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双極のトップクラフト  作者: 稀城ヨシフミ
異界からの帰還者
14/49

七聖

 名織とほのりは食堂へとやってきた。


「ふぉおおお~なにこれ! 古い! 古いよ名織! なに! これ! 券売機!? 良い感じで錆びてるね! すごいね!?」


 食券の券売機を見るなり、ほのりのテンションは早速ハイに切り替わる。

 レトロな学園食堂は、小綺麗でほぼすべてがオートメーション化されているような学園地域の食事処とは違う趣がある。

 上級生をはじめ、様々な人たちでひしめき合い、食堂はかなり賑わいを見せていた。

 

「手渡しで食券のやりとりって風情がまたいいねぇ! ふわー……

 今はこんなところ、学園地域じゃどこもないよね~。っていっても昔のことはワカランけどっ」


「うん。いいからメニュー選んでね?」


 はしゃぐほのりを待っていると――

 ぴょこむ。

 メール音。名織はデバイスを起動させた。


『Subject:連絡【緊急ミーティングについて】

 From:ヨージュオ・立伝・セルティ


 Message:

 1、2班については午後の12時20分から緊急ミーティング。

 3班については個別に連絡を取る。それまでは待機せよ』


「――?」


 3班だけが呼ばれない内容に思わず首を傾げると、唐突に後ろから声をかけられた。


「ウチも一緒にお昼いいかなんっ?」


「え――セルティ先輩!?」


 後ろを向けば、いつの間にかセミロングの栗色髪を生やした小学生くらいの女の子――

 自警部部長・セルティが仁王立ちで立っていた。

 本日のファッションは黒い皮ベルトが至る所についた衣装をチョイスし、ブーツも含め黒一色。

 そこに、それとは色も雰囲気も正反対の白衣を着ており、それが案外様になっていた。


「おひっさーなおりーっ!」


 はしゃいだ顔で、ぎゅっと名織に抱きついてくるセルティ。

 二人が会うのは結構久しぶりだったため、名織にとってもうれしい。


「あれっ、せっ、セルティさんだっ!?」


 そこに食券を買ったほのりが目ざとく反応し、


「ふはわぁ~~ちっちゃいかわいいかわいい! ぜひ握手をぶぇっ!」


 近づいて来たほのりの頬をべしっと押しのけ、


「名織、さっきのメールの件。実はね、自警部あてに爆破予告があったんだ。

 内容は、ある生徒を退学にさせないと無差別にテロを実行するってね。

 その生徒に何か、心当たりはあるにゃ?」


「まさか、逢――」


「そこまでわかってりゃいいよ。だから今日は名織の実況見分も無し。

 寮内待機を命じとくかんね。

 ……ところでウチも一緒に食べていい?」


 セルティがほのりに対してちょっと叱ったあと、三人は適当なテーブルを選び席に座る。

 食堂の人々はセルティと名織――メディアで見知った顔が二人揃っているせいか、チラチラと見られている。それだけに飽きたらず、


「あ、あの……すみません。お食事、ご一緒によろしいですか」


 無口そうな少女が、名織たちに声をかけてきた。

 鳶色のフクロウのような瞳。黒い髪を腰まで垂らし、どこか人を遠ざけるような――近寄りがたい雰囲気を身にまとっている。

 そんな人がどうして声をくるのだろう?


「……知ってる人?」


 ほのりの問いに「ううん」と名織は首を振り、


「人は多い方が楽しいですので、一緒に食事しましょう!」


 名織の提案で、そういうことになった。

 ただ有名人だから、という理由でこういった知らない人と会話するのも、もう慣れた。


「……ルーファって言います。一年です」


 その女の子はそれだけ言ってぺこりとおじぎ。それぞれは自己紹介を終えると、


「よろしくねルーファっち」

 

 改めてあいさつするセルティと、顔をこわばらせうなずくルーファ。

 ただ単に緊張しているのだろうか。なんだか話しかけてくるミーハーぶりがあるくせに、離れしていない感じがした。


「そういえばさ、さっき名織言ってたけど……

 まかいしゅつにゅーかんりいんって何?」


 日替わり定食A:ふわとろかに玉あんかけを口に運びながら、ほのりが聞く。


「えっ……ほのちゃん知らなかったの!?」


 思い返してみれば、食堂への道すがらその話題を話したとき、ほのりは「ふーん」とうなずくだけの鈍い反応だった。

 

「魔界出入管理員っていうのは――」


「あっねえみんな、あれあれ~」


「ちょ……」


 せっかく説明しようとしたのに、ほのりの視線は食堂備え付けの巨大モニターに釘付けだ。

 それだけではなく、たまらずS・デバイスのTVモードを起動、同じ番組を目の前で視聴をはじめる。 


「行儀よくないよほのちゃんっ……」


「ほえー、ストラス様ってやっぱり二百歳には思えないねー。

 死ぬ前に一度で良いから生で見てみたいなぁ」


 ほのりの展開したモニターに映っているのは、スポーツの特集のようだった。

 テロップは――“華術の祖、ラ・ダッジュ氏 空彩の限界へ”。

 そして一人の女性が映し出される。耳の先はまるで針先のようにとがって長い、純粋のエルフ。

 彼女はラ・ダッジュ・ストラス――聖天使の異名を持っている。

 柔らかな笑顔をたたえるその姿も、二百を数えてなお若々しい容姿は、どこか非現実的な天の使いを思わせる。

 

「……すてき」

「ウチには叶わん」


 対抗しているヤツは置いておくとして。

 確かにストラスは、この世の美の集大成のような神々しい姿だ。

 だが、彼女と同じフィールドに立ったことがある名織は――たおやかな振る舞いでVTRに映るストラスがなんだかおかしく見えた。


「名織もセルティ先輩も、ストラス様に会ったことあるんですよね?」


「うん」

「モチ」


「でも、二人とも空彩はやってないんですよね」


「うん」

「専門外」


 ――モニターのVTRから、“空彩”のシーンが流れる。

 ストラスが妖精のようなぼやけた色彩の衣装を着て、スタジアムを駆けだした。

 ストラスが術を唱えると、地面から、小さな火の玉が空へと昇り――

 突然、火の玉が弾け、花火のように激しいスパークが巻き起こる。それが空中へと広がっていったかと思えば、その空は一転、どす黒く染まる。

 やがて暗黒の世界から、オーロラが現れた。

 ストラスが踊る。踊りながら、暗闇に光のキャンドルを灯すように、術式印が踊る足下を青白く光り照らす。

 空の色が変わる。まるで上空は万華鏡のように、色とりどりの光や表情を放ち、その場の観客を魅了していく――


 これが“空彩”。術を使い、文字通り空を彩りその美しさを競う競技だ。


「まぁ、こういう“華術”を国際競技にしてくれたのは、ウチもあいつに感謝してるけどねー」


 セルティはすごい上から目線でそうのたまう。


 華術――術を扱い美しさを競う競技の総合的な呼び名だ。

 使う術に制限はない。光、水、火、オーロラ――いろどり豊かに術を用い、その空間や作品を術で染め、描き、作り上げていく競技。

 華術を競技化したのはラ・ダッジュ・ストラス。彼女が華術の祖であり、その創立から今もって空彩部門ではトップをひた走ってもいる。

 そしてその華術が、名織が世間の知名度を誇る最大の理由だった。


「……鴇夜さんの部門は――」


 とルーファが聞いてくる。


「私はストラスさんとは違って、総合美術部門と即興創作部門です。

 セルティ先輩は総合美術一本です」


 総合美術は一番代表的な部門。基本的に表現は自由で、とにかくオーディエンスを一番沸かせた者が投票で決定される。

 即興創作部門はステージ上を使い、制限時間内で一から創作する。一番心に響く創作物を作った者が勝者だ。

 どの華術も、目指す者こそバトルのそれの数には負けるが――観る側にしてみれば、術士のバトル大会に並ぶほどの人気を誇っている。


「ところでセルティ先輩って、確か華術部で名織と一緒だったんですよね」


「うん!」


 ほのりが聞いたとたんセルティは顔をほころばせて、


「ウチと名織は、その華術競技で世界のトップを争う一流プレイヤーだかんね!」


 ――先輩違います、プレイヤー「だった」んですよ。


 声なき声で名織はつぶやいた。


 氷雪の姫君という名前は、華術界で世間が名織へ付けた異名だった。

 ちなみに、名織がLoseを喫したもうひとつの内訳が、この向かいに座る少女だった。セルティと以前闘い、負けた。

 そのバトルの経緯も同じ活動のよしみだ。


 ほのりはモニターに顔を近づけ、


「おぁっVTRに一瞬名織映ってたよぉ!」


「ふーん、そうですか」


「なんだよ興味なさそーだなぁ」


「……だって、華術はもう卒業したもん」


 セルティは若干、苦い顔になる。それに反してほのりはいやらしい笑みを浮かべて、


「お金がっぽがっぽ入ったし?」


「お金に持っていかないで! 私がやりたいことは華術じゃないだけ!」


 そう――高等部に入る際、去年の世界大会で準優勝後、華術引退を表明した。

 マスメディアからも追っかけられる売れっ子華術師だったが、今ではメディア接触も全面禁止している。


「……やっぱ本気なの?」


 セルティは怪訝な表情で聞く。


「はい、意味を見いだせないので。

 そっちの道で大成するつもりは毛頭ないです。

 ……私は総合美術ばかり評価されて、私の好きな即興創作は全然ですから」


「たしかに即興創作はむっちゃへっぽこだけど、総合美術は誰も勝てないよ。

 マジチョーくやしいけど、くやしーけど! ウチも無理だもん」


 だからこそ名織には続けて欲しい、と口にしないのが、セルティの優しさだった。もちろんそれまで何度か舌戦したが、名織の意志に、しっかりと向き合ってくれた。

 

「私のやりたいことは、即興創作なんです」


 総合美術はいわば術を効果的に魅せる演技力。即興創作はセンスが試される。

 名織は認めたくなかったが――即興創作に対するセンスがしょぼい。大成しない理由はそれだけだ。

 かたや世界大会準優勝、かたや地区選抜大会予選敗退。

 好きなことが評価されず、掛け持ちではじめたことが評価されている。

 総合美術は嫌いではなかったが――そんな現実がイヤだった。

 そっちだけでも続けるべきだという声は上がった。たくさんの人に言われたことだ。

 だがそれは反面、即興創作はやめてしまえと言われているような気持ちだった。


「私はどっちもすてきだと思います」


「……あはは、ありがとうございます」


 ルーファのフォローをなんでもないように受け止める。

 即興創作の地区選抜など、テレビ中継されてもほんの少しなので、ルーファの言葉はどうせ取り繕った嘘なのだった。


 セルティはサンドイッチセットをはぐはぐと一気に口にして、


「……むぐ、ごくん。ほんじゃ、今日はミーティングあるしこれでばいばいだね。

 また連絡するから、じゃーね名織っ」


 セルティはトレイを持って、先に去っていった。

 ……何の話をしようとしてたんだっけと思い直し、名織はああと思い出す。


「あの人だよ、魔界出入管理員の一人」


 ほのりはごはんをぽろりと取り落とす。それもそのはず――名織が指さしたのは、モニターの向こうのストラスだった。


「……ふぁ!?」


「管理員は“七聖ななせい”の兼任だよ。

 逢坂さんは、七聖の少なくとも誰か一人に会ったってこと」


 ほのりは、目に見えて焦り出す。

 ルーファも何のことだ、と互いをきょろきょろ。


「……お、おかしいでしょ。

 だって私たち、あの人たちが普段何食べてんのかさえわかんないんだよ!

 七聖なんて絶対自分のお弁当のネタ何にするかとか考えたことがない人たちだよぉ!?」


「ん、うん? そ、それは庶民ぽくないってこと?

 でもストラスさんはああ見えてコンビニのお菓子とファストフードを棚買い――」


「やめて! なんだか夢が壊れそうだからそれ以上言わないでぇっ!

 と、とにかく、そんくらい謎なヴェールに包まれてる七聖とコンタクトをとっ……」


「ほのちゃん、静かに静かに!」


 思いっきりルーファに聞かれている。ほのりも「やば」という顔でいったん黙って、


「……えーえと、名織、そもそも七聖って何さ?

 もう名前だけ馴染みすぎて何してる人たちだかさっぱりわかんない。

 ただ、“すんごい強い人たち”っていうのはわかるけど……逆に言うと、それしかわかんないなあ。

 世間的な知名度で言えば誰でも知っている有名人だけど、

 その人たちの役割は?って言われると、いまいちピンとこないんだよねぇ」


 名織は野菜の天ぷらを飲み込むと、

 

「……七聖は世界規模の災厄危機に立ち向かえる人たちで……

 あとは魔界の開拓、禁術の研究に携わることができるレベルの英傑。

 または世界的な貢献を果たした人物たち。

 でも今は七聖の中で唯一の研究者だったヴィオン・C・正臣さんが死んじゃったから六人だね」


「ああ、学園の生徒会長のお父さん、だったよねぇ?」


 二人は二年前、中等部を含め学園で一斉に黙祷を捧げたことを思い出す。


「普段は魔界出入管理員であるのもそうだし、国際術災害・犯罪出動要因だったり。

 で、その七聖の三人の承認を受ければ、魔界への通行許可が下りるんだよ。

 あとは私もよくわからない……えーとルーファさんごめんなさい、二人で話すことが」


 ルーファにごめんなさいと謝ると、名織は彼女に聞こえないようにほのりへと耳打ち。


「ほのちゃん、この話、絶対誰にも言わないでね」


「どっち? 宗次さんが七聖と関係してるかもってこと?

 それとも名織が宗次さんのこと気になってること?」


「いや二つ目はちがう!」


 ほのりはふふっと笑い、


「言わないよ。私の未来の恋人さんの大切なことだもん。

 まあそこに戦いを挑んでくるのが名織でよかったよ」


「だぁー、私は何もしません……っ!」


 恋人とかいうおぞましい単語はいっそ聞こえないフリをした。


「……ていうか、その前に誰も信じてくれる人なんていないと思うよ、そんなおはなし」


「それは、そうだけど――あ」


 これが「名もないディバイド」の背負う枷。

 権威と名誉の圧倒的な隔たり。

「どうせ、誰も信じてくれない」――その答えに、名織でさえ簡単に同意できてしまう。

 この権威の隔たりこそが、宗次がもっとも欲してやまないものなんだろう。

 同時に、ディバイド参画集社で活動する名織が、ディバイドたちへ与えようとしたものなのだ。

 それなのに――名声を手に入れてもしょうがない――そんな風に言ってしまった。

 宗次へその言葉をぶつけた自分が、唐突に恥ずかしい存在に思えた。


「……で、でもそれでも逢坂さんは狙われてるから、だめ」


 どうやら本当に暗殺のターゲットとして狙われているらしいのに、それをほのりに伝えたとなると、最悪の場合ほのりが狙われる可能性もゼロではなくなる。

 彼は、彼しか持ち得ないモノを持っている。強さであれ、彼が持つ知識か何かであれ――それはいずれ――もしかすると名織の在学中には公になるかも知れない。


 ――失敗したな。次からは口を固く閉じよう。もう絶対ほのちゃんには情報シャットアウト。


 そんな新たな決意を固めひそひそ話を終えると、名織はルーファへ聞いた。


「ルーファさんは、ところでどうして私たちと食事を?」


 正直、名織の華術のことをあまり知らないとなると、ルーファの名織自身への興味はかなり薄いと思われる。

 ではいったいなぜ食事を相席したのだろう。単なる有名人への興味だろうか。


「……私、ディバイドなんです。あなたの……その活動は知っていたから」


「な、なるほど!」


 いつの間にか名織は立ち上がり、ルーファの手を握っていた。


「よ、よろしくお願いしますね、ルーファさん!」


「……は、はい」


 ルーファは少し照れながらも、ぺこりとお辞儀した。

 こういうことがあるからこそ、名織も活動に従事していたかいがある。

 大半は、華術師の立場を利用しての広報活動だったが。

 いつか、ディバイドやティアンスが一緒に楽しくご飯を食べられる――そんな世界が来るといい。


 ――いや、私が作らなきゃ。


 そんな決意を固くする。


「あ、名織! 宗次さんがいるよっ!」


 ほのりの目ざとい発見に、名織はそっちを見る。

 包帯を顔に巻いている――その包帯からもじゃもじゃとした毛をはみ出させた、ヘンな男と仲良くランチタイムを過ごそうとしていた。


「だめ。彼には彼の食事があるから! ね!

 ほら、付き人の人もいるでしょ!」


 ルーファは――何も言わず、その席をにらみつけていたように、名織には見えた。



  ▽  △  △▽  △  △


  △  ▽  ▽△  ▽  ▽



 ディバイドの授業は――どうしてああ、バカでもわかるつまらない授業なんだと宗次は思った。

 とにかく教科書に書いてあることを延々とかみ砕くだけの授業で、一、二時限目はほとんど寝ていた。それだけ実りが無かったのだ。

 独学でやった、しかも中学で習うような近代史。それをこの学園でやるというのが、ディバイドのレベルの低さを伺わせる。

 その後、興味からティアンスの授業へと出向き――

 名織と、朝繭ほのりと名乗る少女に会い、その後急襲を受けた。

 そして、少女二人とのごたごたを終え、ようやく昼食だ。

 体毛がふさふさになっているバロットは、やはり治る気配はない。

 おそらくずっとこの体毛のままなのだろう。


「しっかし宗次よぉ……なんであんなにディバイドの授業ってむっかしーんだ?」


「………………どうしてだろうな」


 ディバイドはバカだ、という侮蔑の言葉をよく聞くことがあるが、実際、事実なのかもしれない。

 バロットは金がないので宗次におごってもらい、カレーをチョイスした。宗次は牛丼だ。

 隣に座るバロットに「向かいに座って食え、鬱陶しい」とはねつけていると、


「心は震えてるか!!! 新入生!!」


 突如轟音が響いた。

 その大音声の正体を宗次は見上げる。長い白髪を後ろで結った、耳の長いエルフ。

 しかし他のエルフと違うのは、彼が筋骨隆々なところだった。そして、他エルフにあるはずの適度な気品を彼から感じない。

 そんな、カツ丼とカレーうどんをトレイに乗せた男へ宗次はたずねる。


「どちらさまですか」


「おう、ヴェンデ・ロゥファダ・トーマ。交渉部・内渉科長だっ!

 これでも純エルフでな! 3年生序列3位、戦闘科! ヨロシクな! おい、岡部」


 小柄な童顔の少年が横からぺこりとお辞儀して、宗次たちの向かいに腰掛けてきた。

 まだ一緒に食事しましょうとも言っていないのに強引な方々だ。


「……あ、あの、三年生の岡部って言います。

 僕も内渉科でして、トーマくんにお世話になっていて――」


「うるせぇ岡部、そんなゴタクはいい! 俺たちが新入生……いや逢坂! お前とコンタクトを取る最大の理由は――お前と同学年の交流試合をしたいんだ!」


「……どういうことですか?」


 トーマは「うぬっ」と力強くうなずいて、


「当たり前だがお前の事は新入生誰もが知っている。6年生くらいまでの上級生も、噂レベルだがお前を知ってて、反響はすごいもんだぞ。

 それほどあんたのようなディバイドは、学園じゃ異質なんだ。

 内渉科っつーのは、主に決闘手続きやイベント・学内選考会・学祭大会などの企画立案をしている。

 そこで、あんた主体のイベントを是非、設けたいと思ってな」


「お受けできません」


 きっぱりと、宗次は断った。


「ど、どーしてだ? 魅力的だと思うんだが――」


「魅力的だからこそ、俺も吟味すべきだと考えます」


「……内渉科としては――あんたと闘り合いたいってやつらがいっぱいいるんだ。

 どうか、そいつらを相手してみてくれよ。

 定期メールで闘いたい相手の申請メールが配信されるから、是非になっ」


「……考えておきます」


「是非お待ちしています! ワハハ!!」


 岡部は優しい笑顔を浮かべまたお辞儀した。


「……ですがトーマ先輩、その前にお願いがあるんですが」


「ずるずるずる……もが??」


 カレーうどんを口に含んだトーマへ宗次は、


「トーマ先輩、俺と戦ってください」

 

「ぶふー!!」


 トーマは横を向いてカレーうどんを岡部へ発射。

 岡部は「ひぃいいいい!」と自分のジャケットが黄色に染まるのに戦慄。

「クリーニングで落ちるかなぁ……」とめそめそする岡部を気にもとめないトーマは、


「……いいじゃねーか、新入生。さすが問題児!

 都合がつき次第闘ってやろうじゃないか!

 基本的には来る者は拒まないぜ!

 二つ名“破砕機”がと呼ばれるこの俺が相手になってやる!!

 ……ただ、今年の最大イベントの立案計画まで終わらせてからじゃないと無理だ! すまん!!」


「今年の最大イベント、とは?」


「それはまだ言えねーが……とにかく今年の催しは、すんげー楽しくなるぞ!!

 お前が本当にできる術士ならば――きっと、出場できるぜ。

 俺は実は集社に属しているんだが、これでディバイドの立場が向上することを祈ってる、ぜ!」

 

 きらん、とカレーで黄ばんだ歯を見せ笑うトーマに、バロットも宗次もなぜだかゲンナリした。

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