ?ちょっと待って?よく考えたらいつでも言えばって、おかしくね?
「では、私はこちらに控えておりますので、ご用命の際はご遠慮なくお申し付けください。」
そう言うと、彼女は部屋の出入りには差し支え無いような位置に立ち、再びこちらへお辞儀をして見せた。
はぁ……?
「え?ナギさん、ずっと此処にいるんですか……?」
「はい、そうですが……」
知らない女性と?二人きりで?過ごすの?これから……?
無理無理無理無理!!
「えっと、それは……ちょっと、困る……というか……」
「何か、ご不快でしたでしょうか?」
「あ、いや……そうじゃなくて……」
不快とかそういうんじゃなくてさぁ!
ほら、えーっと……ねぇ?
「もし、こちらで控えている事がご不快と仰られるのであれば、私は外におりますが……」
「そ、そうじゃなくて!!」
あーもう!!
「……緊張、するから……」
「でしたら、やはり外で控えておりますね。」
「いや!だから、そんな事しないでよ!……ください……」
それだと、なんか俺が外に立たせてるみたいでイヤじゃん!!
……と、俺がそう考えつつナギさんに返した直後だった。
───コンコン
不意に、部屋の扉をノックする音が室内に響く。
「はーい!」
た、助かった……
ナギさんとの会話の緊張感に耐えられなくなりつつあった俺は、来訪者が来た事に胸を撫で下ろしつつ、ナギさんより先に誰が訪ねてきたのかも確かめないまま、部屋の扉をあける。
「ヒロトくん、遊びに来たよ!」
「……中村さん?どうしたの?」
……すると、そこには何故か中村さんが一人で立っていたのだった。
昨日の事もあるから、ちょっとアキトを期待してたんだけど……って、何で中村さんがいきなり?
「私が遊びに来ちゃ、ダメ……?」
「いや、それは別に……ってか、俺の部屋を何で知ってるん?」
「それはー……さっき、ヒロトくんがお部屋に入って行くのが見えたから……私、まだ皆のお部屋知らないし……」
あー……なるほどね?
ついさっき戻ってきたのを見ていた、と……にしても遊びに来たとか言いながら、何で中村さんは俺越しにナギさんばっかり見てるんだ?
まぁいいけど……
「ねぇねぇ、それよりヒロトくん?忙しくないなら、私とお話でもしない?」
そうだなぁ……特に用事も無いし、ナギさんと二人きりじゃなくなるから断る理由も無いかな。
「いいよー……んじゃ、折角だから中へどうぞ?」
「ホント!?ありがと!お邪魔しまーす!」
「では、私はお飲み物を用意して参りますね。」
「あ、はい……お願いします。」
「お構いなくー。」
立ち話もどうかと思い、中村さんを部屋へ招き入れた直後、ナギさんが飲み物を用意してくれると言うので彼女へと頼んでから、俺と中村さんは暫くの間、ソファで向かい合い他愛もない話をしていた。
……ちなみに、ナギさんの持ってきてくれたお茶は、どうもリラックス効果のあるハーブティーだったらしく、中村さんが少し興味を持ってナギさんの話を聞いていたのが印象的だったな。
その後の彼女の話によれば、何でも姉妹の影響でアロマキャンドルやらに興味があるようで、ハーブティーもその対象なのだとか……
俺には分からん世界だから、テキトーに相槌うってただけなんだけどさ……ちょっと意外な一面を見たような気持ちになったっけ。
「じゃあ、また遊びに来るね!ヒロトくん!」
「うん。またねー。」
そのうちに昼食前になったからか、中村さんは自分の部屋へ帰ると言ったので、俺は彼女を見送ってから再びソファに腰掛ける。
……でも、中村さん何で俺の部屋に来たんだろ?
清水とか、他にも仲良い奴は居るのに……?
「やっと帰ったわね、クソガキが……」
……うん?今、ナギさんが何か呟かなかった?
「如何なさいましたか?」
「いえ、何でも……」
何か怖い顔してたけど気のせいかな、多分……
「では、ヒロト様……もう間も無く昼食のお時間になりますので、ご案内致します。」
「あ、はい。お願いします……」
素知らぬ顔でまた大袈裟にこちらへ頭を下げたナギさんに、それ以上は尋ねる気にもならなかった俺は、案内されるがまま再び食堂へと向かった。
「あれ……?アイツ、何してるんだろ?」
そうして、ナギさんの後ろをついていき食堂の前に来た時、何故か食堂の入り口から中の様子を伺っている清水らしき人物の後ろ姿を目撃する。
「おーい?清水?そんなとこで、何してるん?」
すると、俺がいきなり背後から声を掛けたからか、その人物は恐る恐るこちらへと振り向くのだが……
何でそんなにビクビクしてるんだろ?
飯なんだから、早く入ればいいのに……
「ひっ……!?」
……彼女の様子にそんな事を俺が考えた直後、清水は俺と一緒にいたナギさんを見るや否や、短く悲鳴を上げて、一目散に何処かへと走り去っていった。
え……今何があったのよ?マジで何なんアイツ……?
まぁ……いいか……多分、樋口が居ないか探ってるうちに声掛けられたから、驚いただけだろうし。
「……ってな事が、さっきあったんよね。」
「そっかぁ……私もアカリちゃんと全く話せてないから、ちょっと心配だね……」
昼食を終え部屋で寛いでいると、またしても中村さんが訪ねてきた為、俺は食堂前での出来事を話した所、彼女は朝以来清水を見かけていないようで、少し困ったような表情で頷く。
……昼食時に居なかったのは清水だけじゃなく、桜井、樋口、アキトの四人に加え、朝の説明までは居た筈の宮坂、久我、神谷の三人もなんだよな。
宮坂はともかく、久我と神谷は別にノリも悪くはないし、友達も比較的多い方だから、顔を出さないってのはちょっと変な話だけど……
それより、アキトの奴……何処にいるんだろ?用事があるんじゃなかったのかよ?
「ヒロトくん……?どうかしたの?」
「あぁ、いや……清水だけじゃなくて、俺もアキトと話せてないからさ……どうしてるのかなって……」
「そうね……私も柴田くんを見てないもんなぁ……」
「そうだ、中村さんもさ?もしアキトを見かけたら、俺に教えてくれない?」
「うん、勿論だよ。その時は、ヒロトくんが心配してたって、私からも伝えておくね!」
「ありがと。助かるよ。俺も清水をまた見たら、中村さんが心配してたって伝えるね。」
全く……中村さんにまで心配かけるとか、アイツは今何やってんだか……
それから、中村さんとは昼前同様に夕飯の直前まで他愛もない話をした後、俺はまたナギさんに食堂へと案内されたんだけど……夕飯時になっても、アキトは姿を現さなかった。
とはいえアキトだけでなく、昼食の際に居なかった七人全員がそのまま居なかったんだけどさ?
昼間に清水を見たから、皆が皆行方知れずって訳でもないし……一体何がどうなっているのやら……
───コンコン
夕飯も終わり特にやる事もなく、ナギさんともどう接していいのか分からなかった俺は、暫くの間ソファに腰掛け考え事をしていると、不意にノックの音が響く。
……ん?誰か来たな?
また中村さんかね?
恐らくは彼女が再び来たのだろうと考え、出迎えようとするナギさんを制止して、俺が代わりに扉を開けた。
「……あれ?アキト?」
「う、うん、ヒロト……ちょっといいかな……」
……すると、そこに立っていたのは……アキトだったんだ。




