魔のけもの
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時刻0時5分。名織の胸の奥はきりきりと痛み、居心地が悪くて仕方がなかった。
「冷静に――冷静に、ならなきゃ」
まず、ほのりと話していたら爆発音のようなものとともに、急に通話が切れた。
心配になって、宗次にほのりのことを頼んだ。
そのすぐ後、この両部屋に術による攻撃がなされたという速報が自警部室に届いた。
安否を知りたい。今すぐほのりや宗次の声を聞きたい。
こんなところで絶対に、彼らの命を終わらせたくない。
名織の頭はそればかり反芻していて、待機以外することができない自分がもどかしくて仕方がない。
「……せめて、許可をもらわないと」
耐えきれず、自警部室から生徒会室へと向かう。
――皐月先輩に許可をもらえなければ、もう生徒会をクビになってもいい。
退学でもかまわない。
ここから出て、自分ができることをやろう。
「よし、あとは行動するだけ」
ようやく、覚悟を決めた。組織に忠実でいられるほど名織は薄情にできていない。
生徒会室の木扉は、少し隙間が空いていた。その向こうからは怒号めいた声が聞こえてくる。
名織はおそるおそる、扉を開いて中に入った。
生徒会室の中ではイスに腰掛ける皐月と、そばに立つ副会長ーー吾方が並び、その向かいに立つ自警部の部員三名が訴えていた。
「教職員に全権限に委譲しましょう、会長!
今回の事態は、我々生徒が扱える案件ではないです、許可してください!」
「学生の本分を越えています! こんな……こんなの、子供じゃ対処なんてできません!」
「おっ、俺も……こんなところで死にたくありませんっ」
権限移譲とは、文字通り生徒会長の持つ様々な行使・行動権限を一時的にすべて教員側に移譲し、有事を教員側に解決してもらうこと。
もちろん問題解決能力のない生徒会長だったなら、その提案はまず採用するだろう――というより、まずは権限移譲してしまうのが今までの生徒会長の定石だ。
だが皐月は、それをしなかった。
「………………」
虚空を見つめ人差し指をくちびるに当て――何か考えたきり、ぴくりとも反応しない。
そのかわりに、副会長の吾方が自警部員へと淡々と、冷酷に言いのける。
「僕たちはまだやれる、教師の権限移譲など必要はない――
僕たちは組織として自己完結せねばならない。
学生だろうが何だろうが、この国に命を捧げると誓った者である以上、国に背信はできない。
それがいやなら学校を辞めてもいいだろう。どうせ、君らの人生なのだからな」
「「「………………」」」
「ちょっと、吾方先輩。言い過ぎよ」
冷徹な反応の吾方をたしなめた皐月は、
「現段階では、私は“待機”を命令中です。
そしてこれからの判断は、総合的な状況を考えて判断します。
一つ私に言えることは、私たちにはまだ脅威の排除は可能、ってことね。
情報が断続的ですが、確実に成果はおさめています。
退会届けに関しては、事態が沈静化してからね☆」
皐月が茶目っ気のあるウインクをピンと飛ばすと、自警部員は不服そうな渋面を貼り付けてに生徒会室を後にした。名織はそこでやっと二人に認識される。
吾方は自警部員たちの背中を見ながら、深くため息をついた。
「……ああいう学生気分なやつには、本当に腹が立ちます。
この学園に遊びにでも来たのかと言いたくなる」
「ま、私たちとそこらへんの溝があるのは否めないけどねー」
あっけらかんと答える皐月はふと思い出したように、
「そうそう、そういえばおかしいわね、吾方先輩。
あなたは普段、教師の権限移譲を私にむしろ上申するタイプだと思ったけど。
自分たちの許容範囲を分析して、無理だと思ったら迷わず頼る。
そういうスイッチの切り替え方、してたよね?」
名織は声をかけるタイミングを失った。皐月は吾方へ、詰問するような口調でそう聞いたからだ。
「……僕だって考えくらい変わります。
それに会長だっておっしゃいました。これは我々で解決できる、と」
「そう? でも私、あなたがまるで――表舞台から消えてしまいそうな彼を、まるで助けるみたいに躍起になってるような、そんな気がするのよね」
「…………彼とは、誰のことでしょうか」
「逢坂宗次」皐月は即答し、
「さっきの通信もそう。しきりにこちらを気にしていたのは何?
さっきイギルんたちとの通信では施設の人数とか、必要のない情報まで通信相手に状況説明してたような気がするけど。
私の考えすぎかなぁ?」
「……僕がよもや、あのディバイドらに内通しているでも?」
吾方の凛々しい顔の眉間には、不機嫌そうにしわが浮かんでいる。
「さぁ。あなたが何を考えているのかわからないけど――
でも気になるのよね。
だって吾方先輩って何ヶ月か前、宗次に会ってるよね?
そんな情報を私に内緒にしてるなんて、私にしてみればつれないなぁって思わない?」
「――――――っ」
吾方は一目でわかるほど、体をこわばらせた。
「あなたたちが過去、地下街区域で会っていたという事実はすでに調べてあるの。
そこで何があったのか、私にもお話聞かせてくれたらうれしいんだけどなぁ。
まあせめて今は、健全に純粋に“彼”を助けようとしているんだって思っておくから」
名織が瞬きをしたその刹那、
「――吾方先輩は遅すぎよ。
だから変なことをするのは本当にやめてね? 意味ないよ?」
皐月はイスから姿を消し、吾方の背後に立っていた。
吾方に恐怖を抱かせるには、それで十分だったろう。
「……と……とりあえず、あなたを落胆させることをするつもりはありません。
これは私事です。会長はどうぞご安心を」
強がるように吾方はそう言って、名織にかまうこともなくそそくさと部屋を出ていった。
「……さて。ごめんねなおりん、いつまでも突っ立たせちゃって。
大人のキタナ〜い一面を見せてしまったかな。はんせいはんせい」
またも皐月は名織の瞬きにあわせて、イスの位置へ瞬間移動する。
術を発動する兆候がまるでない。皐月の術は手品か何かに思えた。
「あの、私……」
「わかってる。名織はほのりちゃんと宗次を助けに行くつもりなんでしょ?」
こちらのこともお見通しだった。名織がうなずくのを見て皐月は、
「……彼が生きているなら、という仮定で話をするわ。
“敵”の目的は、あくまで確定ではないけど――宗次を殺すことでほぼ決まり。
研究棟への攻撃も、あなたの居室への破壊行動でさえもその過程だと私は思っている」
相手は、そこまで過激らしい。
宗次を殺すに手段は惜しまないということだ。
「彼はね……宗次は非常にアブないのよ。何がって、彼の立ち位置がね。
宗次は敵に正当防衛を行使しようとするだけで、宗次の立場が悪い方へ転ぶの」
「どうしてですか?」
「彼の権力より、相手方の権力の方が確実に上よ。だって、犯人はティアンスだもの。
この国でも、ディバイド差別は――こと学園のような閉鎖空間だと差別はすごいのよ。
例えば宗次が瀕死になっても、宗次が正当防衛で相手にケガさせたとする。それだけで宗次が悪者扱いされる。
犯罪を外に漏らさず隠蔽・もみ消そうとすることだって、私たちの知り得ない“敵”ならやりのけてくれるかもしれないの。
それに抵抗しようにも、相手の規模がどれだけのものかわからないし、対処のしようもない。
だからこそあなたを行かせるのも難しい話なのよ。
外傷を与えず、こちらも傷つかない。そんな平和的な解決あるのかな?」
「………………」
「それに、あなたが宗次のごたごたに巻き込まれたら、あなたも退学よ。
それでいいわけないわよね? だから異動届も出したんだし。
私情で動かず、命令を待ちなさい。わかったら待機していて」
「…………いやです」
その声は、少しかすれてしまった。名織は声に力を込め直す。
「いやです、私、彼に協力します。それにほのちゃんだって助けなきゃいけない」
「……ルームメイトのことはわかったわ。
だけど、この前まで宗次のこと嫌いだったんじゃない?」
「……現に、今もあまり好きじゃないです。
確かめたいことがあるんです。だから私は行きたいんです。
彼のためになれるなら、なりたいんです」
「退学したらどうするの?」
「別の学校に入り直します」
「死んじゃったらどうするの?」
「そのときはそのときです。それだけの人生だったと思います」
「……悟ってるなぁ。サーティーン」
皐月はふふ、と笑った。
「さて……なおりん。宗次を追うには、ぱっと考えて二通りあります」
まるで名織の覚悟すら予期していたかのように、すらすらと提案し始めた。
「一つは宗次の行動をトレースすること。
まずあなたの留守電を聞いていたら女子宿舎に向かい、朝繭ほのりちゃんの状況を確認する。
先発班より行動が早ければ、階下もしくは先発班にその子の身柄を預けるでしょうね。
……これも、彼女が無事だったらだけれど。
その後の道筋はおそらく、今現在、彼を襲う脅威と決着をつけようとする。
そしてもう一つ、宗次を追うには――」
『皐月!! ちょ、ちょっと!!』
皐月の展開していたデバイスの仮想画面から、突如声が響いた。
声の主は、自警部部長・セルティだった。
『あのね、ビビらないで聞いて、皐月っ』
「なあに、ていうか作戦中は落ち着きなさいな」
『研究棟に……すんごいでっかい犬がいるの』
皐月は笑った。ニタリと、おもしろい状況が起きたことを歓迎するように。
「名織、もう一つの方法は――宗次の仲間からアプローチをかけることよ!」
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出動命令が下達されディバイド研究棟に到着したセルティは、やきもきしっぱなしだった。
――しっかしこいつらさっきから役立たないわね、ホント。
口に出して言ってやりたいほど、事態の対処を行おうとしていた戦闘科人員の作業が遅々として進まないのだ。やるべきことはトラップ術式の走査及び排除。不審者の検索および排除。その初期段階ですでに戸惑い、作業が滞っていた。
そもそも、このような事件性の高い出動には、生徒会系統及び学校指揮系統の二系統から人員を選出するのが規則だ。
その人員に応じ総合能力や人員数等を吟味して、生徒会長がどちらの系統が事態統率するかを決定する。
戦闘科人員の学生兵は10名。対して生徒会=自警部員はセルティを含めたった2名。
統率は皐月の判断により、戦闘科人員に託された。
それガ運の尽きだった。今日充てられていた彼ら学生兵は実戦慣れしていない、ルーキーたちだった。
チームワークも大して取れず、さらに初めて予測不能な“事件”に遭遇し、目の前に死があるかもしれないと思えばなおさらだ。
そして、彼らが何も出来ずのたくたしている最大の原因――それが二重罠の走査だ。
こちらのトラップ解除術に使う聖力が漏れ、それをトリガーに隠されたトラップ術が発動する/術を解除したつもりが、巧妙な術式構造のせいで“そう見せかけた状態”になる/術式印の下にさらに別の術式印が展開ってある……etc.
多岐に渡る対処を考え、術の解除者が傷つかないようにしなければならない。
だからこそ、経験のない生徒たちに全て任せるというのは、有事において“無謀”なことなのだった。
そのためセルティは、土埃の舞う玄関で、廊下に顔をのぞかせるくらいのことしか出来ていない。
ただ、もどかしいことにその廊下に、三名の血濡れで倒れた研究生がいる。
それらへ手を伸ばせないのは、本当にもどかしいことだった。
(――この状況事態が敵の狙いだったら、目的は何なんだろ。
逢坂そーじを狙うほかに、何かあるのかな)
そんなことを冷静に考えていたまさにそのとき、それは現れたのだった。
「なんだ……ありゃ?」
戦闘科人員が、突然とぼけたような声を上げ、セルティも思わず廊下へ頭を出して様子を見た。
「…………は?」
あまりに、信じ難いモノがいた。
廊下の奥から、ひたひたと忍び寄るような静けさの足音で、倒れている研究生の方へ向かっている。
動物、といえばそうなのだろう。
けれどそんなかわいい名称が似合うモノではなかった。
その姿は、鹿やライオンの成獣の二倍はあろうか。
突然闖入した獣の威容にセルティたちは釘付けになっていた。
常夜灯の薄明かりに照らされ、ただでさえ場違いなその生き物の不気味さがかえって増していた。
「ま、魔物――!?」
震える声で、戦闘科人員が言う。
きっとそう――魔物に違いないのだろう。
気がつけば、セルティはデバイス通信を展開させていた。
「あのね、ビビらないで聞いて、皐月っ」
『ーーなあに、ていうか作戦中は落ち着きなさいな』
「研究棟に……すんごいでっかい犬がいるの」
少し間があって、
『それは本当に犬なの? 狼じゃなく?』
「そ、そんなん知んないよっ。たぶん魔物だと思う、けど」
だが魔物はこんなところにいない。そんな常識にセルティの頭は囚われていた。
いや、それどころかここにいる全員がそんな認識だったろう。
セルティも、半獣化したチンピラや、人間種サイズのかわいい獣なら何度となく見たことがあるが――ここまで完全に獣の姿をした“魔物”然とした異形を見たことがない。
至って冷静な声音の皐月が続ける。
『それ、たぶん全獣化した大狼種よ。
試しにバロットって声をかけてみて』
「え、え~~~~~っ……」
バロットとは、宗次の取り巻きにいた毛もじゃであることは覚えている。
だが、その毛もじゃ状態とは――当たり前だがあまりにも似つかわしくなかった。
「殺しちゃ……ダメなのよね」
いや、そもそもまともに攻撃できるかも定かではないが――とにかくこちら側には“不殺”排除命令が下りている。相手が人間種に見えなくともそれは同じ、とセルティは結論づけた。
「ちょっと、アンタ!」
セルティは廊下側へ身を乗り出し、大狼に声をかけたその瞬間だった。
「――危ない!」
セルティの突然の忠告は意味を成さなかった。
爆発があった部屋のほんの手前。研究生が転がっている廊下その場所。
こちらへ気づき顔を向けた大狼へ――大杭のような氷柱が、術式印の発現とともに、胴体を貫かんばかりに突き刺さったのだ。
ビシャッ。赤黒い血が勢いよく、廊下の壁に張り付いた。
ずるりと胴体から血による湯気がもわっと漂う。氷柱から胴体が離れ、大狼はドッと音を立てて倒れた。
トラップ術式にやられた大狼に、誰もが固唾を呑んだ。
ーーしくじれば、こうなるのか。
血だまりはじわじわと廊下を赤黒く浸食し、誰もが言葉を失っている――
だが、またも異様な光景をこの場の全員が目撃した。
血のほかに何かが大狼から漏れている。
それは黒く濁った、見るからに鈍重そうな空気――猛烈に濃い瘴気だった。
そう認識した瞬間、わっと、セルティの全身の毛が逆立った。その瘴気に対する絶対の生理的拒否反応だ。
倒れ伏した大狼の下から、赤い光を放つ術式印が出現する。
その術式印は廊下の天井まで覆うほどに大きかった。廊下の床から壁、天井までをいびつな円状の術式印が光り、その光が倒れ伏している全員を包んでいく。
するとやがて奇跡のように、大狼の傷口がみるみるふさがっていき――
血だまりまでも、まるで逆再生のようにその術式印に吸い取られていった。
「うっ……」
ぴく、と研究生に反応があった。まるで息を吹き返したかのように、倒れていた3人の研究生がもぞもぞと動く。だがそれだけではない、大狼までもが再び立ち上がる。
「な……なにしたの、いったい」
言いながら、セルティは頭の記憶を探る。
確か、大狼種のクオリティ――その一つに治癒・再生能力があったはずだ。
ふと、大狼と目が合う。
その大狼はなぜか、野性味がなくどこまでも理知的で、不思議と落ち着く目の輝きをしていた。
『問題はない』
どこからか声が聞こえてきた。上下左右前後そのどこでもない。
『オレがこいつらを治療した』
まただ。頭の外からではなく、内側から声が聞こえた。
幻術のたぐいなのだろうか。
「あんたもしかして、逢坂のとこのバロッ――」
ギンッ。
バロット、と言おうとしたところで射抜くような瞳に睨まれる。その目に気圧され、体が硬直してしまった。
そのまま、どれくらい睨み合っていただろうか。五分だったかもしれないし、五秒だったかもしれない。やがて大狼のほうから語りかけてきた。
『この廊下の突き当たりの部屋に、恐怖と敵意を持ったヤツが一人、身を潜めている。
きっと、オマエラの敵だろう。さっさと無力化しろ。オレは治療に戻る』
大狼はふいと顔を爆発のあった部屋に向けると、のそのそとその中へ入っていった。
「……命令すんなし。ウチだってもう限界よ!」
セルティは廊下に躍り出る。大狼の喰らったトラップ術式をデバイスで撮影・スキャンし、同系統のトラップがないか、廊下の床・壁・天井を探る。
「あった、3つ」
属性が氷ならば、自分なら防衛できる。それ以外のトラップが来たなら――そのときはそのとき!
あらかじめ、準備術式にてシールドを発動させてある。最小限の攻撃ならば、これで防げる。
セルティはすぐに詠唱を開始し、蒼白の術式印を足下に輝かせる。
「――Fire Gauntlet!」
詠唱すると、突如すっぽりと右肩を覆うように燃え上がる、籠手の形をした炎が出でる。セルティは廊下の奥めがけ走った。
「右!」
トラップ術式の発動場所を予測し、即座に構える。鋭利な槍のような氷柱がセルティを貫かんとした。
するとセルティの右肩の焔籠手が激しく燃え上がり、押し寄せる氷柱を一瞬にして蒸発させた。
そのままセルティは、残り二つの氷柱も溶かし、避け、最奥の部屋の前にたどり着いた。
セルティは一緒に来た自警部員に向かい、通信を飛ばす。
「ねえ、今からここの部屋の外側に回って。
強化術を窓に張って、絶対に外へ逃げらんないように」
セルティは通信をやめ、術式を部屋の中に構築していく。
幸い廊下側には窓などは無く、部屋の出入りは扉一つのみだ。
「袋小路に入ったこと、後悔しやがれっての」
セルティは扉を閉め「Fire」とつぶやくと、部屋から黒くいぶすような煙と共に、火がもうもうと立ち上る。
相手を即座に攻撃するような炎術では、いくら耐火性の建物とはいえ、施設自体を破壊しかねない。だからこそ、火は弱くそれもいぶすようなものに調節している。
セルティは部屋をいぶし続けるその間も、部屋の周りにトラップ術式を敷き――
げほっ。こほっ。
小さくせき込む声が部屋の中から聞こえる。
「……いー加減、あきらめて出てきなよ!! あんた、酸素不足で死んじゃうよ!」
セルティがやっていることは、密閉空間に閉じこめ、そこだけを燃やすこと。
そうすることで、火術式に調節を加え、部屋内に一酸化炭素を充満させる算段だった。
やがて、氷が砕けるような音が部屋の中から響く。窓を壊そうとしたようだが、そこには強化術がかかっている。
「あんたが出られんのは――この扉だけよ!!」
叫んだ瞬間――扉が氷柱に押し破られ弾け飛ぶ。それと同時だった、
外気を取り込んだ炎が部屋の隅に溜まっていたガスと化学変化を起こし、巨大爆発を誘発した。
――――ドォオオオオオオッ!!
殺到する爆発音と共に、爆発によって部屋の外に吹き飛ばされる人影があった。
その影を、今度はトラップ術式が捉える。
蜘蛛の糸のようなモノが対象の体へ巻き付き、一切の行動を封じた。
咳き込むその対象の胴体にセルティは足を乗せ、
「……観念しなさい。交渉部内渉科・岡部唯太」
キッと反抗するような目を向け、童顔の少年、岡部は叫んだ。
「けほっ……あなたも、見たでしょう!? あんなおぞましい魔物を扱うんだ、逢坂宗次は危険なんでっうげっ!!」
セルティはその顔に一発拳を浴びせ、
「あんたらがやってることはテロなのよ!
さあ吐け、あんたのボス――交渉部内渉科長・トーマはどこよ!?
抵抗しても、もう何も変わんないかんね!」
「……変わります。変えなきゃ、いけないんです」
「何?」
「あの人は、……トーマくんは……必ず逢坂宗次を殺してくれます!
彼は逢坂宗次を殺すまで止まらない。そういう人だ。
ティアンスのためにも……ディバイドのためにも……逢坂宗次は生きてちゃダメなんです!!
殺すことが、世界のためなんだっ!!」
岡部は気づけば嗚咽を漏らし、顔をぐしゃぐしゃにして泣いていた。
「……容疑者一人、確保ね」
セルティはデバイスを起動し、淡々と皐月に報告した。
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△ ▽ ▽△ ▽ ▽




