手記57
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「……えり〜。」
「…だま〜。」
……うん?誰かが、話しているような……
…………あっ!?
しまった、拙い!!
誰かの会話する声で目を覚ましたオレは、いつの間にか寝てしまっていた事に気付き慌てて身体を起こすと、丁度帰ってきたらしき布袋を持った青木くん達を山岸さんが出迎えていたようで、三人が驚いたようにオレへと視線を向ける。
「起きちゃった……おはよ、桜井……ごめん、起こしちゃったね。」
「山岸さん、オレどのくらい寝てた!?」
「んー……多分、一時間ぐらい?青木達が行った直後からだし、そんなもんだよ。」
「一時間も……こんな時なのに、オレだけごめん……」
あんなに警告した後だというのに自分が寝落ちしてしまった為、青木くん達を心配していなかったようにも感じてしまい、オレが思わず謝罪を口にすると、三人が困った様子で口を開いた。
「桜井も疲れてんだから、仕方ねーよ。」
「そうだよ。桜井くんもかなり顔色悪かったからね。まだ休んでた方がいいって。」
「それに、桜井が寝たおかげで樋口も寝る気になったんだから、寧ろそれで良かったんじゃない?」
……どうやら、樋口さんだけでなくオレ自身も相当心配されていたらしい。
慰めるというよりは、労うといった様相で三人が口々に告げるのだが、どうにも申し訳なさが先立ってしまう所為か、彼女達の顔をまともに見れそうにもなく、オレはついつい顔を伏せる。
なんせ、授業中の居眠りとはワケが違うからな……樋口さんがああなっている以上、オレがしっかりしないといけないのに……オレって奴は……
「……アンタら、ホント似てるわ。」
似てる……?何の話だろう?
……いや、それより二人が無事に戻ってきて良かった……って、アレ?ところで、肝心の佐藤くんは……?
「そういえば、佐藤くんが居ないけど……佐藤くんは?」
「カナデは寝てたから、そのまま部屋に残してきてあるよ。」
「え……?そのまま……?」
殺人犯が彷徨いているのに……?ほったらかしにしたら、拙いような……
「うん。勿論危険なのは分かってるんだけど、館中見回しても小川くんの影すら見当たらなかったから、もしかしたらもう此処には居ないんじゃないかなって……」
「俺ら、通路と見てない部屋を一つずつ見て回ったんだけど、殆ど空室かメイドさんが居るかのどっちかだったわ。」
「しかも、部屋を確認してる間、リクには通路を誰か通らないか見てもらってたんだ。でも、誰も通らなかったみたいだから、見逃してるのは考えにくいね。」
なるほど、確かにどっちかが警戒しつつもう片方が調べていたのなら、確実とは言えないまでも館の中を彷徨いている点については考えにくくなるのか……それでも、窓から出入り出来るから安心出来ないのは勿論だとしても。
……あと一応、これも聞いておくべきだな。
「外は……?」
「館の外や兵士達の居る所までは見てないよ。だけど、沢山の兵士達が槍を持って走り回ってたから、そんな所には行かないんじゃない?」
二人はまだ拘束魔術の影響下だから自ら館の外へ行かないだろうけれど……兵士達が武器を持って走り回ってたって部分は、ちょっと引っかかるね?
やっぱりオニでも出たのか……?
「地下へ降りるとこにいた兵士も居なくなってたから、やっぱりモンスターか何かが出たんじゃねぇの?」
「かもしれない……」
石室前の見張りまで居ないとなれば、ますます何かが起きている可能性は高いが……
……待てよ?これってまさか、アズサさんが見つかってしまったのではないだろうな……?
「……それと、山岸さんごめん。白石さん達の説得は上手くいってないんだ。また行くつもりではあるけれど、君嶋さん達が亡くなったって言ったら、二人共取り乱して話が出来る状態じゃなくなってさ……」
「そっか……」
「暫くしたら落ち着くと思うから、また後で行ってみるけどね。」
「なら私も行こうか?」
「いや、山岸さんは樋口さんに付いててあげてよ……桜井くん、どうしたの?大丈夫?また顔色が悪いよ?」
最悪の想像が頭を駆け巡り、思わず考え込んでしまったオレの表情が余程気に掛かるのか、青木くんが窺うようにしてオレを気遣うものの、アズサさんについては説明しづらい為、オレはついつい言葉を濁してしまう。
「あ、うん。大丈夫……」
「マサト!おきる、は、ダメ!ねる!」
だが、青木くんがオレを心配するような言葉を言ったからか、寝息をたてる樋口さんを見守っていたアルマが慌ててオレに駆け寄ってきてオレの腕を取ると、グイグイと引っ張って奥の部屋へ連れて行こうとし始めた。
待って!?今は休んでいる場合じゃないんだって!!
「ほら、その子も心配しているみたいだし、ね?樋口は私とその子に任せて、アンタは休んでて。」
「いや、でも……」
もしかしたら、アズサさんが危ないかもしれないのに、本当に寝ている暇なんて無いのだけど……寧ろ、現状は彼女と協力してすぐにでも魔術刻印を破壊するべきなのに。
……なんて山岸さんに説明しても、伝わらないとはいえ、アルマも睨んでいるし……どうしよう、コレ?
「マサトくん……」
「樋口さん!?」
「もう!桜井が騒ぐから、樋口が起きちゃったじゃん!!」
「ご、ごめん……」
「ミオ、おきる、ダメ!」
「大丈夫よ、ちょっとだけだから……マサトくん……こっちにきて。」
目を覚ましたとはいえ、まだベッドからは起き上がれないにも関わらず、樋口さんが寝たままオレに近くへ寄るように手招きをした為、オレは恐る恐る彼女に顔を寄せてみる。
「……アズサさんは、多分大丈夫。恐らく……彼女は兵舎にいるわ……」
「え……?」
すると、樋口さんはオレの心情を察したのか、息も絶え絶えにそんな事を耳打ちしてきた。
「そもそも……彼女は、兵士に抗ったりは出来ないのだから、追われているというのは考えにくいの……」
あっ……言われてみれば本人曰く、アズサさんって獣人としての力は相当弱くて人間と大差無いって話だから、兵士達が慌てて追いかけるような相手ではないって事か。
「だから、ね……?今はまだ、待ちましょう……」
それに、探るのであれば食堂よりは兵舎だとは思うからね……建物自体は館の中心では無いにせよ、例えばあの死体安置所のある長い地下道の先だとかで、色々考えられる訳だし。
「……分かった。」
「樋口の言う事は素直に聞くのね……」
心配が尽きないとはいえ、冷静に考えれば思いつくような事すら見逃していたなんてな……やっぱり、皆が言うように今はオレも休んだ方がいいのかもしれない。
「……あ、待て待て桜井。とりあえず寝る前に、パンだけでも食っとけ。調理場から持ってきたから。」
まだ辛そうにしている樋口さんにも諭され、再び休む気になったオレは、奥へ連れて行こうとするアルマに断りを入れてから、先程まで眠っていたソファに再び腰掛けると、武田くんが手に持っていた布袋からパンを取り出し、オレに手渡す。
「うん。」
そうか、いつの間にかお昼を回っていたのね……まだ腹は減っていないが、いざって時に動けないと困るから、ここはお言葉に甘えて頂くとしよう。
「私の分は?」
「勿論、全員の分を持ってきてあるよ。」
「ジャムみたいなのは見当たらなかったから、置いてあったパンだけだけどな?」
「えー……マーガリンも無いの?」
「贅沢言うな!」
判るところに置いてあったのなら、このパンはもしかしたら、アズサさんが予め用意しておいてくれた物なのかもね……
そうして、オレは三人のやり取りを眺めながら手渡されたパンを食べた後、ソファに腰掛けたまま再び瞳を閉じた。
「……んじゃ、そろそろカナデの様子を見に行ってくるよ。」
「よろー……あ、ついでに水も汲んできてー。」
「分かってるって。」
「山岸さん、他に何か必要な物はある?」
「えーっと……出来たらタオルが何本か欲しいかな?後、人数分の毛布も。」
「おけー、他の部屋から持ってくるわ。」
気付けば再び誰かの会話する声が聞こえたような気がして目を開けると、部屋の入り口で武田くん達が立ち話をしている所が目に入る。
……オレ、また寝てたのか。
「いってらっしゃい……」
「おう!」
せめて、見送るだけでもしないとな……
そう考えて彼らの背中へと声を掛けるオレへ、武田くんは振り向いて応えたのだが……
……やっぱり心配だな。
「ねぇ、やっぱりオレも……」
「さっき樋口から聞いたけど、昨日桜井も寝てなかったんだろ?なら、俺たちに任せとけって。」
「そうそう。桜井くんは寝てた方がいいよ。」
つまり、オレはパンを食べてから、かなり寝ていたと……しかも、その間に樋口さんが再び目を覚まして、昨晩寝ていなかった事を話しもしていたようだ。
とはいえ、オレは昨日夕方まで寝ていたのだから、樋口さんと違い寝ていないという程では……って、よくよく時計を見れば、既に十五時を回ってるし。
軽く目を閉じていたつもりだったのに、三時間弱も経ってたのかよ……
「だから、アンタは大人しくしてなさい。」
「……って事で、山岸?樋口だけじゃなく、桜井も見張っててくれ。」
「おけまる。」
戯けたように武田くんと山岸さんが言葉を交わす中で、アルマが凄い顔でオレを見張っていた為、オレは起き上がるのを諦め、そのままソファに居続ける事にした。
その代わりって訳じゃないけど……今度こそは、彼らが戻るまで起きていよう。
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