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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
5・寝台列車ノエル号
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女子会と恋心と動き出す思惑

それから一悶着あり、私の髪をアリーさんが洗ってくれることになった。

かなり遠慮したのだが、ジト目で見つめるアリーさんに根負けした形だ。


「アリーさん、ありがとうございます……!」


『リーシェに洗わせるくらいならボクが洗うさ。

無防備な首筋を殺人鬼の前で晒すのは良くない』


リーシェさんを睨みながら髪を丁寧に洗い始め、高そうなシャンプーとリンスで私の髪を整えてくれるアリーさん。

警戒、と口にしてはいるが、私の髪で少し遊んでいるような気がする。

尤も、目は開けられないので単なる勘違いもあり得た。


「アリーちゃんは厳しめね〜

私、そこまで見境なく殺したことはないのだけど」


『収監されてる時点でお前の信用はねぇよ』


「ふ、二人共………」


私を挟んで火花を散らす二人を交互に見つめてみたが、二人共私を一瞥しただけで口喧嘩を辞めるつもりはないらしい。

とはいえ、リーシェさんの言っていた………


「シュウ、カン?」


『要は人殺して捕まったんだよ。

今も服役中だってのに、良いご身分だ』


フクエキチュウ、という言葉も分からなかったが、これ以上アリーさんの表情を険しくしないようにする為には下手に質問出来なかった。

無いとは思うが、アリーさんの眉間に皺が寄っては困る。


『とにかく、早く入るよミリアナ。

リーシェはこの線から入ってくるな』


アリーさんの警告と同時に激しい水切り音が響き渡り、湯船に傷一つ付けずにお湯は見事に半分に切られ、切断面には透明な壁が出来上がっていた。

ここまでやるとは思っていなかったが、私が上がる頃には元通りであって欲しい。


「え〜!?

それはおかしいんじゃないかしら?」


無論、リーシェさんが黙っている筈もなく、タオルを壁に叩きつけて破壊を試みていた。

意味があるとかないとかよりも、


「んっ、はぁん!!」


なんか、良くないと思ってしまう。


「そうですよ、アリーさん。

仲間外れは良くないです」


『人が心配してやってるのに………』


アリーさんに呆れられてしまうのは仕方ないけど、これ以上リーシェさんの胸が揺れるところはあまり見たくない。

柔らかそうで、ちょっと羨ましいからだ。


「ミリアナちゃんが平気、ってことなら別に良いでしょう?

アリーちゃんは神経質過ぎるのよ」


『黙れクソビッチ。

その胸が視界に入るとイライラするんだよ……!』


「……アリーさんに同意です」


壁を解除しながらアリーさんが荒っぽく代弁してくれた為、思わず何度も頷いてしまう私。

あの人達もリーシェさんも、持たない人の怒りは理解できないと思うけど知りません。


「も、持って生まれたんだから仕方ないでしょう!?


『知るか。

遠慮なくもいでやるからその胸貸せよ』


「そう言われて貸す馬鹿はいないでしょうが……!」


アリーさんのほっぺをリーシェさんが引っ張り、リーシェさんの胸をアリーさんが容赦なく鷲掴み。

本気の喧嘩が始まりそうだと他のお客さんは素早く退散し、残されたのは私とアリーさん、リーシェさんの三人だけとなった。


「お、お二人共………」


どちらかが気絶するまで終わらなそうな喧嘩を前に、私は風呂桶を握り締めて事が収まるまで見守ることしか出来なかった。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



「お風呂は楽しめたかい?」


「はい、とても良かったです!」


男女両用の休憩室で朗らかに笑って出迎えてくれた神父さんに元気良く返事し、私の後に続く二人からは視線を逸らす。


『リーシェ如きに、負けるとは………』


「アリーちゃん、案外強かったわ………」


まるで歴戦の戦友みたいに握手を交わす二人を白い目で見ながらも、茶色の瓶に入ったコーヒーミルク、という飲み物のキャッチコピーに目を奪われた。


──あなたは、初恋の味を知っていますか?


「初恋の、味………」


俊和さんと会うまで色々な料理を味わってきたが、私はまだ初恋の味を知らない。

どんな味がするかも、想像がつかない。


「まさかリーシェがいるとは思わなかったけど、それならプランを変更しよう」


私が一人で思案してる時に神父さんがコーヒーミルクを四本買っていたらしく、私達に渡してすぐにテーブルの上に案内図と思わしき羊皮紙を広げ始める。

羊皮紙にはスロット、ポーカー、ルーレット……、どれもやったことはなかったが、のめり込むべきではないと道中でアリーさんから散々釘を刺されていた。


「ミリアナちゃんとティルウィングはスロット、リーシェがルーレットで僕はポーカーの調査。

リーシェは大丈夫だと思うけど、ティルウィングはミリアナちゃんを頼むよ」


『分かった。

稼ぐのは良いけど、目立つなよ?』


「勿論。

適当に稼いだところで退散するさ」


アリーさんがジト目で神父さんを見つめ、凄く良い笑顔で返答する神父さん。

調査とは名ばかりの金策ではないだろうか、と気を抜けば思わず視線に圧をかけてしまいそうだ。


「それと、無いとは思うけど。

もし着物の女を見たら全力で逃げてくれ」


「着物の、女………」


ユーグリス村で見た、あの得体の知れない女性。

セリア姉様や俊和さんとはどんな関係があるのだろう。

分からないことばかりで、凄く情けない。


「──ミヒュリムッ!!」


──刹那、平穏を破壊するような無数の爆音が響き渡り、神父さんが展開した渦巻く漆黒の穴が此方に飛んでくる弾丸を次々と呑み込んでいく。

例え穴から逸れた弾丸であっても、ミヒュリムに自ら突っ込むように弾丸を操る神父さんの力に私は驚きを隠せなかった。


「いつも手荒い出迎えだね、君達は……ッ!!」


神父さんがミヒュリムを支えながら震える左手で握り拳を作り、殺気を籠めた瞳で強く睨みつける。

だが、私の見たことのない武器を持って現れたスーツ姿の男性三人は一糸乱れず歩を進めていく。


「我々にはミリアナ・アステムブリング第三王女様を捕獲する義務がある。

邪魔をするなら、容赦はしない」


『初っ端からミリアナに発砲しておいて、その頼みはないんじゃない?

……チッ、雑魚共が!!』


神父さんがミヒュリムを使ってすぐに剣に変わったアリーさんが憎しみを吐き出し、周囲は一気に一触即発の雰囲気へと変化する。

そんな中、私は彼等の正体に何となく心当たりがあった。

私をしつこく追いかけてきた彼が所属していた組織の名前は、確か。


「商会、ギルド………!」

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