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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
瓦解 ーCollapseー

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手記55

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

 君嶋さん達の部屋の前にクレイが居る……


 その事実が指し示す最悪の事態に、樋口さんも思い至ったのだろう。


「あっ、おい!?樋口!?桜井!?どうした!?」


 山岸さんの呟きから数瞬の後、オレと樋口さんとアルマは、武田くんの呼び止める声を振り切ってクレイへと駆け寄る。


 


「……はて?あなた方は……このような場所で如何されましたか?」


「あ、あの!!ここの部屋に居た人達は……?!」


 すると、クレイは意外な人物を見たとでも言いたげな表情で尋ねてきたので、更にこちらから問い返すと、ヤツは何処か腑に落ちたような表情で口を開いた。


「あぁ……なるほど、そういう事でしたか……残念ですが、ご遺体はこちらで収容させて頂いた後ですよ。」


 残念と言う割に酷く無機質かつ、まるで連絡事項を告げるかの如く、ヤツは信じ難い言葉を口にする。


「遺体……?」


 まさか、君嶋さん達のうちの誰かが犠牲に……?


 森田くんの他にも犠牲者が居たという事実に、オレが思わず呟きを漏らした直後、ヤツが更に驚きの事実を告げた。


「ええ。一度に五人も亡くなられましたので、私どもも検分と収容に手間取りましてね……これから、報告書に取り掛かろうとしていた所です。」


 ちょっと待て……五人って事は……つまり、君嶋さん達が全員……?


 嘘だろ……


「そ、そんな……」


「アンタら、急に走って何かあったの……って、樋口……?何……?桜井もどうしたのよ……?」


 クレイの言葉で、オレと樋口さんは殆ど同時に追いついてきた山岸さんへと視線を向けると、彼女はオレ達の様子に唯ならぬモノを感じたのか、不安げな表情で尋ねてくる。


「ふむ……そのご様子では、どうやら彼女達もあなた方のお友達だったようですね。この度は、ご愁傷様でした。」


 ……その刹那、大凡考えうる限り最悪のタイミングと内容で、クレイが再び口を開いた。


「彼女……〝達〟……?ごしゅう……え?」


 奴からしてみたら恐らく悪意は無いのだろうが……心の準備はおろか、覚悟すらも無い状態で君嶋さん達の死を突き付けられた山岸さんは、呆然としつつクレイの発した言葉を繰り返す。


「ご遺体は、全て以前ご案内させて頂いた場所に安置しておりますので、確認なされたい場合はそちらへお越しください……では、私は失礼いたし……おや?」


 クレイがそう言って立ち去ろうとすると、何処からか慌てた様子の兵士がクレイに駆け寄り、そのまま耳元で何かを話し始める……


 ……のとほぼ同時に、クレイの言葉を信じたくないのか、山岸さんが樋口さんに詰め寄った。


「あ、あのさ……樋口?私、聞き間違えたのかな……今……その兵士がご愁傷様って……それに遺体とも、言った気がするんだけど……」


「……えぇ。」


「そんな……嘘、よね……?ねぇ……?」


 樋口さんの返事を信じたくないのか、山岸さんは否定してほしい様子で樋口さんを揺するのだが、樋口さんが視線を逸らして俯いたのを見て、ゆっくりと離れてから君嶋さんの部屋の扉へ近付き、ノブに手をかける。



 恐らくは、無事を確かめたい気持ちと、事実を確かめたくない気持ちが同居しているからだろうか?


 彼女は、ドアノブに手をかけた格好のまま少しの時間躊躇ってから、そっと扉を押した。


 ……その直後、部屋の中に満ちていたであろう刺激臭が一帯にまで立ち込めたかと思えば、山岸さんがその場に崩れ落ちる。



 この匂いは……これって多分、昨晩と同じ……だよね?


 昨晩、中村さんの遺体をベッドに寝かせた際にも、微かな排泄物の匂いが部屋の中に漂っていた事を思い出しつつ、オレは山岸さん越しに部屋の中を確認する……


 ……すると、クレイの発言通り部屋の中には既に遺体は無かったものの、恐らくは殺害された際に出来たと思われる床の五つのシミが、目に入ってきたのだった。


 一緒に覗いたアルマも状況を察してか、いつの間にかオレの服の裾を掴んで微かに震えているな……


「クソッ……」


 五人で居るからって、彼女達に警告すらしなかったオレが悪いのか……?


 あの時、きちんと殺人犯の危険性だけでも伝えておけたら、こんな事にならなかったのでは……?


 



「……頃合い……ですね。」


 そんな事まで考えてしまうオレを他所に、恐らく部下の報告を聞き終えたであろうクレイは何かを呟いた後、痕跡を確認した事で蹲ってしまった山岸さんを酷く冷たい視線で一瞥しつつも、共通語で部下に何かを伝えると、足早にこの場を去っていく。


 ……何だろうな?急いでいるようだったけど……いや、それより今すれ違う瞬間、クレイがアルマの方を見ていなかった?


 気のせいかな……





 


「山岸……」


「山岸さん……」


 ヤツが立ち去ったからか、それまで少し離れた場所にいた青木くんと武田くんも、山岸さんの様子が気になり近付いてくるのだが、どう声を掛けたらいいのかが分からないようで、啜り泣く彼女の背を黙って見つめていた。


 今はクレイなんてどうでもいいや……とはいえ、流石の樋口さんでも彼女へは前を向けと言えないよな……


 かと言って、こんな場所にこのままって訳にも……どうしたものかね?


「……山岸さん、とりあえず一緒に私達の部屋へ行きましょう?」


 そんな山岸さんを見かねたようで、樋口さんが彼女の隣で膝をついて背中をさすりつつ声を掛けると、山岸さんはゆっくり身体を起こし、樋口さんの胸元へ顔を埋め一際大きな声で泣き始める。


 ……これは、移動の為にオレも手を貸した方がいいのか?


「樋口さ……」


 そう考えて、樋口さんへ呼びかけようとするオレへ、彼女は首を横に振る事で応えた。


 どうやら、樋口さんは山岸さんが落ち着くまで好きにさせるつもりらしい。


 確かに、今はそうする他にないよね……




 その後、どれだけ時間が経ったかは定かではないが、暫くして泣き声も収まり始めた頃、不意に山岸さんが樋口さんから離れてポツリポツリと話し始めた。


「……あんな奴らでも、私には友達だったんだ。ぬい活始めたとか、推しの配信見たとか……全然伸びなかったけど、皆で踊ってみた事もあったかな……そんな、よくある話ばっかりでも、私は楽しかったんだ……楽しかったんだよ……」


 まだ鼻を鳴らしているからか、所々つかえながらも山岸さんは独白を続ける。


「君嶋なんてさぁ……結構遊んでる癖に勉強だけは真面目にやってるのとか、ずっと学年一位だった樋口に全く勝てなくて本気で悔しがってたのとか、私は知ってる……私だってそうだったから……」


 ……そうか、君嶋さんはそんなに樋口さんを意識していたのか。


 通ってた学校はテストの順位まではオレ達に教えてくれないのに、樋口さんの順位を知っているって事は、自ら調べて回っていたって事だからな。


 そういった樋口さんへの感情が募りに募ってしまったから、冤罪事件や数時間前の糾弾やらに繋がってしまったのだろう。


 勝てない相手に対して抱く、妬みや嫉み自体は理解出来るかもね……決して肯定はしないけどさ。


「……最初はね?ちょっとした憂さ晴らしだったんだ……そりゃ、樋口からしたらたまったもんじゃないだろうけど……でも多分、心の何処かでは悪い事だとは判ってたよ……周りからハブられるようになったのに、それでも涼しい顔をしている樋口に対して、こっちも意地になってた事も認めるよ……だから……だからさぁ……お願い……嘘だって……これは悪い夢なんだって、言ってよ……ねぇ、樋口……お願いだからさぁ!!」


 そんな慟哭が辺りに響き渡り、彼女が再び樋口さんに抱きついて啜り泣き始めると、樋口さんはやるせなさそうな表情になりながらも、山岸さんの頭をそっと撫でた。


 ……そうだな。決して褒められた人間でなくとも、だからってこんな惨い目に遭っていいはずはないよ……


 


 




「……山岸さん、行きましょう?」


「……うん。」


 それからまた暫くして、真っ赤な目のままではあるが山岸さんが再び顔を上げたからか、樋口さんが山岸さんに向け移動を促すと、今度は彼女も頷きつつ短く同意し、二人は立ち上がるのだが……


「樋口さん!?大丈夫!?」


 ……立った拍子に、樋口さんがフラフラとしながら壁に寄りかかってしまう。


「え、えぇ……大丈夫よ、マサトくん。ちょっと目眩がしただけだから……」


 そういや、樋口さんは暫く寝不足が続いていた上に、昨晩も中村さんの件で寝ていないんじゃなかったっけ……!?


 それで立ちくらみを起こしたって事か……思えば、ずっと顔色悪かったものな……


「樋口、アンタ大丈夫なの?顔真っ白だよ……?」


「大丈夫……行きましょう。」


 本人は強がって見せてはいても未だ目眩が治らないようで、山岸さんの問いに平気だと返すものの壁に手をついたままだった為、オレはアルマと二人で慌てて彼女へと近づき、一度その場に座らせる事にした。


「私は、大丈夫だから……」


「ミオ、だいじょぶ……?」


「えぇ……大丈夫……」


 これは多分……しんどいのをずっと我慢していたな……?


 疲労の蓄積と睡眠不足に加え、君嶋さん達の事が追い討ちをかけたのだろうけど……


 顔色だけじゃなく唇まで血の気が無くなっているし、額に冷や汗だって……何でこんなになるまで我慢してるんだよ?


 辛いなら辛いって、ちゃんと言ってくれないと……


「ねぇ樋口、私が肩貸そうか……?」


「山岸さん、ありがとう……でも、私は……」


「今は無理しちゃダメだって!」


 座らせた後にも独り言のように大丈夫だと繰り返す彼女へ、山岸さんが補助を申し出るのだが、当の本人は身体に力が入らないなりにも一人で立ち上がろうと壁に手を伸ばすので、オレとアルマで樋口さんの肩を押さえて制止する。


「だって……時間が……」


「そんな事を言ってる場合じゃないでしょ……」


 確かに、殺人犯があからさまに活動を始めてしまった今、時間は無いのかもしれない。


 ……けれど、だからってキミまで無理をする必要が何処にある!?自分の身すら、危ういのにさぁ!!


「なぁ、桜井?俺達も手を貸すから、とりあえず樋口を運ぼうぜ?」


「そうだね。僕達も手を貸すよ。」


「大丈夫だから……」


 何でそこまでして意地を張るんだよ!?


 あーーーもうっ!!!ホント、めんどくさい人だなぁ!!??





「えっ……?」


「おお……?」


「へぇ……?」


 彼女が余りにも周りを頼ろうとしない事に苛々が抑えられなくなったオレは、無言で座ったままの樋口さんを抱き抱え立ち上がると、有無を言わさずに歩き始める。


「あ、あの……マサトくん……下ろして……?」


「うっさい!!いいから大人しくしてて!!」


 気を抜いたら落としちゃいそうだから、動くんじゃねぇ!!


 そうして、不安定な格好だからか腕の中で落ち着かない様子の樋口さんに見上げられながらもアルマに付き添われたオレは、ゆっくりとではあるが自分の部屋へ向かうのだった。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 6月7日(日)18時となります

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