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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
4・神父来訪
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基礎トレーニング

「着替えは済んだかな?」

「はい、大丈夫です!」


ミリアナは動き易いジャージ姿でストレッチを行ってから神父に元気良く返事をする。


(なんか残念だ……………)


神父はミリアナの胸を見た後に浮かんだ異様な思いを押し殺し、ユーグリス村を見渡した。

これぐらいの距離があれば、大丈夫だろう。


「まずは二十キロを走って…………………」

「え⁉︎」

「え? 普通だと思うけど………………」

「そう、ですよね………………」


明らかに走るのが嫌そうなミリアナだったが、神父は甘やかすことなくミリアナの後ろを走る。

ペースは遅いが、普段から走っていなければこれぐらいが普通だと感じた。


「う、気持ち悪い………………!」

「吐かないようにね。吐き癖がつくと後が大変だからさ」


吐きそうになりながらもミリアナは神父の助言を受けて我慢しながら走った。

胃酸が逆流し、喉が焼けるような痛みを感じる。

腹痛も治ることなく悪化し、ミリアナから体力を徐々に奪っていた。


「はあ、はあ、はあ………………!」

「二十キロぐらいは頑張らないと。体力は基本的に多い方が良いから」

「後、何キロ、ですか…………………⁉︎」

「今は一キロかな。後、十九キロだよ」

「え……………………」


途方もない距離はミリアナから体力を一気に奪い、地面に倒れ伏した。


「本当に体力が無いんだな…………………」


やはり、見た目通りだった。

神父は計画の見通しが甘かったことを痛感し、トレーニングの変更を余儀なくされた。



休憩を入れ、ミリアナがまともな思考が出来るようになってから神父はミリアナに提案した。


「ランニングはお休みにしよう。それよりも、シャリテを振ったことはある?」

「自主練として一週間かけて大木をに傷をつけただけですね。俊和さんは呆れていたんですけど」


ミリアナは力の無い笑顔を浮かべた後、溜息を吐いた……………




今から一週間前。

恋愛小説の最新刊に触発され、ミリアナは父親から貰ったシャリテを片手に近隣の森に向かっていた。


「切っても良い木はどれかな………………?」


ミリアナは周囲を見渡し、ボロボロになった木を見つけて剣を振るう。


「えい、えい!」


気合いを入れて剣を振るうが、木は中々倒れない。

というよりも、この木は絶対に倒れないように魔法を幾重にも掛けられている特別な木。

シャリテでも、ミリアナの器量で切り倒すのはかなりの難題だ。


「このッ! えいッ! 何で倒れないんですか⁉︎」


ミリアナは意地になって夕方まで何度も繰り返し剣を振り、疲労で地面に倒れ伏した。


「あんな見た目で倒れないなんて、凄い…………!」


ミリアナは仰向けでシャリテに切りつけられたことで更にボロボロになっている木を見上げた。

シャリテは相当切れ味が良い筈なのに、上手く切り倒せなかった。

まるで、木が自在に硬度を変え、シャリテに適応するかのように。


「どうすれば切り倒せるかな?」


誰かに問いかけるつもりではなく、ミリアナは呟く。

だが、呟きに答えを出した者がいた。


『今の君では無理だよ。もっと、木の対応スピードを追い抜くぐらいじゃなきゃ』

「え⁉︎」


突然現れた黒髮に着物姿の少女はミリアナに向かって封筒を投げると、すぐに姿を消した。


『君へのアドバイス。頑張ってね』

「は、はい………………」


ミリアナは着物姿の少女のことで悩み、すぐに封筒を開封する。

封筒の中には、一枚の写真。


「セリア姉様と………………、と、俊和さん⁉︎」


幼い頃のセリアが嬉しそうに俊和に姫抱っこして貰っている写真だった。

セリアが俊和と出会っていたということは、俊和はその時のセリアのことを知っているのかも知れない。

セリアはもう一人の姉とは違って、過去の自分のことをミリアナに一度も話したことはなかった。


「どういうことなんだろう………………?」


真偽を確かめるには本人への事情聴取が不可欠。

そう考えたミリアナはシャリテを右手に持って帰宅した。




「ただいま帰りました!」

「お帰りなさい。夕食の準備はしておきました」


いつものように夕食を準備し終えた俊和は夜空を見上げていた。

まるで、何かを思い返すような瞳で。


「俊和さん?」

「大したことではありません。夕食にしましょうか」

「大丈夫なら、良いんですが………………」


ミリアナは俊和を不安そうな眼差しで見ていたが、夕食を食べ始めてから五分も経たない内に俊和が椅子から転げ落ちた。


「俊和さん! 俊和さん‼︎」

「………………疲れているのかも知れません。私は先に休みます」

「分かりました。おやすみなさい、俊和さん」

「おやすみ、ミリアナ」


俊和はミリアナに無理をして笑顔を浮かべ、すぐにベッドで横になる。


「仕方ないとはいえ、まだまだ私も甘いな…………」


ミリアナに心配させてしまった、と俊和は苦笑し、黄系統の水晶を手に取った。


「解析はここではやはり難しいですね。一度、キリカさんと交渉する必要が……………、無いと良いです」


キリカと交渉する時は、一食百万リグスは下らないクレープをご馳走しないと交渉に応じない。

俊和としては、一個であれば考えなくもない。

だが、キリカはクレープだけであれば、ミリアナ並みにクレープを食べる。

一度の交渉で二千万リグスなど正気の沙汰ではない。


「仕方ない。徴収か滞っていましたから、纏めて回収することにしましょう」


だが、俊和には収入源は幅広く持ち合わせている。

問題点を挙げるならば、収入源の機嫌を損ねるとかなり面倒なことになる。

やはり……………………、彼女は。




「本当に誰だったんでしょうか……………?」


あの見たことがある着物姿の少女の特徴が服装しか思え出せない。

髪型や口調、持ち物すら分からない。

そもそも、そんな人物がいた(・・・・・・・・)のかさえ疑わしく(・・・・・・・・)感じてしまう(・・・・・・)

日常が崩壊するまでの、タイムリミットのような。


不吉を感じるのはこれで初めてではない。

誰かに誤魔化されているような、気味の悪い視線を感じたことも少なくなかった。

リーシュ=ネオルダム。

彼女は殺人鬼でありながら、ミリアナの話を真摯に聞き、ミルクティーでミリアナを試していた。


「本当に、あの人は………………?」


ミリアナは夜空に問いかけ、答えを期待せずにカーテンを閉める。

眠り易くなるようにコップにミルクを入れ、一口口に含んでテーブルの上にコップを置いた。



ミルクに映る影は、黒い。




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