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双極のトップクラフト  作者: 稀城ヨシフミ
不殺のジェノサイド
31/49

狩りの時間

  ▽  △  △▽  △  △


  △  ▽  ▽△  ▽  ▽



 好きだ。好きだ。だいすきだ。

 これは、スペシャルスイートで、とにかくもう収まりきらないほどのラブだ。

 否定できようのない、メロメロでドキドキで遺伝子に刻まれてしまった気が狂いそうな恋心で、下心であり、純真無垢な――――――――――


 唾棄すべき、愛なのだ。


 何年立っても何百年立っても、この愛の泉が枯渇することは、宇宙が滅んでも決してあり得ない。

 今の自分は、狂ったほどに脳髄から脊髄液の絞り出される一滴に至るまで彼への一方的な偏愛に満たされてしまった体なのだ。


 ――だから、だからこそ。今は彼と闘いたい。



 

 ルーレット選出をしてから、5分が経過した。

 気がつけば大講堂はもぬけの殻になっていた。

 救護要員も、リタイアした人々も、生き残った人々も鴇弥名織も逢坂宗次ももういない。

 ここには自分――ルス・クルガーラジしかいない。


 生徒会から譲り受けたマッピングソフトのおかげで、参加生存者全員の居場所は把握できる。

 その上、12時に開始されたイベントは、まだ30分も経過していない。残りの19組をじわじわと削っていくにしても、十分すぎる時間が余っていた。


「……12時間はいらないかなぁ」


 ルスは携帯デバイスを取り出し、皐月に電話をかけようとする。

 ――そんな彼女を球体の高機動カメラ越しに監視していたのだろうか。

 皐月が先んじて、ルスのデバイスを震わせた。


「――あ。こんにちは会長さん。

 ちょうどよかったです、お話ししたいことがあって」


『ええ、私も話したいことがありました。とりあえず先に用件を伺います』


 ルスは返答する皐月の声に、突き放すような冷たさを感じ取った。

 思えば、このイベントに参加要請するときの彼女も、どこか冷たさを抱いていた。


「……うーんとですね、イベントの残り時間なんですが……

 残りあと5時間くらいでいいですか?

 時間が余り過ぎてしまうので、生徒たちのためにも12時間は酷かな、と」


『いいでしょう、申請を承諾します……では私からもお願いです。

 怪我した人たちの受け入れ体勢が間に合わなくなるおそれがあります。

 一応、外部の病院にもお願いしてるけど。

 重傷者は出さないようにしていただけますか?』


 バトルに関してはどこまでもイケイケな会長が、らしくないことを言う。

 ルスはしれっと応えた。


「そんなこと言っても、私に手加減なんてできませんよ。それは申し上げたじゃないですか」


『ではちゃんと、あらかじめ能力の申告をしてください。

 ここまで強いとは、誰も想像できません』


 ――名もないディバイド風情が、新入生とは言え――圧倒的な力でティアンスを、一網打尽にした。

 学園で半永久的に語られるほどの暴挙を、ルスはやってのけた。


「しましたよ? 私は格闘が得意だって。イベントの趣旨に合ったことをする、とも」


『……あなたのその一撃は“格闘”で収まるものなのかしら?

 ただ者じゃないとは思っていましたけど、それでも限度をわきまえてもらわなければ困るわ』


「それはあなた個人としての意見ですか? 生徒会長としての意見ですか」


『…………』


 無言。

 わかりやすすぎて、笑えてしまう。

 今の会話は公向けのメッセージ。本音としては、もっとじゃんじゃんやって欲しいということだろうか。

 ルスはそんなおかしさをこらえながら、自分なりの返答を述べた。


「死ぬという状態が私の限度ですが。

 まあ、あなたと私で価値観は違いますからしょうがないです」


『ふむ……それじゃお互い、本音で話しましょう。安心してください、カメラの音声は切ってます。

 この会話が録音されているということもないです』


 皐月には、いつもの余裕めいた感じがなかった。

 ということは、いくらかシリアスな話を切り出そうとしているのだろう。

 安心を促す皐月こそ安心していないんじゃないかとは思ったが、それを言うのは無粋だ。


「私はディバイドですし、背後のサポートもそんなに手厚くはないんです。

 なので、うかつなことは言いたくないですよ?」


『承知の上です』


 ルスはしばし考え、言葉を選びながらデバイスの向こうへ語りかけた。


「会長さん。あなたは今まで私との面談の機会はうかがっていたのでしょう。

 まあ、宗次くんやら何らかの騒動やらが重なったと同時に、私の正体を明らかにしきれなかったことが重なって、接触が今になってしまったんでしょうか」


『……“正体”。自分で思い当たることはあるんですね』


「ええ。どうせ私のDNA鑑定はお済みですよね」


 ルスはサラリ、と髪をといた。そう、この長い黒髪などまさにそうだ――

 生活環境から出るモノは採取され、おおかた検査の類には出されていてるのだろうと予測する。

 ルスは少しだけ迷って――本音を交えて話すことにする。


「会長は、とてもいい方です。

 ですが私の持っている力にどういう感想を抱くかは未知数。

 会長は、ヴィオンテクニカル社の研究技術部の総括部長でしたよね?」


『それが何か?』


「そんな方が私の力を知ってしまっては、私もただでは済まない可能性があります。

 あなたが人情と力の追求、どちらを取るのか現時点では私にはわかりません。

 私の言動如何いかんによっては、私はあなたの敵になるかもしれない。

 きっと私自身の話をしたら、会長は血湧き肉踊るに違いありませんから。

 ですから残念ですが、すべてをお話することはできないんです」

 

『お互い、牽制していたほうが今はいいと……そう言いたいのね?』


「ええ。お話が早くて助かります」


『……ますます興味がわきました。

 是非、思う存分の力を駆使して、闘ってください』


 そのとき、デバイスの向こうから『会長――!』とたしなめる声が聞こえた。

 副会長の吾方だろう。

 思う存分闘え――それが生徒会長としてではなくヴィオン・C・皐月としての本音なのだ。

 少しだけ弾んだ声で、質問が飛んできた。


『ちなみにルス先生、あなたの甲冑兵装“白蜘蛛”はこのイベントで出すの?』


「……いいえ。宣言しますが、絶対にあり得ません」

 

 その話も当然来るとは思っていた。

 それは自分の武器にして、最終兵器と呼んでもいい。


『白蜘蛛が必要なほどの生徒がいたとしても?』


 ルスは脳裏に、宗次を思い浮かべた。


「白蜘蛛はほとんど殺人兵器です。

 それをこんなままごとで披露するわけにはいきません。

 それにそんな生徒にこそ、私は生身で勝ちたいのです。

 これは、私にとっての制約のようなものです」


 逢坂宗次に、生身で勝つ。

 それがこのイベントのルスの目的の一つだ。


『ふうん、わかりました。

 では先生、最後に質問と忠告を一点ずつ。




 ――あなたは、鴇弥名織の、何?』




「………………ふふっ」


 ルスはその問いに、吹き出してしまった。いやな印象を与えてしまっただろうか。

 ――やっぱり会長も、真相にたどり着けていないのか。


「……それは検査の結果を見て、ですか? それだったら、見た通りじゃないですか。

 あなたはその検査結果を複雑に考えすぎているだけです」


 長い沈黙の後……会長は『そう』とそっけなく答えた。


『それでは忠告の方を一点。

 鴇弥名織と逢坂宗次を命の危険にさらす真似をするのなら、私はあなたを容赦しない。

 ままごとというなら、それ相応の戦い方を心得てください』


 ――いつもの余裕がないのは、このためかな?

 鴇弥名織と逢坂宗次に起ころうとする危険を排除したい――その皐月の思いは人情のためか、自分の力のためか。

 きっと皐月は昨日、ルスが宗次の部屋に進入したことは把握しているのだろう。DNAを通して究明しているであろう名織との切っても切りようのない“血”のことも、確実に関連があると見ている。

 だからこそ、二人にルスによる危険が及ぶ可能性を承知はしている。

 ともかく、名織と宗次を守ろうとする意気については、いくらかあると見えた、そこにルスは少し安堵した。


「では私は、それだけはありえない、と言っておきましょう。

 さっきも似たようなことを言いましたよね。

 私にとって死なないバトルそのものが、ままごと同然なのです」


『………………』


 無言の返答の後、電話は切れる。

 ルスは、嫌われてるなぁと苦笑しつつ時計に目をやった。


「おっと、もう10分とっくに過ぎてたなぁ」


 ルスは急いで目標のもとまで向かう。

 イギルとバロットは後回し。

 理由はただ一つ、宗次と彼らで共闘する可能性が考えられるためだ。

 まずはほかのティアンスを優先して排除することにした。

 3組6名の抽選されたティアンスが、結託して待ちかまえる場所に行くことに決めた。


「……あれ?」


 一人、何もしていないのに失格になったのか、名簿が暗転した者があった。

 ささいな違和感を抱きながらも、ルスは敵の潜む場所へと急ぐ。



  ▽  ▽  ▽▽  ▽  ▽



 胸の徽章バッジを取られたら負け――であれば、超速で相手に接近して殴るのが一番効率がいい。

 だが、気を付けなければシールドを突き破った勢いで拳が相手の体を貫通してしまう――そんな惨事を避けなければいけないことが負担だった。


「――か弱い女の子っていうのも、宗次くん的にはポイント高いんだろうな」


 ものすごく取り留めのない考えがひょこりと浮かんで、消えた。


 ルスは目的地付近に到着。

 場所は旧講義棟3階東側の、空き教室が連なるエリア。

 3Dマップにポイントされた敵影の数5。バッジを持っているのはそのうち3人いる。

 謎の失格者1名はなんの為に名簿から消えたのか、未だに謎だ。


「……ともかく、目の前の相手に集中しますか」


 真っ向から立ち向かえば当然、面倒なことになる。

 ゆえに正面突破か、裏をかくかと言われればーー。


「うん、裏をかこう」


 壁の向こう、マップを見れば壁に張り付くように待機している者がいる。


「ふっ――ん!」


 ルスはその真横に、迷わず手を突き刺した。体で抱き込むようにコンクリートを鉄筋ごと破壊し、

 砂塵まみれの中、すぐ隣にいた女子生徒エモノを抱きとめ、廊下へと引き出した。

 女子生徒は目を見開き、何が起こったのかさえ理解できないようだった。


「捕まえました♪」


 女子生徒の胸についたバッジをはがすと――

 ルスはしゃがむと同時、地面に拳を勢いよく突き刺した。


「破!!」


 蜘蛛の巣状にヒビの広がった床が、衝撃と耳障りな音をかき鳴らし、勢いよく崩落していく。

 まるで猫のように流麗な所作で下の階に着地したルスは、迷わず隣の部屋――上の階と同じ構造の教室へ入り込み、地面を駆け。


「ここッ――」


 マップの真上、上階の床には敵影が1。ルスは筋肉を収縮させ、爆発力を増して跳躍。

 先の壁と同じように、手から突っ込む。

 手刀の形で手を入れた床は、崩落まで至らない。

 そして――


「キャッチ!」


 上階の敵の足首を確かに掴み、


「フンっ!!」


 それを勢いよく引っ張り引きずり込み、相手の体をコンクリに強く削がせた。

 シールドが破壊された感覚は、なんとなくわかっていた。

 体そのものがシールドの保護を無くし、肉自体がコンクリにつっかえたところで、ルスは手を離し、地面に降りた。

 再び見上げると、プラプラした足が天井から生えているという奇妙な光景があった。


「ままごとはままごとらしく――……

 死なない程度にベストを尽くしますよ」


 これでも遠慮した方なのだ。


「残り3……に、……ん……?」


 突然、嘘のように冴えていた頭が鈍くなり、瞼が重くなった。

 この場でいいからすぐに寝てしまいたい――そんな欲望が頭を占拠しはじめている。

 その原因となる術式印ルーンは巧妙に隠されているせいか、場所を突き止められない。


「これ……神経術の類……なるほど……」


 神経術は指向性が低いために、その場全体が術で汚染される。だからこそなのか、毒の類の術ではないことに少し安堵した――したところで、ルスの両腕がピン、と勢いよく引っ張られた。

 ぎゅうぎゅう、と音を立てながら、衣服の上から腕が締め付けられる――縄の形をした白い光が、ルスの腕に蛇のように巻き付いていた。

 まるで磔にされた形で、身動きがとれない。

 その術をかけた者は、ルスの視界にいた。

 大きな穴が陥没してつながる隣の教室に立っていたのは――つい今ほどバッジを奪った女子生徒だ。


「あなた……普通に失格してるんですが……」


 その女子生徒の鬼気迫る表情は、命掛けで敵に臨むそれに等しい。きっと聞く耳は持たないだろう。

 そして、もう一人。

 眠気でぐらぐら揺れるルスの視界に、ふいに男子生徒が出現した。

 右に左に飛び回り、高速の動きで攪乱、同時に肉薄する。

 眠気のせいで追いきれない軌道にさすがのルスも戸惑った。

 男子生徒は剣を振りかぶり、


「――ぉおおああああああッ!!」


 熱い咆哮とともに懐に飛び込んできた。


 ――足で受け止めるしかない。


 固定された腕を支点にし、振りかぶられる剣の軌道に、逆上がりするような形で飛び上がり、


 ――瞬間、フッと腕にからみついた呪縛が消えた。


 まさかの誤算。呪縛の支点を頼ったルスの体は無防備なまま床に叩きつけらた。

 剣は聖力のオーラを纏い、ルスの徽章めがけて振り下ろされる。


 がぎんっ


 硬質の音を響かせたのは、男子生徒の剣と、ぎりぎりでバッジをガードしたルスの腕。


「……ふぁああ、あふ……なかなかよい連携です。

 呪縛を絶妙なタイミングで解除したのも、すばらしい判断です――一人の不正さえなければ、素直に喜べました」


 ルスの手から、ダラダラと血が流れ落ちる。

 ……だが、その程度なのだ。

 聖術を加えた剣のたった一撃では、ルスの腕を両断することもままならない。


 男子生徒は剣を戻すと教室から逃げるように、失格の生徒と同じ部屋に待避した。

 同時に、失格の生徒が再び呪縛術を展開。ルスの足に強力な縄となってからみついた。


「……これは女としてしたくなかったけど」


 散らばっていた瓦礫の、まんじゅうほどのサイズをした石ころをあぐ、とくわえ、


「――プッ!!」


 勢いよく、口から吹き飛ばした。石ころの弾丸が向かう先は、女子生徒の足下にある呪縛のルーンだ。

 石ころがルーンに突き刺さると、たちまち呪縛の聖術は聖術としての力を失った。


「!!」


 ハッと息を呑み、再び呪縛術式を展開しようとする女子生徒だったが、


「遅い」


 それよりも速く、失格の女子生徒へ近接、彼女の三角錐のシールドを思い切り一蹴り。

 シールドは粉々に破砕しながら、その破片は壁に突き刺さりその機能を停止する。


「ルールを守れない子は嫌いじゃないですが」


 ルスは金切り声を聞きたくはなかった。女子生徒の口を押さえ、もう片方の手で腕を――砕ける程度まで握りつぶす。


「――――――!!!」


 脂汗のにじみはじめた生徒の顔と手から自分の手を離し、解放してやる。


「次は両腕の骨、全部粉々にしますからね? プンプンです」


 子供をあやすような口調で言い聞かせ、次のターゲットに切り替える。


「…………」


 ――この部屋に移動した途端に目が冴えた。

 ならばと、神経術を展開した敵の目星はついた。ルスは目をつむり息を止める。

 ――呼吸の数、私を含め4。すなわち見えない敵――2。

 ルスはカッと目を開くと、瓦礫を二つ手にとって左奥、右奥のすみへと投擲。


 バゴッ、バゴッ!!


 何もない虚空で、瓦礫がはじけた。ビンゴーー隠れている二人の敵の居場所を突き止め、迷わず一方のそばへ肉薄し拳を叩きつけた。

 シールドの硬い感触は術者ごとぶっ飛ばす。

 駆動を止めたシールドと力なく転がった少女が、突如現れた。衝撃で意識を失い、紛れていた幻影術が解けたためだ。

 おそらく、眠気の神経術と隠蔽する幻術をかけていた生徒だ。

 そして同時に、もう一人――

 先ほど剣戟をルスに直撃させた男子生徒がルスの視界に暴露した。


「……おぉおおおお――!!!」


 男子生徒の振り下ろした剣に右フックを見舞う。剣はバキンッ!!と甲高い音を立てまっぷたつになった。

 すかさずルスは男子生徒に足払いをかけ、隙ができたところで回り込む。

 シールドを補足、かかとを大きく振り下ろすと、かかとが直撃したシールドは四角くひしゃげ、破壊された。


「はい、勝負ありました。

 生身の人にお仕置きはしたくないですから、何もしないでそこにいてくださいね」


「――あ、……悪、魔」


 男子生徒は頭から血を流しながらもバッジをルスに投げつけると、力尽きたように壁にもたれ掛かった。


「あはは、あんまり否定できません。さて」


 ルスは自身の持つ硬さと跳躍力で、真上に飛んだ。

 まるで大砲が着弾するような威力に、大穴が空き、階そのものが轟と音を立てて揺れる。


「……さて、けほ、ここかな?」


 埃を払ってから、目を閉じ耳を澄ませば――シールドの回るかすかな駆動音が聞こえる。

 目を開く――ルスの視界の先にあったものは、さび付いたロッカーだった。 


「……えっと、あの~。みなさん勝負ありましたが――」


 ズシャッ

 と、刃物が勢いよく、ロッカーから突き破って出てきた。

 それを指で摘むようにつかんだルスは、刃物をたった2本の指で


 ――バキンッ!!


「もしもーし、聖術の強化が入っていようが、この体にはあんまり意味ないですよ?

 あなた、バッジ持ってますよねー? 渡してくださいー」


「持ってません!!」


 女子生徒の声だった。勇気を振り絞って嘘をつくことは感心するが。


「……あのー、嘘をつくとそういうの自分に返ってきますからね?

 とにかくあと5秒でバッジをくださいね。5、4、3、――」


 そのカウントにあらがうように。


 ルスは横目に、高速で迫る光を、死角ギリギリで補足する。

 身を翻しながら、まるでダンスのように“それ”の胴の部分を、神業的な反射でつかみ取った。

 その白く光る“矢”は蒸発するように青い光を発しながら、空気に溶けて消えた。


「……聖術の矢? どこから――」


 二撃、三撃が放たれる。それを巧みに避けながら標的の位置を特定――場所は、


「げげっ。あそこ……イベントの範囲外じゃないですか!」


 隣の棟は、イベントの圏外である。そんなところからの狙撃手がいる――それで得心した。

 反則をしてでも勝つ。そんな姿勢の生徒が一人いたのだ。

 そこで、さっき勝手に失格になった参加者のことを思い出す。


「そうか、5人だったのは、わざと一人――」


 バァン!! 一筋の柱のような電撃がルスの脳天を打ち抜く。

 ――ルスは頭をふらつかせ、

 バァン!! 二撃目は両腕が攻撃により体ごと仰け反る。

 バァン!! 三撃目に心臓を突く一撃。

 ルスは雷撃の勢いに吹き飛ばされ、壁に勢いよく叩きつけられた。


 岩をも砕く威力の雷撃3発に、服や頭は煙を上げ、ルスは壁に叩きつけられた。


 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ

 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ


 はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……


 埃の舞う部屋にしばらく響くのは、その女子生徒の喘ぎだけだった。


「……やった……やった……やった……」


 ロッカーの中から、そんなくぐもった声が聞こえた。ずるずるとへたり込むような音が中から聞こえる。

 ルスは――むくりと起き上がり、ロッカーを静かに抱える。


「へ……へへ……勝った……勝てたぁ……」


「いいえ。あなたの負けです」


「……!?」


 ようやくその生徒がことに気づいた時には遅かった。

 ルスはロッカーごと、圧倒的な膂力を用いて――


「さよう――ならっ!」

 

 窓めがけて少女を投擲。ロッカーはまるでロケットのように、悲鳴を撒きながらイベント範囲外――反則生徒がいた場所へと突っ込んでいった。

 そこを見れば――


「……おや?」


 なぜか、その場所が盛大に燃え上がっている。その炎と煙の中で、いつかみたクラシックなハリウッド映画よろしく、親指を立てる少女の姿があった。


「あれは……セルティちゃん」


 そう。反則者に関しては、自警部が処罰する。

 今使われている建物でためらいなく火を放つのも考えものだが、それでもセルティに感謝するルスだった。


「……うー、今の雷撃、髪ちょっと焦げたかも」


 髪を気にしながらも、ルスは素直に感服していた。


「――案外、普通の生徒もやるものですね。

 加減が必要だったとはいえ、すばらしい連携でした」

 

 ともかく、これで6名――3組を撃破。名簿の黄色点灯箇所は暗転した。


「自分で考えた一分ルールは、5分以内に撃破できたので、人数分×1分としてクリアです。

 と一人いいわけをする私。

 ……ええと。最終的に何組残せばいいんだったかな……

 まあいいか。細かいことは気にしない、それがルス!」


 表情をころころ変えながら、最終的にはぐっと拳を握り、次の目標へと移行する。

 後の2組4名は、別々の地点に位置している。1組は先にやってしまい、もう一組――イギル・バロット組をメインディッシュにすることにした。


「――さて。彼らを守るために来ますか、宗次くん」


 ――今回は絶対に“白蜘蛛”は出さない。

 出すまでもなく、彼に勝とう。

 彼は最終兵器を隠そうとするし、本当に大事な局面でしか使おうとしない。


 たとえば、誰かの命を救うために。


「本当にくだらない」


 ぽつりと、吐き捨てる。



 ――あの自分を一番後回しにしようとする、ゴミみたいな自己犠牲根性、叩き直さなくちゃ。

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