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双極のトップクラフト  作者: 稀城ヨシフミ
不殺のジェノサイド
27/49

恋のライバル??

「報道部にね、はいろーと思うのー!」


 学習棟の廊下を歩きながら――中等部から修学に来た少女、朝繭ほのりは突然そんな提案をし出した。

 ほわほわしたやわらかな笑顔が、もう一人の少女に投げかけられる。


「ふーん……?」


 並んで歩く少女――鴇弥名織は、理知的な瞳に疑問の色を浮かべながら曖昧に答えるのが。

 クリスタルのような、美しい海のような髪が、疑問とともに揺れる。


「だって、中等部に戻ってからも学園とコネクトするにはもうそれくらいしか思い浮かばないし~……

 でも宗次さんと名織がつき合っちゃったらもう終わりでしょ~、そりゃあ焦りもあるよー!」


 名織の疑問の瞳は、もう何度もほのりに見せた疲れ気味の表情に変わった。


「……だからね、好きではないしそういう感情はありません、って」


 むしろほのりがそういうことを言いまくるために、無駄に意識してしまうときがある。それは自分のせいでは決してない、はずだ。


「だいじょうぶだよね? 告白しないんでしょ? 応援してくれるっ?」


「ダカラスキトカソウイウノデハナイデス、

 ……ッテイッテルノニナンドモナンドモナンドモ――!!」


「わっ、すっごいかたことになった」


「……それに、仲良くしてって言うことだって立派な告白だって、ほのちゃん言ってたでしょ? 私はそういうことをしたので」


「ん? 覚えてないなぁ~そんな昔のことは~」


「……」


 この娘は恋路を応援しろと言うくせに宗次と名織の仲を取り持とうとする節がある。ほのりの意図がもうなんだかよくわからない名織だった。


「でもね名織~、宗次さんって私のことね、もう惚れちゃってたりするかもだよぉ♪」


「へぇそうですか……なんで?」


「もう私もまじぼれだよ~~~ぐへへ~そーじさ~ん!」


 くねくねくねくねしながら、「私ふつうに話せるかな~」などと、恋する少女特有の甘い言葉を吐き散らす。


「……またか」


 名織はつぶやいた。この発作は一度二度ではない。ほのりには寮が爆発に巻き込まれ助けてもらって以来、宗次が白馬にまたがる王子様に見えるらしいのだった。

 最初に助けられたときは「縛られていて、手足の布をほどかれた」くらいだった報告がいつしか「抱きしめられた」とか「30分、いや1時間なぐさめてくれた」とか「お姫様だっこして病棟まで連れてってくれた」とか妄想がバージョンアップしている。


 ほのりの病状はいたって深刻だった。

 ほのりには宗次のそばにぼんやりと、白馬が一緒に見えるらしい。

 眼科と精神科に行かなきゃだね、と名織が諭しても聞く様子はない。


 ほのりの病状はいたって深刻だった。

 だから前から歩いてくるその人物にも気づかず、


「――あだっ!」


 正面からぶつかった。

 ほのりは、まるで吹き飛ばされたように勢いよく転んでしまう。


「ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか? ――ほの……朝繭ほのりさん?」


 ぶつかったその相手は――丁寧できれいな声の女性は、ほのりに手をさしのべる。

 修道服にも似た、教師の正装は体のラインを強調するタイトな作りだ。

 チャイナドレスに見られるような足を若干強調するような服の作りに、女子でも色気を感じざるを得ない。

 漆黒のような、さらりと揺れる長髪。

 理知的な瞳に、エルフにも匹敵する美しい尖り耳。

 完璧なスタイルとその美貌は、男女問わず目を奪われてしまう。

 そんなディバイドの1年クラス副担任、ルス・クルガーラジ。

 彼女はディバイドであり――その中の種族はオーガ(巨鬼種)だ。

 ほのりを立たせたルスは途端、パアッと明るい表情になった。


「朝繭ほのりさんなんですね!

 まぁまぁまぁ、是非またお会いしたかったんです。もう、かわいい!」


「え、えーと……えーと、えーと? どこかでお会い……しました?」


 ほのりは?を浮かべている。

 そんなことも気にせず、ルスはほのりをいきなり抱き留めた。


「覚えてなくてもいいんですよぅ、そんなこと!」


「うぁ! ちょっ、ぐぇ!」


 つぶれたカエルのような声を出し、ほのりは悶絶する。それも無理はない、オーガの筋肉につぶされそうになっているのだ。ほのりはとっさに名織にヘルプを視線で投げかけるが、名織は苦笑するのみで助けを振り払った。


「ほのりさんはこれから報道部に入るんですか?

 あそこは体力的な覚悟がいりますけどがんばってくださいね!

 私応援していますから!」


 頬をずりずり、加減一つ間違えばほのりの首がぽっきり折れてしまうだろう。


「うごごご、いだいだいだいんでずげどぉっ! ってかなんでその情報知ってっ!」


 いくらスレンダーな体つきであるとはいえ、一般的な女性オーガは200kgを軽く越えている。

 路地で正面衝突するテンプレ・ラブコメの片方がオーガだったら、もう片方の処遇が軽くホラーになるくらいだ。

 名織もさすがにかわいそうになり、ルスに声をかける。


「あの、ルス先生……朝繭さんが苦しそうですよ?」


「ごめんなさいほのりちゃん、ついつい力加減がわからなくて」


「ルス先生は、朝繭さんとはどういったお知り合いなんですか?」


「それにしてもほのりちゃんはまだまだお若いですねぇ。

 今年で15歳ですか? ほんとかわいいですねぇ♪」


 ――あ、あれ? 

 自分の言ったことが聞こえてないのだろうか、名織の言葉をルスは認識しなかった。

 よく考えれば、ほのりに謝ったときも自分の言葉をあえて無視したようなーーそんな感じだったように思えた。

 名織は口調を強くして、


「あの、ルス先生――朝繭さんとは――」


「いやぁほのりちゃん、もうずっと愛でたいくらいですよ~」


 ……あれ。

 ルスに言葉を遮られた名織は違和感を強めた。今度は、限りなくクロに近い違和感を。

 ほのりも、そんなルスをいぶかしげに見上げた。


「あ、あの。ルス先生、ですよね?」


 またもそんな名織の言葉は無視される。無視したままのルスは、そんな二人の状況にさらなる疑問符を浮かべるほのりへと苦笑いした。


「ごめんなさいほのりさん。あなたと面識は……ほとんどなかったんです。

 ただ、昔少し見知ったというか、そんな感じなだけですから」


 ルスはほのりへクスリと笑うと、ぱっと彼女を解放した。

 名織はそこでようやく、理由はわからないが意図的に無視されていると確信した。

 ほのりは二人の間に流れる空気をどう取り持っていいかわからず、


「……そ、そぉですか……」


 と、答えるしか術がない。


「それでは、授業がんばってくださいね!」


 ルスは翻ると流麗な足取りでつかつかと遠ざかっていってしまう。

 まるで空気のように扱われた名織に、全く触れることもなく。


「……名織、あの人に何かしたの?」


「う……ううん、そんなことない。ルス先生と話すのはこれが初めてだから」


 そう――絶対に初めて会う。そして無視される謂われはない――はずだ。

 名織は心外だった。だからすぐにでもこのもやもやを払う決意を固める。


「ルス先生、無視しないでください!」


 名織が怒気を込めた口調で叫べば、数人の生徒が何事かとこちらへ振り向く。

 そしてやや遅れて、ルスがこちらへと体を向けた。


「………………はい?」


 ………………に、こり


 そのルスのスマイルはどこか固く、

 敵視しているというか、観念したというか、苦手そうというか――

 とにかく気味の悪いものにむりやり笑顔を向けるような、そんな顔をしていたのだ。


「私、先生に何かしてしまったでしょうか。

 私の何がいけなかったでしょうか」


「……いいえ、別に何も」


 ルスの言葉尻に冷たさを感じながらも、応対はされた。

 ルスは決して名織の目を見ようとはしないながら、言葉を紡ぐ。


「ただ……まるで、昔の私を見ているようで。あなたは好きじゃないんです」


「――っ」


 初対面の人に拒絶される。

 それは過去に経験済みのことではあったが、突然ここまで突き放されてしまってはいくらなんでも傷ついてしまう。


「あのー先生、なんで私の名前、知ってたんですか……?」


 絶句する名織をかばうように前に出たほのりは、困惑しながらも問う。

 ルスは再び自然な笑みを浮かべると、スタスタと近づいてほのりの耳元で小さくささやいた。


「強いていえばですね――――――ごにょ、ごにょ、ごにょ」


「…………!」


 ルスに耳打ちされたほのりは、反射的にルスから飛び退いた。


「……それではほのりさん……鴇弥さん。

 あなたたちとは近いうちに、またお会いすることになりそうです。それでは」


 今度こそ、ルスは自分たちから歩き去っていった。


 ルスの姿が曲がり角の先に消えたあと。

 名織は、なんとか気丈に振る舞おうと朗らかに笑う。


「ねえほのちゃん。ディバイドって、みんなあんな風に常識がないわけじゃないよ。

 だから――え?」

 

 ほのりに服をつままれて、名織は困惑する。

 名織に向けられたほのりの顔は、火照って泣きそうなものになっていた。


「ど、どうしたのほのちゃん!?」


「……えっとね、名織のことは信じてるよ!

 だけど、だけどね! 名織にしか言ってないことをなんであの人がって思うとね、」

 

「え、ほんとにどうしたの?」


「宗次さんのこと、本当に誰にも言ってない? ない?」


 それは、彼が好きだうんぬんのことだろう。


「言うわけないじゃない。……ルス先生になんて言われたの?」


「“――あなたが私の、永遠のライバルだからです”って」


「……何の?」


「……恋の」


「……え」


 しばし迷って、悩んで、反芻して。

 それでもルスの言った意味が。

 よくわからず。


「え?」



  ▽  △  △▽  △  △


  △  ▽  ▽△  ▽  ▽



 宗次は名織と、付き添いで講義に参加していたほのりと合流し、体育館へとやってきた。

 本日の修学後、1800。来年の学内トーナメントシップ選考のためのイベント説明会が催されるために、一年生が集結していた。

 みんな思い思いに並んでいるため、宗次たち三人も体育館の端の方で説明会の開始を待っていた。

 体育館内は自由な空気が流れており、違う学年の生徒も見受けられる。みんなわいわいと雑談しており、ほのりが紛れていても違和感はなかった。


「ところで、さっき資料がデバイスに自動ダウンロードされたが、確認はしたか?」


 と宗次が聞くと、二人は横に首を振った。


「この説明会は、イベントの担当教師が発表されるくらいなだけのようだ。資料を読むぞ。


 ――不殺のジェノサイド・概要説明


 制限時間12時間とし、1200スタート。

 教師の“殺戮行為”から逃げること。もちろん、本当の殺人行為ではない。

 ティアンスはその学年内での参加とする。ディバイドは学年を問わず参加可能。

 参加者は二人一組となり、一つの徽章バッジを配布する。どちらか一人の右胸に装着したバッジが残っていればその組は生存とする。二人とも戦闘不能になるかバッジが誰かに奪われた者はそこで失格となる。

 戦闘フィールドは、一部の学習棟とバトルスタジアム等、指定区域。細部は別示。

 教師は敵の位置をすべて確認可能とする――――――……」


 さきほどから、なんだか熱視線を送られている気がして思わずほのりへ顔を向ける。

 すると、どうしてかほのりはあわててそっぽを向いた。


「……?

 ……教師は20組を基準に生徒を残す。その20組で後日トーナメント形式の勝負とする。

 上位3組がトーナメントシップ参加となる。

 また、時間を問わず生徒同士のバトルを有効とする。

 教師が20組の前に倒された場合は、制限時間内で20組に減るまで生徒間バトルを続ける。

 ――――朝繭、どうした?」


 さっきから、またほのりが熱い視線を送ってくるために、宗次もしびれを切らした。


「えっ!?!? にゃ、なんですか!?」


「俺の顔、何かついてるか?」


「い、いえ鼻とかですかねっ!?」


 困った顔を名織へ向けると、名織もぎこちない表情で、微妙に目を逸らす。

 あの日握手をしてから、どこかがぎこちなくなっている。

 けれど、嫌われているだとか、そこまでのようなものではない。

 ただいまいち宗次と距離がつかめない――そんな様子なだけだと宗次は思うし、そうあって欲しいとも思う。


「……じゃあそのバッジは私が預かった方がいいのかもしれないね。

 宗次くんは誰かに狙われているかもしれないし」


 目をそらしたままでも、宗次の事情は考慮してくれる名織だった。


「……ああ、俺もそのほうが得策だと思う。じゃあそれは鴇弥に任せて――」


『€%°#>*→〒々〆^*♪!!!』

 宗次の言葉を遮るように、おそろしくうるさいファンファーレが体育館に響いた。


『生徒会主催! 不殺ころさずのジェノサイドイベントー! いえーいぱんぱかぱ~ん!

 司会は私! 学校のアイドルにして生徒会長・才色兼備の皐月ちゃんだぜぇ~~!』


 時刻はきっかり1800。やけにスタイルのいい女性――学園の生徒会長ヴィオン・クローロジャッジュ・皐月が小走りでステージ裾からやってきた。ブロンドの長髪がサラサラと揺れ、ギャラリーへウインクが飛ばされる。

 男子生徒の一部からうおおという歓声さけびと拍手がわき起こった。

 皐月は壇上で乗りだし、勝手にヒートアップしていく。


「さてさて早速! 今回のイベント“不殺のジェノサイド”イベントの概要は確認したかなー!?

 ジェノサイドは、言わずもがな“殺戮”!

 チューニのキミたちにはもうお分かりだねっ!

 概要見てない人はデバイスを起動させて確認してね!

 さてさて今回のイベントの一年坊やたちのお相手を紹介するよん!

 さー先生、早速かもぉおおおおん!」

 

 ステージ裾から少しお辞儀して現れたのは――

 漆黒のような、さらりと揺れる長髪。理知的な瞳に、エルフにも匹敵する美しい尖り耳。

 完璧なスタイルとその美貌は、男女問わず目を奪われてしまう。


「……ルス、先生?」


 それは、宗次にとっても意外な人物にほかならなかった。

 宗次たちディバイドクラスの副担任が、そこにはいた。

 にこにこ。

 にこにこ。

 並んだ皐月とルスは不気味なほど、にこやかな笑顔を崩さない。


 誰だ誰だ、と顔を見合わせささやく声がいくらか聞こえる。

 ルスの正体――教師紹介はなかったし、ディバイドであることを知らない人の方が圧倒的に多いのだろう。

 そしてその疑問を解消する言葉は生徒会長・皐月から放たれた。


「簡単にルス・クルガーラジ先生の自己紹介をしましょう。

 今年新任の教師さんで、なんとオーガの先生! ディバイドの副担任だよー!」


 ディバイド、と聞こえた瞬間、体育館の空気が強ばった感覚がした。


「……ディバイドとかナメすぎだろ、生徒会長さぁ」


 宗次の近くで誰かがつぶやく。

 おそらくみんな、そんな気持ちなのかもしれない。

 もちろん皐月にその言葉は届いていない。相変わらずニコニコしながら、


「正直、ルス先生がどれほどの力を持っているかは未知の未知数未っ知未知!

 ってことで、心して戦ってね! 彼女の真の力を暴きまくっちゃいましょー!

 そこでルス先生。このイベントの抱負を語っちゃってくださいなっ」


 マイクを譲られたルスは、控えめな振る舞いでお辞儀し、一年たちを見渡した。


「あの、先輩。オーガって強いんですか?」


 突然、小声でほのりが話しかけてきた。

 宗次は小さくうなずいて、


「ああ、オーガは体内の筋力生成に魔力の大半を使っている。

 オーガの強みは、術的なものじゃなく直接的な筋力に魔力を還元できていることなんだ。

 とはいえ、地球環境下ではあまり強いとはいえない。ある程度スキルのある、聖力で肉体強化した聖術士の方が、一般的に強いとされる」


 だから、ルスにとってはこの人数を一人で捌ききるには――おそらく荷が重すぎるだろう。

 宗次がふと気づいたとき、さきほどよりも明らかに腕を組み、敵視するような視線を壇上に向ける人たちが増えていた。


「……ただいまご紹介にあずかりました、ルス・クルガーラジです。

 なにぶん、まだ赴任してから日が浅い新米ですが、このような大役をいただけたご恩はそれなりの行動で感謝いたします。

 さて、必要であれば、筆記用意願います」


 突然のルスの要求に対し、ティアンスの中には誰もメモを取り出す者はほとんど現れない。

 宗次はデバイスを取り出し、空間上で書き取り可能なメモ機能を立ち上げる。

 ルスは手を伸ばし、人差し指、中指、薬指をたてた。


「私はイベント中、3つの武器を使います。その1を今発表しますと――拳、です」


 あからさまなため息。「はいそうですか」と完全に見下す声。やる気のない雰囲気が取り巻く。


「――基本聖術の一つ、ウェーブシールド。

 測定レベル7を、最大3連続打撃により押し負けられず出力し続けること。

 これが五体満足で、無事教育の場に復帰できる最低ラインです」


「……え?」


 これには、名織がそうほうけた声を出した。

 ウェーブシールド。基本聖術の一つであり、聖力を防御のシールド波に変換した術だ。

 宗次のそばにいたティアンスは、「……測定レベル7ってどんくらい?」と訪ね、答える者は首を傾げた。


「それではみなさん。当日はよろしくお願いしますね」


 宗次は――一瞬、元の位置に下がるルスと目が合った――気がした。


 生徒会へ行く道すがら、ほのりと名織が並び、その後ろを宗次が付いて歩く。ほのりは顔を宗次へ向けると、


「あのぅ、そ、宗次先輩。ルス先生のシールドがどうとかいう話、わかりましたかっ?」


「うん。それがどうかしたか?」


「私、バトル系の話が苦手でして。ちょっと教えてくれませんかっ?」


 ニヨニヨと顔を綻ばせて、ほのりは名織から宗次の隣へとシフト。尻目に見る名織の瞳はどこか冷たい。


「……ウェーブシールドは聖力を物理的な波に変え、防御の役目を果たす聖術だ。その測定レベル7のウェーブシールドはーー時速200km、20kgの鉄球を防げるほど強力だ。

 いくら基本の術とはいえ、高いレベルを出力できる者までは、少なくとも一年生にはほぼいないと思う」


「それって、すごいんですか?」


「それに関しては……鴇弥はどう思う?」


「……別に私に振らなくても」


 何故かバツが悪そうになりながらも、名織はほのりへと向く。


「その攻撃を三度、連続で出すなんて、世界的なバトルで活躍してるオーガのファイターでも、あり得ないと思うよ」


「そ、そんなに!? なの!?」


「成体男性のオーガの力は、軽く超えているだろうな」


 冷静に分析する二人の表情には、暗い影が落ちている。


「おそらくだが、しかもそれはルス先生の本気じゃない。あくまでそれは“最低ライン”だからだ。そう言っていた」


「……にゃるほど」

 あごに手を遣り、しきりにうなずくほのり。

 宗次は真剣な眼差しを名織に向け、


「イベントまで一週間もない。鴇弥、時間があれば作戦を練ろう」


「え? あ、は、はい、それはもちろん」


 と同意した名織を、ほのりは恨めしげに見つめたような――気がした。


「あのですね宗次先輩。ルス先生と仲良いんですか?」


 と、まるで方向性の変わったほのりの質問。


「……? 別に、特に話したことはないな」


「告白されたりしませんでしたか?」


「……告白?」


 ほのりは足を止め、宗次に対峙する。そして大きく息を吸い、


「宗次先輩! 好きです、私と付き合ってください!!」


「ちょ、ほのちゃん!?」


「――みたいなこと、先生から言われたんじゃないかって」


 突然すぎる事態に、宗次は虚を突かれ固まった。

 それは名織も同じなようで「ちょ、ほのちゃん!?」と言ったままの態勢で硬直している。

 そしてしばし時間を費やして、自分の体を解凍した宗次は咳払いをして、


「誓って言うが、そんなことは一切ない」


「……そーですか!! えへへっ。なーんだぁ」


 宗次はドキドキしていたせいで、ほのりの意図や振る舞いの理由を考えるには至らなかった。

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