嵐の前
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イベントの翌日。皐月、セルティ、バロット、宗次、オルタの5人は、学校から姿を消した。
それから、ちょうど一週間が経った。
そんな異常事態の中――食堂のすぐ隣にある、学園のカフェテリア。
その一角で悠々とおやつタイムを満喫する女が、鴇弥名織の向かいに座っている。
「……あのですねルス先生。いったいどれだけ食べる気なんですか」
その名をクルガーラジ・ルスという。
宗次を救うためにここに来た、未来の鴇弥名織なのだという。
外見で言えばルスの方が長身だし、胸もある。おまけに髪色も薄蒼の名織とは違い、ルスは真っ黒なロングヘアである。
いったい何がどうしてこうなったのか、さっぱりわからない。
「~♪」
そして、お得意の名織スルー。
「いい加減……ばくばくばくばく何個も何個もシュークリーム食べるの、やめていただけませんか。
じゃないと予定、遅れちゃいますよ」
数える限り、その数は51個目に達している。別に大食いやバイキング専門店でもないのに、おしゃれな木目調の小テーブルには、白い大皿が何枚も重ねられている。
先ほど店員にシュークリームの在庫が切れるというので、強制的にオーダーストップを宣告された。
デバイスに示された名織の電子クレジットが、強敵に痛恨の一撃でも加えられたHPみたいにガリガリと減っていく。
ルスは一口でシュークリームを平らげながら、
「いやですよ~カロリー不足で死んじゃいますよう~。この体、燃費ぁむっん♪ んふ~ふふふ」
「………………」
よくもぬけぬけと、まぁ。
「にぇんぴあぐむ%☆~¥*#▼」
いらっ。
「ルス先生噛んでから飲み込んでくださいみっともないうえに太ります」
「んも〜大丈夫っていってるじゃないですか~」
肩をぽりぽりかきつつ、クリームは口の端に付けてなお、ルスは戯言をのたまう。のたまい続ける。
「だいたい私は一般の体重計さんが私をエラー認定したところでもう体重を計るのはやめましたよ~。
ほらよく食べる女の子ってポイント高いそうですし~Xれば無限の可能性がぁ……あむ、むぐむぐ」
「それは普段体裁の整っている女の子の話です!」
マイナス因子に無限にポイントをXたところで答はマイナスのままである。
名織は頬杖をついて、ふと店内にある大スクリーンに目を移す。
その内容は、数日前から続く地下街区域の連続不審火事件だった。黒い夜に真っ赤な火が、まるで生き物のように周囲を焼き、うねりうごめいていた。
犯人はわからず、住民は地域の避難所に移っているらしい。
「しかしあれですねぇ」
ルスの平和そうな声に、意識を戻された。
「以前の私はもっぱらカスタード派だったにもかかわらず今や断然ホイップ派なんですが、どういった心境の変化なんでしょうかね。鴇弥さんはわかります?」
「知りません」
「ですが安心してください! 今も私は抹茶もチョコもイチゴも大好きですから! ぶい!」
天真爛漫なルスの笑顔。そしてVサイン。
いったいぜんたい、ついこの前見せた殺意はどこへ行ったのか……
「……~~~はぁ~~~~~~~~~~~~も~~~~~~~」
どうしよう、未来の自分が人の話も聞けないほど堕落して帰ってきた。
自分の趣味嗜好も(当たり前なのだが)自分と同じだとやけに腹が立つ。これを同族嫌悪の類いでは絶対にあってほしくないと心から願う。
ルスは60個目のシュークリームをぺろりと飲み込むと、やけに小指を立てながら、ぬるくなってしまった紅茶を一口飲んだ。
「――ふぅ。ですが独り身ですとカフェのラブラブカップルに殺意を覚える歳になってしまって嫌ですね」
残虐性と殺伐さが増している深刻な事態に。
「ていうかルス先生、なんであなたいきなりフレンドリーになってるんですかおかしいですよ!」
「いつか鴇弥さんの寝首を掻くからに決まっているでしょう!?
ここは仲良くしておかないとな~って」
「冗談に聞こえませんね」
「まあ半分冗談ではないですからね。あ~んも~人のお金で食べるスイーツって美味しーーー♪」
「……私ぜっっっっっっっっっっっっっっっったい、そんなこと言わないもん」
くそぅ……なんでこんな人が……未来の私なの……?
と、もう反射的に涙がこぼれそうになるほどショックなのである。
本当に、何がどうなってこの未来の自分は、こんな風になってしまったのか。
それはもちろんティアンスからディバイドになった理由という意味ではなく、他人に賭けジャンケンして食べ物をタカるような性格になってしまったことについてだ。
「……んぐ、んく、ぷは~。……さて、それでは鴇弥さん、行きましょうか」
そう、彼女たちは何もスイーツを食べにカフェテリアに赴くことが目的でなければ基本的にそんな仲でもない。
二人が向かった先は、学長室の前である。
重厚感のある木扉は、どこか威圧的な感じがする。
一緒に呼び出された理由は不明――ではあるけれど、大方予想はついている。
先の、学内術士大会トーナメントの選考イベント――一年生の大半が隣のルスによって敗れ去った「不殺のジェノサイド」。
それについての事情聴取といったところだろう。
「失礼します」
名織が率先して入室する。応接用のソファからこちらを振り向くのは、術士学園の長、クォレ・ログナバイド・クォレ。御年624歳だそうだ。
長く皺のつき始めた垂れ耳は、初老エルフらしい。やや不健康的な顔色に、のびかかった無精ひげ。
どこかいたずらっぽい笑みも合わさるとそれだけで悪党っぽいというのに、
「よう、よく来たな、ガキども。まあそこに座れや」
くいっと顎で示す態度も言葉遣いも、この始末である。瞳はどこか暗く濁っていて、世界の不実や理不尽をその中に閉じ込めたような色をしている。
名織は高潔・高貴な人たちが多いエルフの中で、こんな変わり者と接する機会はほぼ皆無と言って良かったし、ゆえにこの人とのやりとりは苦手なのだった。
そしてルスの無駄に敵愾心にあふれたフックが飛び出す。
「あら学長、その品の無い相変わらずの粗野で野蛮な態度は治らないんですか? うふふ」
「…………」名織は静かに、しかし深くため息。うん、大体ルスというヒトはこんな感じに言えるような性格なんだろうとは思っていた。
思っていたけど、立場とか外聞とか品位とか、そういう類いを度外視して実行に移しちゃう未来の自分に、ほんと嫌気がさす。嫌気に刺されて失血死する。
「チッ。てめぇは相変わらず小生意気なクソガキだ。そこの脇のちびっこの爪の垢でも飲ませてやりてぇぜ」
というしゃがれ声に、つい名織は小声で応える。
「……それおんなじ味ですよきっと」
「あん、ちびっこ何か言ったか?」
「いいえ何も。失礼します」名織はすっと静かにソファに腰を下ろすと、「学長、私たちが呼ばれた理由を聞かせていただきたいです」
「いちいち言わねぇと察しもできねぇガキんちょじゃぁあるめぇ」
「……私のパートナーのことですか」
「応、まさにそのことなんだわ。あのクソガキのおかげで、教師サイドはなかなかにてんやわんやだ。ちびっこは――」
「鴇弥名織です。ちびっこじゃありません」
「あぁ? あー鴇弥、お前なんかあいつのことについて知ってんのか? あのいきなりフィールドに躍り出た二人組をよ」
名織は、学長から目をそらすと口をつぐむ。変な汗が体中からじとじととにじんでくるのがわかった。
「おいおいいきなりダンマリはちぃと俺も困るぜ。あんたらも知ってるたぁ思うが、まず召喚と言われる術に関しては、禁術だ。
禁術ってわかるよな? 犯罪なんだよ、犯罪。得体の知れねぇモノを出すのは法律で禁止されてんの。
召喚術と認められちまったら、学園追放どころの騒ぎじゃねぇ。逮捕だ逮捕、しかもとびきり重罪だぞ。わかるよな?」
そんなことはわかっている。わかっているがその内情については――全くの無知だった。
名織の最大の弱点がそこである。
それもそのはず、名織は試合自体の映像を見たけれど、ただそれだけ。あの人たちが何者かなど、宗次に聞かされてはいない。事情を少しは把握しているはずのルスでさえ「話す必要が生じたなら」の一点張りだった。
名織はルスと闘った、まるで化け物のような彼らを、VTR越しにしか知り得ていない。
宗次の中にある、得体の知れない何か。それが何かはわからない。
バディなのに、彼について大切なことなど、ほとんど知らない。その話し合えさえできなかった――してこなかった。
そして、このタイミングでの不在。その理由は名織にすら知らされていない。だが知らされていないからこそわかる。
宗次は、特務ミッションを受けているに違いない。
特務ミッション。そういう制度があるということは中等部にいた頃から知っている。名織と仲が良かった先輩やから教えてもらったことだ。
一般に特務ミッション中の居場所、内容等々については諸々緘口令を敷かれるのだが、逆にだからこそ特務ミッション中だという事情だけは把握できるし、口止めされるべき事情である以上、野暮に詮索するものでもない。
それは名織もルスも学長も、全員が心得ていた。
学長はテーブルに置いてあった小ぶりの灰皿を手の中でもてあそびながら、
「今は中心人物の逢坂宗次がいねぇ。だからこそ鴇弥が事情説明するしかねぇのさ。選考イベントからもう一週間、ちょうど潮時ってところだ。
おいクルガーラジセンセェよ。アンタを呼び出した理由は、一応、逢坂と内通して不正してねぇかっていう確認だ」
「それを聞いたところで何の得になるんです、学長?」
ルスはしれっとそう応える。学長は灰皿をぎゅっと握りしめると、陶器のそれは真っ二つにバキンと折れた。
そのしかめっ面は教職者として十分失格をもらえるだろう。
「っせぇな、ただのポーズだよ。ったくお前がルーレットなんぞという運ばっかのシステムにこだわるから、アンタが開いたあのイベント自体ケチがつき始めてんだよ。
こっちだって学校運営が忙しいっつうのにやり直しなんかできっかよタコが」
学長はふう、と一つ息を漏らして、
「だから今、お前らの裁判の場を設けることになった。時間は明日午前9時。“緊急動議”ってやつなんだが、緊急動議のことは知ってるか?」
「「いいえ」」二人の声が重なる。
「だろうな。まあ流れについてはデバイスで確認できるからいいとしてだ。
鴇弥、おめぇが被告の立場になって逢坂宗次の今後の身の振り方を決める寸法っちゅうわけだが、そこんところ問題はねぇか」
「……たとえあっても“ない”というほかにないんですよね」
「そうだ。っつうのもよ、緊急動議に関わってくるのがうちら部内のニンゲンだけじゃねえんだわ。
……あくまでな、この学園は生徒主体だ。その裁きも生徒がする――ってな校風が、今度の件ばっかは成立しねぇってことだ。
いや、直接判断するのは学校の生徒だが、そこに教師と部外者から茶々が入るわけだ。
緊急動議なんて制度、このガッコができてから1,2回しか行われたことがねぇ。それくらいレアなんだわ。
しかも、動議の参加者が部内じゃ先公だと俺と誰か一人だろ? それと生徒会長と自警部部長だが……くそったれたことにこの二人も所用でいやしねぇ。
だから生徒会副会長と自警部副部長っつうことになるな。
あとは部外者――ティアンス教会のニンゲンが二人で、特別監査員が一人……最後のやつが厄介なんだよ、糞」
苛立ちのせいで振り切れんばかりに貧乏ゆすりを続ける学長に、名織は生唾を飲み込んで聞いた。
「誰なんですか? その特別監査員って」
「……七聖のメンバーから選抜、だとよ。ちっ」
どうやら、これが学長を悩ませていた一番の種らしい。その証拠に、学長は忌々しそうに舌打ちをした。
おそらく一週間も名織への事情聴取が無かったのは、そんなたいそうな人物が来るのに学校側で様々な準備が行われていたからだろう。
「そいつが参加するだけだったらまだいい。それから七聖様方による職員特別指導と、事案再発防止の教育体制を確保……
こいつが入ってくるだけで、一年の予定がどれだけ狂うと思ってやがる、っとに迷惑だぜ」
べらべらと不満を垂れ流す学長へ、名織は冷ややかな感情がまろびでそうになる。
――だからこの人のこと、好きになれないんだ。
「……学長。教えてください、学長は私たちの味方なんですか」
「あほ。味方もクソもあるかよ」
学長はストレートに否定しつつ名織を一蹴する。
「基本的に俺は敵でもねーし味方でもねぇ。学園を学園としての守る者たちのトップってだけだ。そういうくだらねえ枠組みで考えられちゃ困るんだ。
俺は生徒に関しては全員にニュートラルなんだよ。ただ学園運営を破綻させたくねぇ。
ま、今回の件は穏便に済ますのが一番ってなもんだからヨ。いらんこたぁ言わねぇよ。
――特にあんたの隣のセンセェは、何がバックについてんのかわかりゃあしねぇ。おっかねぇ勇み足だけはやりたくねぇんだ」
学長に睨まれたルスは、あさっての方を向いてすーん、とおすまし顔である。
……学長でも――そんな立場の人でも、この未来人教師についてわからないことがあるらしい。
であれば、名織が聞くべき情報も、まだまだ発掘される機会があるのだろう。
「ったく。いっそ逢坂がこの不在から永遠に帰ってこなけりゃ、まだいいものを――」
「な……」
それは、ヒトとしてあるまじき物言いだ。名織はぎゅっと拳を硬くした。
「学長、それは生徒の命はどうでもいいってことですか!? いや、死んだ方がマシだって……そう言いたいんですか」
「あん? そう言ったろ。っつうかおもしろいこと言うねぇ。生徒の命? 今更そんなものに関心を持とうとは思わねぇな。
社会の厳しさ、命の尊さを身を持って教えてやるのも、我々教師のつとめだ。そこでゲームオーバーになっちまやぁ、それだけだろ。
俺たちは命っていう授業料を金を払うことで買っている。
普通の学校とは違う。置かれている状況が違う」
にしても、この学園を束ねる長として、あるべきモノをいくつか欠落してしまったようだが。
不愉快を隠さない名織の視線に、学長はたしなめるような声色になる。
「鴇弥お嬢ちゃん、いいかな? 軍隊、警察、研究者にしてもそうだろ……聖術を扱うような職が生業となれば、死に神とは日常的にご挨拶することになる。
君ら生徒は金をもらっているのだから、それなりの報酬に見合わない働きがあれば、死んでしまっても仕方がない。
自分の身は自分で守れ。それが無理なら辞めてしまえ、そういうことだ。
可能な限りサポートはしてらぁ。が、その先は自己責任だ。俺たちにも限界がある。
それはだが、残酷なことなのかな? 君たちは入学式に宣誓した。この学園に身を捧げるってな。
――自己責任。それはディバイドティアンス上級生下級生、男女、教職、そしてこの俺……関係なくすべてに言える。
それが校風だ。俺はその校風を、心から尊重する。遵守する。信仰する!」
「私は、あなたがただの自己中心的な面倒くさがりに見えます」
「――ハハッ、確かに完全にその通りだもんな!!」
「……用件は終わりましたね。それでは、帰ります」
有無を言わせない剣幕でやおら立ち上がった名織は、ずんずんと足を鳴らしてドアノブに手をかける。
「ちょっと待て! 鴇弥、一応最低限のアドバイスはしておくぞ。
内部は内部で面倒だが、外部じゃああの教会と七聖が相手だし、公正な審議がされるかどうかは正直、よくわからねえ。七聖はさすがに公平にして公正だとは思うがよ。
まあ重箱の隅のつつき合いになるんだろうが――
戦闘の場に複数の戦闘人員を持ち出すのは反則、こりゃ法律に載っている。
だがそれはこの二人目がヒューマンやエルフとかの術士だった場合だ。喚んだのが人外であれば、どうだろうな?
ま、あいつらはぱっと見ヒト型ってだけだがなぁ。詳しいことはしらん。
そしてもう一つ。召喚は禁術だが、それは、聖術の場合だ。現行の法規制を言えば、魔術による召喚なら大丈夫ということになる。
魔術に召喚などという現象があることは、誰も知らないからだ。術式印の形だって歴史的に解析された事例なんかねぇ。
あの逢坂がどう仕掛けたのかはわからないが、魔術による召喚ならそれを説明できればいいんじゃねえか。じゃあな」
「――失礼します!」
▽ ▽ ▽▽ ▽ ▽
「緊急動議は、実は私もはじめてなんです」
ジュースのふたを開けて一口飲むと、ルスは涼しい口調でそう言った。
二人は休憩テラスの一角にあるベンチに腰掛け、くぴくぴとジュースを飲んでいる。
「……元の世界でやらな――あ、そっか」
そのときルスは自分と同じ立場で――彼女の世界に「未来から来た自分」はいなかったのだ。
だから選考方法も違ったろうし、その後の未来分岐もきっと違う。
「それに今回の緊急動議とやら、私はあなた側で参加できませんけどね。一応対戦相手だっただけですし」
「そうですか。私は私なりに……立ち回ります。
あの、ところで関係ない質問していいですか。ずっと気になってたこと」
「彼氏ですか? いませんよ」
「んなこと聞きませんって」
「処女ですね」
「だから!」
「やっぱりおへそじゃないですか?」
「いったい何の話ですか!?」
……頭痛が起きないよう名織はこめかみを押さえて、
「あなたはどうやってディバイドになったんですか。その経緯とか、いい加減に詳しく教えてください。
……聖術はもう使えないんですか」
「ええ、そりゃもう」
きっぱりあっさり、ルスは応えた。
が次に紡ぐ言葉はなぜかしどろもどろで、
「いや――まあ、その、本当にいろいろあって、割愛と省略で中略なんですけれども」
「この前病室で話してないことを話してください」
「………………そいつぁ企業秘密ってーもんですよ。あ、ちなみにぃこのオーガっぽい耳はオーガを装うための整形ですよ。何の変哲も無い人工癒合☆」
「だからなんですか。そんな情報どうでもいいです。……何か隠してませんか?」
「いえ別に?」
怪しい。言いたくない情報の一つや二つはあるのだろうが……。
「じゃあ、その話はもういいです。あなたの背後には誰がいるんですか? いったい、誰のサポートを受けてここにいるんですか。
術士学園の教師に採用されるんだったら、学園側の調査はすごく厳格なはずです。ディバイドだったら、なおさら――」
「ふふん。少なくとも私と同じ知能を持っているのですから私の推理くらいはできないといけませんねぇ」
「……むか」
「さすが私の下位互換」
「……むかむかむか!」
学長は言っていた。ルスのバックには誰がいるのかわからないと。
きっと彼女の処分自体も、全く行われないのだろう――だから学長は不正の確認をただの口頭で済ませてしまった。
「まあ、それについては言う必要もありませんので秘密にしておきましょう。
いずれあなたも知るでしょうし。ま、あなたでも会ったことのある人、とは言っておきましょう。
おっと、口が滑って大ヒントがまろび出てしまいましたね。いけないいけない」
……個人?
とすると、かなり絞られてくるじゃないか。
「……それって、まさか明日、緊急動議に部外から参加とかしたりしないですよね?」
「さあ、どうでしょうね~♪」
このあからさまな陽性反応。
個人として影響力を持つ存在なんて言われたら、思い当たらないほうがどうかしているだろう。
七聖。
しかも、名織はそのうちの一人としか会ったことはない。
ラ・ダッジュ・ストラス。
華術の祖であり、エルフの大聖術士である。
「ま、そんなことは結構どうでもいいお話ですよ。
それでは私はこれにておさらばです。
まあ私から緊急動議について言うことがあるとすれば、ですよ。
客観的に物事を見ようとする者や穏健派から言えば、規則に書いていないことを曲解したりして処分に踏み切ろうとするのは、あまりに理にかなっていないと理解できますよね。
でも、そんな人たちとは別の時空を生きてきたような人々が、実際いるんですよ。
法にないことは、道徳と感情で決める。自分が創り出したまやかしのものさしで。その感情などという愚者の武器を取り出させないようにしてくださいね。
論理で、ねじ伏せるんです。
ディバイドである宗次くんには不利なことでも、ティアンスのあなたなら彼を守れると思います」
と、言いたいことは言い切ったと言わんばかりにルスはおもむろに立ち上がる。
「ちょ、ちょっと待ってください。あなたにまだ聞きたいことがたくさん――」
「ごめんなさいソーリーです。私は私でこれから折衝しなければいけないんですよ。ねごしえーしょん。忙しい女なのです。ビジーレディだし。講義だってあるし」
「なんでちょいちょい英語で言い直すんですうざいなぁ……――わかりました。じゃあ最低でもあの異質な……ヒト?……たちのことを教えてください」
「ああ、エルレクリーフとヒアルピアのことですか。ふふふ、それは今日にでも知ることです。これも、ナイショ」
手を振って遠ざかっていくルス。
「……なんでもかんでもナイショおばさん」
名織はボソッと毒を吐く。
「聞こえてますよー」
遠いのでよく見えないが若干ルスの顔に青筋が浮き出ている気がする。名織は小さくガッツポーズした。
しかし。彼女の去り際の一言がどういうことなのか、今の名織にはまだわからなかった。
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