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双極のトップクラフト  作者: 稀城ヨシフミ
不殺のジェノサイド
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エピローグ Crazy New Game

 イベント「殺さずのジェノサイド」が終わった晩のこと。

 医療棟を歩く二つの影がある。


「……なあ、本当に成功するのかね」


「静かに。やってみなくちゃ、わかんないわよ」


 心配そうな男の声に、少しいらだった様子の女の声。

 二人が目指すのは、ルスの控えている病室である。

 まだ安静にしているようならば――それを襲って、彼女を消す。


「本当、とんだ泥臭い役よね、ウチら」


 常夜灯だけが光る薄暗い廊下を、歩いていく。そのまま曲がり角を終えた直後、


「あら、誰をお探し? ルス先生ならとっくにいないわよ?」


 廊下に佇んでいたのは、宗次とその二人に声をかけた皐月。

 皐月はその二人にだめ出しをする。


「あなたたち、殺そうとするターゲットをコロコロ変えすぎな気がするわ。

 私か、ルス先生か、宗次のどれかにまず搾りなさいよ」


 常夜灯が、病棟侵入者の表情をとらえる。

 一人は半獣化した顔をゆがめるバロット。

 もう一人は、面倒な人物に出くわしたな、とうんざりした様子の自警部部長、セルティだった。


「――あなたたちも懲りないわね。

 いい加減、滅ぼさなければならないわ。集社とかいうドクズの集まりをね。

 言いなさい。どうしてあなたはそんなところに属しているの?

 しかも、集社にいることを公には隠しているじゃない」


 笑みを浮かべて問う皐月に、肩をすくめてセルティも笑った。


「全部知ってるくせに、ホントアンタってSよね」


「あん? 失礼ね。性癖なんて時と場合に応じて切り替えられなければ三流よ。

 私はただ私が得た情報とのすり合わせをしたいの。

 あなたの口で言ってもらわないと、確信が得られないじゃない?

 セルティ、あんた生徒会に居ながら集社のお仲間を適度に逮捕していれば、バレないとでも思っていたの?」


「……ふん。集社に入るやつなんて……大半が……バカなのよ。

 バカすぎるのよ。

 愚かって言っていいくらいバカなんだ。

 ばかでばかでばかでばかで愚かでどうしようもないくらい……ウチや、名織みたいに――」


 それは、鏡の中に写る自分に毒を吐くような、苦しみを込めたいいわけに聞こえた。


「……話はそこまでにしておけや」


 バロットが、セルティを押しのけるようにして前に出る。

 それと時を同じくして、ピキピキと空気が張りつめていく――結界が展開されて、音も光も衝撃も、外部から遮断される。かくして廊下全体が一つのバトルフィールドになった。


「好きなようにやれ、って言いてぇワケだな?」


 ぽきぽきとバロットは指を鳴らす。

 バロットに対峙するように前に歩むのは、宗次だった。


「師匠ォ……すまねぇな」


 そう口では謝る彼の眼光に宿しているのは、明確に浮かび上がった殺意。

 宗次は表情の機微を見せず、少しうつむきがちに聞いた。


「バロット……会長に聞いたぞ、お前、俺を殺そうとしてたのか」


 半獣半人状態。おそらく、宗次のサポートなしでは全獣化出来ない。

 そして彼はそれでもいけると思うのか、もう悪足掻きするしか彼に道が用意されていないからか――

 どちらにせよバロットの目に、一片の迷いもない。

 バロットは何も言わず――その姿を消した。あまりに唐突に、狼の姿が消失し、


「会長、下がってください!!」


 ――ガンッ!!


 言うが早いか、象牙のごとき爪を硬質の音とともに、刀で受ける。

 鋭利な獣の腕と、憎しみの染みついた顔が一瞬浮かび――また、消えて無くなった。

 宗次は迷わず、会長に向かって走る。


「お前の相手は、この俺だ!!」


「げうっ!!」


 バロットに拳を浴びせる宗次の腕は、すでに獣化していた。


「チィ!」


 またバロットはこちらに向かってくる――宗次には分かり切っている。


 ――ガン、ガン、ガガッガガガッ!!


 突き出される爪、瞳を破ろうとする爪、喉元に噛みつこうとする顔――見えぬ一切の攻撃を、宗次は余さずすべてとらえていなしている。

 それは、バロットの幻術がいっさい意味を成さない、ということに等しい。


「……師匠……やっぱつぇえな……だが、オレは!!

 まだやんなきゃいけねぇことがあンだよ、――――――――――ぁ?」


 攻撃しようとするバロット。しかし、踏み込もうとした足が停止して、動かない。

 そして、


「バロット? あんた、どうしたの!?」


 セルティの言葉にも、小さな獣人は耳を貸さない。ただ宗次の真後ろを見上げるようにしながら、床にへたり込んだ。


「どうしたもなにも見えねえのか、チビっこッ! お前にも見えるだろ!?」


 宗次の後ろに、確かにソレはいる。

 けれど皐月もセルティも、疑問符を浮かべるのみだった。


「師匠ォ、そいつは……なんっ…………」


 言い掛けて、口がうまく回らない。

 宗次の背後に確かにバロットには見える。




 狼の、化け物。




 皐月が宗次へ向きはて、と首を傾げる。皐月は何も見ていない。

 見えていない。宗次の背後にいる、並の大きさではない、狼の化け物が――

 この廊下に窮屈そうにたたずむ狼――その瞳に屈しそうになる。

 膝をついて、ひれ伏したくなる。

 それ以上に、いっそその瞳に吸い込まれて、消えてしまいたいとすら願ってしまう。


 その――狼の化け物にはきっと、雲一つ無き静謐な満月の光こそ、似合うのだろう。

 そんなバカな夢想が、場違いに頭の中に浮かんでくる。


 ……きっとあれは、ずっと、宗次の傍らにいた。

 その歴然とした事実に、誰も気づかない。バロットだって今の今まで気づかなかった。

 魔力を研ぎ澄ませた者、幻術を得手とする者のみが、それと目を合わせることを許される。

 そうきっと、最初に彼に会ってから、今に至るまで――まるで親離れしていない子を見守るように、ずっといたのだ。


『――死んでも宗次の味方だと、貴様はそう吐いたな?』


 頭から、響いてくる声。


 ――宗次がいるなら汚い道から足を洗うと、確かにバロットは言った。


 ――言っただろ、死んでもアンタの味方だって。こう見えても決意はカテぇんだ。

 ……そう言った。それが、今では爪も牙も宗次の喉元に向けている。


「だからなんだよ。師匠より大切なモンがあるから、裏切っただけだこのクソやろう!!」


『――――――潮時だな』


 ――宗次の、大狼種ウルフの知り合い。親みたいなもの。尊敬していた。

 何でも知っていて、何でも出来た。

 そういつか宗次が語ってくれたそれこそ、この目の前の化け物なのだろう。


「……こんなのに勝てねぇ、勝てるはずが――――――」


「バロット。残念だ」


 本能で敗北を理解したバロットに、宗次はその一言だけをつぶやいた。

 そして――宗次がぽつりと、


「展開」


 ――ぐつぐつと煮立つような、黒い泉が、バロットの足下を覆い尽くす。

 バロットは一瞬にして、その闇とも瘴気とも知れない液体だまりの中に引きずり込まれる。


「がばっごぼっ……!! ……だずげ、……!!…………」


 ――とぷんっ


 バロットの悲鳴は、完全に闇だまりに消えていった。

 闇だまりも、その役目を終え廊下から縮小していくように消滅した。


「……さて、ここからは私に任せなさい、宗次」


 今度は、皐月が闘ってくれるらしい。

“信じられないもの”の一部始終を見ていたセルティは、警戒心露わに構えた。


「ほんとに、アンタ化け物ね。バロットをどこにやったのよ」


 宗次の前に一歩、ずずいと出る皐月。


「それより今は私と会話しましょうよ、セルティ。

 ま、あなたもいっしょにあの黒い液体の中で泳いでみればわかるんじゃない?

 さて、宗次のことを嗅ぎ回って、いい成果は出たかしら? 子猫ちゃん?」


「何よ、やんのミーハーひねくれ糞処女」


「は? っっっさいわね隠れディバイドマニア! つーかアンタも経験ないっしょ!?」


「ウチは動物が好きなだけ。毛むくじゃらとかを純粋になでたいだけ」


「で、宗次の夜のオカズが何かくらいわかったかしら?」


 …………宗次はその意味がよくわからなかった。

 が、何か侮辱されているな、ということだけは感じ取れた。故にその皐月の後頭部を殴りたくなった。


「なんでアンタってそういう話題が好きなのかな……あ、言っていいの? 逢坂のあれ」


 その口割る前にやっつけようかと言いたくなるが、宗次はつっこめる性格でもない。

 抜刀する直前の構えが精一杯だった。


「あはは。逢坂、そんな威嚇すんなよ、マジこえーわよ」


「なによセルティ、私と共有してそこは宗次をからかいましょ?

 上手くすれば敵同士でも、文字通り宗次の身ぐるみを剥がせるわけだし」


「――休戦協定。悪くないわね」


「悪いに決まってるだろ……!」


 ぴんとウインクする彼女にまるで緊張感がない。

 こんな時まで不真面目にからかうのはよして欲しい。宗次は灸を据える直前のトーンで、


「まじめにやれ、会長」


「わお、宗次から敬語が消えたよー!

 しかもすっごいアクティブに殺意全開だよー。うえーんげぶっ!!!!」



 ☆★☆★☆ごっっちん☆★☆★☆



 と、流星舞う勢いで、宗次は思い切り拳を皐月にたたきつけた。


「っ!?っ!?っっっ!?!」


 え、冗談の域超えてない!?と言いたげに目を白黒させて訴える会長。知るものか。

 セルティについては「やるじゃん」と敵ながらその英断を誉めている。


「し、しょうがないなぁ、ではやっちゃいますか、こーサクサクっと」


 ……仕切り直した今度の皐月の雰囲気は、どうやら本気だ。あくまで本気を見せない素振りをしながら、彼女が発する威圧までは、隠しきれるモノではなかった。


「――行くよ、皐月!!」


「どこにも行かないわ。下へ参りまーす」


 決死の表情で呪文を詠唱し始めたセルティをどこまでも軽んじながら、皐月は気楽な調子で指を下に向ける――その刹那。


 ズォオオオオオ――


 まるで、聴覚が砂ですっぽり覆われたような違和感とともに、体が思い切り崩れ、床に思い切り打ち付ける。

 宗次も、セルティも。ただいつも通りに立てているのは皐月だけだ。


「あれれーどうしたの二人とも? 具合でも悪いのかな?」


「……ぐっ!!」


 それでも、セルティはあきらめない。


「――ラックァ、フォク・ウェクス・ブロクン・フルオクム、グレア

《グレアより産み落とされし炎の神子、ラックァ》

 …………え」


「あら、今更気づいたの?」


 聖術発動の反応――青白い光が、セルティから発されない。

 それを心底残念がるように皐月は、


「デバイス、ハッキングされればどうなるかしら? あなたもそこまでバカではないと思っていたけど」


「……くそ。……これで、ウチの悪事も終わり、か」


 超重力にあらがいながらも、セルティは皐月をにらみつけた。


「あんたたち……言っておくけど、バックに控えている集社の奴らは、強くて残酷だよ。

 それでも、大丈夫?」


「ええ。これからそれを潰しに行くわ」


「……ウチは、抜け出せないほどに集社に足をつっこんでた。

 だから、もうダメだ。ウチは、ここで終わりにする!」


 セルティは苦しげな体勢のまま、自暴自棄のように叫んだ。


「せめて、みんな一緒に――!!」


 セルティは右腕をまくり上げる。そこには腕にびっしりと描かれた、奇妙な文字と模様の羅列。

 その術式印の意味を、皐月は一瞬で読み解く。


「自爆!?」


 タトゥーが、すさまじい光を帯びて、その存在を主張する。

 燃え尽きる前の、ろうそくの灯火のように。


「――爆砕の炎よ。それじゃあ、ね!!」


 ひときわ大きな光を放ち、聖力がセルティの腕に集中する――そして、


 ――ウウウウウウウウゥゥゥゥゥ――…………。


 タトゥーの光が、力を失ったように止んでしまった。


「……ど、どうして!?」


「あら、ガス欠? 大変ね、火術使いって」


 その新たな声に、セルティは重力にあらがい、ようやく首を向けられた。


「お、オルタ・トラギヌス!!」


 重力はここから少し離れた場所にまで及んでいないのか、涼しい顔でオルタは立っていた。


「無傷であなたを鎮圧できるなら、それが一番いいのよ。

 それが卑怯でも何でもね」


 セルティはとうとう、できる抵抗の術を全て、使い切ってしまった。

 はいつくばったまま、覚悟の声を宗次へと向ける。


「……逢坂。

 名織にはウチみたいな人生は歩んでほしくない。あの子のこと、守ってあげてね」


 宗次はうんともいいえとも、答えられなかった。


「あら、遺言はそれで終わり?」


 ……フッと、重力がその圧を緩める。皐月はコツコツと足音を響かせ、セルティの前に立った。


「さっさとやってよ」


 最後まで無愛想な彼女の声は、しかし小さく震えていた。

 皐月が腹を蹴ってセルティを仰向けに転がす。その顔は、涙にぐちゃぐちゃにされ、見れたものではなくなっていた。


 そして。

 迷わず、ためらわず。皐月は一振りのナイフをその心臓に突き立てた。


「あっ……く――と、友達に殺されるってのも………………ぎ、ぁ、」


 まるでしびれるように手足をもがき、やがて、セルティはぱたりとその動きを止めた。


「ふむ」


 皐月は特段、何の感慨もなく、活動を止めたセルティを見下ろす。


「ほら、証拠隠滅しちゃって」


「……」


 ため息をつくでもなく、眠るような表情のセルティの中心に黒い泉を再び出現させ――彼女を沈めていく。

 それをひとしきり見送った皐月は、


「まったく、手間かけさせるわね――」


 腰に手を当て、さっぱりした笑いを浮かべた。

 

「集社めー。私が幹部全員、絶望に叩き堕としてあげてやらなくちゃねぇ!」


「……そうですね」


 宗次は、結界の解かれた窓の向こうを見た。

 三日月が、まるで自分たちの営みを見下ろしているようだった。



  ▽  △  △▽  △  △


  △  ▽  ▽△  ▽  ▽



 ――ぴょこ♪ ぴょこっこ♪ ぴょっここ♪

 カエルの足音にメロディを加えたような着信音が響き、ルスはそのコールを受け取った。


「はい、もしもーしルスです。あ、留守ではないですよ? なんちゃって」


 だが、発音がどうにも同じなので、話している相手にとっては「?」もいいところだろう。


『え?……オルタよ。進捗は上々というところ。

 ……これであなたの言ったメンツは揃ったわ』


「はい。ありがとうございます。それでは、始めましょうか。

 後で追って連絡差し上げます」


 手短に済ませて、ルスは通話を切った。


「それでは始めましょうか――“強くてニューゲーム”!」

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