chap6-1
ある日の、ことである。
今だ、居心地の良くない街も、それ自体に慣れることができた僕は、孤独であることを強く認識しながら、一人で街を歩いていた。
基本的には森の中のカミーユの邸宅で、ミームと共に安穏で爛れた生活を送っているのだが、たまには一人になりたい時もあり、重苦しい気持ちを抱えながらも散歩と称して街を歩くのである。
交友関係に類する事柄を最小限に抑える僕は、今だこの世界で普通の会話をする人間が二人しかいない。ミームとカミーユだけ。ユーリ達は僕の認識としては知り合いレベルでしかないのだ。現に、実際の所、友人らしい会話はしたことがない。
そんな状態なので、ゴスロリ少女なんていう特異な格好ではあるが、話しかけられることなんてまず無い。陽気な屋台のおばちゃんだって、僕にかかれば途端に身構えたように静まってしまう。
一例だ。
「おや、随分可愛いお客さんだねっ!! 串焼きが欲しいのかいっ!?」
「ええ、一本下さい」
「あいよっ!! 銅貨2枚だよっ!!」
「どうも」
「あー……また機会があったらよろしくね」
「機会がありましたら」
「…………」
なんなのだろうか。普通の対応をしているはずなのに。
おそらく表情や声のトーンが問題なのだろうとは思う。
まぁ、これは別に異世界だからとかは関係ない。単純に僕はずっとこうなのだ。どの時代、どの世界、どの地域だろうと、こんな風になってしまう。そういう運命なのだ。
不満も感じていないので別に良い。
もちろん、僕がこの世界で孤独だと感じ、其れに対して気に病んでいるという事実を考えれば、もう少し社交性について考慮することがあるのだろうが。
別に他の人に迷惑掛かってる訳でもないし、とか思ってしまう。
嫌なやつだな、僕は。とサラッと考える。
店で買った謎の肉の串焼きを食べながらの事だ。
そんな時である。
「ねぇ、ちょっと、君」
街の雑踏を越え、後ろから声がかかってきた。
チラッと後ろを振り向くと、赤い髪に赤い騎士鎧を纏った女性と目が合う。
切れ長の瞳には強い意志が秘められ、腰に凪いだ剣の柄にかけた手は、今にも正義の名の下に悪しき輩を粛清するために抜き放ちそうである。
辺りを簡単に確認すると、皆が皆、不思議そうにこちらを見てくる人ばかり。この赤い女性に心辺りのある人はいなさそうである。
いや、幾人かはいた。冒険者風の人たちは、一瞬目を見開いて、驚いた顔を作る。もしかしてある道の人間には有名人なのだろうか。
「もしかして、僕のことですか?」
「ああ、そうだ、君だ。ちょっと、いいか?」
はっきりとした、男性的で断定的な口調である。
「特に問題はありませんが、なんでしょうか?」
そんなことを言いつつ、アルファは様子見で待機。デルタは身体に害のあるものの遮断。ベータには身体能力強化と精神圧迫を取り除く様に指示をする。
と、彼女は口元に手を当てて、眉を顰め、何か思案するような顔つきとなる。
「……すまない、上手く言葉にできないのだが」
「言い難いことですか?」
「いざ目の前にしてみると、思いのほか相手に失礼なのではないか、と考えてしまった」
「なかなかじれったいですね。とりあえず、言ってみないことには何も始りませんよ」
「ふむ、そういうものか。いや、そういうものだろう。では、聞くのだが―――
君は一体、なんなのだろう? 」
………。
―――音が消える、というのはこういう事を言うのかもしれない。
舞台は暗闇に落ち、スポットライトが二人の人物を照らしたかのよう。
音が消え、どこかで観客が息を呑んでいるイメージ。
片方は何気ない風で疑問を口にした騎士風の女性。すまなさそうな表情で、抑制の聞かなかった自分を不甲斐無く感じるのか頭を掻いてそれを誤魔化す。
片方は小さく微笑みへと顔色を変えた僕。目の前の女性は何と言っただろうか。『君は一体なんなのだろうか?』とは一体、どういう意味で言ったのだろうか?
side『冒険者の女性』
Bランクの冒険者。それが自身の肩書き。
ある時ギルドで依頼を選んでいれば、どんな偶然かSランク近辺の冒険者、あるいはそのクランの人間がゾロゾロと入ってきた。
幼い頃に冒険者を夢見て、鍛錬を重ね、幾多の冒険を経験し、偶に伴侶を見つけ、時に危険を掻い潜り、我武者羅に生き続け、気が付けばSランク。
そんな順当なSランク冒険者など存在しない。
誰も彼もが運命に導かれ、弄ばれ、得ては失い、失っては得て。それを繰り返し、心には、大小はあれどその数は十ではすまない傷を持っている。
それがSランク冒険者という存在。
『運命の導き』と呼ばれるSランク依頼の申し子達だ。
存在の格の違いが一瞬でわかる。
彼らがお互いを牽制し合うその余波、その空気一つで自身の息が詰まるのがよくわかる。
Bランクというランクの自身でさえ、他を隔絶し、尊敬の眼差しを受けるというのに。それだけ実力もあれば、運命にも愛されているはずなのに。
この世の中心。それをどうしても意識せざるを得ない。
自分が脇役なんだと、自覚せざるを得ない。
不遜な態度ではあるが、よく世話になっているギルドマスターが慌てふためき、怒鳴りながらも懇願するように英雄達を説き伏せている。
頼むからギルドマスター、早く彼らを外に連れ出してくれないだろうか? このままでは窒息死してしまう。
そんな折、またしても強烈な気配が入り口から放たれる。
―――それが、自身の運命ともなる気配だとは、感じることが出来なかった。
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chap6-2に視点そのままで続けるよ
しかしsideは使わない予定だったのだが、限界を感じるよね。
感想がほしい病……




