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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
4・神父来訪
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取り戻されていく記憶

「ねぇ、君はどんなことがしたいの?」


少女に問いかけられた男は返事をしようとして、やめる。

男には、彼女の問いの本質が見えなかった。


「私はね、自由になりたいんだ。縛られることがない、自由が欲しい。そして、自由になったら恋がしたい」

「なら、僕じゃ相手に相応しくないね」


男は自重するように笑い、目を伏せる。

だが、少女は笑顔で男に言った。


「ううん。君の笑顔で、私は助けられたんだよ」




「懐かしいな………………」

神父はあの時のような雲一つない青空ではなく、見慣れた安宿の窓から差し込む光で現在の状況を確認する。

目立った傷はなく、疲労も特に感じない。


「あ! 神父さん、大丈夫ですか⁉︎」

「大丈夫って、何が?」

「神父さんは二週間も寝ていたので、頭痛が無いか気になったんです。こんなことを聞くなんて、失礼ですよね」


少女は申し訳なさそうに頭を下げ、部屋を退室する。


「待って! って、もういないか………………」


安宿の窓には自分が買った覚えのない花瓶に、一輪の花が入っていた。

神父は切り花だと理解し、花をじっと見つめる。

少女のような、白く、可憐な花。

名前は分からないが、とても美しく感じる。


「確か、彼女の名前は………………」


俊和は確か、少女をミリアナと呼んでいた。

だが、肝心の俊和の家が分からない。


「村長に聞いてみるか」


神父は身支度を済ませ、村長の家に向かった。




村長に俊和の家を教えて貰い、菓子折りを買ってから神父は俊和の家のベルを鳴らす。


「あの、どなたでしょうか?」

「神父です。先程は失礼いたしました」

「もしかして神父さんですか⁉︎」


白髪の少女はドアを開け、神父を家の中に入れて鍵を閉める。

俊和の姿は見えなかったが、外出中なのだろうか。


「良かったら食べて下さい」

「これって…………………………!」


白髪の少女は菓子折りの包み紙を見て硬直していた。

決して、少女が嫌いな物ではない。

ただ、神父の買った菓子折りの値段が普通ではなかっただけだ。


「本当にありがとうございます‼︎」

「お気になさらず。つかぬ事を伺いますが、柳澤さんから私に伝言などはありますか?」


夜に死体を倒しながらリュムと再会し、俊和がリュムを倒す切り札を持っている、と聞いたことまでは覚えている。

もしミリアナが知っていれば、好都合だ。


「そういえば………………! リュムは全て倒したから問題ありません、って疲れ気味な表情で俊和さんが言ってました。それと、可能であれば自分が留守の間は神父にミリアナの世話を頼みます、と。俊和さんの伝言はこれだけです」

「なるほど………………」


神父は相槌を打ちながら、ミリアナの話を聞く。

要は、リュムを倒す切り札を使ったのだから対価は払って貰う、ということだろう。


「あの、出来れば剣の扱い方を教えて下さい‼︎」


ミリアナはシャリテを置いて土下座をする。

神父はシャリテとミリアナの手を交互に見比べて苦笑する。


(恐らく、ミリアナは剣は持ったことがない。一から教えるのか………………)


俊和の切り札の使用料は授業料の免除だと理解し、神父は溜息を吐いた。


「一応、魔力を計測させて貰います。僕の手を右手で掴んでみて下さい」

「こう、ですか?」


ミリアナが神父の左手を掴んだ時、神父は絶句した。

あり得ない。

その一言で表現するのが精一杯だった。

魔力の量、質、属性の全てが規格外。

この少女は、本当にただの一般人なのか。


「どうかしましたか?」

「い、いや。気にしないでくれ。それよりも訓練を始めようか」

「わ、分かりました!」


神父は曖昧な笑みを浮かべ、ミリアナと共に外に出る。


「気の所為、じゃないよな………………?」


世界に一人しか持ち得ない魔力属性の筈だ。

単なる自分の勘違いなのか、それとも例外なのか。


「アレと同じとは…………………」


神父は記憶を取り戻すことに加え、厄介なことが重なることに不安しか感じられなかった。



その頃、俊和はキリカと一緒にクレープを食べていた。

無論、キリカの強い要望である。


「甘くて美味しい〜!」


「糖質が多く含まれているからミリアナには食べさせない方が良いですね。キリカさんは糖尿病で亡くなる日はいつになるのか…………………、期待と希望しかありません」


キリカは嬉しそうにクレープを頬張り、俊和は意地の悪い笑みを浮かべながらキリカの口の端に付着していたクリームをハンカチで拭き取った。


「それって僕に死ね、ってこと?」

「あながち間違いではありません」


俊和は上司であろうと本音を隠さない。

というよりも、キリカの人望が皆無なだけである。


「それよりも、キリカさんは商会ギルド会長からチケットを渡されましたか?」


年に一度、この時期に商会ギルド会長はキリカにチケットを渡し、間接的に俊和の参加を希望していた。

いつもはオークションの様子を眺めていたが、今回はあの異常な熱気に包まれるオークションに参加することになるだろう。

そう考えるだけで、俊和の気苦労は増した。


「うん、あいつはいつもと変わらずだよ。今回は良い商品が手に入ったから俊和に来て欲しい、って」


「良い商品、とは?」

「君が探していた物だよ。絶対に逃さないと決めた、ね」


キリカは微笑み、俊和は顔を顰める。

ミリアナに必要なピースの中でも手に入れるのが難しい一つが手に入りそうだというのに、素直に喜べない。


「さて、資金をどうしようか………………」


商会ギルド会長が用意する商品の最低落札価格は一千万リグスを下回らない。

国家都市の王族なども来る為、最低落札価格の百倍は少なくても必要だ。


「ふふ。頑張ってね、俊和君」


俊和の苦悩が珍しく人並みだったな、とキリカは小さく笑った。

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