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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
4・神父来訪
31/44

運命は神父につねに辛辣である

ーーー全ての幸せは、他人の不幸から出来ている


全ての幸せが消えれば、全ての不幸は消える


故に声高に主張しよう、幸せなど手に入れるな、と


忘れてはならない、あの惨劇を


お前が望んだ幸せが、あの惨劇を起こしたのだーーー


* * * * * * * * * * * * * * * * * * *


神父とトレーニングを開始してから一週間後。

ミリアナはいつものように眠い身体を無理矢理起こして台所に向かうと、エプロン姿の神父が牛肉を調理しているところを目撃する。


「朝食は適当に作ってみたけど、どうかな?」


「………………」


どうしてこの人は遠慮がないのだろうか。

神父さんは自前のエプロンと三角巾をしっかりと使っているが、鬱陶しく感じている節も少なくなさそうだ。

その証拠に調理を終えた神父さんはエプロンと三角巾を素早く外して籠に叩き込む。

神父さんが作ったのは恐らく牛肉の赤ワイン煮込み。

美味しそうだが、何か引っかかる。


「何か、血生臭い気が………………」


「牛を今さっき仕留めてきまして。少々血生臭いかも知れませんが、大丈夫でしょう」


「今さっき⁉︎」


ミリアナは一口サイズに切り分け、牛肉を口に運ぶ手から牛肉が皿の上に落ちた。

見た目が美味しそうなだけ、余計に性質が悪い。


「実は昨日買った奴だけど。ーーー意外と悪くないでしょ?」


「…………………(無言の肯定)」


神父はミリアナが恐る恐る口に運んで喜ぶ様子を見て、小さく笑う。

彼の笑顔に違和感を感じ、ミリアナは牛肉を右手でフォークに刺したまま固まっていた。


「どうかした?」


「別に、何でもありません」


動揺を悟られぬよう、ミリアナは早口で答えながら牛肉を口に運ぶ。

神父が作った牛肉の赤ワイン煮込みは二、三回程度噛めば溶けてしまうような柔らかさだった。

安い牛肉を使ったとは思えない美味しさにミリアナは内心感動している。


「それなら良いけど。何故かは分からないんだけど、君に凄く似ている女の子を思い出したな。性格じゃなくて、見た目なんだけど」


「見た目、ですか?」


神父が気まずい空気を変える為だとは容易に想像がつく。

だが、自分にすごく似ているとなれば、どういう人なのだろうと気になることは当然だろう。


「そう、見た目が。ミリアナちゃんにあまりにも良く似ていたから思い出したんだ。ーーーごめん、苗字がアしか覚えていない」


苗字がア、というだけでは誰のことだがさっぱり見当がつかないし、見た目が激似だとしても、赤の他人にそこまで興味は持てない。


「そんな不確かな情報を教えて貰っても困るだけなのですが………………」


「ミリアナちゃんの妹とか姉とか親族かな? ってね」


神父はミリアナにお茶目なウインクをするが、ミリアナの表情は晴れない。

それどころか、リビングに謎の重圧が発生していた。


「妹はいませんし、姉はいません。私は一人ですから」


「………………」


ミリアナは淡々と無表情で答え、気分を害された子供のように扉を力任せに開けて閉じ篭もった。


「そんな様子も、そっくりだな……………」


神父は既視感を忘れられないまま、すっかり冷めてしまった牛肉を口に運び、溜息を吐いた。



それから数時間が経ち、神父がどんなに呼び掛けようと一向に扉を開けないミリアナに困り果て、神父は気分転換を兼ねて外出することにした。


「ミリアナちゃんに悪いことしたな……………」


こういう時こそ自分が彼女の悩みを解決に導くヒントを与えるべきではないのか。

だが、ミリアナを怒らせたのは自分で、ミリアナのことを全然知らないのも自分。

ミリアナが今すぐ悩みを話してくれるような状態ではないし、嫌悪されたかも知れない。


「全く、僕は誰の為に生きていたんだ?」


神の為、と誰かが自分に答えていたら自分は間違いなく激怒するだろう。

この世の中に神が実在するのなら、何故、本当に困っている人々を捨てるのだろうか。

自分が神であれば、絶対にそんなことはしない。

だが、自分が人の為になったことは、一度も…………


「困っているみたいですね?」


「………………」


「私のこと、覚えていますか?」


「………………」


「神父は迷わずに人々に道を示す、そうですよね?」


「………………」


神父は目の前に立つ着物姿の少女の問いを黙殺し、ティルヴィングの柄に手をかけて一言呟く。


「喰らえ、ティルヴィング」


神父は黄金の柄を引き抜き、空間ごと自身に問いかけた人物を切り捨てた。

罪悪感はない。

少女が死ぬことが少女の成す贖罪だとしたら、これぐらいで許される理不尽を誰もが許したとしても、神父だけは死しても少女を許す気はない。


「酷いなぁ、君。僕じゃなかったら死んでるよ?」


「それぐらいは理解している。早々に失せろ」


道化を装う少女に神父は不快感を感じる。

本来なら、神父と与太話をしに来たのではないだろう。

柳沢俊和。

着物姿の少女が探している名前以外全て不明瞭な男は、白髪の少女を残して消えた。

ならば、着物姿の少女がやることはただ一つ。


「俊和の家はどこかな?」


「ーーー答える気はない」


神父は、ミリアナに害を為す着物姿の少女を会話で引き留めることにする。

いざとなれば戦闘も辞さないが、対話の意思がある以上、蔑ろにすることはなできない。


「残念だね。なら、君を殺して先に進むとしよう」


「悪いが、過去と共に消えてくれ。くだらない幻想を抱いていた頃と一緒にな」


最近少しずつ思い出す負の記憶。

全てが真実だとしたら、全て切り捨てよう。


神父は抜刀したティルヴィングを納刀し、右足を軸に跳躍した後に抜刀。

そのまま大地に叩きつけ、ティルヴィングによって変質した大地が剣を弾き返す先は着物姿の少女の首元だった。


「……………ッ‼︎」


「妙月流改式三の剣・白夜」


神父はわざとティルヴィングを手放し、宙に放り出されたティルヴィングから無数の線を射出することで線に触れた着物姿の少女を細切れにしていく。

普通なら、手を合わせて冥福を祈っても良いだろう。

だが、着物姿の少女は細切れになった身体を寄せ集めて元の状態に戻った。


「分かりきったこと、ですよね?」


「………………」


神父は着物姿の少女を様々な方法で殺したことがあったが、神父が与えた死は意味を一度も成したことはなかった。


「私はすぐに帰りますね。さよなら、神父さん」


「ーーーお気を付けて」


自然とその言葉が出てしまう状態は記憶を失ってからずっと続いている。

記憶は五割戻った、とは言い難い今の自分の価値を見失ってしまいそうだ。


「……………」


そんな彼に、黄金の剣は問う。


『君の本質は、何だろうね?』


その問いは、神父を過去へと呼び覚ましたーーー

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