VS “No Killing Genocider”(1/2)
時刻1600。
スタジアムのフィールド中央に、相手となる黒髪の女はいた。
修道服のような青い着物。照明が暗いのか、彼女の佇まいは、ただ不気味。
スタジアムの窓はシャッター掛けされ、完全に外からは見えないようになっている。
その粗暴な鬼はルス・クルガーラジ。
「やあ、どうも宗次くん。
希望者はたった一人。逢坂宗次クンだけでした。
さあさあ、カメラはないですよ、お好きなことができますよ~?
鬼はからからと茶化す。その言葉に乗る気など、さらさらない。
ここの闘いは記録されている……イベントとして、公式的な試合。勝敗に公平を期すための当たり前の道理だ。
宗次の意図をくみ取ったらしいルスは、とたんにむくれた。
「むー……つまらないですね。もっと笑った方がいいですよ、キミは。
あ、そういえばオルタちゃんとしゃべったとき、何か“影”に投げ込まれませんでしたか?」
「さあな」
「とにかく、あとで見ておいてくださいね。
オルタちゃんからの何らかのメッセージが入っているはずですよ」
「……彼女と協力するつもりは、もうなくなった」
宗次は、拒絶を露わにする。
今真剣勝負する相手と、これ以上じゃれ合う気は無い。
「でも、キミは困っている人を見殺しにはできないタイプですよ?」
笑いながら、ルスは鋭い眼光を宗次に浴びせる。
おそらく自分も今は、あんな目をしているのだろう。
殺気のこもった視線――両者とも、同類だ。
「さて、私のことを殺したいほど憎らしいと思っていただけましたか?
鴇弥名織はおもしろい顔をしていましたよ。
殺してしまいたかった……そのままきゅっと首をひねって、ね」
「……どう、して、そんなことを考える」
感情を殺してしゃべるつもりが、どうしても言葉に熱を帯びてしまう。
そして、こちらの感情を逆撫でするように、ふふとルスは笑った。
「そうすればあなたは、私を殺すつもりで挑んでくれるでしょう?」
「……ただのイベントごときでか?」
「私には時間がないのです。時間と場所は有効活用しないと」
かくして、ルスの思う壺だ。
思考は平静を欠いて、熱い感情が煮えたぎってしまっている。
反して、ルスは余裕の表情で告げる。
「――“武器呼出”」
ルーンの少しも見せず、ルスは虚空から武器を出現させた。
それは、ルスの身長ほど長く、細い柄を拵えたハンマーである。
しかし、鎚頭部はまるで巨人が使うのかと見まごうほどに、大きい。
片側が円柱を成し、もう片側はツルハシのように尖っている。金色の装飾がほどこされ、神から戴いたような神聖性さえ感じられた。
それを振るわれれば、生身の胴体なら、吹き飛び粉々になるだろう。
「アミギミアの一等硬石“ファルテイル”により形成。
名を“マクシムス”――私の力が、よく馴染む」
口上を聞いた宗次は、懐から剣の柄を取り出し、そこに魔力を注いでいく――
やがて、質量を帯びた漆黒の刃が姿を現した。
「私にもあなたの武器の名、教えていただいてもいいですか?」
聞かれれば、答える。
「……光耀と呼ぶ。意味は耀く光」
「光のくせにどうして黒いんですか? ふふ、ネーミングセンス、ないんですね」
「…………」
ルスはきっと――これが父の形見であることも知っているのだろう。その名前を父がつけてくれたことも。そう、効果的に怒らせるだ。
知ってなお、煽る愚行をやめない。
くだらない。
それはわかっていようとも、宗次の頭の芯がカッと熱くなる。
「そんなことを言っている暇があったら――、」
言い終わる前に、ルスはこちらへと駆けた。
いや、ルスのそれは“駆ける”というより“地を翔ける”と呼ぶにふさわしい。
宗次は腰だめに構え、思い切りの横薙ぎを刃で受け止めた。
がづんッッ!!
その刃と金鎚の混じり合う音は、まるで岩に刃物を当てる音に近かったが――そんなものとはまるで次元が違う。
破壊力の備わった音、それはどこまでも重厚で、腹に残響る。
魔力を注いだ刀は弾け飛び、刀身は魔力のつながりをほどいて霧散し、柄が手を抜け空へと飛んだ。
「……ッ!」
その一撃で、宗次のすべての指がひしゃげた。どの指も、本来曲がるはずのない形を成していた。
宗次は巡る神経の痛みを、眉を寄せるのみで片付け、無言で後退。刀の柄を拾い上げる。
指先に魔力を送り、痛覚の大半を殺す。
幸いにして、連撃はない。ルスも様子見の一撃といった趣である。
――本当にヤツの扱っているモノはハンマーなのか。
確かに、威力の強大さそれ自体はハンマーのそれに等しい。
その膂力で、力を凌駕する力。加えられた遠心力をもコントロールするハンマーの軽さ。弾丸のような振り込みの疾さ。
そのどれもが、あのマクシムスという巨鎚においてハンマーの常識を逸脱している。
魔力の伴わない純粋な武器のみの力が、この結果だ。
宗次にとってはまるで、隕石を弾き返すほどに、無謀。
早急にあれを打つ手を策を講じなければ、おそらく待つのは「死」。
なれば、宗次の決断は早い。
「――――<これより彼我を転ずる。
自由は新たな束縛により、我の力を在りし力と共に行使せんがため、ここに召喚ぶ>」
術の行使とは、コンピュータに似ている。
まず、言葉(Word)という媒体により彼と我を定義する。
言葉を組み立てたならば、それは発動後の理として、世界に成る。言葉の連なり=術式に欠陥があれば理は理を成さず、時として術士本人に牙を剥く。
宗次は言葉にて魔術に定義を作り、魔力を込めた指で肘の付け根をなぞる。
日の本の言葉を魔の言葉に置き換える行程は、今の宗次にとって絶対要件ではない。それは宗次の“オートメーション化された部分”が、やってくれている。
それほど造作なく、術は成る。必要があれば、あっけないほどに禁忌すらも侵せよう。
いや……もう宗次は、禁忌だけなら人一倍侵してきた。
ルスへの披露など、その禁忌のささいな“一”にすぎないのだ。
――そうして宗次が指でなぞることで地点指示した場所が、魔術行使箇所となる。
「<来たれ、我が心そなたの身とともに――エンキュロット>」
詠唱の終わりと同時に、ルスが踏み込んだ。
巨鎚による力任せの、力で制するだけの刺突。
鉄塊、と呼ぶにはあまりに横暴な硬質の固まりが、宗次へと突き出された。
宗次の腕に、ためらいなく金色の暴力が滑るように走る。
ガッっヅンッッ――――!!!
宗次の刀の顕現は間に合い、寸でで巨鎚を止めた。
そして今度は、力に圧し負け柄を離すこともない。
宗次の腕は今この瞬間をもって――その生々しいほどの“異様”を、見せつけた。
「……くっ……あはは、宗次くん!
やっとやっと、ああ、とうとう獣化しましたね。
そうでなければおもしろくありません!」
楽しくて仕方がないと言うように、ルスは笑う。
宗次の腕は、肘の付け根から指の先までキレイな縁取りで生え替わっていた。
ニンゲンとはおよそ思えない鱗が生え、真っ白でざらざらした肌。
……爬虫類。今の宗次は、まるでニンゲンとそれの合成獣――一見すればそれとしか捉えられない肌であった、が。
なぜか宗次の腕においては、それに見られる一般的な“気持ち悪さ”――生理的嫌悪感、とも言える――が全く無かった。
トカゲ、と呼ぶにはあまりに近すぎる。蛇神と呼んでも畏敬にはまだ遠い。
――まるで、竜の腕を移植したような、そんな腕。永久に成長せぬその腕を借りた子竜の名は“エンキュロット”。
腕から伸びる五本の指はしかし、ニンゲン然とした規則正しさで、柄を握り込める造りそのまま。
しかも、あふれる魔力の高鳴りは今までの比ではない。
「さあ、私にもっともっと、化け物の力を見せてください」
「……黙れ」
ガドムッッ!!!!
巨鎚が再度、競り合いの炎花を散らす。
――どっちが化け物だ!
宗次の中の魔力が続く限り、胸元のバッジを奪うことに専念しよう。
いつ、あの巨鎚に体ごと持って行かれるかわからない。
競った衝撃は、神の先から足の指先まで焦がす。
魔力を込め強化した竜腕をもってしても、目の前の超暴力にあらがい続けることなど、とうてい不可能だ。
――対抗しうる時間は、限られている。
「宗次くん。あなたは体の中に“何か”を飼っている。
それは、あなたが作り出したスライムだけではない。
私は知っています、あなたの中に巣喰うもっとおぞましいモノの存在を――」
「だったら、どうした」
「――どうしても、引き出したいッ!!」
その女教師の瞳は、吸い込まれるようにきれいで。
たぶん、狂っていた。
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽
どこかで工事をするような遠くの重い音。しかし、工事などと形容するには、軽薄も過ぎる。
空気と似ても似つかない、歪んだ気と気がぶつかり合う、穢れた音。
およそティアンスが聞いて感じるには、口の中に嚥下できない異物を転がされているような不快を抱く。
もっともそれが聞こえる前から、胸に拭えない不安が名織の体に張り付いていた。
術士同士が交える、ある種の殺気。それが漏れ出ているのがわかる。
この音と殺気は、間違いなく宗次とルスが闘り合いはじめた合図なのだろう。
「……宗次くん。ごめん、ごめんね――」
二つのカエルのストラップを、きゅっと握り込みながらそれに顔を埋める。
名織には、ここで祈るくらいしかできないのだ。
そして、ふと。
ちく、と指先に何かが当たった。
「……? これ、ストリングメモリ?」
少し古ぼけた方のカエルのストラップの首に、白い糸が巻かれていた。
コンピュータに少しでも詳しければ、それがメモリー媒体の糸であることは明白にわかる。
この――ストリング(糸)・メモリは、デバイスの認証箇所に近づける・あるいは接触させるだけで使用が可能になる。
カエルの首からほどいた糸を、握り込む。するとデバイスがメモリの存在を認識した。
メモリには、音声ファイルが一つだけ入っていた。
名織はのどを鳴らし、それを再生した。
『――鴇弥名織。こんにちは。ごきげんいかがですか』
名織は、目を丸くする。
そこには、
『これをあなたが聞いている頃……私はあなたをボコボコにできて、少しすっきりしたと思います。
……えーと、…………うん、あはは。ごめんなさい』
聞いたことのない慈愛を感じるルス・クルガーラジの声が収められていた。
『さて、自分で答えにはたどり着けましたか? 私の謎に。
……この先は、私が死んでしまった場合に聞いてください。
私が死んでいなければ、あなたに直接話そうと思います。
私の真実と、これからあなたがすべきことを――』
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽
言葉は無く、しばらく――
ただそこにあるのは黒刀と金巨鎚の爆ぜ合いのみだった。
神経ごと接続された竜腕は、反動によってその感覚をなくしつつある。
……魔力よ、保ってくれ。
しかし――宗次は思う。
剣戟によって感じ得たその女の戦闘法は、宗次にはどうしても解せなかった。
それは、巨鎚の迸る軌道だ。
完全に宗次の刀を受けきる、ルスの手足と化しているはずの巨鎚――それが攻撃に転ずると、攻撃の軌道に寸分の狂いが見られた。
迷わず、寸分。違わず、寸分。
宗次が回避に専念するときの数回でそれを感じ取った。ルスは宗次の“真芯”から少しだけずらした軌道の一撃を繰り出す。宗次への避けられぬ一撃を、今以て繰り出さない。その意図は不明。
まるで、自分に覚悟する時間を与えているかのようで。
ともすれば、宗次に情けをかけているのか。
しかしそれ自体罠の可能性がある以上、宗次は正攻法で、相手が“完全なる隙”を見せるまで斬り込み続けるしかない。
――さて、あの鎚の柄を斬るか。
均衡する展開を打破するには、今までと違う手で攻めるしかない。そう宗次は結論した。
踏み込みの速さ・初撃の速さでは、こちらに分がある。
巨鎚を扱う以上、そこに隙は存在する――そう信じて、今まで斬り込み続けた。
宗次は踏み込む。エモノの柄めがけて黒刀が翻り、思いきりその柄に向けて一撃を振り抜いた。
ガインッ!!
手応えがあったのは、その音くらいなものだ。鎚の柄は傷一つついてはいない。
「――無駄ですよ。柄も鎚頭と同じ素材です」
飛び退いて、休止。息が上がってきた宗次はそれとは反対のルスに驚愕する。
――この女、スタミナ無尽蔵か。
そう悪態をつきたくなるほどに、ルスは冷静で平静だった。汗もあまりかいてないようだ。
まともな答えは期待していないが、宗次は聞く。
「……あんたは、本当にディバイドなのか。なぜルーン無しで、魔術を使える?
大講堂でも空中での魔力球も、いっさいルーンは出現させていないだろう」
「さあて。自分で考えてみてはどうです――――かっ!!」
回答を拒否する代わり、紫紺の弾丸が都合5つ、ルスの手から生成される。
ルスの振りかぶりと共に思い切り放たれた魔術球は、スタジアムの床を熱波で変質・吹き飛ばしながら、迷わず宗次へ直進。
宗次はそれを斬り払う選択をし、そして不覚をとった。
「――ぐっ、ぁ!」
普通ならば、容易に斬り飛ばせる魔術球。
が、刀身に触れた途端、落雷に撃たれたような電撃が体じゅうを駆ける。
それを真っ二つに斬れた。
のけぞり、踏ん張りをきかせ立て直そうとする。が、その間にルスは詠唱していた。
「<我が鎚、裁きの怒れる鎚となり――そなたの身、五度滅せんと欲す>!!」
巨鎚に、黒のオーラが流れている。
さわると指が溶けるであろうほどの、悪意や怨念の類――それが瘴気。
瘴気を純粋な力へと変換された魔力が、金色の巨鎚“マクシムス”に備わった。
「倒れなさい、宗次くん! <鬼流鎚>!!」
大振りの巨鎚から出力されたのは、巨大なカタチを持つ波動。
それも、首くらいならば簡単に切断しうるほどのモノだ。
恐ろしく強く速い波動は、地上すれすれを飛行するギロチンのように、宗次に迫る。
一撃目は、高く、それも天井に届く跳躍で難なく躱す。
スタジアムのバリアは、これを防ぎきれなかったらしい。壁ごともみくちゃにするような轟音を立て、施設ごと崩落。
続く二撃目、天井を足場に跳躍、真下へ降下。ギロチンウェイブは天井に炸裂。照明電源がイカれ、場は一息に夜のように暗くなった。
三撃目、悠長に避けていては間に合わず。
波動を、こちらも刀に同じ波動を帯びさせ、切り上げ弾く。
肩や足が、かまいたちでも浴びたかのようにばりばりと斬り込まれる。
四、五撃。これ以上の連撃に耐えられる由は、こちらから作らねば勝機はない。
「――<甲殻>!!」
宗次の魔術の発現。
足下に転写されたルーンを消すことなく、宗次を守る巨大な不可視の甲羅が包む。
ただし、その甲羅も二度直撃を受ければ、簡単に悲鳴を上げる。
五撃目の直撃によりルーンは色を無くし、その効力を全て失ってしまう。
ルスの、速さと精緻さを増していく五連。
術士として、戦士として、目の前の女の底なしの力を疑う。
「連ねて五連!!」
そして、かの鬼女から仕切り直しの一撃目が放たれる。宗次は上に跳躍――これでは堂々巡り、焼き直しの一手だ。
このような勝負では、いずれこちらが負けるのは明白。
あの威力とスタミナを前に、根比べする算段はさらさらない。
ならば。一か八かの勝負に打って出るほかにない。
意識を一瞬、無にする。
そうして唱えたのは疾風のごとき神脚と、それを自分の意識で統御するための二種の魔術。
「――疾ッ!」
駆ける。腰をかがめ、空気を裂くほどの速度で。目指すはルスの懐。
「甘いッ」
放たれた、2,3発目のハンマーギロチン。そのうち一つは躱しきり、もう一つは真っ向から受ける。
受けきった衝撃の大部分は、シールドに任せた。意識と術の効力を絶やさぬ限り、シールドが体を外れるということはない。
だが――ルスの放つ衝撃を真っ向から受けきったことで、そのバリア自体が摩耗しきり、一時、完全にその守りを失った。
半身の体がえぐられる。服が剥がれ顔が切れる。足がもつれて、それこそ簡単に転びそうになる。
だが、その足を止めない。もう決着はつく。
繰り出すは凡庸な一手。だが、冷静な判断は与えないほど、速い。
「ぉぉおおおおおおおおおおおおおッ!!!」
飛翔。もはや馬鹿げているほどの、真っ直ぐで、愚劣とも言えるほどに隙だらけ。
それはかくして、ルスの恰好の的になる――はずだった。
ルスの命は、そのバッジただ一つ。
対してこちらは、心臓さえ失わなければそれでいい――!!
尖る流星のごとき宗次が、迷いなど欠片も感じさせず、激突する。
ルスも、宗次が勝負してくることは予期していただろう。
ルスは身を翻し、流麗な動作で黒刀を弾く。宗次の個人領域は、完全にガラ空きとなった。
そして、目標を破壊する、巨鎚による正面への刺突。
「――――<蛇流牙>」
その直前、何かを宗次はつぶやいて。
バァンッッッ!!!
宗次の手が、一瞬あり得ないほどに伸びる――と同時。
果実に銃弾を撃ち込んだように、宗次は爆ぜた。
紅い宝石のようなザクロの群れが、きらきらと中空を舞い、やがて、地面を生ぬるく塗りたくる。
宗次も、その床に転がった。
「――が。……はぁ、はぁ、はっ、ぐ、」
シールドは破けた――捨て身覚悟の一撃である故、それが道理だ。その制御すら失い、ごとりと三角錐のシールドは横たわっている。
ルスは無傷で、宗次自身は脇腹をほぼ損傷。臓器には、幸い到達してはいないか。
ただし巨鎚に穿たれた部分は体のシルエットごと変貌した。
だが――シールドが破け切るよりわずかに速く――ルスのバッジを手で掴み取っていた。
今それは、まさに宗次の手中。
肉を斬らせて骨を断つ。引き替えたのは宗次の脇腹と、ルスの徽章。
「……私が、見誤った?」
ルスが呆けたようにつぶやいた。
宗次はなお立ち上がり、顔だけ振り返り答える。
「竜はもともと臆病な種ばかりだ。俺との距離感が上手く測れなかったはずだ」
ルスの目を、ごまかしていたのだ。
その竜とは、もちろん腕にとどめたモノである。
先の、ルスの“真芯”を外すクセ。それに魔術を用いることで拍車をかけさせた。
「……どうしてあなたは、そんなに甘いのですか?
私に傷一つ付けないのが、あなたの優しさですか?」
「殺すほどの本気なんて出す必要がない。そういうイベントだ。
甘いだの、甘くないだのあんたの裁量で文句を言われても困る。これが、俺の最善だ。
代わりに、あんたの命はもらった。目的をはき違えるな、ルス・グルガーラジ先生」
片手で脇の生ぬるい感触に触れながら答えた。
高揚していた感情が鈍り、それと引き替えに刺しえぐる体の痛みが強くなる。話しながらも、魔術で可能な限り自己の再生に努める。
ルスはぽかんと口を開け、しばらく立ち尽くしていた。
そして――やがて、笑った。
「ふふ……くく……そうか、私はルス・クルガーラジだったんですね」
その笑みは、まるで借り物のような。
どこか、希薄な雰囲気がある。
「……気が触れたか?」
「……あはは。すみません。私ってばうっかり、そんなことも忘れていました」
ねえ、宗次くん、と。
傷つけた脇腹を気にするでもなく、互い旧知のようにルスは言う。
「ねえ、宗次くん。あなたの一撃必倒を私は見たいのです。
その力があるなら倒してください。本気の私を」




