プロローグ
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽
「――シッ」
早朝、空気の澄んだスタジアム。
パンッ、パンッ、パンッ!!
いくつもの小気味よい音が、そこに響いていた。
何通りもの聖術パターンを自動的に組み上げられるその床は、ランダムに聖力による的を生成していく。
それをただ一人、打ち抜く人がいた。
まともに受けたら皮膚を裂くような鋭利な“衝撃波”。それを的に向かって延々と指向し、
「ーーシッ!!」
気の済むまで破壊していく。
それを放つ彼女のスリットからのぞく足も、暑苦しい修道服のような教師用の正装からのぞくうなじも――汗一つかいてない。
黒く長い髪が、衝撃波によってバサバサとなびいていた。
「……アンタ、その服つらくね?」
黒髪の女教師――巨鬼種にして、ディバイドクラス1年副担任のルス・クルガーラジは、手を止めて声の方へ向き直る。
同じく1年ディバイド担任の、猫先生だ。
「あら、猫先生……おはようございます?」
「なんであいさつに疑問系よ」
「いえ、どうしてここにいらっしゃるのかなぁと純粋に疑問を感じまして。
……職員室はここではありませんよ?」
「にゃことわかっとるわボケ」
赤ジャージを着たずんぐり太めのふてぶてしい二足歩行する猫は、入り口の近くであぐらをかいた。
「つーか朝っぱらからトレーニングたぁ、関心だにぇ。
夜型の俺はこんな時間に出勤したかぁにゃいのよ毎日毎日。
で、いつもやってんのか、そのトレーニング」
「ええ。汗をかかないでどれだけノルマをこなせるか挑戦してるんです」
「アホか」
一つ悪態を付いた猫先生は、やがて声のトーンを落として聞いた。
「聞いたぜルス先生よ。
アンタ、生徒会主催の不殺のジェノサイドとかいうイベントに参加するんだってな」
「はい。概要も聞きましたか? 私は一年生とディバイド担当なんです。
わくわくしますね!」
「それさアンタ、下りろにゃ」
猫先生は、感情を押し殺すような声で言う。ルスは笑顔のまま、
「どうしてでしょう?」
「どうしてって……一年房といえども全員相手にするんだろ。油断ならねぇ猛者もいる。
最悪、まともにやったらケガだけじゃ済まにぇぞ」
「ええと、それは生徒がですか?」
「アンタに決まってんだろボケ」
「……っぷ、ふふ」
ルスは、耐えきれないように声を押し殺して笑う。
「……アンタもバカなんにゃな。冷静な判断も出来にゃい」
「いいえ、そんなことないですよ。
少なくとも、私が弱いと思って選出したのであろう生徒会側の方々が気の毒です。
企画倒れしちゃうんじゃないかと思って」
「……相当自信があるのか?」
「もちろん。自信がなければこの仕事はお受けできません。
来年の術士大会につながってますから、全力で行きますけどね!」
「……そーかい。
ところで質問、二ついいか」
立ち上がった猫先生は、背中を向けたままルスに問う。
「アンタ、ディバイドのクセに甲冑兵装乗りなんだってな。当日もそれで戦うんかい」
「いいえ、当日は生身です。ジェノサイドするには十分です」
「そうかい……もう一点。どうしてアンタはこの学園に入った?」
「うーんと」
ルスは困ったような顔になり、うんうんと悩み――やがてあっけらかんと言った。
「それは、本当に親しい人にしかお話しできません」
「……練習の邪魔したな」
スタジアムから去ろうとする猫先生。
きっと心配して声をかけてくれたのであろう猫先生の後ろ姿に、ルスはぺこりとお辞儀した。
ふと彼女はスタジアムの窓越しに、外側の真っ青な空を仰ぎ見た。
「……楽しみです、宗次くん。
――今のあなたは、果たして私を倒せるのでしょうか」
ルスの笑顔は、純真に輝いていた。
▽ △ △▽ △ △
△ ▽ ▽△ ▽ ▽




