外典 決意Ⅱ
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「中村さん?どうしたの?俺に何か用?」
「用って訳じゃ……ちょっと外に出てみたら、ヒロトくんが居たから……」
待っていた人物では無かったからか、俺がつい尋ねると彼女は少し困ったような表情で、俺の反応を確かめるように見上げながらそう答える。
「そうなんだ。」
まぁ、中村さんとも時々一緒に遊びに行くぐらいはしている仲だから、不思議じゃないか。
俺でも見かけたら声掛けるだろうし。
「それより、ヒロトくんはこんな所で何をしているの?待ち合わせ?」
「あ、うん。アキトとね。」
「そう、柴田くんと……武田くん達じゃないんだ?」
うん?何で中村さんは俺がアキトって言った瞬間、ホッとしたような表情したんだろ?
「なんか、アキトが俺と話したいみたいだったし?まぁ、リクとかカナデとかとは明日の朝でもいいかなって……」
……あ、それより、折角中村さんに会えたんだから、お祝いでも言っとくか。
「そうそう、中村さん!アキトと付き合い始めたんだってね?俺知らなかったから、驚いちゃったよ!」
言ってくれたら良かったのに程度の軽い気持ちで俺がそう告げると、不意に彼女の表情が強張る。
「……誰から聞いたの?」
「え?いや、カナデから……噂になってるって。」
何だ?急に不機嫌になったけど……
「その噂、あり得ないから……」
「え……?」
……あれ?これは……俺、やっちゃった?
「誰が広めたか分からないけど、私迷惑しているの。だから、ヒロトくんも広めたりなんかしないでね?」
「わ、分かった……」
そっか、中村さんとアキトは別に付き合ってなんか無かったのかぁ……でもだったら、あの話はなんなのよ?
そんな内心で状況が飲み込めないままの俺へ向け、中村さんは迷惑そうに眉を顰めながら言葉を続ける。
「私もね?広まった原因は知っているの……」
「原因?」
つまり、心当たり自体はあるんかな?
「そう……実は柴田くんとは、三年生になってから通い始めた塾が一緒で、帰りに親の迎えが来るまで二人で話していたりとか、塾に行く時間が同じだから一緒に行ったりとかで……それを誰かに見られたんだと思う。」
あー……そういう事ね……つまり、理由があって二人で居た所を何度も人に見られたから、妙な噂になったと……やっぱ、人の噂なんて碌なモンじゃないわ。
てか、よくよく考えたらアキトは中村さんと幼馴染だしね……確か、親が同じ職場だとか聞いた事があるし、俺が中村さんと知り合ったのもアキト経由だもんな。
「そっか……ごめん、早とちりして……」
「ううん、ヒロトくんは悪くないよ!?悪いのは面白がって噂を流してる人達だから……」
いやいや、だとしてもだって……
確かめもせずに言ったんだから、俺も噂流した奴と変わんないよ。
「いや……お詫びにさ?本当に迷惑してるなら、俺が噂を否定して回ろうか?」
「うーん……それはそれで、ダメなんじゃないかな。」
そんな罪悪感からの提案に、中村さんは一瞬だけ考える素振りを見せつつも、あまり間を置かずに何かを呟いた。
「え?」
今何て?よく聞こえなかったけど……
「ううん、何でもない。私はヒロトくんが誤解してないなら、大丈夫。だから、そこまではしなくていいからね?」
「そ、そう?」
そりゃ、いきなり俺が出て行っても逆に迷惑か……当人もこう言ってるから、でしゃばるのはやめとこ……
「うん。それじゃあ、私はお部屋に戻るから……」
「分かった。おやすみ、中村さん。」
「おやすみなさい。」
部屋へ戻るという中村さんと就寝前の挨拶を交わし、俺は再び幼馴染が来るのを待つ事にした。
……のだが、中村さんを見送ってから三十分程が経過しても、アキトは一向に姿を見せない。
その間は他のクラスメイトが通り掛かる事もなく、ただただ無為に時間だけが流れる。
「……あれ?近藤?」
すると、アキトを待ち始めてから一時間が経とうとした頃、背後から小川に声を掛けられた。
「小川か……どしたん?便所?」
「……いや、別に……探し物、だよ……」
俺の問いかけに、小川は迷っている様子を見せながらも、失せ物探しなのだと告げる。
何か無くしたのか……うーん……なら、アキトも来なさそうだから、俺も手伝おうかな?
探してるうちにアキトが来るかもしれないし、何より暇だもんな。
「なら、俺も手伝うぜ?」
「え……?いいよ、別に大したものじゃないし……」
何で手伝うって言ってるのに、そんな挙動不審になってんの……そんな迷惑なん?
確かにあんま仲良くはないけどさぁ……流石にちょっと傷付くよ?
「いやいや、遠慮すんなって。」
「いや、ホントいいから!じゃあ!!」
「え?あ、小川?おーい……」
アイツ、何だったんだ……?そんな逃げなくてもいいのに……
その後、小川の様子を不思議に思いながらも、更に三十分程その場で待ったのだがアキトは現れなかった為、俺は仕方なく自分の部屋へと戻り、眠る事にしたのだった。
……翌朝、ノックの音で俺は目を覚ましたので、誰なのだろうと思いつつもベッドから起きて扉を開ける。
すると、そこにはメイド服を着た見覚えのない女性が立っており、どうも朝食の用意が出来たからか俺を呼びにきたとの事で、俺はその女性に案内されるがまま、皆が居るという食堂へと向かった。
「カナデ、おはよー。リクもおはよー。」
「おはよ、ヒロト。」
「おっす。」
俺が食堂に入ると、まだ早いからか居たのは十人程だったが席は疎らだった為、好きに座っていいと判断して、カナデ達と挨拶を交わしつつ二人の側に座る。
「ケイは?」
「まだー……でも、そのうち来るでしょ。」
「それもそうね。」
佐藤の返事へ更に短く返しつつ、俺は食堂に居るメンバーへ視線を向けてみた。
えっと……今居るのは、君嶋、山岸、高橋、斎藤に……宮坂、久我、神谷……と、俺達三人かな?
……って、あんなとこに樋口も居たよ……隅っこだから気付かなかった……まぁ、話した事殆ど無いんだけど。
んー……でも、アキトはまだみたいね……昨晩何で来なかったのか、聞こうと思ったんだけどなー……しゃーない、後でいいや。
「なーなー!それより、ヒロトヒロト!今リクと話してたんだけど、ウチを案内してくれた子がアイドルみたいに可愛くてさぁ!ヒロトの方はどうだった!?」
「ちなみに俺の方は綺麗な人だったぞ。」
そうやって周囲の確認をしていると、佐藤が目を輝かせながらそう告げるのだが、自分を案内した人物に全く関心が無かった俺は、つい露骨に態度に出しながら返してしまう。
「俺は半分寝ぼけてたから、あんまり覚えてない……」
いきなりそんな話振られても、よく見てないから正直覚えてないって……
「……ヒロトってさぁ、あんまり女子に興味無いよね?」
「いや、無い訳じゃないよ?……でも、誰が可愛いとか可愛くないとか、考えた事が無いんだよね……」
だから、誰かが好きだから付き合うとか、そういう気持ちもイマイチ理解出来ないんだよなぁ……
中学になってから何度か付き合ってと言われたけど、そんなよく知らない女子よりも友達と遊びたいし?
「ヒロト、モテるのにねぇ……今はヒロトがそんなんだって皆知ってるから、あんまり言われなくなったけど……前は違うクラスの女子から、ヒロトを紹介してって何度か頼まれたりしてたんだよ?」
「え?マジ?」
「マジだぜ?俺ですら一回あるし……樋口と違う意味で有名なんだよ、お前……付き合いは良いから余計にな?」
「去年のクリスマスとか、クラスの何人かで遊びに行く時に知らない子が混ざってたりしたでしょ?あの子もそうだよ?」
あー……そういやそんな事もあったっけか……言われて思い出したけど、確かやけに俺に話しかけてきた女子が居たような?
「気付いてないとは思ってたけどね……」
「まさか、ここまでとはな……」
呆れたような二人の視線に、俺はどう返していいかが分からずについ視線を逸らすと、丁度青木が俺達を見つけたからか、こちらへ歩いてくる姿が目に入る。
……た、助かった。
「おはよ、ケイ。」
「うん。三人ともおはよ……って、リク?カナデ?どうしたの?」
「ケイ、おはよ……いや、実はさぁ…」
……どうやら、俺はこの話題からまだ解放されてはいないらしい。
佐藤の話を聞いた青木も、似たような呆れた表情で短くまたかとだけ呟いて、溜息を漏らした。
いや……そんなに変な事なのかな、コレって……
釈然としないモノを感じながらも、その後に何時もと変わらないやり取りをしていると、朝食が運び込まれてきたので辺りを見回すと、此処にいる二十五人で全員集まったようだ。
桜井は……居るな?後、アキトも……まぁ、話は飯の後でいいか。
別に怒ってるわけじゃねーし。
幼馴染に特に変わった様子が無い事に少し頭を捻りながらも、俺は出された食事を食べ始めた。
「うーん……なんか、思ったよりフツー?」
「いや、不味いとかのが困るから、これでいいと思うけど……」
「そうか?俺は美味いと思うけどなー……ヒロトはどうよ?」
「俺も美味いと思う……ってか、カナデとケイが贅沢なんだって。」
「僕は別に文句言ってないよ……」
欲を言えばこのソーセージみたいなのにもう少し塩気とか、スパイスが足りない気はするけど、だからって不味い訳でもないしね。
多分、カナデとかが微妙な表情をしている理由って、その辺りじゃない?
多分、好みの問題だと思う。
家庭料理みたいだし。
そんなこんなで、賑やかに朝食を終えた直後、昨晩あの地下室で見たオッさんが現れて、不意に口を開いた。
「皆様、ご用意させていただきました食事は、お口に合いましたかな?」
「はーい!!美味しかったでーす!」
すると高橋達お調子者組が入れた合いの手のような返事に、オッさんは軽く頷いてから言葉を続ける。
「まずは先日、名乗りもせずにいた事を深くお詫び申し上げます。改めまして私、この屋敷の主人にお仕えさせて頂いております、家令のトーマと申します。以後、お見知り置きを。」
かれい……?
華麗?鰈……?うーん……何だ、カレイって?
……まぁ、いいや。トーマさんね?
「それで早速なのですが、皆様には祝福と呼ばれる力についての検査を受けて頂きたいのです。」
シュクフク……?何だそりゃ?魔法は?
「詳しいお話につきましては、検査の後にご案内させて頂きます……それでは、お一人ずつ、こちらの別室にお越しください。そうですね……まずは、そこのアナタからお願い致します。」
えー……碌に説明も無いのかよ……
「んじゃ!行ってくるわ!」
俺同様、状況を飲み込めないまま声を掛けられたからか、高橋ですら戯けた中に戸惑いの色が見えたものの、とりあえずは言われた通りにするしかないので、自分の番が回ってくるのをカナデ達と話しながら待った。
……暫くした後、俺の番が回ってきたので三人と別れ、食堂を出ると近くの薄暗い別室へ通される。
「そちらにお掛けください。」
案内をしてくれた兵士に座るよう促された俺は、言われるがまま部屋の中央にあった椅子に腰を下ろすのと同時に、その兵士が俺の目の前に何か模様のある紙とナイフを置き始めた。
「えっと……これは?」
「こちらの紙に、少量で構いませんので血を垂らしてください。」
……え?それだけ?
何の検査をするとか、そういう説明も無いの?
「一体何を調べる検査……?」
「皆様がどのような力をお持ちなのかを確かめる検査です。」
いや、だからさぁ……それが何なのかとかを知りたいだけなんだけど……
はぁ……もういいや。
これってつまり、何かで見た事がある血判状みたいに、ナイフで指を切って血を垂らせばいいんだろ?
余りにも不誠実に思える兵士の説明に、俺は内心で苛立ちを覚えながらも指示通り血を何滴か紙に垂らすと、近くに居た兵士が無言でガーゼを差し出してきたので受け取り、傷口に当てた。
「お疲れ様でした。では、こちらの奥にて皆様がお待ちですので、先にお進みください。」
えー……またすぐに移動なん?
まぁ、先に行った連中が戻って来ないのに次々呼ばれてるから、別室にいるのは分かってたけどさぁ……
早く行けと言わんばかりに無言で部屋の外を指し示す兵士の圧に押され、俺は質問をする事なく部屋を後にして、部屋の外に居た別の兵士が示した方へ向かってく。
すると、通路の奥で二人の兵士が入り口を固める部屋があったのだが、その中に先に行った連中が待機しているのが目に入った。
「お?近藤!どうだった!?」
俺が恐る恐るその部屋の中へ入ると、まだ南達も来ていないからか手持ち無沙汰な様子の高橋に声を掛けられる。
「さぁ……?俺は何も言われなかったけど……高橋は?」
「俺もだわ……でもさー?どんな力が手に入ったのか、ワクワクしない?」
「まぁね。」
確かに、魔法やら何やらが貰えてるならワクワクはするんだけど……なーんか、あの兵士の態度が気になるんだよな。
なんか、スッゲー冷たいし、ジロジロ見られるしで居心地悪いというか……気味が悪いというか……
軽く高橋と言葉を交わした後、俺はカナデ達が来るのを先に来ていた連中と雑談をしながら待ち、三人が姿を見せてからは朝食時と同様、カナデやリクと他愛もない話をして時間を潰していたのだが、そのうちに何故か全員が揃い切る前に、先程のトーマが現れて話し始めた。
……え?
いや、アキトと樋口、あと桜井に加えて……多分清水がまだ来てないんだけど……?
俺がクラスメイトが欠けている事に疑問を抱くも、トーマは構わずに話をどんどんと進めていき、一方的に説明を終えてからは質疑応答も無いままその場で解散となる。
……俺の分かる範囲で話を纏めると、どうも獣人って連中とこのオッさん達は敵対してるみたいだが、正直俺達に出来る事は無いように思えたので、余り真面目には聞いてなかったかな。
そうして俺はアキトとは話せないまま、部屋へと戻りベッドで横になった。
何でも、館の案内やら身の回りの世話やらをしてくれる人が来るとかで、部屋で待つように言われたからだ。
ちなみに、解散直後に小川を見かけたから、探し物が見つかったかを尋ねたんだけど、アイツなんかまたしても凄く落ち着かない様子で逃げたんだよな……何探してんだろ?
……そういや、俺もスマホとか財布とか、全部無いな?よくよく考えたら、アキトだって眼鏡掛けてなかったし。
となると、こっちに来てから何処かに落としたってより、服も含め最初から持ってないような感じだな……財布はともかく、スマホは母ちゃんに怒られるから、探せるものなら探しておかない……
ーーーコンコン
……と……って、誰か来た?
ーーーコンコン
「はーい。今開けまーす!」
どうやら世話をしてくれる人が来たらしく、一定のリズムでノックの音が響いたので、俺は慌てて起き上がり扉を開ける。
……すると、先程とは別の黒い髪の綺麗な女性が立っていたのだった。




