魔王戦 後
魔王戦が始まって十数時間。
魔王もキース、スイも無傷に見える。しかしどちらも再生と治癒を繰り返し、体力的にも、精神的にもかなり消耗していた。
アンジュの足元にはからの瓶がいくつも転がっている。キースとスイも、体は無傷だが、服の所々が焦げ、切り裂かれていた。
賢者の二人は森と荒地の境目で準備をしている。
ひたすら地面に自らの魔力を使って魔法陣を描くエリー。彼女はもう何本目になるかもわからない魔力回復ポーションを呷る。
マリクは魔力を高めるための瞑想を・・・。最初はキース達の戦闘を見ていたが、今は何もできない自分に歯噛みし、静かに目を閉じ、瞑想を始めた。
突如魔王の後方に、何かが森から飛ばされてくるのが見える。
レンだった。
レンは地面を転がり、クルっと横に受け身を取りながら回り、剣を構える。
右手にはロングソードを、左手には短剣を持つ。
キース、スイ、アンジュはレンの方を見ない。今少しでも気を抜くと、劣勢に陥るかもしれないからだ。三人は魔王から目を離さない。
しかし・・・視界の端に映る膨大な数の魔物に内心焦りを感じる。
レンに向かって進む数多の種類の魔物。森から列をなし、レンに向かって襲い掛かる。
レンも魔物に駆けていく。その様子はまるでそこにいる度の魔物よりも魔物のようで・・・。
魔物の大群と、レンがぶつかる。レンの後ろには次々と魔物の死体が飛ばされていく。
しかしさすがのレンも、物量が多すぎ為か、あっと今に魔物に囲まれて、レンの姿が視認できなくなっていった。
「しまっ!?」
魔王の左腕の振り払いを間一髪避けようとしたキースだったが、足に力が入らず、咄嗟に剣で防ぐ。
「くっ!」
踏ん張りがきかず、そのままガードしていた剣ごと吹き飛ばされる。
「キー君!?」
魔王はスイの方に向くと、大量の黒い球を生み出し、スイに向かって飛ばす。
「っ!シールド!!」
スイの前方に透明な魔法の盾が展開される。
その直後・・・ドドドドドドッーンと盾に黒い玉が着弾し、爆発していく。
粉塵がまう中、スイは吹き飛ばされて地面を転がる。
地面に倒れているスイに突撃する魔王。
そしてその腕を、倒れているスイに向かって振り下ろすーーー。
「させるか!!」
すんでのところで魔王の振り下ろされた腕を、剣で受け止めるキース。
しかし、キースは押し返せず、地面にめり込む。
「ぐぅぅ!!」
その時、エリーたちのいる方から狼煙が上がる。
魔法の準備完了の合図だった。
即座にアンジュは魔王の残存体力を確認。
(私の命の使い所はここ!!)
突如アンジュの体が淡く光り出す。目を閉じ、持っていた僧杖を空に掲げる。
「全ての人々に神聖なる女神の癒しを」
カツーンっとアンジュは僧杖で地面を叩く。
その杖で叩いたところを中心に光の輪が拡がっていく。
やがてその光は、戦場の全てを包み込み・・・。
「うおおぉぉぉぉ!!」
キースが魔王の腕を押し返し始める。アンジュの大規模範囲回復魔法により、アンジュを除いた全ての魔法範囲内にいた人が体力、魔力、怪我の全てが全回復していた。
スイは即座に立ち上がり、アンジュの方を見る。
これ程の回復魔法となれば・・・自らの命を代償にしないとできないほどの魔法だった。
「安心して下さい。命は取りとめております・・・しかし・・・私も聖女様ももう役には立ちません」
アンジュと共に地面に倒れ込むマザーがそう言う。
「ここで決める!!」
魔王の腕を弾き返し、魔王に向かって飛び上がる。
「私も切り札を切るとしましょう」
ボソリとマザーはそう呟き、パチンッと指を鳴らす。
「「うおおおおぉぉ!!」龍虎無限斬!!」
目に目止まらぬ早さで剣を縦横無尽に振るキース。
魔王は自らの周りに黒い球体を無数に生み出す。
「プロテクションアーマ!」
スイの魔法がキースに届くと同時に、球体が爆発を始める。
「グオオオォォォォォォォ!!」
魔王が叫ぶ。それはまるで悲鳴のように聞こえ・・・。
この戦いで初めて、魔王は片膝をついた。
球体の爆発が続く中、魔法で守られ無傷のキースは、スイの隣まで後退。
「キー君!!」
2人は自らの胸に左手を当てる。
「賢者の中に眠る女神の力よ私に力をお貸しください」
2人は左手を魔王に向かって突き出す。
「「神聖なる女神の檻!!」」
白く5メートルほどある杭が空中に現れ、魔王の体に突き刺さっていく。その数20本。
「グアアアァァァ・・・ユウシャ・・・セイジョ・・・アァァァァ!!」
魔王は無理やり体を動かし、杭を破壊しようとする。
「マー君!!」
キースとスイは叫ぶ。
「ふはははは!!ようやく我の出番か!!」
無駄につけている漆黒のマントを翻し、右手を前に構え、森の中から現れるマリク。
「空間認識、出現座標固定、魔法陣起動」
エリーが魔力を込めると、マリクの周りに数十個の魔法陣が浮き上がる。
マリクは目の前にある魔法陣に手を置き、魔力を込める。
「魔法発動準備良し、出力安定」
「これこそ我が魔道の深淵。大魔法を超え、究極に至る魔法」
マリクの周りの魔法陣が輝く。それと同時に魔王の足元に大きな魔法陣が現れる。
「クロノス・ジ・エンド!!」
「勝手に魔法名を・・・まぁいい」
魔王のいる空間の中心に紫色の空間が開く。
「グガアァァァァァァ!!」
魔王は未だ光の檻から抜け出すためにもがいていた。
そして徐々に小さく空いた空間に魔王が引き込まれていく。
「出力上げて・・・」
「やってる!うおおおおぉ!!」
思っていた以上に魔王が粘る。
あの魔法陣の外にに影響が及ばないようにエリーが空間維持し、マリクが魔王を吸い込む次元の穴を必死で維持する。
そして・・・。
「ケンジャ・・・ユウシャ・・・セイジョ・・コロス・・・ゼッタイ・・・」
魔王はそう言い残し、この世界から影も形もなくなった。
魔王と戦った全員が、腰を抜かしたように地面にへたり込む。全員が疲労困憊、満身創痍だった。
「流石魔王だな・・・もう二度とやりたくねぇ・・・ってレンは!?」
魔王がいた場所よりはるか後方に、魔物の死体の山が出来上がっていた。
魔王が消えたことにより、魔物たちは散り散りに森へ帰っていき・・・。
魔物の山の上に2つの影が見える。
一方は身の丈3mはある角の生えた鬼。
そしてその鬼に剣を突き刺しているレンが見えた。
鬼は背中を下にしてドサリと倒れる。
レンは剣を鞘に戻し残心・・・した後にフラリと倒れる。
「レン!!?」
覚束無い足取りで、キースは魔物死体の山がある所へ向かう。
レンは魔物の死体の山から転げ落ちていく。
地面まで転がり落ち、レンが倒れた場所に血が広がっていく。
よく見るとレンの体には至る所に牙、矢、折れたナイフなどが刺さっていた。
「スイちゃん!!」
「ご・・ごめんキー君・・・もう魔力は・・・」
「ポーションは!?マザー!!」
「とうに使い切ってしまいました・・・」
「おい!!しっかりしろレン!!死ぬんじゃねぇぞ!!」
仰向けに倒れるレンは、パクパクと口を動かす。
マリー・・・ごめん。
そう言っているように見えた。
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「あれ?ここはどこです?・・・っていつもの夢ですね」
現実にはない浮遊感を感じ、マリーはこれが夢だと認識する。
「起きたら忘れるんですが・・・この夢の中に来たら思い出すんですよね・・・」
そう言ってマリーは青々とした草が生える平原を歩く。
少し歩くと小さな木がぽつんと生えている。マリーの目的地はそこだった。
マリーはその気に背中を預けて座る。いつもなら昔飼っていた猫がマリーの膝の上に乗るのだが・・・。
マリーは不思議に思い、木の周辺を探す。
すると、草むらの影に丸まっている猫を発見。
その猫をマリーは優しく抱き上げ、自らの膝の上に乗せる。
「元気ないですね。どうしたです?」
そう言いながら優しく猫を撫でるマリー。
(ごめんねマリー)
「どうしてあなたが謝るです?」
(僕のせいで、マリーが辛い目に遭ってたから。人の思考を読むなんて力・・・要らなかったよね)
弱々しい声でその猫はそう言う。
「確かにいらないと思ってました。見たくないものを見せられるのは辛かったです・・・でも、ああなったのは私の自業自得なんです」
マリーは撫でる手を止め、言葉を続ける。
「別に聞こえない振りをしていれば良かったんです。わざわざ心が読めるなんて、自分から言い出さなければそうはならなかったんです。
だから、もし貴方がこの力をくれたとしても、貴方を恨むことは無いです」
(マリー・・・)
「でも・・・私はこの力のお陰で、大切な人に出会えました。ずっといらないと思ってたこの力を、いつの間にか、あって良かったと思うようになったです。
世界中の人が、私の力を否定し恐怖していても・・・たった1人肯定してくれる人がいる。喜んでくれる人がいる。それだけで私はいいんだと思うです」
(いい人に巡り会えたんだね)
「ですね。彼さえ・・・レンさえ隣にいてくれるなら、私はそれだけで満足です」
(僕が消えて、力がなくなって・・・それでもマリーは彼の隣を歩くのかい?)
「もちろんです。どんな手を使ってでも、レンを逃がすつもりは無いです!」
(ははは・・・そうか。良かった・・・)
マリーは再び猫を撫で始める。
「お別れですか?」
(そうだね・・・これでも長生きした方だよ)
「寂しくなりますね」
(目が覚めたら忘れるような夢なんだから大丈夫。それに君にはもう大切な人がいるんでしょ?)
「そう・・・ですね・・・」
(泣かないでマリー。笑顔で送ってよ)
「ええ・・・そうですね。ありがとうございました。私と共に生きてくれて」
(こちらこそ。マリーはちゃんとこの先も幸せに生きてね?あと甘いものは食べすぎると太っちゃうからね?それとそれと、あんまりわがまま言って彼を困らせたらダメだよ?あとはーーー)
「貴方は私のお母さんですか!?」
(ははは!似たようなものだよ・・・っとそろそろお別れのようだね)
猫の姿が少しづつ薄くなっていく。
「さようなら。私の力になってくれてありがとう」
(さようならマリー。幸せに生きてね)
そう言うと猫は、光の粒となって消えていった。
「あれ・・・なんで私は寝て・・・」
「マリー!?目を覚ましたんっすね・・・良かった・・・って泣いてるんっすか?」
マリーは目を拭うと、確かに涙が溢れ出ていた。
「嫌な夢でも見たっすか?大丈夫っすか?」
「大丈夫です。それに・・・悲しいけどなにか幸せな夢を見てた気がするです・・・それよりも!デートは!?レンはどこです!?」
捲し立てるマリーにドロシーは俯き、悲しそうな顔をする。
「レン様ですが・・・実はーーー」
ドロシーは語った。マリーが倒れてからの事と・・・レンが今どうなっているのかを・・・。
その話を聞いたマリーは、即座にベットから飛び起き走り出す。
「レンッ!」
そしてマリーは向かう。愛しの人の元へと・・・。




