手記59
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
今のは……!?
声が聞こえたってより、山岸さんの焦りや助けを求める感情が、そのまま伝わってきたような……!?
「……ひ、樋口さん……今の……」
「今度は私にも聞こえたわ!行きましょう、マサトくん!」
山岸さんが樋口さんに呼びかけていたからか、今回ばかりは彼女へ届いていたようで、オレの声を遮りながらも彼女はベッドから降り、急いで身支度を整え始める。
「マサト……?ミオ……?」
……すると、オレ達は慌てていた為に考えているより大きな物音を立ててしまっていたらしく、目を擦りながらアルマが起き上がってきた。
「アルマ!山岸さん達が危ないかもしれないんだ!一緒に来て!」
オレは既に靴を履き終えており、このまま彼女を置いていくのも不安だったので、不思議そうにオレ達を見るアルマへ呼びかける。
すると、彼女は状況を理解したらしく、すぐさまベッドから飛び降りて、裸足のまま部屋の入り口に立ち、こちらへと振り返った。
どうやら、アレで本人としては準備万端って事らしいが……まぁ、館の中であれば素足でも大丈夫だろう。
それに、殺人犯が居るかもしれない状況で彼女を一人で部屋に残していく方が心配だしね。
「マサトくん!早く!」
「うん!」
おっと……今は考えている場合ではないな。
急がなければ……とはいえ、どうやって彼女達を探そうか?
しらみ潰しに探すなんて、切羽詰まってる状況でイチイチやってられないぞ……?
「アルマちゃん!お願いよ!山岸さんの匂いを追いかけて!」
準備を終え、先に部屋の入り口で待っていた二人に追いつくも、探すアテが全く無い事に気付き、闇雲に探している暇は無いと焦るオレを他所に、樋口さんがアルマの肩を掴んでそう懇願する。
……なるほど、確かに彼女の鼻なら匂いで追えるね。
「はい!」
樋口さんからの必死の訴えに、アルマは真剣な表情で頷き返すと、勢いよく部屋から飛び出して行った為、オレ達も彼女の背中を追うようにして走り出した。
頼むから、今度こそは間に合ってくれ!
そう内心で祈りつつ、先を走るアルマの背を樋口さんと追いかけていると、数回廊下を曲がった辺りで、彼女が武田くん達の部屋へと向かっている事が分かる。
三人は白石さん達の説得と、佐藤くんを迎えに行っていたはず……つまり、武田くん達は自分達の部屋へ行ったタイミングで、殺人犯と鉢合わせたって事か!?
やっぱり、まだ犯人は館に居残っていたんだ!
だとしたら、やはり三人だけで行かせるべきでは……
「クソッ……」
何でオレはこんな大事な時に寝てたんだよ!?
それまで数度の探索で何事も起きなかったからか、心のどこかで今回も大丈夫だろうとタカを括ってもいたしさぁ!!
ただ、犯人が潜んでいただけだというのに!
無為に三人を行かせてしまった事を後悔しつつ、アルマが武田くん達の部屋の前で立ち止まりこちらへ振り返ったのを目にした為、益々心臓が早鐘を打つのを感じながらも、オレは勢いよく彼らの部屋の扉を開ける……
……だが、オレの目に飛び込んできたのは、全く予想もしていなかった光景だった。
なんと扉を開けた先には、山岸さんらしき人物に馬乗りになって、彼女の後頭部を繰り返し床に叩きつけている佐藤くんが居たのだ。
「な……何やってんだ!!!!」
あまりの惨状に、オレは思わず山岸さんらしき人物に馬乗りになっている彼へと殴りかかる。
すると、佐藤くんはオレの怒声に驚き、一瞬身体を強張らせた状態でこちらへ振り向いたからか、丁度振り向きざまに彼の顔面へオレの拳が勢いよく突き刺さり、彼は派手に床を転がった。
クソっ!?最初に目についたのは山岸さんだったけれど、辺りを見れば壁際に青木くんと武田くんも……
「どうして……貴方が……」
「とにかく、樋口さんは山岸さんを!」
「分かったわ……山岸さん、しっかりして!」
顔の硬い部分に当たった所為で手がジンジンと痛むのを堪えつつ、想定外の出来事に困惑と怒りが混じった表情を浮かべる樋口さんへそう告げると、彼女はアルマと二人で山岸さんへ駆け寄る。
直後、オレに殴られ倒れていた佐藤くんが、鼻から血を流しつつ立ち上がってきた。
「キ、キミたちも……ウチに酷いことするつもりなんだね!?」
「何を言ってるんだよ!?酷い事をしていたのは、佐藤くんだろ!?」
「ウチが……?ウチはただ、酷い事をされたから、やり返しただけだよ!」
「はぁ!?」
三人が、佐藤くんにだって?
バカな、ありえない!!
「ウチがソイツに襲われたからやり返してたら、いきなり入ってきたリクとカナデが怒ったんだ……だから、ウチ怖くて……二人にも同じ事をしたら、今度は山岸さんが……だから……だから、ウチは悪くない!!」
……ソイツ?
佐藤くんが三人以外の知らない誰かに言及した為、彼の指差した入り口からでは見えなかったベッド脇へ視線を向けてみると、そこには世話係の女性と思しき人が横たわっていた。
一瞬、殺人犯に襲われて逆襲したのかとも考えたが……世話係が、オレ達を襲う?
アルマを含め、世話係の大半も兵士達同様オレ達を避けているのに?
しかも、怒られて怖かったからって……
「やっぱり、やっぱりだ……皆、ウチが憎いんだ……だから、桜井くんもウチをそんな怖い顔で見てるんだ……だから、ウチを殴ったんだ……」
……これは、もしかして因果の力の影響で佐藤くんもおかしくなっている……?
「友達だなんて言っても、所詮は皆……」
「佐藤くん……?」
急に俯いて何かぶつぶつと言い出したが、どうしたんだ?
「だったら!だったらさぁ!!殺される前に、ウチがやるしかないじゃないかぁ!!」
そうして俯いていたかと思えば、佐藤くんはいきなり顔を上げ喚き散らしながら、山岸さんへ呼びかけ続けていた樋口さんとアルマに飛び掛かろうとした為、オレは咄嗟に彼へと体当たりをして何とか二人を庇うのだが……
「ぐっ……!」
……思っていたより勢いがついていた所為か、鈍い音と共に短い呻き声をあげ、彼はベッド脇にあったチェストへと叩きつけられる。
やっべ……思わず突き飛ばしてしまったけど、今のぶつかり方は不味い!
「だ、大丈夫……?」
恐る恐る佐藤くんへ呼びかけるが、どうも打ちどころが悪かったらしく、彼は呻き声をあげ続けるばかりだった為、どうしようかと考えていると、いつの間にか山岸さんの胸元に耳を当てていた樋口さんが、真っ青な顔で涙を浮かべつつこちらへ向き直り呟いた。
「マサトくん、どうしよう……山岸さんが、息してない……もう、心音も無いの……血だって、こんなに……」
え……!?嘘だろ!?
慌ててオレも山岸さんの元へ駆け寄ると、先程佐藤くんが繰り返し叩きつけていた辺りに、彼女のモノと思われる血痕が付着しているのが確認出来る。
かなりの力を込めていたのだとしたら、こんなの助かるわけが……
「そんな……そ、そうだ……武田くんと、青木くんは……!?」
山岸さんの惨状に、一瞬茫然としかけるものの、まだ青木くん達を確認していなかった事を思い出し、オレは足がもつれそうになるのを必死に堪えながら、何とか彼らの側へと行き、屈んで呼吸や心音を確かめるのだが……
「……二人とも……首が、折れて……」
……恐らくは、山岸さんと同じく頭を叩きつけられたからか、壁際についた二つの血痕と共に、二人も既に事切れていた。
「なんで、こんな事に……」
たった三十分前程まで、一緒に話したりしていたんだよ?
三人とも、こんな状況で白石さん達や佐藤くんを心配するぐらい、優しい人達だったのに……何で?どうして!?よりによって佐藤くんが!?
まさか、今までの殺人も……?
いや、それは流石に考えにくい……だって、彼らは清水さんや中村さん達が殺害された時、三人で居たはずだから……
「マサト!ミオ!にげる!」
足元が揺らぐような錯覚の中、半ば現実逃避に近い形で思考に浸りかけたオレの意識を、まるで無理矢理引き戻すかのようなアルマの叫びが聞こえた直後、先程まで呻き声をあげていた筈の佐藤くんが身体を起こし、再びぶつぶつと呟き始める。
「いたい……いたいよぉ……ねぇ……何で、こんな酷いことするの……?ウチは、ただやり返してただけなのに……」
もう回復したってのかよ!?
どう見ても、脳震盪か何かを起こしてる様子だっただろ!?
幾ら身体能力が上がってるにしても、限度ってモノがあるぞ!?
「にげる!!」
……そうだ!こんな事を考えている場合じゃない!逃げなきゃ!
突然の事に茫然と佐藤くんの様子を見ているしか出来なかったオレ達二人へ向け、またしてもアルマが叫ぶと、オレ達は漸く我に返り何とか立ち上がって部屋の入り口へ向かおうとした……
「オマエら、ゆるさない……絶対、許さないからなぁ!!」
……直後、佐藤くんは憤怒の表情を浮かべ、ゆっくりと立ち上がりこちらへ歩みを進め始める。
「あれ……おかしいな……真っ直ぐ、歩けない……」
だが、どうやら先程の体当たりの影響は大きいらしく、足元が酷くおぼつかないのか、中々動けない事に対しての呪詛めいた言葉をぶつぶつ呟いているようだ。
よし!これなら逃げられる!
なら、一度逃げてから何処かに立て篭もるか、対策を練るべきだ。
……と、オレがそう考えた刹那だった。
突然、酷い頭痛と眩暈に襲われ、オレは立っていられなくなり、思わずその場に膝をついてしまう。
う、嘘だろ!?ヤバいヤバいヤバい!!
よりにもよってこのタイミングで急な体調不良とか、洒落になってねぇよ!?
……だが、幾ら焦ろうとも身体は言う事を全く聞きそうにはなく、オレの中に焦燥感だけが募っていく。
「マサト!?ミオ!?」
しかも、アルマも酷く焦ったような声でオレ達を呼んでいるから、恐らく樋口さんの体調もオレと同時に悪化したのかもしれない……
マズいな……こうなったら、せめてアルマだけでも……
「ア、アルマ……オレ達に構わず、逃げて……」
「アルマちゃん……逃げるのよ……」
「〝馬鹿!!私にそんな事、出来る訳がないじゃない!!〟」
オレ達二人が必死に逃げろと口にする中、アルマは共通語で何かを叫ぶと、逃げるどころかオレ達と佐藤くんの間に立ち塞がるようにして、割って入る。
「早く、逃げて……」
そんな彼女の背に向けて、まるで鈍器で頭を殴られたような激しい痛みの中何とか呼びかけるのだが、次の瞬間に彼女が困惑したような表情を浮かべ、こちらを見ている事に気付いた。
……どうしたのだろう?
それに、何かやけに静かなような?
いつの間にか、彼が発していた呟きが全く聞こえなくなっている事に気付き、オレは酷い痛みを堪えつつも、なんとかアルマ越しに佐藤くんの方へ視線を向けてみる。
……あれ?何で佐藤くんが、床に倒れて……?
「どういう事……?」
しかも、ピクリともしていない……?転んだのとは違うって事?
となると、やっぱり脳震盪か何かを起こしていたから……?
「これは……もしかして、上手くいった……という事かしら?」
「上手くいった?何が?」
この状況にひとり頭を悩ませていると、樋口さんが痛みで顔を顰めながらも、どこか納得したような様子で呟く。
「アズサさんよ……佐藤くんも含め、私達が同時に具合が悪くなる理由なんて、それ以外考えられないわ。」
あー……なるほど?つまり、この体調不良の原因は、刻印の破壊によるものって事か。
……オレ達にも影響が薄かっただけで、効果自体はあったのね。
「マサトくん、どう?動ける?」
「うん、もう大丈夫みたい……」
彼女の問いで、いつの間にか目眩や頭痛が治っている事に気付いて頷き返すと、彼女は良かったと言わんばかりに大きく息を吐き出して、身体を弛緩させる。
「マサト、ミオ、だいじょぶ?」
「大丈夫だよ。それより、今のうちに……」
本当に危なかったが……落ち着く前に今はまず、佐藤くんが目覚めないうちに拘束してしまわなければ。
「……そうね。」
そう考えて樋口さんへ声を掛けると、彼女も同じ事を考えていたらしく頷いたので、オレは先に立ち上がり彼女へ手を貸した後、三人で拘束の為の用意を始める。
緊急時だから仕方ないのかもしれないけどさ……友達の死を悲しんでいる暇すら、今のオレ達にはねぇんだな……
よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。
批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。
次回更新予定は 7月5日(日)18時となります。




