ぷにぷに/ようじょたてちてせるてぃ
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のみは視点変更しないで場面・時間の転換です。
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は視点の変換となります。
もう一度このマークが来たら視点が宗次に戻ります。
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消灯の時間を一時間も過ぎた、夜十二時。
名織はさっきの事件の顛末を生徒会長と自警部部長に報告したせいで、かなり疲労していた。
にも関わらず、
「……ぜんぜん眠れない」
いらだちながら、ベッドからむくりと起きあがる名織。
すやすやと幸せそうに眠るほのりを後目に、脱衣所へ向かう。
寝間着を脱ぎ捨て下着だけになった名織は自分の胸を見て、ちょっとだけ持ち上げるように手を当てた。
「こぶりであります」
つぶやくと、すごく虚しかった。
名織は横を向いて右腕を上げる。
すると鏡越しに、ブラの少し下を背中から脇の下に沿うように、メタリックブラック色の、粘土板のような物体が見える。
その物体は、名織の体に沿って婉曲していた。
それに指を当て、
「――<解除>」
青白い光が物体の端から端へと走り、身体への吸着力を失ったように剥がれた。
これが、ティアンスの所有するS・デバイスだ。形状は曲げることが可能な板状である。
S・デバイスのSは「セイクリッド(聖なる)」を意味する。
そのためS・デバイスに内蔵された“聖術式発動機構”はディバイドには使えないのだ。
これにより簡易的な詠唱で術を発動できるのが、S・デバイス最大のメリットだった。
ただ聖術文の定義を行い、ある種聖術の「プログラム本文」と言える発動の呪文を唱える。するとデバイスがその呪文を聖術(聖力)と反応する「真言」へと解読する。
装着部位は自由だ。部位を一律に規定すれば、たちまちその場所を敵に狙われるためである。
名織は、右わきの下と位置を決めている。
完全防水性ではあるものの、シャワーの時くらいは戦いを忘れたい。
下着を脱ぎ捨ててさっさとシャワー室内に入ると、
「しんとーめっきゃく……」
冷水をひねり、頭からぶっかけた。
体は少し火照っていたが、そのシャワーは心地いいを通り越しまさに苦行だった。
頭をちらつかせるのは、あの男。
今日一日で、自分の価値観を二、三回ひっくり返したあの男だ。
ディバイド相手の負け試合――命を賭けた戦闘――自分のしたことのない体験をさせた人。
逢坂宗次。
――あの人は、何者なんだろう。
私のことをどう思っているんだろう。
そんな風に、帰ってきてから宗次のことばかり考えていた。
が、答えはまだ出ない。
別に名織は彼が好きなわけじゃない。
ほのりがアドバイスしたことを実行したら、宗次が本当にごまかした。それだけだ。それがイコール名織が好き、という話にはならない。
「――彼には事情がある。うん、それだけの話」
『もしかしたら本当に、名織のこと好きなのかもしれないよぉ?』
「……ぁぁぁああああああああああっ!
ほのちゃんのばかほのちゃんのばかほのちゃんのばかほのちゃんのばかぁ……」
彼とは何ともない、何の感情もない――はずが、意識してしまう。
それはきっと、ほのりが妙なことを言ったせいに違いないし、宗次というキャラクターがインパクトありすぎなせいでもある。
うんきっとそうに違いない、と結論づける。
自分は好きとか嫌いとかでなく、単純に彼の強烈な個性に戸惑っているだけだ。
――ともかく明日、逢坂さんを知ろう。
少なくとも今のあの人が、どういう立ち位置にいるのかを知るために。
拒絶されていても、彼には根の優しさがあることを、この夜に知った。
だから、明日は勇気を持って接しよう。
「……よし」
そう決意してシャワーの水を止める。シャワー室を出て体を拭くと、だんだん体が温まってきた。
まぶたも、さっきよりずっと重たくなっている。
いろいろな考えが決まって安心した心が、体に寝る準備を整えさせているらしい。
下着を身につけ、ブラの下にS・デバイスを装着するため、腕を上げる。
と。
「ほよー」
鏡を見ると、緑色のまんじゅうみたいな物体が、肩に張り付いていた。
「ぴぁっっっ!!??!?」
思わず変な叫び声が出て、盛大にすっ転んだ。
「痛っつつぅ………………ひっ」
見慣れぬ物体がいつの間にか体を離れ、目の前に。
「ぷにぷに~」
と、声を発する緑色のまんじゅう――いや、形状としてはまんじゅうのようなスライム、と言った方がいいかもしれない。
「ほよほよ?」
ふるふると体を震わせながら、「ほよほよ」とか「ぷにぷに」とかささやくその物体。
「…………………………かわいい」
ゴクリとのどを鳴らした名織は、意を決して接触を試みる。
おそるおそる手を伸ばすと、その生き物は体を揺らしながら近づいてきた。
ずりずりと体を引きずる移動はなめくじのようだったが、生々しい液体は出てこない。
まず指でつついてみる。「ふよ?」とふるふる揺れる。
くりくりの目に小さな唇。そのシンプルさが愛らしい。
静かに両手でつかんでみると、まるでつきたてのオモチみたいに柔らかくて、あたたかい。
こんな生き物、名織は見たことがなかった。
教科書で見た固液種は、もっとグロテスクで、液がべちゃべちゃしていて、アオミドロの仲間みたいな外見をしていた。決して、こんなにプリティじゃない。
「……ね、ねえ、あなたのお名前はなあに?」
なんかおとぎ話のセリフみたいだな、と思いつつも聞いてみた。
そもそも交信可能なのか疑問だったが、
「ぷにぷに~」
とのこと。
「……ぷにぷにちゃん? っていうの?」
「ぷにぷに~! ぷにぷに~!」
喜んでいる。どうやらそういうことらしい。
「ぷにぷにちゃんは、どこから来たの?」
「みずのばしょ~、きれい〜」
「……しゃべったっ」
……学内の噴水公園を言っているのだろうか。
さっき、強襲を受けた帰りの通り道にあったのは確かだが……。
「じゃあ、えっと、どうして私についてきたの?」
「そーじ、ほよすきーなのからー」
「……お掃除が好き?」
「そーじ! そーじ~」
「……そ、う、じ?」
ある一人の人物が思い浮かぶ。
逢坂宗次。
奴とこの珍妙な生物にどんな関連性があるのかとうてい理解ができない。
……できないが、少なくとも何らかの関わりはあるのだろう。
そう思えるほど、宗次は謎のヴェールに包まれている。こんな生き物を飼っていても不思議じゃない。
「えっと、その……宗次は誰が好き?」
「ほよ!」
まるで「あなたです!」と言いたげにぴょいんと名織の手を跳ねるぷにぷに氏。
いやな予感が体中を雷のように貫く。
その「ほよ」というのが誰を指すのかわからなかったのでーーあてよ外れろーーと神に願いながら、
「……ちなみに、私の名前はね、名織って言うんだけど――」
「そーじ、なおぃ、すきなの~から~」
「……あいさ……えと、そーじは、私のこと好き?」
ぷにぷに氏は飛び跳ねて、
「ほよー!」
「それとも嫌い?」
と聞けば氏は悲しい顔で体を揺らし、
「ほよほよ~……」
「好き?」
「ほよー!」
「嫌い?」
「ほよほよ~……」
「………………」
ここから導き出される答えは――
逢坂宗次 は 鴇弥名織 が 好き である。
「……~~――いやいやいやいや!?
いや、待って。違う。なんで? いやいや、え。
ちょちょちょちょ待って待って、あなたはそもそも――」
「なおり~~うるさいよ~~~」
突然ほのりが、目をこすりながら脱衣所へ入ってきた。
ほのりは一人で女の子座りする名織を見て、
「……なにやってるの?」
「え? っと、その、これ――」
ぷにぷにをすくうような形の手のひらには、しかし何にも乗っていなかった。
かわりになんだかあったかい感触が背中の裏から伝わってきて、
「……しー、して〜。ないしょ」
そんなささやきが聞こえてきた。
内緒にしていないとダメなのだろうか。
「えっと、……ごめんほのちゃん、私寝ぼけてて」
「……明日から授業だから、もう寝た方がいいよ?」
「ふにゃあ」とあくびをしながら寝床へ戻るほのりを見送ると、ぷにぷにが手のひらに戻ってきた。
「なおぃ~ありありがと~」
再び名織の目の前に出てきて喜び飛び跳ねるぷにぷに。
そんな光景を見て、名織は一つため息をついたのだった。
「今日、眠れなさそう……」
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鴇弥名織とぷにぷにが出会った、時は同じく夜十二時。
宗次は――先ほど騒動を巻き起こした駐車場で、人を待っていた。
宗次の隣には、酒酔いで気持ち悪そうにうずくまるイギルに、しゃがんで寒そうに体を揺らすバロット。
ジャージは血で悲惨なことになっているので、宗次だけは制服だ。
肩の傷はバロットによって完治しているために、気にすることはない。
宗次たちが待っているのは、生徒会自警部部長だ。
ヨージュオ・立伝・セルティ。
彼女も名織のようにメディアに露出していた人物なので、顔は知っている。
事の顛末を報告すると、自警部部長直々に「じっきょうけんぶんする」と寝ぼけた声で連絡があった。
だから待機しているのだが、かれこれ20分くらいは待ちぼうけていた。
名織が作り上げた巨大な氷壁は、役目を終えたあともほとんど溶けていない。
おかげで駐車場内はかなり冷え冷えとしていた。
同じく駐車場内には、警衛任務に就いた生徒兵や教師が数人いた。
現場の状況把握、立ち入り制限などの措置をとっているところだ。
実況見分及び現場検証は、自警部に任せるとのこと。
――ちなみに、名織の氷術は警務生が聖術バリアで氷の壁の両面を支えたため、倒壊の心配はなさそうだ。
やがて――少なくとも制服ではない小さな子供が、眠たげな足取りでこちらへ近づいてきた。
「んう~~~にゅ~~~~……まったぁ~~~……?
つーかここ、寒すぎぃ……」
とろんとした目をこすりながら現れたのは、
外見は小学生くらいの、名織よりも幼い体つきの少女だった。
彼女もまた、皐月と同じように人間種と聡頭種のハーフ。
彼女の驚くべきところはその服装で、紫色の地に水玉模様のキャミソール、フリルがついた膝丈のスカート。スカートにはウサギさんとクマさんのぬいぐるみが縫いつけられている。
エナメル素材のポーチも、きらきらな飾りがいっぱいぶらさがっている。
かろうじて校則を守っているであろうブーツも、よく見ると私物のようだ。
何かの冗談みたいなティーンモデルの格好をしている少女こそ――
「ウチがじけーぶぶちょー、ゆ……、よーじゅお、た・て・つ・て、セルティ。
逢坂そーじ、組織上あんたの上司だかんね。
ナメたクチ聞いたらマジ焼くかんね。わかった?」
たどたどしく自己紹介したセルティは、宗次が服装に目を落としているのに気づく。
すると彼女は眠気などどこへやら、くるんと得意げに一回転してみせる。
「これかわいいでしょ? ふっふーん、これがウチのせーふく!
寝てたところをしっかりおめかしして来たんだから、ちゃんとウチのぷりちーな姿を目に焼き付けて帰りなさいよねったく」
「……私服じゃないんですか?」
「違うわよ。せーふくよ。ウチが決めましたー。
こーゆーかわいくキメたカッコで仕事をこなしたほうが絶対いーじゃん!」
勝手な持論を展開しだしたが、彼女の栗色の肩まで伸びる髪の毛はぼさぼさだ。
それはたぶん、触れない方が懸命なのだろう。
「――ってか、逢坂そーじ!」
セルティは、宗次の真ん前まで来て片手を腰に当てる。
もう一方の手で人差し指をつんつんと宗次の腹に突きつけながら、
「なんでウチの知らないところでウチの部にディバイドが入り込んでんの! イミわかんないんですけど!
ほんと、これからウチに迷惑かけたらただじゃおかないかんね!」
「……おいコラ、ガキンチョ。てめぇ宗次に何てこと言いやがる」
セルティの悪態に、待ちわびていたこともあり余計いらついていたバロットは言い放った。
「宗次に謝りやがれこのタコガキ。
つーかンなしょんべんくせぇコスプレでいちいち待たせてんじぇねえぞ! あァン?」
「……なにアンタ。ウチに喧嘩売ってるクチ?
ってかその包帯でぐるぐる巻きにしてあるアンタの顔はなんなわけ?
そんなのがおしゃれのつもり? プププーだっさぁっ!
しかもなんかクサいしーーっ」
とバロットの煽りを返してやるセルティ。
指摘を受けたバロットはうぐ、と言葉を詰まらせる。
ーーそう。瘴気を注入した影響で、バロットの体は確実に獣化の影響を受けているのだ。
包帯を巻いた顔から、ジャージの中の体から、もこもことシルク色の体毛が生えてしまっている。
「オレの美顔が!!」とショックを受けていたバロットは、しかし毛をどうすることもできず、応急処置として包帯を顔に巻いていた。
バロットは反論もできず苦し紛れに、
「う、うるせーこのくそガキ!」
「くそガキって言うな! ってかウチのほうが年上だし! 焼くぞこのざーこ! 毛もじゃ!」
「あンだとぉ!?」
がるがるといがみ合う二人に、宗次は仲裁するように、
「セルティ部長。鴇弥はいないんですか」
「あん? なんであの子も呼ぶのよ。また狙われたりしたらどうすんの?
名織は昼の空いた時間で聞くからいーの!」
――――#+`&*#$%*L♪@!!!!!
けたたましい音楽がいきなり響き渡る。
そのうるささは、50メートル以上離れた生徒兵たちが何事かとこちらを見るほどだ。
セルティは「あ、着信」と何気ない動作でS・デバイスの通話機能を展開。
『やっぽー。セルティ今どこー?』
この声は、生徒会長皐月だ。デバイスのスピーカー機能はONにされ、皐月の声が宗次たちにも届く。
「ん、現場についてる。今から3バカと実況見分するー」
「誰が3バカだこの!」
バロットのつっこみが聞こえたのか皐月は、
『ごめんねみなさん、ずいぶん口の悪い自警部部長で。
私も本当はそっちに行きたいんだけどねー、書類整備がまだ終わらないのよねー。
というわけで、ひとつセルティのかわいいとこをみせちゃおっかなー』
セルティはそれを聞くと、たちまち「えっここでやるの?」みたいな不安げな顔になって、
「ちょ、今はふざけてる場合じゃないの! もう通話切るよ!?」
だが、皐月はもう止まらない。
『たちつてとたちつてとたちつてと』
「やらないってば」
『たちつてとたちつてとたちつてと』
「……だ、だから!」
『たちつてとたちつてとたちつてと』
……繰り返される皐月のタ行連呼に、とうとうセルティは反抗的な目になって、
「……たちつてとたてぃちゅてとたちゅちゅてっとっ!」
なんか、はじまった。
『かきくけこかきくけこかきくけこ』
「……かきくけこかききゅ、けきゅおきゃっきゅっ」
『ヨージュオ立伝セルティヨージュオ立伝セルティヨージュオ立伝セルティ』
「ヨージュオたえつてセルてィよーじゅおたてってるてぃよーじょたてちてぇるてぃ!!」
『はい、よくできましたー♪』
「……ばかにすんな!!」
セルティの顔はもう真っ赤になっている。
おそらく、皐月とセルティの日常のやりとりなのだろうが、男三人は置いてけぼりだ。
「あーもうかわいい! こういうかわいいところあるからみんな、セルティをヨロシ――」
セルティはぶっちんと通話を切った。
最初からそうすればよかったのにーーとは、言わないが賢明か。
「実況見分、やるかんね」
そして何事もなかったようにS・デバイスのモードを通話から変更する。
赤フレームの眼鏡をスチャリとかけたセルティは、
「調書作成は自警部の別のヤツだから。
そいつらのためにもちゃんと事細かに教えんだかんね。
んで逢坂そーじ、はじめに言っとくけど。
術式は魔術も聖術もスキャン専用の術式を使えば、だいたいのことは特定できるの。
嘘ついても得しないかんね?」
「嘘をつくつもりは、全くありません」
「ん。約束だかんね――<Scanning,Start!!>」
術の詠唱は、準備術式機能を使えば、こういった一言だけで術が発動できる。
流麗なセルティの言葉に乗った聖術が、青白い光をともなって発動。
セルティを中心に地面からまばゆい光の輪が現れ、外側へ向かうにつれ大きい輪になって走っていく。
その輪に引っかかった、駐車場内すべての術痕――術式印の痕のことだ――が、膝丈ほどの高さに浮かび上がる。
宗次が用いた魔術の術式印は、赤く。
まみえた敵が使った術式印と、名織が使った聖術の術式印は、青く光る。
その他にも何かの破片が、輪っかの光を浴びた途端に青く発光しはじめた。
セルティは仮想画面を展開し、
「ほいほい、走査した術式履歴をコピー、解読ちゅー……っと」
ピロン、と小気味よい音がして仮想画面の“Scanning Complete.”の文字が宗次からも透けて見えた。
「逢坂そーじ、あんたの術痕は……とっ。
えーと、魔術痕は炎術、幻術、空間術ね。
にしてもあんた、こんな複雑な術をどーやって短時間に発動してるわけ……?」
宗次の放った術の術痕は、おびただしい量の術式が地面に転写されている。
それはまるで、魔の言葉の洪水だ。聖術はS・デバイスによりかなりの詠唱過程を短縮できるが――魔術はデバイスがない。宗次たちディバイドが持つものはほとんどただの携帯機器なのだから。
「……ふつうに」
宗次はコミュニケーション不全丸出しな回答。
それが気に入らないセルティは唇をとがらせて、
「……あっっっっっそ。もーちっと愛想良くしなさいよねこのうんこ。
……んじゃ、状況を教えなさい」
宗次は時系列で自分の用いた術、相手が使ってきた術の詳細を、場所を移動しながら説明した。
セルティは仮想キーボードを出現させ、流暢にタイピングしていく。
大体の状況を語り終えた宗次は、
「部長、提案があります」
「んなぁに~?」
「さっき俺は、蛇火という術を放ったと言いました。
それは相手の体に巻き付く炎術で、特殊なやけど痕が残ります。
提案ですが、そのやけど痕を持つ人物をしらみ潰しに探して、犯人を特定することは可能ですか」
「却下!」
セルティは腕をクロスさせ「×」を作る。
「生徒全員に身体検査しろって?
それで何もなかったらどうするのよ。
ウチらだって強制力のある捜査はかなりの手順がいんの。
当然休学中の生徒だっているだろーし。ミッション中のやつもいる、休暇中のやつだっている。
その中で、二人をドンピシャで探し出すってどう? 確実にヒットするって言えんの?
犯人を捜すにしても、いくらか絞り込まなきゃならないの。
お・わ・か・り?」
「……」
苦い顔で打開策を考えはじめた宗次に、「まあ」とセルティは一言置いて、
「急がなきゃいけないのも事実ね。権限移譲って知ってる?
知らないわよね、おしえたげる。
生徒の中で唯一逮捕権限を持っているのが生徒会長の皐月。
現行犯以外の逮捕を管轄してる。逮捕要件が揃えば、逮捕状を作成したりできんの。
けど、その案件が上がってから解決するまで、一ヶ月ーーそこまでで証拠をつかんで犯人を特定できなきゃ、教師に逮捕権限を譲んなきゃいけないの。
それが“権限移譲”。
教師や外の警察機関に任せて解決した事件なんてほんの一握り。
それほどに、解きづらい事件ほどいろいろな大人や複雑な事情が関わってくんのよ。
だからウチら生徒間で警察の真似事をすることが、今では学園の取り決め」
学園ぐるみで犯行を行っている可能性がある、とセルティの言葉は受け取れる。
「で、本題――相手について聞く。こっちのが事件としてはダンゼンやっかいね」
セルティはS・デバイスをプレゼンテーションモードへ移行。
宗次の目の前に、巨大な仮想ディスプレイが浮かび上がった。
その画面には、駐車場に散らばる無数の青い破片が映っている。
「矢を模した聖力具現系の術よね。これはまだわかる。
問題は、相手のもう一つの術。
腹に響くような、空気を圧縮する空間術、あったでしょ?」
うぅぅぉぉん――と咆哮した、空間上のものを凝縮・解放することで破壊する術だ。
宗次は「ええ」とうなづく。
「ちなみに聖術は基本術式と応用術式の二種類があるのって知ってる?
基本術式にさらなるアレンジを加えて応用術式として使いこなすの。
でね、あんたが喰らいそうになった術は“エアロ・パニッシュメント”って言って、応用術式の一つ――なんだけど、学園内では禁術指定されてんの。
S・デバイスを通してそれ使おうとすればすぐにデバイスを停止、自警部と警務生に通報される。
可殺術――人を殺せるようないわゆる“10レベル以上”に指定された術は禁止されてんのね。
こういう犯罪術はS・デバイスのリミッターを外したら誰にも特定されないで発動可能だけど――それが厄介なの。単なる個人の恨みじゃなく、あんた組織的に狙われてんじゃん?」
セルティは宗次のそばまで近づくと声のボリュームを落として、
「……あと、あの外周の道にあった――
データベースには登録されていない魔術なんだけど、どーいうこと?
つまり、過去誰もやったことがないし、どんな術かも私じゃ解読できない…
皐月からは、あんたに踏み込みすぎるなって忠告は受けてる。
だからこの術に関しては皐月に任せるかんね。
データベース上のどの術にも合致しないって、おかしいでしょフツー……
……で、あんた相手のコトはなんかしら検討ついてんの?」
「俺を学園にいられなくする、または殺す。それだけです」
「“だけ”ってこたぁないでしょ……もー。
あんたの術――ティアンスならともかく、そんな多種族のクオリティを使えるなんておっかしーしぃ。
ほんとはいろいろ聞きたいけど……皐月に止められてるからやめとく」
「………………ん…………ぐ、ぅ…………」
ふとうめき声がして、宗次にセルティにバロットは、一斉に声の方へ向いた。
「……ここは……どこです……あれ……部長……?」
「あ、いたの? ただのくそデカいだけのガレキかと思った」
「…………相変わらず口が……ぅぷ……」
「ったく、あんた何にも役に立たねーわね。ウドの大木かっちゅの」
セルティはため息をつきながら、S・デバイスの機能を閉じる。ショッキングカラーのしましまニーソを引っ張り直すと、
「あとの調書はウチが作るからあんたらは帰って寝なさい。
それと、寮まではウチが送ってったげる。
今後、自警部員はディバイドだけで出歩かないこと。つーか自警部三班のあんたら二人。
あんたらだけで事件を鎮圧したって、逆に加害者にされるのが関の山だかんね。
あとそこのくそ毛もじゃも、わかった!? わかったら、ほら」
セルティはポーチからあめ玉を取り出し、宗次とバロットに投げる。
ついでよ、という感じでイギルの頭にも投げてぶつけた。
「とりあえず、今後ともよろしくしてやるわ。
ウチからのおせんべつ、ちゃんと食べなさいよねっ」
態度に似合わず、意外に優しい人だった。
「ーーいま、態度に似合わず優しいコだなーとか思ったっしょ?」
「いえ、別に」




