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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記56

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 部屋へ帰るまでの道中、ずっと弱々しく抗議の声を上げる彼女を無視しつつ、やっとの思いで自らの部屋へと辿り着き、アルマに扉を開けてもらい中へ入ってから、すぐ近くにある自分のベッドに樋口さんを寝かせたのだが……


「大丈夫だって、言っているじゃない……」


 まだ言うか、この頑固者め!


「そう?なら今すぐ起き上がってみせてよ。」


 とりあえずオレは手近にあった綺麗な布で樋口さんの額の脂汗を拭いながら、未だ強がる彼女へ皮肉を込めて返した。


「……意地悪。」


「そうだよ樋口……出来もしないなら、大人しく寝てなって。」


「ミオ、おきる、は、ダメ!!」


 すると、速く浅い呼吸を忙しなく繰り返しながらも、彼女は口を尖らせつつ短く呟く。


 ……とはいえ、アルマや山岸さんも見張っているし、流石の樋口さんでもこれで暫くは静かにしてるでしょ。


 しかし、部屋に入る時アルマがノックしたのに返事が無かった事からも気付いていたけど、アズサさんは戻ってきている気配すら無いな……って、あれ?そういや、さっき食堂でも見かけてないぞ?


 あの時、確か料理の匂いもしなかったように思うので、恐らく食堂には行っていない……?


 食堂が館の中心付近にある為、そこから探すみたいな事を言っていた気もするが、もう探し終わったって事?


 ……だとしたら彼女は何処へ?無事なのか?


「桜井……樋口は私達に任せて、アンタも疲れただろうから休んで?」


 食堂だけでなく部屋でもアズサさんが見当たらない所為か、不安感からついつい樋口さんの額を拭う手を止めてしまうと、山岸さんはオレも疲れているのだと考えたようで、オレの手からタオルを奪いつつ、休むよう促してくる。


「いや、だって山岸さんは……」


 だが、休むなら親友の死を確認してしまったキミの方だろうと、つい言いかけて止めたオレに、彼女は困ったような笑みを浮かべた。


「君嶋達の事で心配してくれてるんだろうけど、私は大丈夫だから……ね?」


「分かった……」


 気を遣われすぎるのが、今は辛いのかも……樋口さんの看病で彼女の気が紛れるのなら、此処は任せるとしよう。




 



「しかし、これからどうしようか?」


「そうだな……」


 樋口さんを二人に任せ、腰の重さもありソファに腰掛けると、同じく空いてる長椅子に腰掛けていた青木くんと武田くんが、オレに視線を向けながら問い掛ける。


 ……ホント、どうしよう?


 だが、とりあえず……状況の整理からだな。


「犯人は、多分小川くん……だと、思う……」


「小川、か……」


「残っているのが僕達を除いたら、久我くん達、宮坂くん、白石さん達に加えて小川くんではあるけれど……だからって、彼が犯人だと決まったわけでは……」


 普通なら、そう考えるよね。


 特に青木くんは食堂でも外部犯の可能性を気にしていたもの。


 ……でも、正確に理解出来ている訳ではないアルマの力については説明しにくいから、此処は外部からは入れない可能性と、状況証拠から説明してみようか。


「えっと、根拠自体はあるんだよ。」


「根拠?」


「うん。まず、外部犯については、この館はかなりの数の兵士に取り囲まれているんだ……だから、無理だと思う。」


「言われてみれば……この地域って確か、最前線だって話だったからね……」


 あー……そいや、アイツら此処が対獣人の最前線だって設定をオレ達に話してたな……まぁいい、その辺りの嘘については後で何とかすれば問題はないさ。


 そもそも、最前線でオレ達を鍛えるって話自体に無理があるし。


「それに、あの兵士達ってあからさまに俺達を避けてるもんなぁ……」


「だから、犯人は僕達の中にいると……」


「そう……館が囲まれているのはちゃんと確認もしているよ。それに、モンスターみたいなのが近くにいるにしては、兵士達も騒いでないでしょ?」


 オニについては、オレ達がオニと遭遇した後のクレイや兵士の落ち着きようから見ても、恐らく対処が出来ない訳でもないようだから、除外していいと思うしね。


 ……去り際のクレイの様子は気になるが、あの態度からもオニではないだろう。


「なるほど……」


「次に、小川くんが犯人だとする根拠だけど、久我くん達はまず不可能だよね?」


「そうだね、僕も彼らには無理だと思う。」


 久我くん達は会話が出来ないどころか、多分個人の識別すら不可能な訳で。


 となれば、殺害自体が目的の行動はまず取れないから、候補から真っ先に除外だ。


「白石さん達も、君嶋さん達に遠慮……というより、彼女達を畏れている様子だったから、考えにくい。」


「まぁなぁ……」


 此処はちょっと弱い気はするが、そもそもアルマが反応してないので、これで押し切るしかないだけではある。


「残る宮坂くんは……暴行ならともかく、彼が素直に女子を殺すと思う……?」


「思わないな……というか、まずアイツ部屋の外に出てないだろ……となると、残るは……」


「そう。つまり、消去法で小川くんだけって事……」


「そっか……」


 宮坂くんについても悪い意味で印象付けられているし、これで充分説明できるのだけど……やっぱり小川くんが犯人って、妙な感じなんだよ。


 態度もそうなのだけど、何より直近まで君嶋さん達と交流があったはずの彼が、どうして君嶋さん達まで手にかける必要があったのかが、腑に落ちないというか……やっぱり、あの時追いかけておくべきだったかなぁ?




 自ら提示した推論ではあるものの、あくまで状況証拠に基づいた推測でしかない為、どうにも納得が出来ないままオレが頭を悩ませていると、不意に青木くんが口を開いた。


「……正直言うとね?僕は君嶋さん達が殺されたのを知った時、真っ先に樋口さんを疑ったんだ。」


「ケイ……お前まだそんな事を……」


「いや、とりあえず最後まで聞いて?今は違うと言いたいんだってば……あんな状態の人に、殺人なんてまず無理だよ。急に体調を崩したとかの感じじゃないし。」


「そりゃそうだ。」


 そもそも、性格上他人を恨んだりするような人でも無いのだけど……それはいいや。


 樋口さんへの誤解が解けるだけで充分だよ。


「だからね?罪滅ぼしって訳じゃないけれど、僕は小川くんを探すついでに白石さん達の説得もしてこようと思うんだ。」


「あー……確かに、宮坂とかはともかく白石達は無視出来ないか……」


「うん。それに、カナデの様子も気になるしさ?まだ一人で部屋にいるから……」


 なるほど……佐藤くんの様子見がてら、白石さん達の説得と、小川くんの確認役を引き受けるつもりなんだな?


 でも、女子五人を一気に殺害出来る相手が彷徨いているとなれば、青木くんだけでは……


「確かに、佐藤くんも気になるね……なら、オレも一緒に……」


「いや、行くのは僕とリクだけでいいよ。桜井くんは樋口さんの側に居てあげて。」


「え、いや……でも……」


 俺なんかが樋口さんの側に居ても、何も変わらなくない?


 それより、単独でないにしたって二人が心配なのだけど……


「いいから、桜井は樋口の側に居てやれ。多分、お前が居た方が樋口も安心するはずだし。」


「そうかな……?」


 アルマとか山岸さんも側に居るから、別にオレまで居なくてもいいように思うが……


「お前、マジか……流石の俺でも気付くのに……」


「何の話?」


「……俺、こんな鈍い奴見た事ないわ……」


 呆れた様子の武田くんの呟きに呼応するように、青木くんも何故か同様の表情で溜め息を吐くと、再度念押しするようにして青木くんが口を開く。


「ヒロトも大概だったけどね……とりあえず、桜井くんは此処に居て。僕達だけで充分だから。」


「わ、分かった……無理だけはしないでね?」


「勿論だよ。」


 彼らもあの惨状を見ているから、見つけても無理に追いかけるような真似はしないとは思うけど……不意に襲われる可能性だってあるから、こればかりは幾ら心配しても尽きる事は無いな……


 ……あ、後……最低限これだけは伝えておかなければ……


「……それと、もし小川くんを見つけても、兵士には頼らない方がいいよ。」


「それは、なぜ?」


「中村さんの時もそうだったんだけど、アイツら多分犯人と繋がっているからか、殆ど犯行直後に現れてるんだよ……恐らく、君嶋さん達の時もそうだったんだと思う……」


 少なくとも、オレと樋口さんは君嶋さんに二時間程前に会っているのだから、彼女達の殺害はその後……となれば、収容に手間取ったというクレイの証言からも、奴等は君嶋さん達の部屋にかなり早く辿り着いているはずだ。


 ただ、そうだとしたら森田くんの遺体が手付かずだったのは気に掛かるが……まぁ、館の中の兵士は少ないらしいから、その所為かもね。


「え?それって……」


「……要するに、奴等は敵だって事。連続でこちらより早く現場に現れるとか、どう考えたって普通ではありえないもの。」


「そんな……」


「小川だけじゃなく、兵士もかよ……」


 これは推測でも何でもなく、集めた情報からの答え故に断定の形で二人に伝えると、事情を知らない青木くん達は頭を抱えるような仕草を見せてから、すぐさま顔を上げて呟く。


「……でも、それなら尚更白石達をほっとけないな。」


「そうだね。カナデも心配だしさ。」


「……信じてくれるの?」


「当たり前だろ!友達だからな!……山岸達は頼んだぜ?」


「だね。今更だよ……じゃあ、行ってくる。」


 言葉とは裏腹に、二人の表情には明らかな緊張の色が見てとれたが、佐藤くん達を心配する気持ちも分かるのでオレが武田くん達に頷いてみせると、二人も頷き返してから部屋を後にした。


 ……頼むから、これ以上は何も起きないでくれよ。


 そう心の底で願いながら、二人の背中を見送ったのち、オレは腰掛けながら疲労感の為かゆっくりと瞳を閉じる。


 すると、昨晩寝ていないのが響いたようで、彼らを心配する感情とは無関係にオレの意識は混濁していくのだった。


よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 6月14日(日)18時となります

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