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双極のトップクラフト  作者: 稀城ヨシフミ
不殺のジェノサイド
36/49

甘酸っぱい空間は見知らぬ人からすれば臭いだけ

次の話はバトルですが長いので2話に分けました、明日と明後日の夜更新します。

 己の中を浮遊する感覚。それはなんとも表現し難い。

 黒く何も見えない漆黒の闇ばかりの空間は、海のようでいて、空のようでもある。

 その闇は、宗次が行く先に何があるのか、どこを目指せばよいのか、的確に示してくれる。

 彼女に預けた暗黒の一部が、どこにあるのかさえも。

 やがて闇を泳いだ宗次は、確かな人の感覚に引っかかった。


「鴇弥、そこにいるのか?」


 問う。やがて、ぼそぼそとした力ない声が跳ね返る。


『――宗次くん?』


「鴇弥、そこに人はいるか? 起きていたら、この瓶を放り投げてくれ」


 返答は無い。


「……鴇弥?」


『――――どうぞ』


 準備はすんだらしい。よし、と宗次は、頭上の漏れる光に這い上がっていく――

 闇と光の狭間。そこは感覚が少し曖昧だ。まるでゼラチンのような闇の違和感を押しのけて、外の空気に触れる。

 漆黒から、一息に明るくなる視界。宗次は思わず目を細める。

 宗次が出てきた空間はどうも明るすぎて、目が慣れない。

 四つん這いの格好になった手足の感触は、やけにふかふかとしていた。


「……鴇弥、どこだ」


「あ……あの、下です」


 視界がハッキリする。

 下――確かに、四つん這いになる宗次に覆い被さって、名織はいた。


「うわっ!!」


 そこがベッドの上と認識して、思わず飛び退くように避けた、が。

 何かに捕まるべくもなく、宗次は床に崩れ、どんがらがっしゃんと茶器棚に激突した。


「そ、宗次くん、大丈夫!?」


 救護員も、何がどうしたと部屋をのぞきに来た。

 宗次は後頭部の痛みを抑え、謝るのみ。


「……すみません、なんでも、ありません」


 いろいろといぶかしげながらも、救護員は退いてくれた。

 チカチカと明滅する視界から立ち直った宗次は、こほんとひとつ咳をした。


「え……えっと、だ、とにかく……すまない」


「い、いえこちらこそ、別に驚かせるつもりはなくて! ……ごめんなさい」


 そんな、紋切り型のつまらないやりとりをして、沈黙。

 名織はどこかしおらしい。が、まずはこちらの非を詫びなければ。


「すまなかった、鴇弥。一人にさせたせいでこんなことになってしまった」


 こんなこと。

 ペアとしての失格。事実上の敗退。

 宗次はいったいどこにいたのかと、責めを受け止めるつもりだった。だが――


「謝るのは私のほう。ごめん宗次くん」


 それは、弱り切った声だった。


「私が余計なことをしたせいで、失格になっちゃった。

 私が、先生に必要のない戦いを挑んで、負けた」


「そうか。……そんなことはいい。

 それより、俺が君を一人にしなければ、こんな――」


「そんなこと、じゃない! 大切だった一年間をこれで失った。

 それに一人で勇み足したから私は、」


「違う! もともとルス先生のそばに俺がいられれば、君に手を出させることも無かった。本当に、すまな」


「ちがくないですだから私がそもそも、」


「だから!」

「なんですか!」


「あのさっきからうるさいんですが? ここ病棟ですが? 痴話喧嘩はあとでどうぞ」


 とうとう、救護員に制された。

「「痴話喧嘩じゃない」」ぼそっと二人声が重なったところで、


「謝りすぎです」

「キミの方こそ」


「「…………」」


 重苦しい空気。なぜか謝罪を重ねたせいで、二人して追いつめられている感じがする。ひしひしと。

 それを打破する方策を、宗次は宗次なりに考える。

 ……不器用な宗次は、何も建設的なことは思い浮かばないし、気の利いたことも言えない。

 だから。


「鴇弥。とりあえず今の俺の感情をすべて吐露する。聞いてくれ」


「………………はい」


「まず、失格になったことはショックといえばショックだ。キミにも、俺にも落ち度がある。

 だがそれは、どちらが主張したとて平行線だ。どちらがどう自戒したところで、済んだ話に用はない。

 心を浪費しないでくれ――それで、いいか?」


「う、はい」


「よし。今後のことは前向きに捉えよう。

 そんなことより、これからの話がしたい――俺は君にとって、過保護か?」


 その問いは名織にとって、あまりに突飛すぎた。名織は「へ?」と眉を寄せて当惑した。


「……つまり……少し、迷うことがあったんだ。

 俺は鴇弥に対して過保護で、鴇弥をただサポートする以上にかばいすぎるのかと思った。

 君はそれが嫌なんじゃないか?

 本当は自由に動けて、成長の機会を持ちたいんじゃないか。

 君に無理をさせないと言うことは、君の実力を侮ることに等しい。

 だが、君は俺に比べて強くないのも事実だ。

 俺という因子は危ない、だから鴇弥に降りかかる火の粉を払うことも大事だ……

 けれど、それ以上に君の意志を優先させたい、そんな気持ちもあって、」


 言葉が、もつれる。

 その前に、まったく論理だった説明ができていない。支離滅裂も甚だしい。

 オルタ・トラギヌスは鴇弥に対して甘いと言った。だから、いろいろ考えた。まとまらずぐちゃぐちゃな頭を、そのままたれ流した。

 それを、わざわざ名織がフォローしてくれた。


「え、ええと待って、宗次くん。

 つまり、宗次くんは私の成長を阻害してるんじゃないかって心配だってこと?」


「…………」


 こくん。そのうなずきはいじけた子供みたいに弱々しい。だからか、


「ぷふっ」


 名織は吹き出した。宗次は思わず目を丸くする。


「間違っているのか?」

 

「ふ、ふふっ。いや、ごめんそうじゃなくて。なんか、すごく申し訳ないのに、笑っちゃって」


「……そうだな、その反応は不服かもしれない」


「でも、すごく気を使ってくれてるし、本当に、大事にしてくれようとして……その」


 はにかみながら、名織は笑う。


「本当に、ありがとう。

 うん――私は甘えてばかりいられない。もっと前に進みたい」


「――――――っ」


 体には電撃が走り、もうどういった表情を作ればいいのかもわからなくなる。

 まともな思考ができない。名織の顔を見ただけで、頭が沸騰する。何も考えられない。

 背中が、なぜかむずがゆくて仕方がない。


「でも……宗次くん、そんな話をするなんて……何があったの?」


「え……と、だ。

 さっきは別の場所に閉じこめられていた。その際、オルタ・トラギヌスと接触した。

 ……ある作戦に参加してくれと言われた。

 まあ、そうするつもりもないから、心配はしなくていい」


 そう。参加しないという意志。


 しかし、それはまったく反対の気持ちだった。

 デビル殺しには、絶対に参加しなければならない。


「交渉決裂」と突っぱねたオルタへの言葉とは裏腹に、そんな腹積もりの自分がいた。

 そして同時に。

 そのことは罪悪感を感じながらも、名織には黙っているつもりだった。

 彼女を甘やかせることと、この案件は根本的に全くの別次元。

 自分はデビルに関わるべきである。

 そして、名織をデビルに関わる危険に首を突っ込ませるべきではない。


 そして、集社を潰すこと――名織にとって、それを知るメリットもない。


「あの人と、話したんだ。どんな人だったの?」


「結構飄々としていた――そして、ルス先生と俺たちの関係について、何か知っているようだった」


 そう。ルス・クルガーラジ。この人物が、宗次と名織の、そしてオルタの根底にある。


「で、気になるのはルス先生の素性についてだが。あの人は妙だ。

 なぜか俺に好意があって、それを隠そうともしていない」


「……それは私も同感です。私なんて、宗次くんの……その、えと」


 名織は宗次をちらちらと見ながら、なぜか口ごもる。


「どうした?」


「いえ、なんでもありませんでした」


 キッパリと言われてしまった。


「……そ、そうか?

 話を戻すぞ――そして、さっきあったことだ。

 俺は皐月会長に依頼されて、あの人に暴言を吐きまくった。

 何の意味があったのかよく理解できなかったが、かなり効いていたことは確かだ。

 ……でも会長が何をしたかったのか、俺にはわからない」


「そのやりとりで何かわかったことはないんですか?」


「俺と鴇弥が、これから仲良くなると妙な自信をもって言っていたな」


「なんですかそれは。未来予知か何かですか?」


「そんなこと、俺にだってわからない」


 ――ただまあ、そうあって欲しいとは思うが。


 先のやりとりは、何せ皐月が指示したのだ。とにかく何らかの意味がなければおかしいだろう。

 宗次は続けた。


「会長はイベント後、ルス先生に関する情報を教えると言った。

 会長もつかんでいることはあるんだろうな」


 あのときは会場への映像受信を切り、外部には情報を漏らさないようにする、と皐月会長は言っていた。

 よもやルス・クルガーラジはそこまでの人物なのか。

 秘匿せねばならないほどの存在。うかつに誰かに言えないような存在。

 それを考察しながら、目を落とす。

 名織が握っていたらしい、妙な物体に目が止まる。

 それは何かの人形のようで――……


「っ、ぁあ!?」


 不意に、のどから出せないような声が出た。名織は口を△にしてびっくりしたあと、

 宗次の目線にあったモノをひらひらと見せつける。


「あ、これがどうかしたんですか?

 ルス先生が私に渡したんです。これ、知ってるの?」


「…………な……い、いや知らない」


「……どうしてポケットに手を突っ込んでるの?」


 宗次の無意識は、つい胸の内ポケットに伸びてしまっていた。

 そんなことはめざとく見つけられた。


「……」


 あえて黙秘を選択。

 そんな宗次に対して、名織はじと目になりながら、


「出してください」


「………………」


「だ・し・て」


 沈してもくる往生際の悪い宗次だったが、ついに観念した。するしかなかった。

 そして、宗次はラッピングされた小振りの包み紙を取り出す。


「プレゼント用ですか。……えっと、これ、開けていいんですか?」


「もともと、……君にあげるつもりだった。だから……いい……」


 ぼそぼそと、地味系幼なじみのごときぼそぼそ声は名織に届くこともなく。


「え? なんですか?」


 どこぞの鈍感主人公のように聞き返された。


「……なんでもない。開ければいいだろ」


「え、ど、どうして怒るの?」


 名織ははてなを浮かべながら、丁寧にその袋からモノを取り出す。するとそこには――

 ――奇妙な物体。緑色の毛に飛び出た目玉、そして真一文字に結ばれた口。

 口の端には愛嬌のように小さな舌がぺろんと飛び出ている。


「!? どうしてこれが!」


 名織がびっくりするのもわけはない。

 名織が今まで握っていたものと、そっくりのストラップが入っていたのだから。


「……俺にもさっぱりだ」


「ちょっと宗次くん、隠し事はなしです、洗いざらい教えてください!」


 名織は宗次にすがり、服をつかんでぐいぐいと催促してくる。

 いやだなんて拒否することもできない、というか息が苦しい。


「わ、わかった話すから手を離してくれないかっ!」


「まずこんなものどこで買ったんですか!?」


「……ここの外にある動物園。あるだろ、4つほど駅が離れてる。

 以前、ストラスが連れてってくれたんだ」


 すとらす。


 はて、そんな人私の知る中にいたかしらとちょっと考える素振り。

 ――――そういえば思い当たるひとが一人いた!という頭上に浮かぶ電球(見えない)。

 

「……七聖のラ・ダッジュ・ストラス!?」


 宗次は是、と首肯。


「俺を弟のように慕ってくれていたから、あの人は。

 父の気のいい友人だからな」


「……そっか、あなたの父親って七聖でしたもんね。

 ストラスさんが……意外だ……。

 ふむ。ではなぜ買ったんですか?


「それは、…………」


 ――(カァアアア)という擬音が今の宗次にはピッタリ。


「宗次くん、黙らないで教えてください! ここが非常に重要なんです!!」


 名織が弾ける。

 重要だ、そりゃまったくである。だから黙りたいというのに。

 この娘、壁際に宗次をめり込ませようかというほど追い詰めたいらしい。


「教えないといけないのか?」


 抵抗。


「もちろん」


 両断。


「…………――――――――――――――――と」


「と?」


「――――――……きやに、いつかあげたいと思ったんだ」


「…………………………え?」


 名織は目をパチクリさせ。

 今度は名織が赤ら顔に染まっていく。


「ぇえええ!? なんで私!?」


「だって。雑誌とかで、カエルのマスコットとかそういうの好きだって書いてあった」


「それはそうですが……これ、いつ買ったんです、か」


「……いつだっていいだろ!

 もともとあげる予定だったから、もらってくれ!!」


 君にあこがれたとき、などと言えず。

 名織もそれ以上聞いてはいけないと悟ってくれたのだろう、


「あ……ありがとうございます」

 

 いつか渡せる日が来るかもしれないと、そう思ったからこそ買った。

 こうして日の目を見られたのは、そのストラップにとっても、宗次にとっても幸せだった。


「……渡す機会をずっと伺っていた」


「……ちょっと待ってください。頭がものすごく混乱してきたんですが」


「俺だってそれは同じだ」


「……どうしましょうか。これからご飯でも食べに行きますか?

 二人でその、クールダウンすれば何かわかることもある、でしょーし」


 あはは、となんだか居心地に困る笑いをする名織。

 だが、その提案をはねのけ、宗次はしゃんとした顔つきになった。


「ありがとう。でも、……このイベントを諦めるのは、まだ早いと思う」


「?」


「彼女は――ルス先生は、俺と闘うために何らかの方法を取ろうとするはずだ。

 俺には、確信がある」


 わざわざ、ベランダにまで来て申し込まれた決闘。

 彼女は、絶対に機会を伺っている。


「…………そう、ですか。

 ごめんなさい、宗次くん。私はここに残って、宗次くんが勝つように祈ってます」

 

 自分が役に立たないことを知っている。

 だからこそ、名織は踏み込まない。


「鴇弥。鴇弥はきっと、もっと強くなる。だから、先生にまた挑もう。

 俺ともっともっと、強くなろう」


 握手。

 彼女は、まだまだ強くなる。そんなことも、宗次は確信している。

 今度こそ――もっと、もっと。


「……ルス先生は籠手ガントレットを使います。格闘です。

 補助系統の術は使っていたとは思いますが、それ以外は何も術を発動させることなく、私を倒しました」


「彼女の身体強化は、――神懸かっていると思う」


 洗練。

 彼女にこそ、その言葉が似合う。

 魔力を少しも無駄に流すことのない、完璧で純粋な力への出力。

 あれほど澄み渡った魔力は、久しぶりだ。


 とにかく、と宗次。


「とにかく、彼女は甲冑兵装を使うという話もさっき会長から聞いた。

 来るならおそらくそれだ。

 彼女は俺を知っている。だからこそ、絶対に俺を見くびらない。

 だったらこっちも、それに応えるだけだ」


 殺さないように、戦う。

 いつかできるようになったそれを、またすればよい。


  ▽  ▽  ▽▽  ▽  ▽


 デバイスから音声メッセージが届く。


『みなさん、ごめんなさい。

 私があまりに速く候補を削りすぎてしまいましたので、主催である生徒会さんから指導をいただいてしまいました。

 これからは自主的な戦闘活動は取りやめにして、みなさまに新たなご提案をしたいと思います。

 脱落したペアで、どうにかしてトーナメントに進みたい人は、私に希望メールを送ってください。

 それでですね、エントリーペアのどちらかが代表して、私と一騎打ちで戦います。

 私の武器は三つ目。それは見てのお楽しみです。

 ギャラリーはなし、場所は、バトルスタジアム1号基。

 以上の条件で戦える無謀な挑戦者は、是非私に一報お願いしますね。

 もちろん、最初の勝者のみがその後のトーナメントにエントリーできます。

 ――とはいえ、残されたパイは一つ。

 みなさんはやくエントリーしないと、誰かに取られちゃいますよ~。


 それでは、みなさんの挑戦、ぜひお待ちしております♪』

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