chap5-10
会話文の多さが気になる。
「それで、話は終わりなの?」
「まぁ、ざっくりと言えばね」
「えーと、じゃあ、まずは簡単に時系列で整理してみよう。
まず、大昔。
この世界に『始りの前』が辿り着く。
精霊たる『ルール』が、世界を変革し崩壊させないために『始りの前』を封印する。
封印した場所は魔法学院の地下。『始りの前』その時と同時にこの世界に適合するために、自身の半身という形で種を残す。一番初めの種たるアンジェの先祖は、世代を繋ぐことでこの世界に適合しようとする。そして種自体を守るためにセリカの先祖に暗示と力を与えた。それは種を守るという暗示、種を守る為の力。
精霊たる『ルール』は『始まりの前』という強大な力の封印によって消耗してしまい、種に対して有効な手段に出られなかった。
そして現在まで時は進む。
『始りの前』はこの世界に顕現するために、半身たるアンジェを取り戻そうと黒い影として狙う。結果として『始りの前』はアンジェと統合することができた。
精霊たる『ルール』はユーリという媒体を通してアンジェに接近。『ルール』は力を取り戻していたが、この時点でアンジェ自体はこの世界の存在として逸脱していないため、『ルール』は手を出すことができない。そのままではいつかアンジェと『始りの前』は接触してしまう。
それを回避するために、大きな作戦にでる。
総合学院にて覚醒を始めた『始りの前』がアンジェを呼び、そして統合が行われる段階ならば同一存在として一緒に封印することができる。今回は媒体としてユーリを消耗することによって、完全消滅を図れる。
しかし、邪魔が入る。邪魔者は三人。
一人はセリカ。先祖の暗示は時代と共に忠義へとその形を変えてはいたが、その暗示自体は薄れているはずと『ルール』は考えた。が、セリカはあまりにも簡単に黒い影ごとアンジェを守ると決意してしまった。
そして、君とミーム。最大のイレギュラー。
ギルドのSランク依頼の特殊性。Sランク依頼の別名は『運命の導き』。
その結果は、こうだ。
まずアンジェは『始りの前』と完全統合を果たす。しかしそれは意識と身体だけ。
能力は二つに分かれる。
まずはアンジェと『始りの前」。
世界に認められている存在に、望む心が力となる能力が合わさったことで、『始まりの前』の種だった存在は、そのまま『世界の種』となった。アンジェが望めばこの世界を変えることができる。魔力はそれを叶えてしまう。あまりにも容易く。これが、精霊『ルール』が恐れていた事態だ。『始りの前』の存在はあまりにも魔力と相性が良すぎる。
そして、次は君。アオキシズキは何がどうなったのか、『始まりの前』であり、『終焉を知る者』はその力。全てを終わらせることができる力を手に入れた。所謂、終わりを始めることができる力。こちらはあまりにも概念的すぎて、実生活では実感できないだろうが、精霊たる『ルール』が脅威と感じていたのは実際にはこちらが圧倒的だ。特に、先の能力と合わせれば、望むがままに崩壊を開始することができてしまう。
能力の指向性の違いもある。『始りの前』の力は望む力。悪しき現状を変える希望の力だ。『終焉を知る者』の力は勇気の力。結果的に終末を迎えることを理解しながらも始まろうとする勇気の力。迷惑なのは、圧倒的に後者の方だ。既に終末へと向かっている我々からすればね。試しに、シズキ君。強く意識して、指でも鳴らしてみればいい。そこから物語が始り、簡単なハッピーエンドを迎え、世界は収束と集束と終息を始めるだろう。
まぁ、それにしたって。やはり、なかなかのハッピーエンドだね?
何故なら、アンジェは精霊『ルール』に狙われることがなくなり、ユーリはアンジェを失うことなく、セリカは変わらぬ忠義を貫くことができた。
これをもってしなければ、如何なモノがハッピーエンドとするんだろう?」
温かく柔らかい風。麗らかな陽気。美味しいデザートと薫り立ち上る紅茶。
傍に控える不動の執事と、艶やかなメイド。銀食器と白いテーブルクロス。
世界の幸福を掻き集めたかのような豊かな午後のティータイムである。
試しに、僕はフォークを手に取り、強く意識すると、まるで自重に耐え切れなかったかのようにファークはボロボロを崩れ去り、塵となり風に乗り消え去る。
「いやはや、本当に力が二分割されて良かったよ。今なら物質のみだけで、『始まりの前』と共に在れば、世界、概念、意思、全てを組み替え終わらせることができるでしょ?」
「いや、まぁ。僕も良くわからないんだよね。実際の所、ミームの受け売りだし」
「しょうがないんじゃないかな。公爵家として高度な教育を受けているはずの僕だって、わけがわからない。世界を終わらせるとか、概念を終わらせるって言われても、まるで空気を掴もうとするようだよ」
小さく肩を竦めるだけで、そのまま優雅に紅茶のカップを傾けるカミーユ。どうやら大きな案件を乗り越えたようで、最近は城ではなく、この屋敷で優雅に休日を楽しんでいる。
「ウォルデンバーグとしては、魔法学院の管轄内でおきたこの出来事にはどういう対応をしてるの?」
「特に問題なし。このことを知っているのは総合学院上位三教授と、ゲーリッヒ教授。そして当人達と僕達だけ。そして実害もない。細かい案件はギルド依頼者のエメロード君が全部やってくれる。ありがたい話だね」
「超越者がそんな細々としたことを……」
「まぁ、本人は不服そうだったね。Sランク依頼の別名は『運命の導き』。ハイエルフとして『世界の声
』を聞いて名前を使ってまで依頼をしたのに、エメロード君は大した関わりもなく、ただ雑務をこなすだけ」
「本来は、彼女が何がしか関わっていたのかな?」
「さぁ、どうだろうね? シズキやミームなんていう存在が関わってしまった今となっては、『本来の道筋』なんて、もうわかるわけもない」
「わからないことだらけだ」
「そんなものだね。何の因果か、この世の中、至る所で世界の危機が存在し、そして進行している。やれ魔物の凶悪化だ、やれ国家間の紛争の火種だ、やれ魔術師が禁忌魔術発動だ。小麦の値段が上がったのは遠い果ての地で勇者が生まれたから、なんていうわけのわからないことが起きる」
「なんかカミュちゃんやせたんじゃない?」
なんだか少し愚痴っぽいカミーユの言葉に僕がそういうと、はぁ~、とため息を吐いてカミーユは額を押さえる。
そしてジトッとした目を僕に向けてきた。
「え、なに、急に僕に欲情されても困るな。具体的には今が野外だという点で」
「煩い。僕は無抵抗で従順な女性が好きなだけで、外見が良ければ男も抱くような変態ではない」
「では?」
ピッ、と果物を口に運んだフォークを僕に向けてくる。
「僕?」
「まずは、シズキの存在だ。君は超越者だと城で認定された。おめでとう。『翠の魔女』たるエメロード君は涎を拭きながら、『象徴』たるウル君は穢れきった目を持って、『超現実』たるイイル・リイル君はイっちゃった顔で、全会一致。おめでとう、実に厄介だ」
おざなりな拍手が辺りに響く。
「まぁ、厄介なのはもちろん僕の業務としてで、シズキ自身は思う通りに生きれば良い。この屋敷に滞在するなどの、ウォルデンバーグの支援も受けられる。しかし、他の超越者があからさまに表舞台で行動した場合、其れに対する抑止、そして殲滅を求める」
「とても厄介ですね」
「君のその珠と、新たな力を持ってすれば問題ないさ。……後忙しい理由としては、この街に急激に集まったギルド高ランカーへの対応だったり、白竜とその相棒のことについてだったり。まるで本当に城に業務が存在するかのような忙しさだよ」
「城に業務はないんか?」
「基本的には行政区で全て取り仕切ってもらってるからね。総合学院の隣に立つ、静まり返る城の正体。その正体はただ働いていないだけ」
簡単な落ちも付いたところで、新たな紅茶が注がれ、僕もカミーユも一息つく。
心地よい沈黙の中、僕はユーリ達について思いを巡らす。
アンジェは表面上は、大した変化は無かった。全員の視線を集めながらも、キョトン、といった風で。―――なんでこんなところにいるのかしら? なんて台詞までついていた。それでも去り際、白いワンピースと意味ありげな笑みを幻視した。声を出さず、口元で「あ り が と」なんてメッセージを残して。
ユーリはなんだか複雑な表情をしていた。呆然としたり、変わらぬ様子のアンジェにホッとしたり、悔しげなに手を握り締めたり。―――精霊は問題ないと言っている、みんなごめん。と背を向け走り出したユーリをセリカが止め、頬を叩き、―――其々に理由があり、其々に譲れないものがある。今となっては、謝るな、私も謝らなければならなくなる。と抱きしめて言っていた。色々あるのだろうが、羨ましい。
なんでこんなところにメイドが? という皆にミームを紹介してみたり、ギルド依頼の話になり、アンジェの父の学院の伝手がエメロードだったりと、そんな話をしながら地上へと帰還。
名残惜しそうに手を振るアンジェと傍に控えるセリカ、やはり複雑な表情のままのユーリと別れ、エメロードに報告と思えば、カミーユがいて、報告もそのままに一緒に帰ってきたのである。
やはり、結局なんだったのかよくわからない話なのだ。
「ねぇ、シズキ」
「ん?」
「この一連の流れ、いつ始まったものだと思う?」
「それは、『始まりの前』がこの世界に辿りついた時点かな?」
「いや、違う。そうだね、この物語はいつ始まったものだと考える?」
「いや、物語として考えても同じじゃないかな?」
「う~ん、いやごめん。こんな僕でも貴族だからね。どうしても、裏があるって考えちゃうのさ。正確に言えば、誰か、どれだけ、どんな利益を得たのだろうか、ってね」
「それは、『始りの前』が圧倒的に利益を持っていったでしょ。僕を犠牲にして」
そう、僕を犠牲にして。
「そこまで折込済みだったのかな?」
カミーユのそんな台詞とともに、またも沈黙が降りる。空になったカップに紅茶が注がれる。
赤いその液体に写る自分を見ながら、僕はジッと黙った。
というわけで、chap5は終わり。
そろそろ、明確に物語を動かさなければならないかなぁ。
ところで感想がほしいぜよ。くれると嬉しいぜよ




